その「外史」を書き切れるかどうか、未熟で無謀な作者に対して、どうか、温かく接していただけるよう御願いします。
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後漢帝国の人口は“5000万余人”と記録されるのに対し、“正史”の三国を合計しても、“約500万”とも推定されます。
この“人口5000万”を回復するのは、天下太平を実現した唐帝国に於いてでした。
100のイデオロギーよりも、この数値によってこそ、1人の皇帝によって統一された『中華帝国』は正当化されるべきでしょう。
焼け残りが燻(くす)ぶる烏林の「元」魏軍本営。
占領した呉軍が勝利の儀式を行っていた。
「旧」劉表陣営から投降した蔡瑁・張允の首は在ったが、曹操を始めとする魏軍の主だった者たちの首が無かった。
趙雲に追われて雲夢大沢(うんぼうだいたく)に逃げ込んだ、までは確認出来ていたが、その後が不明だった。
「逃げ延びたか?蜀軍の手にかかったか」
冥琳に取って其れが次の戦略に直結していた。既に彼女は此の勝利の先を見ていた。
「天下は渡さない、蓮華様以外には。断金の誓いにかけて。そうだろう…雪連」
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華容道を進む華琳たちの片側の華容山の所々から、これ見よがしの様に狼煙(のろし)が上がっていた。
黙々として、そしてトボトボと進む華琳たちに次第に近付いて来る。
そして遂に、斜面を駆け降りて来た1隊が華琳たちのやや後方に、それは華容山の地形と、華容道の曲がり具合とのホンの気紛れだったが、少し離れた後方に降り立った。
他の場合よりは逃げる機会があるにしろ、それが大きいとも思えない。
先頭を切って迫る錦の1騎を見れば。
「ここで馬超を出すとは、本気で殺す気ね」
これでも心の折れないのは、華琳だからだろう。
尚も生存と勝利に向って、愛馬「絶影」を進めようとする主君を見上げて、ニッコリ笑って沙和がその場に座り込んだ。
「何だか~おバカになったみたいなのぉ~。だけど~おバカが1人必要みたいなのぉ~」
他の誰かが何かを言う前に、凪と真桜が沙和の左右に座り込んだ。
華琳が何か言う前に稟が言い切った。息も絶え絶えにも関わらず。
「華琳様は生き延びる義務がお有りです。彼女たちの為にも」
「……。…有り難う、稟…
沙和、凪、真桜。私は、貴女たちの死後に、忠誠を讃える詩なんかは歌いたくないわ。
絶対に、生きて帰って来るのよ」
そこまで言うと絶影の馬首を廻(めぐ)らせた。側近たちも後を追う。
春蘭などは「加勢を」と言いかけたが、
「華琳様の護衛が必要でっしゃろ」
「無用。いや、予備の剣とかが在ると助かる」
春蘭たちは腰の剣を抜いて3人の手が届くところに突き刺すと、華琳を追って行った。
「おいおい。見せ付けてくれるじゃないか。曹操どものくせによ」
翠にすら、そう言わせていた………。
……。
…やっとのことで華容道を抜けて、少し開けた湿原よりは地面のしっかりした場所が近付いてきたが、そこには「劉」と「十」の旗を立て“8陣図”で布陣した蜀軍が待ち構えていた。
「是非に及ばず、ね」
遂に華琳ですら、そう言った。
いや、華琳だからこそ理解出来た。
例え「5虎大将」の大半を分散させていても、こちらはいつもの「武」を発揮できる状態の者など居ない。
残る武将、軍師をそろえて“8陣図”のような隙も無い陣形で待ち受けられては、もはや奇跡の起こしようも無い。
華琳には、あの「お人好し」たちが次にしそうな事まで、予想がついていた。
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「速やかに江陵へ進軍すべきです」
冥琳は断言していた。
「曹操を追い払った事に満足するだけならば、遅かれ早かれ、又同じ事に成るでしょう。
我が孫呉と曹魏と蜀に三分された天下を争う此の荊州の地を、我が孫呉が天下を取る為の足掛かりとして初めて勝利なのです。
したがって、まず最初に確保すべき拠点が江陵なのは明白です。
しかも、現在、曹操は江陵を目指しており、ここを反撃の足がかりにする積もりでしょう」
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桃香と北郷一刀は、陣頭に進み出た。
「今更、何を言う積もりなの」
華琳の方からの切り出しに対して、桃香は答えた。
「私たちには、もう戦う理由は在りません」
桃香も応える………。
……。
…前夜、蜀軍とて眠っては居なかった。
桃香と一刀を盛り立てる蜀軍の主力は、この地点への移動と“8陣図”の布陣に1夜を消費していた。
その間も、桃香と一刀は語り合っていた。
この乱世に理想を掲(かか)げてここまで戦ってきた心優しき「義」の英雄。
そして、その「彼女」と「パートナー」と成った、もう1つの”この”時代を知る「天の御遣い」と。
そう、どれほどの英知に恵まれた軍師でも、忠誠あふれる部下でも決して他人に影響されては為らない。
只“パートナー”であるお互いのみが語り合う事の出来る、戦う理由。その根幹………。
……。
…その上で、いま最大の敵である曹操に対していた。
「私たちには、もう戦う理由は在りません」
桃香は言い切った。
「貴女も私たちも、同じ理想のために戦って来たのではありませんか?
力の無い人たちが笑顔で暮らせる国を作りたい。只、それだけで。
その私たちがお互いに戦って、これ以上、人々を戦の犠牲にする必要など在りません。
もう、やめましょう。そして、協力して下さい」
そうだったかもしれない。
只、1人は自分だけの力では理想に届かない事を知りつつも、自分に出来る限りの事をしようとし、そして、同志たちと其の同じ理想を追いかける事が出来た。
もう1人は、自分の力を信じ、後に続くものたちの陣頭に立って戦って来た。
只、それだけが異なっていたのだろうか。
「貴女のセリフは、まるっきりのハズレでもないでしょうね。
でも、だからこそ、同じ理想の為に戦っていたからこそ、決着はつけるしか無かったのよ。
所詮、天下は1つしか無い。天下を3分しても、その3つが互いに争うしか無いわ。
天下を3分する其の中のただ1つが他の2つを倒し喰い尽くして始めて、貴女の言う同じかも知れなかった理想が実現出来るのよ。
だから劉備。
貴女が此の曹操孟徳と同じ理想のために戦うというなら、ここで此の首を取りなさい。
そして、魏も呉も喰い尽くして只1つになった天下で、貴女と私の理想を実現するのよ」
逆に決断を迫られる形に成って、桃香は一刀に寄り添った。
そう、彼女には決断を共にする「パートナー」がいた。
華琳も其れを見止めた。
「貴方たちは、2人で戦って来たのね」
少しだけ、一刀が勘違いしたかもしれない。
「俺は少しだけ、他のみんなが知らない事を知っていただけだ。それに……」
「そうね。「天の御遣い」。私の処には落ちて来なかったみたいだけど」
瞬間だけ桃香も一刀を見詰めてしまった。
「俺は只「知っていた」だけだよ。
この時代は最悪の場合、桃香いや劉備も、曹操も、孫権すら地上に居なくなっても乱世が終わらない。
その時には、それこそ最悪なら、曹操は後漢の官僚だったから知っていただろうけど、人口5000万もいたのが、三国を合わせても500万ぐらいにまで成ってしまう。
俺はそんな最悪の結果を「知っていた」から、その前に此の「時代」を終わらせたくて、俺が「知っている事」をみんなに伝えて来た。
只、それだけだよ」
生々しい数値が、初めて明らかにされた。
一刀も、桃香や蜀の同志たちにも、ここまで生々しく数で告げてはいなかったし、当然ながら華琳も初めて聞く。
その生々しさを、当の「天の御遣い」以外は「天」から見下ろすものと、受け取った。
そうかも知れない。
まさしく「後世の歴史」というものは、見下ろす視点と傲慢(ごうまん)さを持ちかねない。
一刀は、桃香が自分の腕を抱き締めているのに気付いた。
「ごめん、桃香。もう、阿斗だっているのに。
俺はもう、2度と桃香や阿斗やみんなを「天」から見下ろしたりしない。
おそらく「天の国」に帰る事も無い。
ずっと、1緒だよ」
その2人を見詰めるうちに、華琳の表情には、側近の乙女たちですら見慣れないような微笑が浮かんでいた。
「この首を取る以外の、決着のつけ方があったわね」
華琳は絶影から地面に降り立ち、腰から剣を足元に落とした。
「華琳。私の真名よ」
この行動と、自ら「真名」を名乗ることの意味は、その場で理解するだけなら簡単だ。
実際、華琳の背後で、春蘭や桂花などは瞬間だけ驚愕し、次いで号泣してしまった。
その次には硬直してしまった。華琳のひと言に。
「私が女で都合が好かったわね。首以外に奪える“もの”があって」
瞬間、一刀は桃香の胸に埋まってしまった。
「妹」や同志たちには後宮の国の王族らしい態度だったのが、初めての反応だった。
尤(もっと)も、そのおかげで一刀は硬直せずに済み、そのおかげで命を捨てずに済んだ者がいた。
「と、桃香。そ、曹操がああしているなら、もう停戦するべきだろう」
「え?あ?!そうですね!す、翠ちゃ―ん!!」
普段のおっとり振りからは、意外な程の大声が華琳たちの頭上を飛び越えて行った。
結果「3人娘」は「生還せよ」との、華琳との約束だけは守れた。
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赤壁と烏林から、再び進撃する孫呉軍。
長江を遡(さかの)ぼり、水上から江陵に迫ったが、江陵城の上に掲げられた旗は意外なものだった。
「劉」に「十」。
それを視認した冥琳は、旗艦に同乗していた蓮華というより、その横のシャオに向けて思わず主筋には無礼な程の、つまり、思わずシャオが姉の後ろに隠れる程の視線を向けてしまった。
「こ、これは御無礼を。小蓮様を疑ったりなどいたしません。
きゃつらは小蓮様まで引っ掛けたのです」
蜀軍は曹操の首さえ後回しにして、江陵を占領した。
シャオには「にせもの」の情報を持ち帰らせて置いて。
この早業は、そうとしか解釈出来ない。
だがしかし、想像の斜め上を飛び去る現実というものは存在するものである。
例え、悪夢だと信じたくとも。
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ここ江陵が「旧」劉表軍の「水軍基地」だった時から、おそらくは荊州の「小皇帝」だった劉表のために設けられていたであろう、城奥の最も上等の部屋。
4面に帳が廻らされた豪華な寝台。
その帳の中に、主君たちである北郷一刀と桃香そして曹操いや今や真名で呼ぶべきだろう華琳と共に3人で引き篭っていた。
その状態で、合流した同志たちの報告を受けるという其の事が、今回は其のまま勝利を意味していた。
(何だか、これで『恋姫』らしく成ったな)
俺こと簡雍だけは、内心でそんなことを思っていた。
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事態を把握するとともに、抗議するべきは抗議する為に蓮華の名で使者に出したシャオと諸葛子瑜と包。
最悪、この面々だと、劉備に誑かされるとか、竜鳳にあしらわれるとか、の危険は在った。
蓮華を裏切る心配などはしていなかったが。
しかし、他の面子では最悪ケンカに成りかねなかった。
結局、シャオは戻って来なかった。
そして、子瑜と包が報告した“事実”。
それは冥琳を憤慨の余りに気絶させる代物だった。
曹操以下、魏軍の主要な面々の殆どが、蜀の「人質」に成ってしまった。
その為に江陵ばかりか、襄陽や許昌にまで降伏勧告の急使が既に出発している。
冥琳は、思わず絶叫していた。
「嘘だ!嘘だ―っ!!在り得ない。この孫呉が曹操に降伏する以上に在り得ない!
これが現実なら、天よ。なぜ、この周瑜公瑾と同時に生まれさせた?あの蜀の……」
そこまでだった。冥琳は旗艦の甲板に倒れていた。
クライマックスの筈なのにシリアスに成り切れなかったかも知れません。
けれども、それが『恋姫』の好い処とも考えてもみたいです。
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