この、いわば達成すべき目的から最も遠かった時代を「スルー」出来たという事で”この”外史は加速して行きました。
当然ながら「正史」を「正義」とする立場からは、許しがたき「暴走」と成るでしょう。
まるで無差別爆撃の様に帝都「北宮」に降って来たアヤしい白装束たちは、当初は出会う相手々々に襲い掛かっていた。
その為、戦闘力の無い侍女や使用人には災厄に他ならなかったが、逆に戦闘力を持っている者のほぼ全員が戦闘に参加する結果に成っていた。
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「不本意で無いとは言えないですね」
干吉はそんな、左慈に言わせればノンキとすら言えるセリフを口にした。
「魏軍や呉軍が、蜀軍並みに戦う理由は在るでしょうかね。我々の目的を知ったら。
ですが目指す「諸悪の根源」が、このややこしい後宮の何処に、この瞬間は居るかまで幾ら我々でも感知出来ませんからね」
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「北宮」のあらゆる場所で戦闘が起こっていたが、突然に全ての白装束が1点を目指して移動しようとし始めた。
その動きを軍師たちが見破った。
正直、戦闘と成れば武将たちに援護される形だったが、だがしかし、その状況でも、敵全体の動きを目と頭脳で追っていた。
降って来ては襲い掛かるばかりだった敵が、1つの纏(まと)まった動きを見せた。
その動きを見逃さなかったのだ。
「あの白装束たちの狙いは「ご主人様」です!」
ここである疑念が生まれた。「旧」蜀の乙女たちからすれば、である。
「旧」他陣営の者たちまでが、自分たち同様に「ご主人様」の為に戦ってくれるのか?
むしろ、彼女たちの本来の主を解放する好機と思うのでは無いか。
実の処、動き始めて以降の白装束どもは追撃してくる相手への応戦はしても、目標への移動よりも優先してまで、目の前の相手に襲い掛かろうとしなく成っていた。
見事な統制である。最初の無差別攻撃は、狙う標的を探すまでのものだったのだ。
朱里たちの警告を受けた愛紗たちは、余計に焦りながら、一刀の居場所を目指したのだが。
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北郷一刀も焦っていた。
彼も又、突然に降って沸いた白装束に遭遇したのだが、最初のうちだけは手近な標的に襲い掛かっていた白装束の中のどれかが、偶々(たまたま)近くに居た一刀を襲った途端、次々と周りの白装束までが標的を変更しだしたのだ。
この時の一刀の傍には、確率論的な問題だったのだが、桃香しか居なかった。
それでも、建物内で1度に襲って来る人数が限られるという事もあって、何とか持ちこたえていた。
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「ほうほう、中々やりますな。関羽や張飛の後ろで、大事に守られていた筈なのに」
干吉にして誤解していた様だ。
何時ものおっとり振りに加えて、関羽や孔明の引き立て役にすら成っていた『演義』での劉備のイメージから。
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「正史」の劉備とて並み居る強敵たちを相手に「赤壁」まで生き延びた、それも孔明無しでも負けたのは呂布や曹操位だった100戦錬磨の傭兵隊長である。
個人的な武勇とて「伝家」の名剣が“宝の持ち腐れ”にならない程度は持っていた。
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北郷一刀の方も「天の国」にいた頃のアマチュア剣道家のままでは無い。
戦場の場数も踏めば、愛紗や鈴々を初めとする無双の雄将たちの鍛錬も受けて来た。
彼女たちなら兎も角(ともかく)今、襲って来る白装束たちよりは強く成っていたのである。
しかも、干吉たちにとっては、もっと大きな誤算が起きていた。
「諸悪の根源」を発見した後は無差別攻撃を中断していたのだが「旧」蜀軍以外の乙女たちも負けず熱心に追撃してくるのだ。
彼女たちの中には、
「いっそ、ち○こを見殺しにすれば自由に成れます」
などと「旧主」を扇動するものすら確かに居なくも無かったが、肝腎の「旧主」の方が陣頭に立って一刀の援護に駆け付け様とするのだから、後に続くしか無かった。
「おい!話が違うぞ」
左慈の指先では、華琳が「絶」の大鎌を振り回し、何人かの白装束が消失した後に数枚の紙人形が空中を舞っていた。
「そうですね。曹操も孫姉妹も完全に誑かされていましたな。
これでは、あの傀儡たちでは力不足かも」
*
次々に、押し寄せてきていた白装束たちが急に引くと、その向こうから白装束をけちらしながら近付いてくる。
遂に、愛紗たちが駆け付けたのだ。
流石に、瞬間だけホッとした途端、遥かに危険な敵が自ら襲い掛かってきた。
「”諸悪の根源”め。もう、まどろっこしい事は止(や)めだ。直接、殺してやる」
「お前は?!あの鏡泥棒」
「消え失せろ。貴様が捻じ曲げた「外史」と共に」
強い。危険だ。
だがしかし、一刀も以前に殺されかけた時の学生のままではない。そして、桃香が1緒だった。
「乳虎」そう、桃香が1緒ならば一刀は最大の力を振り絞れた。
そして、桃香だって守られるだけでは無い。
さらには、2対1の戦いは2×2対1にも、1対1が2つにも成り得る。
その意味では正しく「比翼連理」。
その連携攻撃は、左慈の攻撃をひと度は「カウンター」で跳ね返していた。
「くそ生意気な。「イレギュラー」と人形の分際で。こうなったら、本気で殺してやる」
そこへ遂に、白装束を突破した愛紗と鈴々が乱入した。
愛紗と鈴々が得意の得物で斬りかかり、しかも後ろからは朱里と雛里が助言している。
この状況で立ち向かえるのは、これまでは恋だけだったろう。だがしかし、
「気を抜くな。下手をすれば恋以上だ」
「ふん。あんな呂布“らしきもの”と一緒にするな」
さらに、愛紗たちが来た方向とは、別の方向の白装束が蹴散らされた。
乱入してくる華琳。別方向からは雪連。其々の後ろから其々の雄将たちが乱入して来る。
逆に、建物内では戦場が狭く成りだした。
「いよいよ、ややこしく成りましたよ」
干吉も乱入するが、この状況では既に一刀に近寄れなく成っていた。
「出直しましょう。少なくとも最後の最後には、1つの手段だけは残っています」
いきなり、ドス黒い煙霧が立ち込めた。
「この霧!そうよ、アイツは」
華琳が左慈に気付いていた………。
……。
…華琳と雪蓮の回想を聞いた一刀は驚愕した。
「それじゃ、あの鏡泥棒…いや、あの危険人物が「左慈」だって?」
「それだけじゃ無いわよ」
「ああ、もう1人は「干吉」だって言うんだろ」
一刀も『演義』での「左慈」「干吉」のエピソードは知っている。
華琳や雪蓮が遭遇したのも、ほぼその通りだった。
その通り過ぎた。
「北宮」のあちらこちらにアヤしい紙人形が散らばっている。
倒した白装束の後にそれが残っていた。
幸い、命まで落とした犠牲者は最小限だった。ケガ人は非戦闘員を主体に相当出ていたが。
「何者なんだ」
「”諸悪の根源”なんて「ご主人様」の事を」
「もしかして……」
「もしかしたら、俺が「天の御遣い」なんて気取って「歴史」を変えたからか」
「そう言うことの様だな」
「簡雍?お前……」
俺こと簡雍は、劉備軍に於いても非戦闘員で文官だ。こういう修羅場では足手纏いですらある。
それに”ここ”は「後宮」で、俺は男だ。
だから、今更ノコノコ出てくること自体は変でも無い。
それに手ぶらでも無い。
例によってか「タイミング」好くか、帝都を訪問していた華佗を連れていていた。
早速、華佗はケガ人たちの治療を始めていた。
一刀たちが反応したのは、俺が「ご主人様」呼びを止めた口調に成ったことにだろう。
「”天の御使い”様、いや「聖フランチェスカ学園」2年生の北郷一刀。
早坂章仁や及川佑の親友」
「どうして、その名前を知っている」
「全て話しても好い。いや、その時だろう。だけど、桃香たちに聞かせても好いかな」
結局、乙女たちとは少し離れた処で、2人切りの密談の形に成った。
「いったい御前は何者なんだ、簡雍。それに何を知っている」
「俺は……」
俺は簡雍であって、ある意味”この”外史の本物の簡雍じゃ無い。
俺は転生者なんだ。
現代日本で生きて、1生を終わって、その記憶を持って”この”外史の簡雍に生まれ変わって来たんだ。
「それじゃ…お前は俺と同じ世界から…」
一刀は、そう解釈したが、
「いや、厳密には違う」
俺は、ある意味では残酷な「真実」を、遂に暴露した。
『恋姫』というゲームのこと。
そもそも北郷一刀の「天の国」は『恋姫』の姉妹作に当たる恋愛ゲームの世界だったこと。
そして俺は”ゲーム”の存在した「正史」の世界から転生して来たこと。
「そんな……」
愕然とする一刀に対して、俺は続ける。
「これが「真実」だ。そして、もう其の「真実」そのものが襲い掛かって来ている」
あの「左慈」「干吉」と名乗っているやつらは『恋姫』というゲームにも登場した「外史の管理者」だ。
「外史」の存在そのものを「正史」を乱すものとして「正史」に従う様に管理し、余りに「正史」に逆らう様なら抹殺する。
”あの”資料館に現れたのも「外史」の起点と成る”あの”銅鏡を抹殺する為だった。
だがしかし「天の御遣い」北郷一刀という「外史の起点」を生み出す結果に成った。
やつらは「天の御遣い」を起点とする”この”外史を「正史」に差し変わらない様に管理し、それが出来ないなら破壊しようとしている。
そして遂に、やつらにとっては「諸悪の根源」である「天の御遣い」の抹殺に動いたんだ。
「其れじゃ…どう成るんだ。
お前が”ゲーム”の知識を持っているのなら、知っているんだろう。
どういう結末に成るか」
俺は首を振る。
選択するルート次第でエンディングが変わるのが”ゲーム”というものさ。
そして”この”ゲームのプレイヤーキャラクターは、北郷一刀なんだ。
選択するのは「天の御遣い」なんだ。
「そんな…それじゃ…」
一刀は、数瞬の間迷う様な態度を見せ、だがしかし、何かを決意した。
「俺は、桃香たちを守りたい。
”この”世界がどうであれ”この”世界で生きている桃香たちの幸福を守りたい」
「そうよ。それで好いのよ」
「お前は??」
何度か出現した、謎の美女。
北郷一刀と、ある時は「貂蝉」またある時は「南華老師」を名乗って来た謎の美女そして遂に「真実」を明かした俺こと簡雍。
この3人が、まだ襲撃の後も生々しい「北宮」の庭の真ん中に佇んでいた。
「貴女で好かった。”この”「外史」の貂蝉が」
「どういう意味だ?」
一刀の此の疑問だけは、俺も答える気に成れなかった。
「これだけは、聞かないでくれ」
一刀は貂蝉の方に向き直った。
「それでは、お前は」
「アイツらからすれば裏切り者。でもね、私には私の意思が在るわ。あの子たちの様にね…」
…ねえ…一刀ちゃん。
貴方にとって、そう例えば、桃香ちゃんはなあに。
ある意味、貴方が作り出した”この”世界で、劉備の役を振り当てられた可愛い御人形かしら。
「今のは聞かなかった事にしてやる。もう1度なんか言わせないぞ」
「あらあら怖い。だけど、本当の事でも在るのよ。何で、そんなに怒るの」
「もし、もしも、貴様の言う通りだとしても、みんな生きているんだ」
桃香も、愛紗や鈴々たちも、朱里や雛里たちも、華琳たちや、雪蓮たちだって、劉備や曹操とかの、役割を押し付けられているだけじゃ無いんだ。
例え誰が作った、どんな世界だって、この世界で懸命に生きているんだ。
”この”世界が俺たちが前に居た世界と、どう変わっていたって、それは此の世界で生きている桃香や華琳たちが自分で作った世界なんだ。
俺がやった「天の御遣い」なんて、その手伝いでしか無い。
”この”世界は”この”世界に生きている桃香たちのものなんだ。
「賛成」
「へ?!」
あっさりと貂蝉にそう答えられて、むしろ空振りした一刀だった。
「だから、私は裏切ってやったのよ」
真実はたった1つしか無い、なんてのは「探偵ものミステリー」の世界よね。
世界そのものが幾つ出来てるかすら、分かんないんだから。
誰もみんな、自分の責任で自分の真実を追いかけて行くしか無いの。
そして、他人に迷惑をかけるのも、挫折して泣くのも自分。
他人に決めて貰う事は出来ないの。
*
遠巻きに見守る乙女たちには、まだるっこしくすらあった。
無双の英雄でもある彼女たちですら話が終わるのを、そして彼女たちに「天の御遣い」が語りかけるのを待っているしか無かった。
*
「少なくとも、さっきのが貴方の決心なら、もう前へ進むしか無いわ」
アイツらは泰山よ。そこで、最後の手段に成る儀式を行う積もりの筈よ。
貴方は1人じゃ無いでしょう。
”この”世界を作るのがあの子たちなら、これは、あの子たちの戦いでもあるのよ。
むしろ、貴方があの子たちと一緒に戦うの。そうよね。
『恋姫』世界の設定はこうだった?という疑問やツッコミは御在りだと思いますが、これはあくまでも作者の解釈です。
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