簡雍酔夢   作:高島智明

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第19席 益州侵掠(その2)蛮王は貪り食らう

益州巴郡の将厳顔(真名桔梗)は、捕虜となっても其の態度を崩さない。

降伏したのは、どう見た処であれだけ完全に包囲されたのでは、部下を皆殺しにされて結局は巴城を落とされるだけという現実を突き付けられた、だからに過ぎないと。

 

「さっさと斬らんか、侵略者ども」

捕まえている方が困惑していた。

 

「どうしたら信じて貰えますか」

桃香等は、むしろ悲しげだ。

「そうじゃな。美辞麗句を如何に並べても、その場だけのことじゃろう。

ならば実績を示して貰おうかの?」

「実績ですか」

「そうじゃ。南蛮のやからが、この益州を困らせているのは本当じゃ。

やつらの乱暴を止(や)めにして見せられるか」

後漢13州の1つ益州には四川盆地のみがあるのでは無い。その南に雲南の高地が広がる。

「現代」ですら、山々の間にいくつもの少数民族が伝統を守り続けている。

だがしかし、既にこの時代、この地にも益州に属する幾つかの郡が置かれていた。

つまり後漢帝国の行政範囲には成ってはいたのだ。

 

更にその南「現代」なら「中国」と「ラオス」「タイ」「ミャンマー」の国境を跨いで拡がる領土を支配する南蛮王孟獲が雲南を侵略している。

「彼女」の主張では、雲南は「漢」では無い。

彼女が支配する南蛮と同じ土地、同族すなわち南蛮だと。

奪われたから「漢」から奪い返すのだと。

 

「にゃ―にゃ―にゃ―」

見た目には「わがままロリっ娘」が”けもみみ”でも付けて「ジャングルの女王様」の“こすぷれ”をしている様にしか見えない。

けれども、例えば見た目は”あの”鈴々で中身は「張飛」だったりするのだ。

まさしく”これ”が南蛮王孟獲。

今だ、後漢帝国ほどの「国家」という概念に到達していない筈の“南蛮”各部族を統一している「王」なのである。

 

孟獲(真名美以)は、あの小さな体のどこに入るかをすら超えた量の「ごちそう」(あくまで南蛮基準、益州とて漢の端)をパクついていた。

まるで、これが目的で益州に攻め込んだ。とでも誤解されそうな光景。

それとも、支配する積もりなのが“南蛮”と“半分”同族の雲南部族だから“蛮人の王”らしく「見せ掛けて」いるのか(?)

 

この「わがままロリっ娘」「ジャングルの女王様」に益州の官軍が雲南から追い出されたのは事実。

益州刺史の戦死後、補佐官だった賈龍が何とか4川盆地を死守しているが、それが精1杯で反撃の余裕も無い。

「蜀」の国作りのためなら、遅かれ早かれ果たさなければ為らない義務と責任。

同志たちに異存は無い。

 

むしろ、長江の下流の方から転進する方向を迷わせるような使者が来た。

「荊州東方の夏口。江東揚州からの侵掠を受けたり」

孫堅(真名炎蓮)は孫呉軍の勢力を伸展させる為に黄巾の乱以来、戦い続けてきた。

 

先ずは、官軍に加わって黄巾と戦った。

荊州南陽郡に敵の首領を求めて、南陽郡城の城攻めに加わった。

その後、黄巾の残党を討つ官軍に同行し、そこそこの功績を上げた。

その結果として、郡太守の官職を得て其れに応じた軍権を認められた。

 

その後、董卓に対する連合軍が結集すると、拠点のある江東地方(長江下流域)に近い(あくまで中国的スケール)淮南地方(淮河南方)で拠点と勢力を拡大しつつあった袁術軍に誘われる形で、連合軍に参加した。

無論、ここで功績を上げて更に軍閥として成長する積もりだった。

 

けれども、1番手柄は曹操軍に取られた。

最初に決起を呼び掛けた当人でもあるだけにその差は大きい。

その次は公孫賛軍の傘下にいた劉備軍であり、益州州牧にまで大抜擢された。

幾ら漢王朝の“お姫様”とはいえ。

 

それでも破虜将軍の「名分」は得た。

この「名分」を活用して勢力を伸ばそうにも、江東の北には今しばらく下風に立つしかない袁術軍がいる。

「4代3公」の袁家が蓄積してきた人材、資産、兵力には、新興軍閥ではまだまだ追い付けない。

機嫌(きげん)を取り損ねたら江東の拠点すら危ない。

 

東は海、南はこの時代では「中国」の範囲内でなく「南蛮」と意識されている未開発地帯。

ならば、西の荊州を狙ってやる。だがしかし……

 

「炎蓮どの。何を焦っておいでだ」

「祭。もう「漢」という「国家」はあてには成らん。

この「呉」が俺たちの国。この国を俺たちで守るしか無い。

雪蓮、蓮華、小蓮。あの子たちや冥琳たちが笑ってくらせる国にこの呉の国をしたいんだ。

あの子たちが、俺たちの様に戦う事の無い国に」

 

「その為なら、むしろ今は焦られるな。

下手な真似をしたら、お子たちにツケを回す事に成りかねぬ」

 

結局、孫呉軍は袁術陣営にけしかけられる様に、長江を遡(さかのぼ)った。

長江が荊州の領内から、東の揚州に流れ出す手前に位置する、夏口の城を攻囲したのである。

荊州の軍閥劉表に対し、劉備軍は借りが無い訳でも無い。

荊州水軍を拝借して益州入りした。

また、荊州の名士や兵を相当数連れ出した。

その「借り」を取り立てられたら、この場合、援軍に引き返す「義理」が無い訳でも無い。

だがしかし、まだ最初の1勝を上げたばかりで、ここで引き返しては、全てが水の泡(あわ)……

 

その時「天の御遣い」は少しだけ慌てて、すぐに冷静さを取り戻した。

「多分、俺たちが援軍に行くまでに、孫呉軍は撤退するよ。

孫堅の不運を見殺しにするみたいだけど」

一刀には「知識」が在った。

当然ながら、黙ってはいたが俺こと簡雍にも「知識」は在った………。

 

……。

 

…荊州からの続報は、劉備軍がまだ巴城に居座っている間に届いた。

「援軍に及ばず」

 

夏口の城を攻囲中に、孫堅は不慮の事故にあって、あっさりと戦線を離脱したらしい。

そのまま、孫呉軍は撤収していった。

ここに「わがままロリっ娘」がもう1人。

だがしかし、声だけは可愛く言っているセリフは翻訳すれば、

「○○屋、おぬしもワルじゃのう」

その「○○屋」もとい側近の張勲(真名七乃)が主君である袁術(真名美羽)に吹き込んだ“悪事”というのが……

 

孫呉軍が水賊退治から身を起こし、新興軍閥となるまで築いて来た、その勢力の殆どは実にあっさりと袁術陣営に横領(おうりょう)された。

その口実は、

「孫呉は当主を急に失い、跡継ぎはまだ未熟」

真っ赤な嘘でも無い。

そして、現時点では「4代3公」の“ポテンシャル”に逆らうには元々からして力不足。

だがしかし、袁術陣営の「保護」下にひと先ず入っただけで、再起を諦(あきら)めるなどとは、孫姉妹とその同志たちを見くびり過ぎていたのである。

曹操軍は、兗州陳留郡から予州潁川郡の郡城「許昌(きょしょう)」に新たなる拠点を移し、着実に勢力を拡(ひろ)げていた。

 

「そろそろ「現在」の帝都、洛陽から何か言ってくる頃かしら」

彼女は華琳の真名を許している側近たちを集めていた。

 

従姉妹であり最古参の夏侯惇(真名春蘭)と夏侯淵(真名秋蘭)姉妹、軍師に迎えていた荀彧(真名桂花)郭嘉(真名稟)程昱(真名風)いった予州の「名士」たち、同じく予州の強力の豪傑許緒(真名季衣)典韋(真名流琉)新たな拠点許昌の治安を預けた楽進(真名凪)李典(真名真桜)于禁(真名沙和)曹1族の曹仁(真名華侖)曹洪(真名栄華)曹純(真名柳琳)そして涼州騎兵とともに加わった張遼(真名霞(しあ))同じく涼州軍では不遇だったが華琳に見いだされた豪傑徐晃(真名香風)彼女らを見回し、華琳は充実を感じていた。

 

更には、涼州騎兵だけでは無く、中原の軍の数量的主力である歩兵でも充足していた。

予州から更に東の青州からやって来た黄巾の残党を降伏させ、自軍に編入したのである。

ここで、張3姉妹の処刑を有耶無耶(うやむや)にしていた賭けは吉と出た。

降伏したばかりで人心が安定しているとは限らない「青州兵」に対して『数え役萬☆しすたぁず』という彼らの「偶像」を与えられたのである。

 

とはいえ、当面の問題も幾つか在る。

兗州から予州の東に位置する徐州の州牧である陶謙に対し、侵掠するにせよ外交交渉するにせよ、接触する時期だった。

 

更に、曹操軍の勢力圏は、徐州だけでは無く曹夏侯1族の故郷である沛国にも近付きつつあった。

「私だって、積極的に不孝娘に成りたい訳でも無いわ」

沛国に向ける軍を徐州方面とは別に編成しようか、その事を含めて軍議にかけていた時、急報が飛び込んで来た。

「徐州軍らしきもの、沛国を急襲!」

 

瞬間、華琳だけで無く沛国の曹夏侯1族の出身者たちが殺気立った。

ところが…

 

軍師の1人が、意外とも思える献策をしたのである。

巴郡から劉備軍は転進した。

益州の主城「成都」のある西ではなく、雲南の山また山脈が連なる南へ。

桔梗も、元のまま巴城の軍を率いて参加していた。

 

俺は、すっかり桔梗と飲み友達に成っていた。

実の処「正史」の簡雍らしく振舞う為に身に付けたスキルだったりする。

「しかし、お主らの「お館様」も奇妙なお方じゃな。

ほんに「天の御遣い」でもなければ知らん様な事を」

確かに「天の御遣い」だから知っていたのだ。孫堅の不運を。

むしろ、見殺しにしたような後味すらあった。

 

(…孫策には、何時か弁解出来る機会が在るかな…)

そんな事を考えてみたりする、北郷一刀でもあった。




『三国志』である以上「呉」や「魏」を無視も出来ません。
当面は“三国”を右往左往しつつ『益州侵掠(その?)いざ成都』(妄想中)を目指します。

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