簡雍酔夢   作:高島智明

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「おに」とは日本独自の「モンスター」であり、中国での「鬼」は「死霊」の意味に近く、むしろ「キョンシー」とかをイメージした方が近いでしょう。

諡号(しごう)=おくりな
歴史上では中国の皇帝等、東アジアの君主の記録された名前は死後に贈られた名前です。
したがって「現時点」での皇帝も「献帝」とは、自ら名乗ってはいませんでした。


第58席 白鬼暗躍 「正史」とは正義なのか

玉門関。万里の長城の西の端であり、後漢帝国の西北の角。

草原の騎馬の民にしてみれば長城の南北、玉門間の東西に関(かか)わらず同じ彼らの草原かも知れないが「漢」の側の認識では長城の南、玉門間の東は後漢13州の1つ涼州である。

 

その玉門関からは南東に位置する草原を堂々と進軍していた。

中華帝国の「次期」皇帝を押したてて。

北郷一刀は、帝都の「北宮」から乙女たちの殆(ほとん)どを連れて来ていた。

「まるで、フランチェスカの修学旅行だ」

瞬間だけ脳内に浮かんだ妄想を振り切る様にすると、眼前の玉門関を見詰めた。

 

後漢13州の内、東北の幽州、西南の益州(蜀)東南の揚州(呉)をその目で見、その足で踏んで来た。

残る西北を皇帝になる前に訪問するのは、むしろ当然と思った。

尤(もっと)も、後漢12代の皇帝の内、初代皇帝以外は殆どが帝都洛陽の城外にすら出なかったのだが。

 

それに「天の御遣い」には長城と玉門関が気に成る理由が在った。

「正史」では「三国」の後の再統一は、結局は長続きしなかった。

長城の北や玉門関の西から侵入した騎馬の民に、折角再統一した中華の北半分を占領されてしまい、この「南北朝」時代の後で、後漢以来の長期統一帝国が成立するのは『唐帝国』。

何と、日本では飛鳥時代であり『西遊記』の(モデルに成った)時代に成ってしまう。

 

尤も「正史」の「年代」を一刀の知識で確認した結果は、

黄巾の乱―西暦184年。

「司馬氏」に因って「三国」が再統一される―西暦280年。

騎馬の民の侵略―西暦304年。

 

”この”世界の年代は断言してハチャメチャだが、それでも「黄巾」から数年しか経って居ない。

これから出来るであろう新しい王朝が100年以上も存続できるか、どうかも分からないが、それでも長城と玉門関を軽視は出来なかった。

 

「ここまで「天の御遣い」をやって来たんだ」

一刀は決意を新たにする。

 

力の無い人たちが笑顔で暮らせる国を、少しでも長持ちさせる。

それだけじゃ無いか。

それに俺は1人じゃ無い。

 

北郷一刀は、今は同志となった乙女たち、無双の英雄たちを見渡した。

桃香、華琳、雪蓮、蓮華、小蓮……

愛紗、鈴々、朱里、雛里、星、紫苑、翠、蒲公英、桔梗、焔耶、璃々……

春蘭、秋蘭、桂花、季衣、流琉、稟、風、凪、真桜、沙和、霞……

冥琳、穏、思春、亞莎、明命……

月、詠、恋、音々音、猫、麗羽、美羽、猪々子、斗詩、七乃、白蓮……

皆が揃っていた………。

 

……。

 

…行軍は玉門関の直近で反転して、帝都への帰路へと向かった。

 

その時、ふと一刀は境界付近の山脈の中に、何故か心を引かれる山を見付けた。

そして、乙女たちの中の涼州出身者に質問してみた。

 

「魔王が落ちて来た山ね…

何処かで聞いた事の在る様な気もするけれど。

そういえば…ここは玉門関の、つまり「中華」と「西域」の境界辺り…」

ここで思い出した。「天の国」に居た頃、計算してみた事が在った。

『西遊記』の時代マイナス500年が何時ごろに成るか。

『三国志』より数10年前。丁度、今さっき教えられた年代辺り。

 

「それじゃ、あの山は「両界五行山」?『西遊記』まで在りなのかよ。”この”世界」

もしかして”こんな”世界だから、孫悟空が女の子だったりするのかな。

だとしたら、流石にかわいそうな気も……

気のせいか、その山の方から吹く風が泣いている様な気がした。

「…淋しいよ……未だなの…三蔵…」

帝都。

俺こと簡雍と司馬仲達は「お主もワルじゃのう」的なノリで、自分たちの陰謀について語り合っていた。

尤も、仲達は何処まで俺の「正体」に気付いていただろう。

 

「しかし、好くぞ思い付かれましたな。これが「天の御遣い」という“こと”なのでしょうか」

「まあ、そうですな」

北宋王朝の初代皇帝、趙匡胤は唐帝国が衰亡した後の「五代十国」と呼ばれた乱世を収束させるだけの、英雄の力量は確かに持っていた。

その趙匡胤が、その時仕えていた国家に幼君が立つと、軍の将兵の人望が彼に集まったのである。

 

それを見た、弟で後の第2代皇帝となる趙匡義と、この初代と2代の皇帝を宰相として補佐する事に成る趙普が、兄の趙匡胤が酔い潰れている機会に兵士を集め、そして、おそらくは趙匡義と趙普が用意した皇帝の衣装を、酔い潰れている兄に着せ掛けると、集まった兵士たちが皇帝への即位を迫ったのである。

 

ここに至って、趙匡胤も決断した。北宋帝国の建国を。

「しかし、太子殿下とお妃様たちの殆ど全員が「北宮」を留守にしても、この帝都は「南宮」も含め静かですな」

「それが目的だと、あらかじめ、風聞がばら撒かれていましたから」

「そう、それが「何の」目的なのか。

この「好機」に妙な事を企む者程、思い悩んだでしょうな」

帝都の某所。

繁栄を取り戻しつつある大都市には、多少のアヤしい者が潜り込めそうな場所は少なくない。

 

「ダメですね。”この”外史での「献帝」は諦めが好過ぎます」

「ならば、コソコソ小細工しても、踊ってくれんという事だろう。傀儡どもが」

「まったくです。”この”外史の献帝と、その取り巻きはすでに「山陽公」の心境ですよ」

「山陽公」とは「正史」の献帝が皇帝を譲った後の称号である。

 

「ふん。傀儡のくせに「オリジナル」以上に腰抜けか」

「まあ”この”外史の「歪み具合」が、それだけ酷いのでしょう」

「で?小細工はもう出来んのなら、どうする積もりだ」

「2つしかありませんね。

「イレギュラー」を直接殺すか”この”外史其のものを直接に消失させるか」

「最初からそうすれば好かっただろう。セコい裏工作をたくらむよりも簡単だった筈だ」

「そうは行きませんよ。これは最後の手段です。これで失敗したら、どう成ってしまうか。

我々どころか「正史」にだって、予測し切れません。

最初に最後の手段を試すのは無謀だったでしょう」

 

「だがな。もう此の手段しか無いのだろう」

「そうです。だから、失敗は許されません」

 

「まったく、ヤボね」

何時の間にか謎の美女が出現していた。

「貴女こそ好い加減にして欲しいですね」

「そうだ。何処まで邪魔をする。お前も結局は「正史」の傀儡だろう」

 

謎の美女はあくまで微笑みながら、むしろ諭(さと)す様に語りかけた。

「そんなに大事な事かしら。「正史」とか「外史」とかが」

「ほう。面白い見解ですね。

自分が「正史」から割り振られた「南華老仙」の役を演じ切っておいて」

「あらあら、私は只の「プロデューサー」をしただけよ。

後の事はみんな、好い事も悪い事も、間違えた事すら”この”時代を生きている”あの”子たちが懸命に生きた其の結果。

”この”世界の歴史なんて“この”世界でしか作られないのよ」

帝都の「北宮」

太子として正式に此の「後宮」の主と成った「天の御遣い」と、その妃にして「三国」の王と其の側近である乙女たちが、帰還して来ていた。

そして、俺こと簡雍や司馬仲達らの留守組からの報告を受けていた。

正式の報告の最後で、北郷一刀は俺と「天の御遣い」だけが分かる様な、だがしかし、重要な報告を俺から受けていた。

 

「おおまかですが戸籍と人口の調査の最初の報告は出来ました。

細かい正確な数値は、さらに調査と結果の処理が必要でしょうが、現在の人口が2500万人以下の可能性は少ないでしょう」

 

後漢帝国の安定期には、人口は5000万余人だった。

そして「正史」では「三国」を合計しても最悪の時点では、戸籍上の人口は約500万人にまで急減していた。

 

「俺は、というか。俺たちは「正しい事」をしたんだろうか?」

「どうでしょう。只、この「世界」の無名の民衆にはよりマシな事をした筈でしょう」

俺は、そう報告を締め括った………。

 

……。

 

…その深夜。

帝都城内を巡回する兵たちのうち「北宮」の周辺にいた兵は、周辺の市街からワラワラと空中に舞い上がるアヤしい紙人形を見た。

 

その紙人形がワラワラと城壁を飛び越えて「北宮」の内部に落ちると、落下点から無表情な白装束の人影が立ち上がり、武器を取って宮殿の中心部へ駆け込んでいった。

 

こんなアヤしさ満点の術でも使われなければありえない様な、完全な奇襲だった。

だがしかし、この「北宮」の乙女たちは無双の英雄でもある。

1方的な奇襲を受けっぱなしになる様な、そんな筈も無かった。

 

たちまち、宮殿中が激しい戦いの戦場に成った。

アヤしい白装束は、実のところ1人ずつは其れ程強くない。

雑兵クラスなら兎も角(ともかく)この「北宮」の乙女たちのうちでも武将クラスなら勝てる。

けれども、倒しても、倒しても、後から後からワラワラと振って来る。

キリが無い。

 

しかも、ある1点を目標にし始めた。

軍師たちには直(じき)に明らかに成った。

「狙いは「ご主人様」です!」

「“諸悪の根源”め。今夜が最後だ。あの資料館で死んでいたと思え」




ここから盛り上がって行く筈でしょうが、もしも迫力不足とかに成った場合は全て作者の未熟です。
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