その場合の出撃ルートとして注目していたのが、孔明の「出身地」でもある荊州だったのです。
その荊州を呉と奪い合う形に成った事から「正史」では、この戦略は破綻して行きました。
荊州南部の武陵郡太守金旋、零陵郡太守劉度、長沙郡太守韓玄そして桂陽郡太守趙範を、相次いで官命を名乗る使者が訪問していた。
使者の名は劉巴。
零陵出身の「名士」であり優秀な文官でもあり、また「名士」としての自尊心に良くも悪くも恵まれてもいた。
その自尊心もあって、劉焉、次いで劉備の益州侵掠を嫌っており本気だった。地元で顔も効く。
その劉巴に説得されて4郡の太守たちは、曹操が主導権を取っていると承知で許昌の朝廷に忠節を誓った。
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蜀の都、成都。
劉巴の活動について「荊州名士グループ」からの情報が届いていた。
桃香や北郷一刀たち、同志たちが「会議室」に揃っていた。
「現状は以上です」
曹魏が仕掛けてきたのが、蜀に対する「封じ込め」である事は明らかだ。
「問題の根幹は、桃香様の理想が何処に在るかです」
軍師たちが指摘する。
「この「蜀」1国の平和をお望みなら、ここは穏便な外交で対処すべきでしょう。
けれども、最終的には天下万民を救うというのが桃香様の理想ならば、今、弱気になる事は出来ません」
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「蜀軍が動いた?」
今度は、曹魏陣営が情報を入手して会議を開いていた。
華琳も情報を確認した上で、桂花に次の策を促す。
「これで、蜀の目的は明らかに成りました」
益州の独立に留まらない、おそらくは天下に野望を抱いていることが。
ならば、その目的を妨害するのです。
例えば、孫呉もほぼ同様の野望を持っている筈です。
益州だけなら兎も角(ともかく)荊州にまで手を出されれば、蜀と呉のお互いの野望は正面衝突せざるを得ません。
さらに現状の孫呉は、袁術陣営に身を寄せていた私軍が元の勢力圏を回復した其れ以上の「名分」を持っていません。
朝廷とともにある我々はその「名分」を使って孫呉を動かす事が可能です。
稟が補足した。
「問題は時間です」
孫呉は、やっと荊州との境界近くまで勢力を回復したばかりだ。
それに外交は基本的に時間がかかる。
その孫呉を動かして蜀軍を押し止めるまで、荊州南部4郡が持ち堪えられるかどうか。
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洞庭湖。中国最大の淡水湖。
長江の南、荊州南部4郡に囲まれるように位置し、長江の支流の何本かは、ひと度は洞庭湖に流れ込んでから長江へ流れ出す。
益州から長江を下って来た蜀の水軍は洞庭湖から支流の1本を遡(さかのぼ)り、他の3郡に囲まれる位置にある零陵郡にいきなり上陸した。
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零陵郡太守の劉度は仰天した。
蜀軍が荊州を侵掠するならば益州に隣り合う武陵郡からとばかり思い込んでいたため、完全な不意打ちだった。
殆ど、抵抗する余裕も無しに降伏する羽目に成っていた。
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「速さが大切です」
「伏竜鳳雛」の狙いは「電撃戦」だった。
戦況の展開を対応より速くする事で、主導権を取り続ける。
そうすることで、朝廷という「名分」を手中にしている曹魏陣営にも介入の余裕を与えない。
「次は、この零陵を中心に、武陵、長沙、桂陽の3郡を、同時に侵掠します」
現在の蜀軍には、それだけの余裕がある。
益州で善政を実行してきたおかげで、兵力だけでは無く後方支援を含めた「国力」の余裕が出来ていた。
人的戦力でも、軍師も「伏竜鳳雛」だけで無く、武将も「桃園の姉妹」だけでは無い。
「だったら(確か)…」
一刀は『演義』の知識から助言した。
「桂陽に派遣する武将は星。武陵は鈴々。長沙は愛紗でどうかな?」
「宜しいでしょう」
竜鳳の軍師の同意を得て、桃香も発言する。
「後は軍師の人選ね」
ここで、一刀は思い至った。
「確か…長沙で手強(てごわ)い相手が出て来ないかな」
桔梗が反応する。
「あの将のことかな」
「知っているの」
「旧知じゃ。黄漢升殿の事ならばな。
用兵は老練。長兵(射程の長い兵器)は儂(わし)以上。
愛紗殿とて、偃月刀の間合いまで近寄らねば苦労するぞ」
(…やっぱり、黄忠は此処で出てくるか。だったら、長沙へ派遣する軍師は…)
一刀も考え込んだが、朱里が提案した。
「だったら、私と雛里ちゃんが、桂陽と武陵を担当します」
3戦の中で1番手強い相手よりも、残る2つを確実に片付ける。
これにより全体の勝利をより確実にする。
(…これも「孫子」に在ったみたいな?…)
一刀は「孫子」を復刻した曹操では無い。
決定。
桂陽に派遣する武将は星、軍師は雛里。
武陵へは武将は鈴々、軍師は朱里。
長沙へは武将は愛紗、軍師は…
「蛍先輩。よろしくお願いします」
徐庶(真名蛍)もこの時点で仕官していた。
さらには桔梗も副将につく。出来れば、黄忠への説得役を兼ねる。
かくて、3方面同時作戦は実施された。
*
「!?!」
華琳ですら、見くびっていたかも知れない。
零陵郡太守劉度に続き、武陵郡太守金旋および桂陽郡太守趙範は既に降伏。
長沙郡太守韓玄は未だ抵抗中だが、3郡を占領した蜀軍は長沙に集中しつつある様子。
使者として派遣していた劉巴は荊州と揚州の境界付近まで進軍していた孫呉軍の周瑜の元に逃げ込んだが、長沙への援軍が間に合うかどうかは微妙。
「やってくれるわね」
華琳は何処か微妙に楽しげだった。
やはり劉備に対する曹操の反応はこうなのだろうか。
*
北は長江、西は荊州との州境。やっとここまで冥琳は進軍して来ていた。
この先、州境を越えれば荊州長沙郡。
その長沙まで既に蜀軍に侵掠されていると知って、冥琳ですら先ず唖然とした。
続いて脅威(きょうい)を覚えた。
そう、冥琳にとっては雪蓮こそ天下を取るべきなのだ。
その前に立ちふさがる強敵として、曹操と並んで劉備を意識した。
少なくともはっきりと意識した。この時から。
取り敢えず、今の孫呉軍にとっては真っ先に欲しい「名分」が劉巴という個人名で飛び込んで来てくれた。
この好機は見逃さない。そして、劉備にも雪蓮の邪魔はさせない。
独断で荊州長沙郡との境界を越えることすら、冥琳は覚悟し始めていた。
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愛紗が憤慨するたびに桔梗と蛍で宥(なだ)めつつ、それでも長沙の郡城を視界に捉える処まで来た。
確かに相手は、老練いや百戦錬磨と認めるしか無い。
ここまでの遅滞(ちたい)(時間稼ぎ)戦術のために、時間以外にケガ人とかの損害を余分に出さなかっただけでも、指揮をとるのが、愛紗、桔梗に蛍だったからとすら言える。
だが、今度こそ本番だ。
*
「漢升。大丈夫だろうな」
「太守。ご安心下さい。この黄漢升にひと張りの弓がある限り」
「うむ。何と言っても、この城には、そなたの愛娘も居るのだからのう」
「……」
長沙郡太守韓玄の前から下がった黄忠に、同僚の武将が話しかけてきた。
「あの太守は、漢升どのの主に不足は無いのですか?」
「言わないで。文長」
今回の行動の前に、桃香や一刀は散々悩んだ筈ですが、あえて“スルー”しました。