簡雍酔夢   作:高島智明

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「原典」『三国志演義』は、例えば「赤壁」あるいは「周瑜の挫折」又は「五丈原」の後も続きます。
その最後の方の「エピソード」を今更ですが今回紹介します。



第55席 長江悠久 江東に夢目覚めたり

「私が使者の役を断(ことわ)ったりすれば、却って妹との密約について心無い噂が立つでしょう」

諸葛子瑜が此の様に切り出した時点で、使者の内容は冥琳たちにも見当がついていた。

揚州州牧の劉馥(りゅうふく)は合肥城に兵と物資を集めていた。

当然ながら孫呉が警戒して当たり前なのだが、あえて冥琳は黙殺した。

「旧」魏が「旧」蜀に接収された段階で、兵は解散し物資は没収されるのが、やはり当然と考えたからである。

接収の段階で劉馥が解任されなかったのも行政官として優秀であり、又逆に呉を警戒して混乱を避けたと見た。

 

結局の処、華琳が自ら「人質」に成った効果は、華琳に抜擢された劉馥のような人材に関しては、冥琳の想像の斜め上だった。

あるいは冥琳にして、自分の見たいと思う現実を見てしまったか。

劉馥は接収を受け入れた後も、黙々として揚州州牧の職務を果たし、

その結果、合肥に集められた兵と物資は、当然ながら呉に備えて集めたものだが、新たな主君から信頼される各級指揮官に把握されていた。

後は、率いる武将と軍師を派遣すれば良い状態に成っていたのである。

北郷一刀と桃香、そして愛紗、鈴々、朱里、雛里たちは黄河から運河を辿って、長江下流の江東からは目前まで来ていた。

 

その存在を明らかにしたのは、取り敢えず長江北岸の合肥に上陸した時である。

劉馥から兵と物資を受け取ると同時に長江の上流から蜀水軍を呼び寄せた。

 

三峡から呉の「第2師団」を撃退した段階で、この方面の主将である紫苑や軍師の狭霧は兎も角(ともかく)副将の桔梗は行動の自由を取り戻しており、巴郡や洞庭湖から蜀の水軍を集め長江を下った。

そして、江陵の呉軍主力はその妨害をする余裕すら冥琳が倒れた時点で失っていた………。

 

……。

 

…今や「劉」と「十」の旗を堂々と立てて、長江を渡渉する軍が孫呉の拠点である建業を包囲していく。

これに対して包囲される側では抵抗する処では無かった。

元々、城内の治安を維持するだけの警備部隊しか残さずに、総出撃していたのだ。

思春1人ではどうにも成らない。

蜀軍の本営。

「強襲するまでも在りません。もはや時間すらこちらの味方です」

その通りだろう。竜鳳の軍師で無くとも分かることだ。

このまま包囲し続けても、こちらか有利にこそ成れ、不利になる予想は出来ない。

ただし、油断は大敵であるが。

 

「……。…」

当然ながら、シャオには呉を裏切る気など無い。

だがしかし、全てを見届ける義務は在ると思っていた。

 

「降伏勧告はいたしましょう」

建業の城内、公邸の会議室は、激論以上「パニック」寸前の状態だった。

「赤壁」前夜ですら想像上のものだった破局が、今や眼前の現実なのである。

あの時ですら、包(ぱお)と冥琳が、言わば主君の蓮華を引き摺って決戦に持っていったのだ。

その包は沈黙。冥琳に至っては、殆ど全軍を率いて行ったまま生死不明。

これでは降伏論の声が大きくも成るだろう。

 

だがしかし、前回は机を叩き斬って決戦を宣言した主君である。

蓮華に降伏を強要出来る者までは居なかった。

流石に、主家を売って城門を開く者までも居なかったが。

蓮華は包と2人切りの時には、本音を漏らした。

「前回は、曹操に降伏したら私はどう待遇されるか、分からないと言ったな。

今回は、はっきりしている。曹操や袁紹と同じ事に成るのだろう。

好い。女の身で国主をしていたのだ。何れは、跡継ぎは自分で生まねば成らなかっただろう。

政略結婚も在り得たろうな。だがしかし……」

本来は洛陽の「北宮」に居るべき、蜀の「トップ」集団が其の出撃を明らかにした時点では、その留守の事実に対して、妙な誤解をされない処置がされていた。

「草原が懐かしい」

この人手不足で、恋と音々音は「メイド」から武将と軍師に戻っていた。

 

倭国の使節を幽州まで送り届けた後、星たちは再び、長城の向こう側の騎馬の民を牽制する任務に就いていた。

 

その星が、恋と音々音に長城での任務を交代して洛陽に戻った。

確かに、元が涼州軍閥の恋の強さは、草原という場所で騎馬の民を相手にしてこそ発揮されるだろう。

 

片や「“蜀”の「3虎大将」がうち3の剣」である星をおいて、洛陽の留守役は居ないだろう。

ただし、華琳と曹魏の軍師「3人組」だった桂花、稟、風が1ケ所に揃っては変な誤解をする者がいるかも知れないので、稟と風には途中で別の任務が与えられ、星に付く軍師は白眉こと胡蝶と交代に成った………。

 

……。

 

…当然ながら、合肥に蜀軍が出現した時点で星と胡蝶は洛陽に帰還していた。

 

「うむ。これは至高の酒というべきでござろう。まさに。

いっそ、この酒に釣り合う究極のメンマが無いことが、逆に残念なほどですな」

建業の4つの城門の内、北門は長江に面した水門に成っている。いわば水城だった。

その水門の上にある楼門から、蓮華は1人長江を眺め続けていた。

彼女の決断を共にしてくれる者は居なかった。

同じ流れは、建業を包囲する蜀軍の陣内からも見えた。

一刀と桃香は寄り添って長江を見詰めていた。

「天の御遣い」が「桃園の誓い」を成立させて以来、2人は共に居た。比翼連理の様に………。

 

……。

 

…とうとう、降伏勧告の為、一刀と桃香は旗艦に乗って水門上の楼門に立つ蓮華に相対した。

 

旗艦の上から呼び掛けられる言葉は、華容道で華琳に向けられたのと同じ。

その言葉を代わる代わる呼び掛ける2人の寄り添う姿を見て、蓮華は敗北感のみならず孤独感を感じていた。

そして理解した。あの「覇王」曹操が何故剣を落としたかを。

 

むしろ、蓮華の決断を重くしたのは、自分だけの孫呉では無いとの思い。

その意味では曹魏は華琳ただ1人。

だがしかし、蓮華は母である炎蓮と姉である雪蓮への裏切りに苦しんでいた。

諸葛子瑜が江陵城外の冥琳の元へ、蓮華の名で使者に出された。

その面会の際、穏たちは華佗を立ち合わせていた。

やはり、冥琳は憤慨し、そして気絶して華佗の手当てを受けて蘇生し、そして号泣した。

 

「許せ!許してくれ!雪蓮…お許しを…炎蓮様!」

号泣しながら剣を抜くと、岩に斬りつけた。

その折れた剣を敵将に届けるように泣きながら命じた。

祭、穏、亞莎、洛陽から駆けつけた明命そして梨晏ら、居並ぶ諸将たちが冥琳に習って岩を斬った。

何故か「天の御遣い」が、孫策を見舞いたいと、言い出した………。

 

……。

 

…その前夜、隣で眠っている桃香や同じ天幕の中の阿斗が目を覚まさない様にヒソヒソ話をする、一刀と謎の美女が居た。

 

「眠り姫の呪いを解くのは、王子さまよ」

「俺は、普通の人間だよ。そろそろ「天の御遣い」のタネも尽きかけている、な。

お前だろう。何かが出来るなら。お前は「この」世界に関係した何者かなんだろう」

 

「確かにね。この「外史」そのモノについて、他の人が知らない事を知ってるわ。

でもね、孫策ちゃんが目覚めるのは、貴方のお陰よん。

あの子を眠らせていたのは、この「外史」を「正史」の方へ、引き戻そうとする力につながった力だったの。

でも、その力はどんどん弱くなって、おそらくあの子からは消えかかっているわ。

それが何故か、貴方が何をしたかは、分かるわよね。

だから、孫策ちゃんのところへ行って御覧なさい」

貂蝉は、香しい香りを残して消失した………。

 

……。

 

…北郷一刀が雪蓮の枕元に近付いた時、それは起こった。

江陵を救援した軍の諸将たちと冥琳たちは、建業へ向けて長江を下っていた。

その間、冥琳は「旧」魏の武将たちに対して、何か探りを入れるような態度に出ていた。

いや何かではなく、俺こと簡雍には思い当たる事が在った。

(…この歴史が、今までで改変されているなら、起きない筈のエピソードなんだがな…)

 

「俺が知っている話だと、こんな話があるんだ」

俺は「天の御遣い」の「お告げ」を匂わせながら、語り出した。

 

ある国が他国に攻め滅ばされた。

国境の要塞を守っていた将軍は負けなかったが、敵の別働隊に都が開城し王が降伏してしまった。

その将軍も当面の敵に降伏して、同行して都へ向ったが、その途中で気が付いてしまった。

敵の将軍は、自分の国で、必ずしも政治的に安定した地位にいる訳でも無い。

むしろ、今、攻め取った国を拠点にして、自立する野望が無いとも言えない。

なら、その反逆を唆(そそのか)してやる。その隙に滅びた国を再興する機会を狙ってやるとね。

だがしかし、その陰謀は結局露見して両方の将軍とも処刑されたよ。

まあ、その諦めの悪かった方の将軍を忠臣などと持ち上げる、そんな意見も在るがね。

けれども、俺は唆された方の将軍みたいに、後世から間抜け扱いされたく無いな。

 

そこまで言って、俺は長江に目を向けた。

国家の興亡も、こうした陰謀も、只流れ去って行く様な悠久の大河へと。

(…蜀の姜維は、おそらく「この」歴史の表面に出てくることは無いだろうな…)

そして、冥琳たちが建業に到着してみると………。

 

……。

 

…もはや、自分の正気を疑いたい冥琳だった。

 

雪連が目覚めて自分の目前で微笑んでいる。

それ自体は絶望の中の光明だった。

 

だがしかし、何故「天の御遣い」を劉備との間に挟んで寄り添っているのか?

自分は雪蓮の事を思う余り、やはり狂ったのか?

目覚めた雪蓮は、自分が意識を失っていた間に起こっていた事を、しっかりと理解した。

理解するまでは周囲を、呉側だけではなく、蜀側の者まで質問攻めにしていたが。

 

そして完全に理解した上で蓮華や冥琳を許容した。

孫呉の興亡までを受け入れたのである。

ただし、洛陽への「人質」は自分が行くと言い出した。

「貴方を初めてみた時「天の落とし子」の事を口に出したけど、その時は冗談の積もりだったわ。

でも本物だったようね。この「天の御遣い」は」

北郷一刀と桃香そして雪蓮、蓮華、シャオの孫姉妹を乗せた旗艦に率いられた船団が、洛陽への凱旋の為に呉の拠点「だった」建業を離れた。

 

長江は今日も変わらぬ様に悠久の流れを見せていた。




辻褄合わせの為か、ご都合主義な展開にしてしまったかも知れません。
ですが『恋姫』はハッピーエンドに成るから、という事で御目零し下さい。

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