簡雍酔夢   作:高島智明

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暫く、投稿が空きました。
外伝的な中編『黄権伝』のクライマックスが近付いた為、そちらの投稿を先行させました。
今回より『簡雍酔夢』の投稿を再開します。

『皇甫嵩』
「正史」によれば、黄巾の乱の時に1番手柄をあげた将軍です。
黄巾党の首領である張3「兄弟」の首を取って帝都に送ったのは彼でした。
しかしその後、10常侍やら董卓やらが中央政府を引っかき回す中で、何時しか歴史の主人公から脱落して行きます。
何だか「正史」でも”この”外史でも、気の毒な感じがします。


第23席 曹魏は名分を得て躍進し 孫呉は断金の交わりにて再興す

曹操軍の軍師の1人、風が使った用間が齎(もたら)した情報は、華琳ですら唖(あ)然とさせるものだった。

「旧」董卓軍において暗躍した済成が、ここでもトンデモない陰謀を企んでいた。

 

先ず、徐州の州牧陶謙の部下を偽装して沛国の曹夏侯1族を族を襲撃する。

ついでに略奪する。

 

当然ながら怒り狂った曹操軍が徐州に侵攻する。

そこで、曹操軍による徐州住民の虐殺を天下に言いふらす。

実際に曹操軍が虐殺などしなくても、済成ども自身が今度は曹操軍を偽装して徐州を襲撃する。

ついでに略奪する。

 

そこで、曹操と陶謙以外の諸侯に此の虐殺の「悪名」が知れ渡れば「董卓」軍に対した様に、これを「大義名分」として曹操軍を討つ諸侯が必ず出てくる。

そうなれば曹操軍は徐州から出て行く事に成る。

そうしたら、自分が曹操軍を追い返したような顔をしてノコノコ陶謙の元に行き恩に着せる。

恩に着せたことを足がかりに徐州軍閥に食い込む。

最終的には陶謙に取って代わって徐州を乗っ取る。

「呆れた。本当にそんな事が上手くいくと思うのかしら」

風に代わって、頭上で太陽の塔らしきものが答えた。

「行くと思っているんだろうよ。少なくとも、欲が絡むとそう思えるのさ」

何処かの「天の御遣い」の様に『三国志』の知識でもあれば、こうとか言いたいかも知れない。

「劉備みたいに、底抜けの「お人好し」で無欲の振りが出来れば、結果としてそうなる事もあるだろうけど。

最初から陰謀ばっかり、欲深ばっかりでは、同じ行動の様で同じ結果には成らないだろうな」

 

兎も角(ともかく)1族を殺されかけた上に、する気もない虐殺の汚名まで被せられてはバカバカしい。

曹操軍は、保護した曹夏侯1族の安全と言わば虐殺に対する「アリバイ」の為に、全軍「疾きこと風の如く」徐州から遠ざかった。

当然、曹操軍が撤収した後に軍事的な空白ができる。

その空白に、突然というか「天のお告げ」通りというか、出現した軍が在った。

呂布が出た?

 

その情報は、拠点の許昌に戻った曹操軍にも届いた。

「稟。確かね」

「はい、呂布と陳宮が率いる涼州軍の残党に間違いありません」

 

…考え中…

 

「霞(しあ)。沛国から戻ったばかりだけど、あと2(ふた)働きほどして貰うわ」

「2働きでっか」

「先ず、洛陽に迎えに行って貰うわ。それから、お使いに行って貰うわね」

徐州と北隣の青州との境界線付近。

「セキト」

なぜか同名の馬と犬が、互いに鼻先を擦(こす)り付け合って再会を喜んでいた。

 

洛陽から連れて来た霞と、恋に変わって音々音が交渉している。

「張々(音々音のSt.バーナード)やセキトたちを連れてきてくれた事には、礼を言います。

でも、曹操を信頼する事は出来ないのです」

音々音は言い切った。

「何故なら、霞殿たちは、同じ帝都に居ながら月(ゆえ)殿たちを見殺しにしたのです」

「そやから、あれは…」

「あれで“魔王董卓”として処刑されずに済んだというのは分かります。

ですが、それは結果論なのです。

そして、今は曹操に仕えているです。

あんな事をしておいて仕えさせている曹操も信頼出来ないです。

それに、もう、恋殿は誰にも仕えさせたく無いです。

恋殿の力と武勇を恋殿自身のために使わせたいです」

 

「それで、言い方は悪いけど、ここで火事場ドロをするんかや」

「好機を見逃さないと、言って欲しいです。

それに、あの“成り済ましもの”は、やはり許せないです」

「アイツがここで妙な事をたくらんでいるちゅうのも、ウチが持ってきた情報やけどな」

「それにも、お礼は言うです。

でも、恋殿が、今から恋殿以外の主君に仕えるかどうかは別なのです」

 

恋はこういうときも無口である。ただポツリとこう言った。

「許さない。月に罪を被せた」

「ウチもその点は、恋に同感や」

「なら、なぜ恋殿たちと来ないですか」

「ウチらが華琳様を主君に決めたのは、結局はウチらの意思や。月を裏切った積もりは無いで」

「すんまへん。口ベタで」

許昌に戻った霞が、華琳に報告していた。

「貴女にそんな期待はしていないわ。

それに弁舌なら稟を付けたでしょう。

むしろ、なぜ口を出さなかったの。稟」

「董卓もでしたが、呂布についても、世間の噂(うわさ)には誤解がありました。

あれは子供どころか幼子です。良い言い方での感情も悪く言えば欲望も成長して居ないのです。

そうしたものなどと不均衡のまま、あの強さだけが成長しているのです。

自分の強さの価値も、それを「買う」ためにこちらが支払うつもりのものの価値も、おそらく分からないでしょう。

むしろ、欲深と判明している相手の方が、弁舌の使い方が在ったでしょう。

相手の聞きたい事を聞かせてやるのが、弁舌の使い方というものですから」

凛の観察は、恋の本質を突いていた………。

 

……。

 

…弁舌の使い方が在る相手は反対の方向から来た。

 

『皇甫嵩』

「正史」では、黄巾の乱における、1番手柄を上げた将軍だった。

だがしかし”この”「外史」世界では、張3「姉妹」はこの許昌で虜(とりこ)に成っている。

おまけに、その後の帝都洛陽の迷走では「正史」通りに失脚していた。

 

それでも、連合軍が引き揚げた後の洛陽で将軍に復職し、軍事的に空白と成った洛陽の治安を維持し続けてきた。

この不運な将軍の用件は、華琳の待っていたものだった。

 

ただしここで華琳は工夫した。

皇帝という「正義」を確保する好機を見逃す積もりなど無い。

だがしかし”董卓”の2の舞には成りたく無い。

 

そこで、華琳と稟や桂花たちが皇甫嵩(真名楼杏(ろうあん))と交渉して得たもの、正確には皇帝に取り次いで貰ったもの。

それは……

 

これまで、華琳は「鎮東将軍」の「名分」で洛陽より東へ出兵していた。

これに加えて、洛陽のある司州より「西」でも治安を回復せよとの「名分」を得たのだ。

 

「だけどそうなると、東の徐州で、あんな“もんすたあ”にかかわっている余裕は無くなるわね。

西へ……とりあえず長安あたりの治安を回復したら、その次に、この許昌に返ってくる時は……

その時はこの曹操が「正義」よ」

華琳は「乱世の奸雄」曹操の微笑をした………。

 

……。

 

…曹操軍は西へ進軍し、前漢の古都だった長安を確保した。

その代わりに呂布軍が、徐州を荒らしまわる済成の徒党に襲い掛かる結果に成った。

徒党のうちでも「旧」董卓軍に所属していた涼州兵は恋が如何(いか)に“もんすたあ”かは知り過ぎている。

当然の様に「呂布が出た!」だけで逃げ散ってしまった。

だが済成だけは、恋も音々音も逃がしはしない。

(「恋姫」ファンの中でも恋のファンはスルーして下さい。暫く残酷シーンが在ります)

全く、役立たずな傀儡ですね。この「名山」のすぐ近くで、あんな醜態を。

また「台本」の作り直しじゃないですか……

こうして、徐州軍らしきものによる沛国襲撃から始まる1連の騒動は決着したが、この間の心労の為か徐州州牧である陶謙が倒れた。

そして徐州の国内に“もんすたあ”が居座っていたのである。

この情報は、淮南を拠点とする袁術陣営においても議論の対象になった。

袁術陣営の勢力圏は徐州と南の揚州の州境を跨いで広がる。

徐州州牧が倒れ権力の空白が生じたのは、北へ勢力を拡大する好機かもしれない。

だがしかし、あの“もんすたあ”が居座っている。虎牢関で殺されかけた事を忘れた訳では無い。

こう成ると「船頭が多くして船が山に上がる」ほど人材を抱え過ぎているだけに、議論百出だった。

 

そして、それを統率し決断するには、主君である美羽が幼すぎた。

こうした状況に付け込む様に、こんな意見を出したものが居た。

「北に全力を注ぐべき時なのは、間違いないでしょう。

だからこそ、勢力圏の南を安定させておくべきです。

江東は元々孫堅の勢力圏だったのであり、問題は其処にあります。

そこで、こんなときに役立たせる為に、孫堅の娘どもを「保護」してきたのでは」

尤もらしき提案にも聞こえた………。

 

……。

 

…議論、議論の末に此の意見は採用された。

だがしかし、この意見を出したもの、そして賛成したものの何人かが「江東名士グループ」に因って買収されていた事は当人以外気付かなかった。

ここは「江東名士グループ」の1員にてこの地方の豪族の1人である魯粛(ろしゅく)の屋敷。

「上手く行きましたな」

この屋敷の主の魯粛(真名包(ぱお))をはじめ、張昭(真名雷火)張紘そして周瑜(真名冥琳)

皆、孫堅(真名炎蓮)を押し立てて「呉」という新しい国をつくろうとしていた江東「名士」グループの同志たちである。

当然ながら炎蓮の娘である孫策(真名雪蓮)や 孫権(真名蓮華)といった姉妹に夢を托(たく)していた。

特に冥琳などは炎蓮が健在の頃から雪蓮とは、

「たとえ、金属を断つほどの試練にも切れない」

と、までの友情を誓った親友だった。

 

皆がこの時を待っていたが、意外と早く好機は訪れた。

江東における孫姉妹の「遺産」を活用して治安を維持する。

今だけ袁術陣営にはそう思わせておけば好い。

飼い猫にしていた筈の虎を自分の山に帰すようなものだと、今だけ気付かせなければ好い。

「「行くぞ。孫呉の夢。母上(炎蓮様)の夢を天下に示す。我らが「断金の絆」にかけて」」

蜀は四川盆地、長江に合流するとある流れに沿ったとある場所。

今日も愛紗や鈴々たちは治水工事である。

視察に来た桃香と北郷一刀が、南蛮から輸入されてきた「バナナ」を差し入れていた。




”この”外史ではどうも、現時点で「呉」が出遅れている様です。
呉ファンの皆様には、申し訳ありません。

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