かつて『中漢演義』とか、そういった題名で『三国志演義』が原作の架空戦記を書きたいと妄想し、思い付いては、ボツにする事を繰り返して来ました。
「中漢」とは前漢・中漢・後漢と言う意味です。
“この時代”を対象にした「架空戦記」で好く在る様に、蜀陣営の漢王朝復興が成功した場合の歴史には、3つの「漢」王朝が存在する事に成ります。
したがって、彼らの立てた王朝が例えば後漢と呼ばれ、我々の歴史における「後漢」は「中漢」とかいう様に呼ばれるのでは無いか、つまり「中漢」王朝末期を舞台とする物語に成るという発想でした。
ですが、何処で歴史を改変するかを思い付いてはボツにする繰り返しだった時『恋姫』シリーズの事を知って、途端にキャラクターが動き始めました。
その為、この作品のストーリーは基本的に『三国志演義』それも、史実とは異なる結末になる『演義』です。
同時に『恋姫』シリーズのキャラクターが在って、ここまで成立してきた物語です。
蜀軍の本営。その中央の天幕。
当然の様に、桃香と一刀が一緒に寝ていたり阿斗の「ベビーベット」が在ったりするが、それだけに、入り口には「5虎大将」の誰かが交代で頑張っている。
それなのに、何者かが北郷一刀をそっと、隣りの桃香を起こさない様に起こした。
一刀は知らないが、華佗とかの前に何度か出現した謎の美女。
「お前。何者だ」
「貂蝉」
「董卓も呂布も、もう只のメイドだぞ。今更何をしている」
謎の美女は謎の微笑を浮かべた。
「2人切りで御話しするには、こうでもするしか無いわよね」
「そいつは理解出来るが何の話なんだ」
「貴方なら、お分かりでしょう。もうすぐ大きな分かれ道が来るのよ」
「確かに「赤壁」は劉備軍が曹操を倒す只1つのチャンスだったろうな。
「正史」通りだったならな」
「そうね。でも「正史」ではそう成らなかったわね」
「ああ、孔明とかが、なぜ見逃したと色々言われているが、結局、あの時の劉備軍では力不足だったんだろう」
「でも「今」はどうかしら」
「そうだな。“蜀”の最も充実した時点での勢力に成ってしまっているな」
「貴方がそうしたのよ。「天の御遣い」様が」
「つまり”この”「歴史」では「赤壁」で曹操を倒す事が出来ると」
「そう、そのまま天下を取る事すら可能性が在るわね。
それとも、こう成ると思わずにやったのかしら」
一刀は思わず考え込み、そして口を開いた。
「いや、思わなかった訳じゃ無い。
それでも、俺は「天の御遣い」をやる決心をしてから心の何処かで思っていた。
俺は『三国志』で劉備たちの悲劇を知っている。
だけど、桃香たちをそうしたくないから、だから…暴走と言われようと“歴史”に介入して来た。
だったら、このチャンスを見逃す事は、今までの俺がやって来た事を否定するだけだ」
「そうよね。そして、それは今、思い付いた事じゃ無いわよね」
「そうだな」
一刀は何かを考えこみ…再び口を開く。
「そうだ。本当に「天の御遣い」の様に大きな力を持っている。このタイミングなら俺は…」
「その力をどう使うかは、貴方にしか決められないわよ。本当の意味でね。
だから、後悔しないで欲しいの」
「責任がどうとかは言わないのか」
「それも含めてよ。それも分からないほど、おバカでも無いわね。
それでも大事なことは、貴方が後悔しない事よ。
結局、それしか貴方には出来ないんだから」
貂蝉は何かを知っているかの様な微笑をして、消失した。
後には、何かの香(かぐわ)しい香(かお)りが残った………。
……。
…その翌日、一刀は蜀の軍師たちに確認した。呉軍の動きについてである。
「苦肉の策」の際の一刀の態度も手伝って、彼女たちは呉軍の特に、祭の周囲に注目していた。
ただし、魏側の用間の注目を引かないよう慎重に、だった。
その結果、祭が魏に投降しようとしている可能性を掴んでいたが、一刀は黙殺させていた。
「おそらく、今夜にも黄蓋さんが脱走します」
「ところが、周泰さんが周瑜さんにその事を報告した形跡があるのに、止めようとする動きが在りません」
「ですが、呉軍全体の動きは急に慌ただしく成り始めました」
「いよいよだな」
一刀は同志たちを見回すと語り始めた。
「先ず、朱里や雛里は、どんなふうに結論付けているんだ?」
「おそらく、全てが周瑜さんの計略だった。それで辻褄が合います」
「おそらく、黄蓋さんは脱走と見せかけて魏軍を奇襲する積もりでしょう」
「その通りだ。これは、呉軍が勝負を賭けた「苦肉の策」だったんだよ」
「ご主人様はご存知でしたか?」
何人かがそう言ったが、桃香はそのつぶらな瞳でじっと見詰めていた。
「この策が魏にばれたら、蜀の為にも成らない。だから俺も口に出さなかった。しかし」
ここでもう1度、同志たちを見回す。
「それだけでは無いんだ」
「もしも、俺の知っている通りに成ったら、この戦いで曹操は、最大のピンチ、いや、危機に陥(おちい)る。
逆に言えば曹操を倒す最大の好機に成る。
それが何を意味するか……」
「三顧の礼」の時に、朱里や雛里は言ったよな。
もし、この時代において人々を救いたいなら、自分がその1人になるしか無いでしょう。
幾つもの小王国をたてる群雄の中の1人。
おそらく、それらの「王国」が3つ程にも淘汰されれば、一時は天下も安定するでしょう。その「三分」のうちの1人。
そして「三分」もいつかは、ただ1人によって統一されるでしょう。その最後の1人。
その1人となる「英雄」にしか、結局は多くの人々は救えません。
その最後の1人の英雄が曹操と成るか、それとも劉備玄徳と成るか、その「歴史」の分かれ道なんだ。
だから、その積もりで選択して欲しい。
とりあえず「天下三分」で安定させれば好いのなら、呉軍から文句が出ない程度に協力して、曹操を見逃してやれば好い。
だが曹操を追撃するなら、桃香を後漢王朝に取って代わる新しい帝王にする覚悟で、曹操を倒すまで追撃するべきだ。
その只1つの好機かも知れないんだ。
*
人は知らない「名山」
「貴女は本当に確信犯ですね」
「全くだ。これでは俺たちまでが道化だ」
「そうですね。あの「諸悪の根源」が、この「外史」を改変するためのお手伝いをした結果に成っていますね」
「好いじゃないの。何が正義で、何が悪なんて「正史」でも決められない事よ」
「ほう、面白い見解ですね」
「だから、誰も、自分が後悔しないようにやっていくしかないでしょう」
「だから、私たちが後悔するのは「正史」を改変された時です。
貴女は其れを引き起こそうとしている」
「あらあら、殺気満々で物騒ね」
*
数瞬の沈黙。
その中から愛紗が立ち上がり、まず桃香に膝をつき、そして北郷一刀に深々と礼をした。
「ご主人様。いえ「天の御遣い」様。
貴方さまが私どもの前に落ちて来られたのは、間違いなく私どもの天命でした。
まさしく、“この”「天のお告げ」をお待ちしておりました」
同志たちが次々に愛紗に続いた。
「みんな…」
桃香はほとんど涙目に成りながら仲間たちを見回すと、一刀の手を握り返した。
「これからも1緒ですね。“私たち”がどうなっても、何時までも」
*
呉軍は出撃を急いだ。
先陣は勿論、降伏を偽装した祭の火攻船団。
その後方から、奇襲を覚(さと)られない程度に離れて孫呉水軍の主力が追走する。
総帥である冥琳が陣頭に立ち全軍での出撃である。
軍師や文官である穏や亞莎、包たちのみを本営の留守に残し、明命や梨晏etc.…ほとんどの武将が出陣する。
更に主君である蓮華も思春らと共に来援の要請に応えていた。
その出撃準備で大騒ぎ、あくまで対岸の魏軍に知られないように静かに大騒ぎの最中に、シャオが現れた。
*
「シャオを解放してあげて」
そう桃香が言い出した。
「貴女は、孫呉の姫として、自分が後悔しないように選択すれば好いのよ。
貴女のお姉さんに天下を取らせたくても、それは貴女にとっては当たり前の事なんだから」
*
「何と?この火攻めを利用して、曹操の首を横取りする積もりですと」
(…その積もりなら、なぜ小蓮様を解放した?あの「伏竜鳳雛」が…)
何のウラがある?
まさか、こちらがこの情報に慌てて、今更作戦をやり直す事を狙って何かを企(たくら)んで?
いや、ならば、このまま押し切ってやる。このままでも、こちらが首を取れる好機はある筈だ。
「疑(うたが)いの心は、見えない筈の幽霊を生み出す」
竜鳳の軍師はともかく、桃香や一刀は本当に「お人好し」なのだけど。
*
その竜鳳の軍師は、蜀軍の本営で作戦を命令していた。
「ここは、呉軍の火攻が成功する事を前提として、追撃戦を実行します」
「追撃部隊の1番手は、星さんが指揮して下さい」
「魏軍が火攻から抜け出した直後に、1撃を加えて下さい。
それで退却する敵軍の殿(しんがり)は粉砕出来る筈です」
「承知」
「2番手は鈴々ちゃんです」
「これだけ大規模な火攻が成功すれば、必ず雨が降ります。
夜が明け、その雨が上がった時、敗走する軍はどうしても休憩を取るでしょう。
その好機を狙えば、大打撃を与えられます」
「お任せなのだ―!」
「3番手ですが…」
「愛紗はダメだ」
北郷一刀は初めて「伏竜鳳雛」の作戦に口を出した。
「愛紗いや、関羽雲長は義理人情に厚く、強者には強い分、弱者には弱い。
ボロボロになって敗走して来た曹操に泣き付かれて「千里行」の時の義理を持ち出されたら、愛紗だから弱い」
「何を情け無き事を。我が心底をお疑いなら……」
「誓約をするからというなら猶更ダメだ。
朱里たちは軍規には厳しいんだぞ。愛紗を斬らなきゃならなく成るじゃ無いか……
(泣いて馬謖を斬る、位だからな)
…桃香に天下を取らせる為だ。ここは翠とかに譲(ゆず)ってくれないか?」
「ご主人様?翠ちゃんは……」
桃香ですら一刀の意図に気付いて目を見張った。
「アタシなら、曹操に遺恨(いこん)こそ在れ義理は無いからな」
竜鳳の軍師は見つめ合ってから、頷き合った。
「あわ…分かりました。それでは、翠さんと蒲公英ちゃんは華容道に先回りして下さい」
「はぅ…おそらく、曹操さんは江陵へ退却しようとするでしょう。
そうなれば、この近くを通る筈です」
「ですが、ここでは2本の道しか在りません。
華容山を越える細道に崖崩(がけくず)れでも起こしておけば、その華容山と雲夢沢に挟(はさ)まれた1本道しか無くなります」
尚もスネる愛紗を桃香と鈴々が宥めていた。
(…そうだ)
一刀は、何かに思い当たった。
「愛紗にも大事な役目を頼みたいんだが。誤魔化しては居ないよ。
この作戦は呉の火攻が成功する事を前提にしている。
呉の黄蓋にとって、成功した場合ですら危険な任務だ。
(「正史」の黄蓋も成功と引き換えに、自分は返り討ちに成りかけたしな)
その黄蓋の支援だよ。
火攻が成功しなければ、追撃戦其のものが成立しないんだから」
やっと納得したようだった。
(…やってしまったな…)
一刀は俺こと簡雍が見ても、内心でそうでも思っていそうだった。
「歴史」を本当に変えちまった。
劉備いや桃香に天下を取らせて、この「天の御遣い」はその後で、どう責任を取って行く事に成るんだ。
いったい?
「天の御遣い」が「天下」を取って、どう責任を取るのか?
その意味を思い知るのは、この戦いの後に成る。
果たして”この”外史は、いったい誰を次の「皇帝」に選ぶのでしょうか?
次回から遂に「赤壁」です。
*
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