簡雍酔夢   作:高島智明

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今回の「各話タイトル」が、とあるキャラクターの「死亡フラグ」かどうかは、次回以降まで引きます。


第35席 白馬有情 英雄を論じて肴にする

現在の「漢」の帝都である許昌。劉備に与えられた邸宅に深夜、不意の来客が在った。

「誰だって?」

来客の名前を聞いた途端、北郷一刀は桃香を押し倒していた。

星や紫苑は微笑し、朱里や雛里は「はわあわ」し、鈴々や璃々はキョトンとし、翠は蒲公英に突っ込まれ、そして愛紗は叱り付けた。

この有様に客も呆れて帰ってしまった。

いよいよ憤慨する愛紗だったが、一刀の方はホッとしていた。

俺こと簡雍はというと、一刀が驚いた理由に見当がついていた。

 

流石に竜鳳の軍師は何かに気が付いた。

「ご主人様には、何か考えが在るのですか?」

「俺が知っている話だと、あの客の用件は曹操の暗殺かも知れなかったんだ」

「「「(絶句)」」」

押し倒したままではサマにも成らないが内容は重大だった。

それこそ「天の御遣い」でも無ければ、もっと仰天されただろう。

『演義』では、この陰謀さえ無ければ曹操と劉備は対立したかどうかも微妙とすら解釈可能な“曹操暗殺計画”。

その陰謀が密議されていたのは「正史」では、この時期。

そのタイミングで主謀者と記録される人物がやって来た。

会うわけにはいかないだろう。この計画は「返り討ち」になるのだから。

「やめろと言って、言う事を聞いてくれる筈も無かっただろうしな」

「そうなると、少しでも早く、成都に帰るべきですね」

「そうだな」

(…それに、次は「あの」イベントがあるんだろうし…)

と、一刀が考えているだろうことは、俺だけが思っていた………。

 

……。

 

…今度の来客は曹操(真名華琳)の側近の1人だった。

「我が主君が梅の花を見ながら、酒席を設けたいとの意志です」

(…来たな…)

一刀は身構えた………。

 

……。

 

…曹操の公邸。その庭の梅林と泉水に囲まれた亭。

そこに、曹操らしいというより、何と無く華琳らしい洒落(しゃれ)た酒食の席が設けられていた。

最初に桃香と一刀が2人連れ出来たのを見た時の華琳は「天の国」の言い方なら、如何にも「百合」が「バカップル」を見た、という表情をしたが………。

 

……。

 

…見た目は如何にも和やかに酒食の席が進んで…

華琳は言い出した。

「黄巾も董卓も袁術も呂布も倒れたわ。

英雄の時代でも、誰もが英雄に成れるとは限らないのね。

後は誰が残っているかしら」

(…始まったよ…)

内心で思う一刀。

「袁紹さんでしょうか?」

桃香も役割通り(?)だ。

華琳は微笑すらして、首を振った。

「麗羽も妹と同じだわ。「4代3公」の蓄積の上に乗っているだけ。

確かに人材は居過ぎる程居るわ。

でも、使いこなすだけの統率力と決断力が無いから、持て余しているわ」

 

「孫策さんは?」

「油断は出来ないわね。麗羽より、もしかしたら危険かも。

でも何処かで焦(あせ)りすぎているわ。

それで自分の足元が危なく成らないと好いけど。

英雄に成れるかどうか、まだ保留ね」

 

「1応、ぱい…伯珪さんについては」

「友だち思いね。でも、公孫賛には、貴女を使いこなすだけの力量は無かったでしょう」

 

「えぇと?後は…」

「荊州の劉表なんかは、庭の中の番犬よ。後は出遅れた弱小軍閥。結局は居ないわね」

ここで、華琳は太陽の様な笑顔を浮かべた。

「今の天下に英雄は…」

(…来たよ…)

曹操は劉備に向かって言い切った。

「今の天下に英雄は、君とこの曹操孟徳。この只2人のみだ!」

思わず箸を落として驚愕する劉備。

ここまで評価されている事自体、曹操相手では危険だ。

だが、評価されて此れだけ驚いた事も、また曹操に警戒されるかも知れない。

その瞬間、偶然にも雷が鳴った。

劉備はその雷に怯えた振りをして、箸を落とした事と、曹操に英雄などと評価された事を誤魔化した。

「…あ、桃香。ほら、あの空に、変な雲が?もしかして、雷雲かも」

「え?きゃっ?」

思わず一刀の片腕に抱き着いた桃香に、華琳は決めゼリフを決める「タイミング」を逃した。

一刀は内心、ホッとしていた………。

 

……。

 

…1度、白けた後は他愛も無い雑談に成った。その雑談がしばらく続いた頃に、風がやって来た。

「zz」

「ほら、寝ないの。報告は何?」

「ふあ?はい。北方から、間者が戻りました」

「それで?」

「太陽の塔らしきもの」だけが、来客の方を向いた気がしたが?

「公孫賛が袁紹軍に降伏しました」

「降伏?戦死した訳では無いのね」

「あの、それで、白蓮、いえ、伯珪さんは無事なのでしょうか?」

桃香が握り締めている一刀の腕に、力を加えていた。

「答えていいわよ。風」

「生死不明です。現段階の情報では。少なくとも袁紹は「首」を晒してはいません」

「そうですか」

「心配かしら?」

「はい。恩義はありますし、友人ですし。それに幽州は故郷です」

「助けに行きたい?」

「でも、みんなに相談してみないと」

「主君としては、無責任でも無いわね」

やがて、宴(うたげ)は果てた………。

 

……。

 

…門前まで愛紗が、鈴々を連れて迎えに来ていた。

「姉上?お顔の色が好くありませんが」

答えたのは一刀だった。

「ああ、酒や料理もあんまり進まなかったみたいだし」

「そうなのか?桃香お姉ちゃんは、何時もあまり食べないのだ」

一刀としては、突っ込みたいのを我慢する気分だった。

口に出したらハラスメントである。

「5虎大将」の殆どは「飲み食い」の量に関する限りは、元々桃香とは比較に成らないだろう。

 

…冗句はさておいて

「邸に戻ったら、相談が在る」

「劉備はあまり、飲みも食べもしなかったようね。

それにしては、食べて行ったものが片寄っているかも」

「華琳様?どういうことでしょうか」

「女だから気になったの。男が居たから聞かなったけれど」

「これ以上、許昌に居たら、白蓮さんの敵討ちと言われて、今度は袁紹軍と戦わされる危険もあります」

「もしも白蓮さんを救出する為に、何らかの行動を起こすにしろ、蜀の国主として自らの意思で行動すべきです」

「例の陰謀にも巻き込まれるかも知れませんし、やはり、成都に帰るべきです」

竜鳳の軍師の意見に異論は無かった。

 

「そうですね。桃香様のお身体の事も在りますし」

「あの紫苑?」

「何ですの」

「紫苑さんの微笑が微妙な気がするんですけど?」

「ご主人様。私は璃々の母です」

 

桃色になる桃香。

北郷一刀は絶句した。

その後の数分間は、ツッコミあり、かけ合いありの集団漫才が続いたが、最後は1同揃っての祝福だった。

 

その後で軍師たちは指摘する。

「いよいよ、成都に帰らないと成りません」

 

孫乾(真名美花(みぃふぁ))の蜀の外交官としての初仕事は、この件での曹魏陣営との交渉に成る。

曹魏陣営の側の軍議。ここで、華琳は劉備の「体調」について問題にした。

桂花などは「だから所詮、男はち○こ…」などと乙女らしからぬ嫌悪(けんお)の発言をし、場の誰かに微笑や苦笑をさせていた。

 

「これは真剣な話よ」

華琳は真剣だった。

「もし、あの2人の間に子供が生まれたら。ただの赤子が生まれた、のとは問題が異なるわ。

主君が2人居る様な蜀も、その2人が男と女になってしまえば、悪い事には成らないわ。

まして、2人の間に子供が生まれてしまったら。

その時は、2人とも首を取れたとしても、その子供が残っていたら。

子供自体の有能、無能は問題ではないわ。例えば「5虎竜鳳」が全員、生き残っていたら。

その子供を盛り立てて「5虎竜鳳」は、蜀王国を存続させて行く事が出来るわ」

 

「天の国」の知識があれば、思っただろう。

「正史」での劉備の跡継ぎは無能は言い過ぎで、平凡だけど普通の出来だった。

孔明でも魏に勝てなかったのは「5虎竜鳳」の半数以上に先立たれていたせいもあった。

 

「それでは、子供が生まれるまで、何とか逃がさないように?」

「獅子の子に手を出す勇気があるのならね」

「5虎竜鳳」が逃げ出そうとして檻の中で暴れられたら、たとえ討ち取る事が出来ても無傷では済まないだろう。

華琳の結論に、部下たちも同意した。

「でも、只帰すのも惜しいわ」

*

「美花ちゃん。つまり」

魏側と交渉して来た美花の報告に、桃香は目をみはっていた。

「はい。愛紗さん御1人は残留せよ、との名指しでの条件です。はっきり、人質と言われました」

「だけど…どうして愛紗ちゃんなの?」

 

「天の御遣い」には、曹操が考えている事を説明は出来る。

「曹操は、愛紗いや関羽を自分の手元に置いて置きたいんだ」

 

「……」

「……」

少しの間、其々が考え込んでいたが、やがて愛紗本人が断言した。

 

「私が残ろう。今はたとえ、1人脱落してでも成都に帰る方が、問題の根幹だろう。それに…」

それぞれの性格通りの表情や態度をしている、主君や同志たちを見回した。

「私1人で、こう言って何だが、足手纏いが居なければ切り抜けてでも帰れる」

「それはそれで、外交とか、大義名分とかの問題を先送りする場合も在り得ますが」

軍師たちの指摘に、愛紗はニヤリとする。

「まあ、私とて武1辺倒な訳でも無い。通す筋は通すがな」

「そう、関羽は承知するのね」

とんぼ返りの様に華琳の元に引き返した美花は、愛紗を同行していた。

「某(それがし)からも申し上げたき事がござる。

これはあくまでも、この関羽雲長という個人が、独断で希望いたす事にござるが…」

「なあに?」

ニコニコしている華琳だが、美花などは礼儀作法の“甲冑”を込んで、華琳の「気」に圧倒されないよう努めていた。

 

「先ず第1に」

作法通りの礼儀は保っているが、言いたい事は言い始めた。

「あくまでも、恐れ多くも陛下のおわす帝都を騒がせたくは無いがため、我が主君は退去いたす。決して曹操如きの脅迫に屈した訳ではない」

「言ってくれるわね」

華琳は微笑しているが“曹操如き”に何処かの独眼竜が反応したような気もした。

「第2に、我が主君が、拠点たる成都まで御無事に帰還なされるまでは、大人しくもいたす。

ですが、それ以降は1身の勝手を御許し願いたい」

「それで?その以降は」

「したがって第3に、退散すべき時が来たならば、真っ直ぐに我が主君の下に帰参させて頂く。

その期に及んで我が行手をさえぎる御積もりならば…」

「どうする積もりなの?」

 

愛紗が答える前に、華琳が大笑いした。いかにも楽しそうに。

「どうせ、劉備たちには、こう言って来たのでしょう。

『自分1人で、足手纏いが居なければ切り抜けてでも帰れる』」

「恐れ入ります」

「ますます気に入ったわ。これだから側に置いときたいのよ。本当、劉備には嫉妬するわね」

「さらば御承知いただけるか?

ご無礼は重ね重ねなれども、我らが「桃園の誓い」にかけて、これだけは御承知頂きたい」

「好いわよ。ただし、貴女が此処にいる間は存分に口説き落とさせて貰うわ。

それでも、同じ事が言い続けられるならね」

華琳は愉し気ですらあった………。

 

……。

 

…許昌の城門。そこから延びる街道。蜀軍が行軍して行く。今度こそ帰還する為に。

中軍に在って、何時の間にか馬術の達者になった一刀が、桃香に寄り添いながら進む。

その直ぐ後ろから見守るように続き、鞍の前に璃々を乗せた紫苑。

行軍の先頭で元気満々に先導する鈴々。

頼もしげに殿(しんがり)を固める星。

お馴染(なじみ)の4輪車の朱里と雛里。

正直に晴れ晴れとした態度の翠と蒲公英ら馬姉妹。

 

愛紗は見送っていた。周辺では霞や季衣たち、魏の武官たちに囲まれていた。

 

やがて、殿の星が地平線に没すると、未練を断ち切るように城門の中へ歩みだす。

只1人。




次回は「原典」『三国志演義』通りならば「原典」でも有数の関羽の「見せ場」の筈なのですが、そうでなければ、ひたすら作者の力不足です。

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