簡雍酔夢   作:高島智明

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第60席 無双のつわもの十字の旗に会し 泰山の決戦に天命を賭ける

あの鏡の光から全てが始まった……

 

……北郷一刀にとっても、驚愕しない筈の無い真実だった。

だがしかし”この”世界の乙女たちには伝えなければ成らない。

 

「天の国」のことですら適当に誤魔化して来たともいえるのに“この”真実を何処まで理解して貰えるか。

伝えるだけでも辛(つら)いのに。

それでも、逃げる事だけは出来ない。

 

1夜を待ったのは、これは逃げでは無かった。

自分自身の心の中を、どれだけ可能にせよ、取り敢えずはリセットする必要が在っただけである………。

 

……。

 

…夜が明けて、一刀の前に乙女たちが集まった。

 

何時もならば、最低でも一刀の傍には桃香が寄り添っているだろう。

また、その左右には愛紗、鈴々、朱里、雛里といった同志たちが控えている事も多かった。

しかし、今は桃香たちも、華琳たちや雪蓮たちとともに一刀の正面にいた。

そして、一刀と同じ側には俺こと簡雍と、貂蝉と名乗る乙女たちには見慣れない謎の美女が左右に並んでいた………。

 

……。

 

…北郷一刀は、語り続けた。

先述した事などの理由で断続的に成りつつも、精1杯の誠意を込めて。

「天の国」の真実を知っている俺や、その「真実」の側である貂蝉にサポートされつつも、何とか語り終えた。

 

聞き終えた乙女たちは理解しただろうか。暫くは沈黙が在った。

 

「…ご主人様」

沈黙の中から桃香が静かに、そう、何事も無かった様に、むしろ穏やかに語りかけてきた。

 

「おっしゃられた事の全てを理解出来たとは限りません。でも」

桃香は言い切った。

「最後にご主人様が貂蝉さんに御答えになった事は、はっきりと心に届きました」

…ねえ…一刀ちゃん。

貴方にとって、そう例えば、桃香ちゃんはなあに。

ある意味、貴方が作り出した”この”世界で、劉備の役を振り当てられた可愛い御人形かしら。

 

「今のは聞かなかった事にしてやる。もう1度なんか言わせないぞ」

「あらあら怖い。だけど、本当の事でもあるのよ。何で、そんなに怒るの」

 

「もし、もしも、貴様の言う通りだとしても、みんな生きているんだ」

 

桃香も、愛紗や鈴々たちも、朱里や雛里たちも、華琳たちや、雪蓮たちだって、劉備や曹操とかの、役割を押し付けられているだけじゃ無いんだ。

例え誰が作った、どんな世界だって、この世界で懸命に生きているんだ。

”この”世界が俺たちが前に居た世界と、どう変わっていたって、それは此の世界で生きている桃香や華琳たちが自分で作った世界なんだ。

俺がやった「天の御遣い」なんて、その手伝いでしか無い。

”この”世界は”この”世界に生きている桃香たちのものなんだ。

「だから一緒に行きます」

桃香は一刀をしっかりと見詰めていた。

「1緒に行きましょう。そして」

 

1緒に戦いましょう。1緒に作って来た”この”国を守りましょう。

そして、必ず戻って来ましょう。1緒に生きていく為に。

 

「有り難う」

一刀は只ひと言しか言えなかった。

 

「何よ。1人で全部、言いたい事を言ってしまって」

華琳が文句を付けたのは、そこだった。

「こんな時まで、正妻ぶるつもり?」

雪蓮にいたっては、何分の1かはおちょくっている。

 

「5虎竜鳳」が桃香に続き、さらに他の乙女たちも続こうとしたが、もう1度だけ一刀は確かめた。

「これはある意味”この”世界そのものとの戦いだ。

だから強制も命令もしない。

連れて行く兵も志願兵だけだ」

 

この宣言が在ったが、それでも遠征軍の編成と準備は順調に進行して行った………。

 

……。

 

…もはや形容でも無い出撃前夜。

「みんなに受け取って欲しいものがあるんだ」

この時に至って北郷一刀がそう切り出した。

しかも、なぜかモジモジとしている。

 

「何でしょうか?」

最初に正面へと立った桃香の頭上に細い銀の鎖を掲げたまま、一刀は硬直していた。

「あのな…これは…」

 

とうとう、見かねた俺こと簡雍が、苦笑と微笑と溜息を混合した態度で助けを出した。

「“天の国”での風習だよ」

タメ口なのは桃香とは幼馴染だったからに過ぎない。

「男が女に婚約を申し込む時というか、女がそれを受ける時に、男から女に贈る物が在るんだ。

左の薬指に付ける指輪に、女の誕生月ごとに決まった宝石を入れて贈るんだ」

 

「?」

疑問の思ったのは、その指輪らしきものが銀の鎖の先にぶら下がっているからだ。

「彼は「天の国」では、まだ学生だったからね」

桃香は此れには頷く。「制服デート」の時に聞いていた。

 

「だから、そういう場合は、年下の方が学院を巣立つまでは大っぴらに指に付ける代わりに、こういう風に銀の鎖を付けて首から下げて置くんだ」

 

桃色になる桃香。祝福するもの在り、嫉妬するもの在りの乙女たち。

「い…いや。みんなにも1つずつあるよ。ちゃんと石も合わせて」

益々慌てる一刀。

「あ…あの…御免」

今度は、直近の桃香に謝ったりと忙しい。

如何にも王族らしい、おっとりとした反応にホッとすると、改めて桃香の首に銀鎖をかけた。

 

そして、1人に1つずつ、銀鎖をかけて行く。

大喜びするもの在り、ツンデレのツン在り、どう反応するのかに戸惑っている者も居た。

 

「みんな」

最後に、もう1度呼びかける。

「自分から受け取って貰って、勝手だけど」

一刀は言葉に決意を込める。

 

出撃する時は、この帝都で預かって貰って行こうと思うんだ。

そして、返って来よう。必ずみんなで………。

 

……。

 

…そして、出撃の時は来た。

 

帝都の城外に立ち並ぶ旗、旗、旗。

「蜀」に「劉」、「魏」に「曹」、「呉」に「孫」……

星座の如く、無双の雄将、知略の軍師の旗が立ち並ぶ。

その中央に掲げられる「十」の旗。

 

目指すは泰山だった………。

 

……。

 

…黄河沿いに連合軍は進撃する。更に水軍も併走して行った。

 

やがて、泰山を目前にして先ずは布陣する。

泰山とひと言で言っても広い。日本列島ならば九州か紀伊半島ほどもある広大な連山なのだ。

しかも、黄河が梺(ふもと)を流れている為、後年には『水滸伝』のモデルに成る梁山泊の様な湿原すら存在する。

 

だがしかし、探索の必要は無かった様だ。

ワラワラとあの紙人形が降って来ると、白装束が沸いて出て、あやつりとも思えない程しっかりと布陣した。

 

その布陣から逆に読み取れる。この山中の何処に近付かせたく無いか。

軍師たちは取り敢えずは裏の裏を勘繰ったが、結局は裏は無い、と結論付けた。

 

これに対する連合軍の策戦は、突破である。

「貂蝉」の情報は信じるしかないが、それによると「左慈」「干吉」は、この名山の山中で、アヤしい銅鏡を使用したアヤしい儀式を行うという。

それを阻止する事が今回の目的なのだ。

 

だから、それを含めて「左慈」「干吉」と決着をつけるべき北郷一刀と、その援護に当たる者たちを其の決勝点に送り込む。

それを目標に全ての戦術を組み立てる。

それしか無かった。

 

その「突撃隊」も一刀と桃香の他に「5虎竜鳳」と決まった。

最低でも、これだけは同時に辿り着く必要が在るだろう。やつらの危険度から言えば………。

 

……。

 

…軍議の席上。

「だから、この面々は当面の編成と布陣から外れて貰うわ」

華琳は言い切った。

「連合軍自体は私が預かる。それで好いわね」

今は、一刀が決断すれば好かった。

 

華琳の布陣はある意味は明快である。「電撃戦」だ。

「戦車」役となる打撃部隊の直後に一刀たち「突撃隊」が続き、側面や背後は後続に任せて突破し続ける。

「戦車」役が攻撃力をもし失えば、新たに打撃部隊を投入してでも只ひたすら突破を続ける。

 

黄河を経由して水軍で参加して来た孫呉軍は梁山泊の水上からの援護を割り振られた。

 

そして「戦車」役に決まったのは、最大の攻撃力を認められた恋だった………。

 

……。

 

…恋と音々音が率いる涼州騎兵が陣頭に立ち、その後ろに一刀たちも位置する。

その後方に華琳の指揮する全軍が布陣した。

「旧」蜀軍や「旧」魏軍だけでは無い。

「旧」袁家軍や「旧」董卓軍、何と青州兵として曹魏軍に組み込まれていたとはいえ「旧」黄巾軍まで出現していた。

孫呉水軍も梁山泊の湿原を漕ぎ進む。

 

相変わらず、後方支援部隊の采配の俺は、それらの前進を見守っていた。

 

「突撃!」

「突撃!」

「突撃―!!」

帝都「北宮」

「天の国」なら「クリスマスツリー」を連想するかも知れない。

銀鎖に指輪と宝石を付けた「ペンダント」が鈴生りに下げられていた。

その下で1人だけ首から下げた璃々が、阿斗と遊んでいた。

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