簡雍酔夢   作:高島智明

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第4席 『三国志』が始まる

「盧植先生。お久し振りです」

「桃香。いや今は玄徳と呼ぶべきかしら。立派に成ったわね」

母性的な雰囲気を漂わせ、無論今は将軍としての甲冑姿の盧植に抱き着いて感涙を隠そうともしない桃香と、微笑む盧植(真名風鈴)。

見守る俺たちにも微笑ましかった。

 

(さて、それだけに)

果たして、伏竜鳳雛の策謀は上手く行くか………。

 

……。

 

…小黄門という地位にいる宦官左豊は、如何にも大人(たいじん)という風に悠然と行列を進めていた。

黄巾の乱に対して朝廷より派遣された将軍盧植の視察に派遣された帰りである。

 

悠然と帝都の城門を通り抜け、皇宮の門に差し掛かろうとした時、突如として兵に囲まれた。

兵たちの後ろには、上司に当たる宦官が居た。

 

「これは一体、何の冗句ですかな」

「ふん。お前の罪は明らかだ」

左豊の役目は、言わば前線の将軍たちの監視役だったが、この監視役にも監視役が付くのが皇帝専制の制度だった。

当然ながら、左豊は此の監視役も抱き込んでおいた、筈だったのだが…

 

「貴様!裏切ったな」

振り返った左豊に監視役は、

「私は、私の役目を全(まっと)うしただけです」

 

実は、監視役が見て見ぬふりをしようと左豊と盧植の会見の場を離れようとした時、桃香が魅力100も全開に説得し、本来の役目を思い出させていたのだ。

無論、それだけで翻意した訳でも無い。

尚も上司に当たる左豊を恐れる監視役に対する説得材料は、既に竜鳳の軍師が教えていた。

「左豊という人には政敵は居ませんか?その人に頼りなさい」

既に提出すべき報告書も竜鳳が下書きして、監視役の署名を入れるだけに成っていた。

 

かくて、左豊が大人ぶって悠然と行列を進める間に、監視役の送った急使が先に帝都に到着していた。

結果、左豊は盧植を檻付きの馬車に放り込む代わりに、自身が牢に放り込まれる結末に成った………。

 

……。

 

…黄巾の首領、張3姉妹を捜索しつつ、黄巾軍と戦い転戦する盧植軍と従軍する劉備義勇軍には、幽州北平群太守の公孫賛の軍が合流することに成った。

 

公孫賛

白馬をそろえた騎兵「白馬義従」を使いこなし、騎兵の本場、長城の向こう側の異民族からも「白馬長史」に気を付けろと言われた。

流浪の傭兵隊長だった劉備があちらこちらで雇われた群雄の中では、比較的最初に組んだ相手。

盧植門下の兄弟弟子、故郷に近い幽州の軍閥と言う地縁などから、自然な選択だったのだろう。

 

「白蓮ちゃ―ん」

「桃香―」

ハイタッチで、再会を喜ぶ。

「好いですね。同門の友というのは」

竜鳳の軍師も水鏡女学院を懐かしんでいる様だった。

(…聖フランチェスカ学園に帰りたい。やっぱり…いや、自分で「天の御遣い」を選んだんだ)

俺だけには一刀が、そんな想いを抱いている様に見えた。

 

その晩は両軍の兵士が混じっての無礼講と成った。

北郷一刀は「天の衣」をこの時代での目立たぬ服装に着替え、その中に混じっていた。

旧友の再会を邪魔しない為でもある。

ところが、何故かメンマを肴に1人飲んでいた美丈夫に捕まってしまった。

 

さて「天の国」では、まだ一刀は飲酒を許されていない。

当然ながら自分の酒量など知らない。

その結果、どうなったか?

「天の御遣い」の威信の問題だとかで、隠蔽された様である。

黄巾の「主力」と見られる軍とは、皇甫嵩・朱儁などの将軍の官軍が戦っていた。

そこに、兗州陳留郡太守にして、皇帝親衛隊である「西園8校尉」の8人の1人でもある曹操が参戦し、火攻の功を上げたりしていた。

 

そうして戦ううちに曹操は違和感を感じていた。

どうも皇甫嵩・朱儁らの官軍とぶつかっている黄巾の「主力」は「ただの賊」らしいと思えて来たのだ。

自分たちが「官軍」だからというのでは無い。

何時の世でも治安が悪くなれば変なやつらがウロウロするものだが、その変なやつらが黄巾に便乗して集まっているだけの様だ。

元々の黄巾党と変なやつらとの違い、それは”かりすま”と成る首領を担いでいるか、どうかということ。

つまり問題の「主力」は首領の筈の張姉妹を伴っていない。

官軍も主力をぶつけている。そこから避難しているのだろう。

それでは何処に居る?

 

1人の生涯で多方面に業績を上げた曹操は、その業績の1つとして「孫氏の兵法」を復刻した。

後世に残る「孫氏の兵法」13巻は曹操の復刻である。

その第13巻は「用間篇」

それを実践した結果…

 

「怪しいのは此処ね」

荊州南陽郡城、例によって太守が黄巾に追い出されたか逃げ出したか、その後の情報が官軍にとっては途絶えがちだが、けれども曹操は信頼も出来、機転も利きそうな用間を選抜して送り込んでいた。

その用間からの情報がどうも怪しい。

 

大手柄の好機。何といっても、賊党の首領の首以上の手柄など無い。

それが「主力」となる大人数とも離れて、手が届くかも知れない処に居る。

曹操軍にとっては転進を躊躇(ためら)う理由は無さそうだった。

 

だがしかし、曹操たちだけが情報を特権的に握っていた訳では無い。

「史実」の劉備が孔明を得た時、本人の英知を得ただけでは無かった。

この時代の群雄を支えていたのは「名士」と呼ばれる各地の声望家たち。

孔明を得たことは、荊州「名士」グループとの有力なコネクションを得て、飛躍の土台と出来た。

 

この「外史」世界でも、水鏡女学院出身者たちは荊州「名士」グループとの有力なコネだった。

 

南陽郡といえば荊州襄陽城とは同じ荊州の郡。

当然、襄陽「名士」グループからの情報を得た軍もあったのである。

更には、長江の水上交通からの情報を得た軍もある。

率いるのは、長江の水賊退治で名を上げ身を起こした呉の孫堅。

 

知らず知らず、英雄たちは互いに呼び合い始めていた。

南陽群の情報を得て転進する盧植の官軍と従軍する公孫賛軍そして俺たちの義勇軍に、南下する曹操軍と北上する孫呉軍についての報告が届けられた。

 

俺は思わず一刀と顔を見合わせていた。

(いよいよ始まったな)

劉備と曹操と孫呉が出会う意味、俺と北郷一刀は其の意味を知っていた。

 

『三国志』の時代が始まろうとしていた。

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