馬良(真名胡蝶(こちょう))
「白眉」から、どうしても眉に因(ちな)んだ名前を考えてしまいました。
中国では、女性の眉を誉める場合「峨眉(がび)」と言います。
けれども、女の子には「峨」は気の毒なので。
法正(真名狭霧(さぎり))
本文中に出て来る通り「蜀」出身者の代表なので、雲とか霧とかにちなんだ名前にしようと思いました。
「蜀の犬は偶(たま)に太陽を見ると吼(ほ)える」
と、他国で悪口を言うとか言われますが、水が豊かで水田での稲作には有利です。
「天府の国」の所以(ゆえん)です。
後漢13州の1つ益州の人口・産業etc.からも主要部である四川盆地を潤(うる)おした長江は、東隣(とうりん)の荊州へ流れ出る。
今度は荊州の領域を南北に分けながら、更に東の揚州へ。
その揚州との境を手前に北西から漢水が合流する。
その漢水を挟(はさ)む「双子都市」の片方である襄陽が荊州の主城であり、もう片方の樊城の郊外に現在の劉備軍は駐屯していた。
益州、特にその主要部の四川盆地へと、後漢の他の地方から入るルートは2つしかないといって好い。
1つは北の漢中盆地、そこでは現在「五斗米道」とやらが邪魔である。
後1つは、東の荊州から「3峡」と呼ばれる。長江の峡谷を遡(さかのぼ)る。
”前任”の益州州牧劉焉は、現在「3峡」の谷口の手前、公安と名付けられた土地に居た。
その劉焉にあわてて追い付くより、今暫(しばら)く、ここで待機するよう「白眉」馬良は劉備軍に勧(すす)めていた。
「今足踏みしている劉焉の状況が、急に好転する訳でもありません」
いや「白眉」だけでは無い。
荊州「名士グループ」からの客人が、入れ替わり訪問して来ていて「友達の輪」状態になっていた。
北郷一刀や俺こと簡雍が知る「正史」で「蜀」に仕えた軍師・文官の内、荊州出身者の面子は、ほぼ揃ったと見ていい。
無名の兵たちも集まっている。
元々、官命で兵を集めるのでも、彼女たち「名士」の地域社会への影響力は必要な位だから。
逆に、地元「名士」からの仕官は兵士も連れてくる。
その兵士たちの調練だけでも、却って待機する必要がある位だった。
「それにしても」
と、一刀は思っていた。
水鏡女学院そのものの人脈とか、そこでの伏竜鳳雛の評判とかの影響力もすごいけど、やってくる「名士」を仕官するつもりにさせてしまう桃香の魅力も流石劉備。
「白眉」なんか、もう既に「真名」を許している。
「うん。胡蝶ちゃんが勧めるなら。朱里ちゃんや雛里ちゃんも賛成みたいだし」
いま1つ、名士同士の“ネットワーク”を通じて荊州と益州の「名士グループ」が連絡を取り合っている。
その結果次第で益州に入る意味自体が変わるかもしれない………。
……。
…やがて、待ち人が現れた。
法正孝直
益州四川「名士グループ」に於いて、劉備を迎え入れた「グループ」を代表する人物。
「正史」では、蜀侵攻の途中で急死した鳳統、無論のことだが一刀と俺はこのイベントを回避する積もり、と交替して孔明と軍師コンビとなる。
その法正が現れた。
だけでは無く狭霧という「真名」を桃香に許した。
つまりは益州の側に、劉備を主として迎え入れる勢力が出来たという事。
「4川には、雲や霧に因(ちな)んだ「真名」は珍しくありません。
“蜀の犬は太陽に吼える”などと、悪口も言われますが、それだけ水が豊かで農耕には有利なのです。
益州は「天府」です」
その狭霧から明かされた益州の現状。
劉焉の更に前任の益州刺史が戦死した後、その補佐官だった賈龍(かりょう)が有志を集めて、治安を維持している。
だが、その賈龍の元に集まった者たちの中には劉焉の本心を疑うものが居て「3峡」の出口からすぐ上流の巴郡に頑張っていて、劉焉を通さない。
「これを帝都に報告しては流石に州牧は交替でしょう」
だがしかし、劉備軍に関しては、狭霧もとい法正次第、といって送り出した「グループ」も出来ている。
ただし片方では、劉焉も劉備も侵略者には違いないという意見も在る。
特に巴郡がそうで、ここでの1戦は在り得る。
今1つ、劉焉を足踏みさせていたのは荊州水軍の動きだった。
「3峡」を遡るにも、ある程度以上の兵力を運ぶ為には水運に頼るしか無い。
荊州軍閥の長江水軍の協力が不可欠なのだ。
劉備軍の様に荊州「名士グループ」での協力者が居なくては、荊州州牧劉表の協力が受けられ無かったのだ。
だがしかし、劉備軍の為には水鏡先生だけでは無く、荊州「名士グループ」から多くの口添えがあった。
それこそ、劉表が変に疑いを持てば益州では無く荊州を乗っ取られるかと思う程。
それ位なら、この程度の協力はした方が好いだろう、と言う気には成った。
この程度とは、つまり荊州水軍の「基地」がある長江本流沿いの江陵で乗船し、益州側の法正(狭霧)たちが最低限、上陸中の安全は保障している地点まで運んで船団は引き返す。
その程度なら。
この2つの条件が揃い、待機は終わった………。
……。
…その出立は、前回よりもさらに多くの、さらに名残惜しげな見送りを受けた。
前回は双子都市の樊城から北東へ向かったが、今回は襄陽から更に南に在る荊州水軍の拠点である江陵へと、何時の間にか「1個旅団」程度の規模に成った軍列が南下して行った。
途中、更に調練を繰り返しつつ南へ道をとる。
その進軍の中で、北郷一刀は1人、複雑な気持ちだった。
この道、襄陽から江陵への道は「正史」では、劉備軍最大の危機を迎えた道。
その危機ゆえに、趙雲や張飛には1代の「見せ場」になった道。
「ご主人様、どうされたのですか」
流石に変に思われたか。
「なあ、桃香。自分の子供は可愛いよな」
「?!」
何を考えたか、真っ赤に成っていた………。
……。
…だがしかし、曹操軍に追撃されることなど無く、劉備軍は無事に江陵へ到着して乗船した。
船団は岸沿いの公安にいる劉焉を“スルー”して「3峡」を溯って行く。
何事も無く雄大な峡谷を潜り抜け、やがて出迎えのため戻っていた、狭霧と同志たちの待っている地点まで来た。
「残念です。巴城の頑固(がんこ)者たちは説得出来ませんでした」
いきなり城攻めか。それも郡城クラスの。
敵にも味方にも犠牲は出るだろうし、後に恨みを残すだろうな。
もっとも、軍師たちに策が無いことも無い。
「あうぅ…先ずは何とか野戦に持ち込みます。そして…」
「はうぅ…「8陣図」を使わせて下さい。
あの陣形は本来、完全に包囲して殲滅(せんめつ)するための陣形です。
今までは兵力不足で出来ませんでしたが、完全な「8陣図」を実現するだけの兵力が今はあります」
「だめよ。殲滅なんて。私たちは「国作り」の為に来たのよ」
「そうです。ですから、包囲が完成した時点で桃香様が説得して降伏勧告をして下さい」
そこで、次は野戦に引っ張り出す手段に成った。
後に恨みを残さないための包囲戦法なのだから、あんまりえげつない挑発も出来ない。
「正攻法で行きましょう」
かくて「益州侵掠」の第1戦が始まる………。
……。
…巴郡郡城、その前面に劉備軍の同志たちが進み出た。
「天の御遣い」北郷一刀、劉備もとい桃香、愛紗もとい関羽、鈴々もとい張飛、朱里もとい孔明、雛里もとい鳳統。
ズラリと揃ったが、楼門上からの反応は
「何だ。小娘を揃えて」
年齢不詳の美熟女。成る程、この面子では「小娘」揃いにしか見えないだろう。
さらに、一刀と桃香が同志たちより前に出て説得を始めた。
……自分たちは「侵掠」に見えるかも知れない。
けれども、益州の人々と協力してこの「蜀」に好い国を作りたい……
この説得に応じて開城してくれれば、最善。
しかし、巴郡の将、厳顔は
「無礼にも侵略してきたのはそちらだ」
と、言い切り「天の国」なら“パイルバンカー”とかにしか見えない、巨大きわまる弩(ど)(ボ―ガン)を持ち出した。
「ここまでです。鈴々ちゃんを前に出して後退して下さい」
一番「小娘」の鈴々が前に出て、自慢の「豪天砲」が至近に着弾しても尚、闘志満々なのを見て、厳顔(真名桔梗)は「ほう」とみた。
元々、益州の武将中でも第1の「老練」であり、男女を問わず「若い」武将たちの「先輩」との自覚が常にある。
だからこそ、劉備軍1党を「小娘」と見たのだし、特に鈴々を見ればどうしても其の感がある。
そもそも「酒に酔い、戦に酔う」などと公言する性格でもある。
それでも「老練」の経験値が「これは挑発」だと警告している。
むしろ微笑して見守っていたが、身の丈にあわぬ(?)蛇矛をふりまわす張飛をみているうちに、ムズムズしてきた。
いや、桔梗より城内の部下たちが先に体温が上がってしまった。
ついに出陣した桔梗率いる巴城勢に対し、劉備軍は円陣らしい「老練」な桔梗にも見慣れない陣形をしいた。
その前面と左右にそれぞれ、3将が直属の隊を率いて遊撃の位置につく。
前曲の星には、相手を「8陣図」に誘導する役目だと言ってはあった。
ところが、桔梗の「豪天砲」が何発も着弾し続けると、星自身は兎も角(ともかく)兵士たちが堪りかねる。
まんざら演技でもなく「8陣図」の中へ逃げ込んだ。
それと同時に愛紗と鈴々のそれぞれの騎兵が左右から迂回し後方から包囲にかかる。
と、歴戦の桔梗は見た。
ならば、あえてその「包囲」に逆(さか)らわず、円陣をしく敵の本軍に一気に突入する。
体温が上がっている部下たちの状態からいっても、ここで敵の本陣を1点突破すれば、勝負はそれで決まる。
そこまで行かなくても、勝って城に帰れる。そう決断しただけでも、流石に「老練」だった。
だがしかし、その「円陣」の正体が前代未聞だったのである。
敵の本陣があり、主将が居る筈の円陣の中央。
けれども、まるで誘い込まれたようにポッカリと空いた空間に飛び出したかと思うと、周囲の敵が1斉に押し寄せてきた。
歴戦の桔梗ですら経験に無かった完全な包囲。
こう成ってしまっては、最も外側の味方以外、周囲から押し込まれてくる味方が邪魔で戦う事も陣形を組み直す事も出来ない。
桔梗本人にしても「豪天砲」のような射程の長い武器は、どうしても放つ動きが大きくなる。
周りに押し込まれてくる部下の中でそんな大きな動きが出来ない。
片や、包囲している側は相手の周囲に沿って味方が展開している分、効率よく戦える。
内側に追い込みつつ外側から順に殺していく事が出来る。だがしかし、
「もう止(や)めて下さい!」
桃香は、ここで声を振り絞った。
「私たちは、人々が笑顔で暮らせる国を作る為に来ました。
この「蜀」の国を力の無い人たちが安心して暮らせる国にする為に、貴女たちの力を貸して下さい。
お願いですから、もう降参して下さい!!」
中途半端の様ですが、今回はあくまでも(その1)です。