中国の歴史時代を代表する「ラブ・ストーリー」というべき『長恨歌』に出てくる愛の誓いの言葉です。
「天に在っては願わくは比翼の鳥となり、地に在っては願わくは連理の枝と成らん」
「比翼の鳥」とは、片方ずつの翼しか持たず番(つがい)でしか飛べない鳥。
「連理の枝」とは、2本の木の枝が互いに絡み合って1繋がりの様になった様子。
だたし『長恨歌』自体は唐時代なので、この時代には後世の事に成ります。
体育館に木霊する竹刀と防具、あるいは竹刀同士がぶつかり合う音、凛とした、けれども澄んだ声の気合。
何時もの様な剣道部の稽古。それが何時もの様に終わった。
「女を待たせるな」
そう冷やかされつつ“唯一の男子部員”は目的地に急いだ。
「聖フランチェスカ学園」直営のカフェレストラン「黎明館」で、やっぱり、先に席についていたその少女。
当然ながらフランチェスカの制服姿の「同級生」しかし、今日からは……
*
北郷一刀は「三国志」ファンである。
だがしかし「三国」以外の、中国の歴史時代に全く興味が無かった訳でも無かった。
ただし、その知識は「三国時代」に比べればかなり片寄っていたのは確かだ。
例えば「長恨歌」の全文を暗唱など出来ない。
けれども「比翼連理」と言う意味だけは知っていた。
あの「悪友」ほどではないにしろ、人並みに彼女と呼ぶ存在は欲しかったのだし、その程度のシャレた科白の勉強はしてみたかったのである。
ただ、そこで目を付けたのが「比翼連理」だったりとか、その科白を実践する余裕が結局は剣道の練習で消えていたりしたのが、一刀らしかった。
それでも、実践の機会がとうとう来た…筈だった。
「桃香……」
……夢だった。目覚めれば三国時代。桃香は劉備。そして、ここは蜀の成都………。
……。
…この日、文官、武官とも揃った公式の会議の場で1つの情報が開示された。
長安方面の戦況。
実の処、この方面に曹魏陣営にとっての不穏の気配在り、というのが、外交上で蜀が付け込む好機だった。
だから、戦況についての情報も刻々と追っていたのだが、この方面から最新の報告が届けられた涼州の馬超は行方不明と成った。
曹魏軍に捕らえられたとも、涼州に逃げ帰ったとも考えにくいと報告されていた………。
……。
…会議後、一刀は数人の同志たちだけを集めた。
桃香、愛紗、鈴々、朱里、雛里、星、紫苑そして俺こと簡雍。その席で告げた。
「後世、蜀の「5虎大将軍」と呼ばれる5人の武将の名が伝説と成る。
関羽、張飛、趙雲、黄忠そして馬超。
この「5虎大将」と「伏竜鳳雛」が揃っていることが、蜀の理想実現に必要だったと伝えられる」
(揃っていれば「北伐」も成功したと言われていたな)
と、までは言わなかったが。
すっかり「天の御遣い」としては信用される様に成っていたから、馬超を仲間にする事自体は問題とは成らなかった。
だがしかし、馬超は何処へ行った?
長安から北西の涼州へ逃げられたとは考え難い。
東を勢力圏にしている曹魏陣営に捕らえられたと言う情報も無い。
では南は……
「長安から南の延長上にはこの蜀が在りますが、その間は」
中国でも、ものの例えに使われるほどの険しい山岳地帯。その山中をさ迷って居るのか。
「あるいは」
その山岳地帯で、幾らかでも開けているのは漢中盆地だが、そこは「五斗米道」の独立勢力圏に成っている。
「そこに逃げ込んでいるかも知れません」
*
「なぜ、某(それがし)を助けました」
「惜しいからよ」
華琳は当然の様に翡玉に答えていた。
「某が、翠様の行方を知れば、その時は貴女を裏切るとも疑いませんか」
「それ位でなければ、惜しくないわね。わざわざ華佗を探したりしないわ」
*
「華佗先生。有り難う御座いました」
翡玉その他の治療が終わって華佗を接待していたが、その途中で”2つ目の用件”が切り出されていた。
「俺に教団の上層部を説得しろと言うのか」
「伝言を届けてくれれば宜しいのです。魏には優秀な外交官が何人も居ます」
*
漢中の教団本部では、すでに大騒ぎに成っていた。
南の益州には蜀の国が出現。北の長安は曹魏陣営が確保した上に涼州軍閥を撃退。
もはや、漢中だけを乱世の別天地にしては置けなく成った。その恐怖に直面していた。
取り敢えず、その場凌ぎの外交手段だけは行動として決定した。
そこへ、涼州軍閥の残党である馬超が逃げ込んで来た。
いや、教団側の主観からは飛び込んで来た。
当然ながら馬超は、兵を貸せ、曹操と戦えと主張する。
大人しく、匿われ様とは思ってもみないようだ。
いかにも宗教団体らしい、教団の代表たちを困惑させていた。
そこへ、南から都合の好い密使がやって来た。
馬超の亡命は蜀で受け入れる。曹魏には、馬超など来なかった、と回答すれば好い………。
……。
…漢中盆地から荊州の平原に流れくだり、長江へと合流する漢水。
「ぶる」
「ぶろろ」
何故か、その漢水を下る船中から、数頭の馬の嘶(いなな)きが漏れていた。
「静かにして。黄鵬、紫燕、麒麟」
宥めているのは馬岱(真名蒲公英)である。
流石は騎馬の民というべきか、
あの乱戦から馬超(真名翠)が連れ出せたのは妹1人だったが、愛馬は何頭か持ち出していた。
その姉妹と馬数頭を隠した船は、何も無く漢水を下って行った。
途中、荊州の州都である襄陽を通過したが、何故か臨検は形式だけだった。
とはいえ、姉妹に加えて馬数頭が、決して広いとはいえない船内に閉じ込められていては快適ともいえない。
だがしかし、それも長江の南に連なる洞庭湖までだった。
洞庭湖の岸は、益州州牧が郡太守を代行する荊州南部。
もう、追っ手を恐れる事も無しに乗り慣れた馬で進んで行けた。
*
「しばらく「五斗米道」は時間稼ぎをする積もりです」
「曹魏に降伏されては、蜀としても慌てる必要があるかも知れませんが、それまでは大丈夫でしょう」
「今は、益州と荊州南部の現在の勢力圏を、しっかりと固める事が優先です」
蜀の軍師たちは当面の結論をそう出した。無論、情報と状勢は油断無く見守るという前提で。
かくて、漢中争奪戦は先送りと成った。
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曹魏の側でも、漢中は当面、蜀との中立地帯ないしは「クッション」になってくれた方が都合が好いという結論に成った。
呂布、袁術そして袁紹と、蜀より差し迫った脅威となる陣営が幾つも在る。
それに、あの華佗を含めた医療集団は存続してくれた方が都合も好い。
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洞庭湖で上陸してからの旅は、順調いや快適だった。
行く先々ですっかり手配済みで、順調に成都に近付いて行った………。
……。
…成都に到着した翠と蒲公英は、そのまま主君の前に連れて行かれた。
そしてその場で、古参の武将4名と翠が同格とされた。
喜ぶとか名誉に思う前に、先ず唖然として、そして仕官を承知してしまった。
居並ぶ部下たちからも殆ど異論は出ない。大甘のようで大した統率力と言えた。
ただ焔耶だけは焼き餅焼きも露骨な態度に出てしまい、蒲公英にお尻から蹴られていたが、笑って終わりにされてしまった。
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漢中は兎も角(ともかく)蜀を放置しては置けない。曹魏陣営の結論自体は明白だった。
直接兵を出す余裕が無いならば、戦わずして謀りごとを攻める。
そして、その好機もすぐに来た。
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108人も揃っている訳では無い。
だがしかし、後世を知る「天の御遣い」には『水滸伝』のクライマックスを連想させる儀式。
結集した、蜀の武将、軍師がその結束を、主君への忠誠という形で誓約する。
「5虎大将軍」関羽こと愛紗、張飛こと鈴々、趙雲こと星、黄忠こと紫苑、馬超こと翠。
「伏竜鳳雛」いや、いまや飛翔する竜鳳である諸葛亮こと朱里、鳳統こと雛里。
5虎と竜鳳だけではない。厳顔こと桔梗、魏延こと焔耶、馬岱こと蒲公英etc.……。璃々まで末席で控えていた。
無論、俺こと簡雍も酒杯を片手に列席している。
誓いを受ける主君は2人。
だがしかし、本人である劉備こと桃香と「天の御遣い」こと北郷一刀には其れは問題では無い。
どこまでも、2人一緒に同志たちの先頭に立つことを含め、共に進むことを天地に誓う。
そんな主君たちを、同志たちも祝福してくれている。
そんな同志たちの見守る中で、桃香と一刀は誓いの言霊(ことだま)を交換する。
「「天に在っては願わくは比翼の鳥と成り、地に在っては願わくは連理の枝と成らん」」
無謀と思いつつ、書き始めて、やっと此処まで辿り着きました。
第1部・第2部……といった構成なら、ここまでが第1部の様です。
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