帝都皇宮の内の「北宮」
その主と成っていた「天の御遣い」を、アヤしい白装束どもが襲撃した。
その襲撃の夜が明けて、遅ればせながらも参上した俺こと簡雍は「天の御遣い」北郷一刀を前に、遂に”その”時が来たことを悟った。
俺は同行して来た希望と頷き合うと、一刀に近寄り、そして語った。
”この”世界の真実を……
『恋姫』というゲームのこと。
そもそも北郷一刀の「天の国」は『恋姫』の姉妹作に当たる恋愛ゲームの世界だったこと。
そして俺は”ゲーム”の存在した「正史」の世界から転生して来たこと。
一刀にはショックで無かった筈は無いだろう。
だがしかし、北郷一刀は「天の御遣い」としての決断を下した。
「俺は、桃香たちを守りたい。
”この”世界がどうであれ”この”世界で生きている桃香たちの幸福を守りたい」
「そうよ。それで好いのよ」
そこへ登場した謎の美女、いや”この”外史の管理者「貂蝉」
その「貂蝉」は一刀を煽り立てすらした。
そして、北郷一刀は決意を新たにした………。
……。
…夜が明けて、一刀の前に乙女たちが集まった。
1夜を待ったのは、これは逃げでは無かった。
自分自身の心の中を、どれだけ可能にせよ、取り敢えずはリセットする必要が在っただけである………。
……。
…北郷一刀は、語り続けた。
先述した事などの理由で断続的に成りつつも、込めることの出来る限りの誠意を込めて。
「天の国」の真実を知っている俺や、その「真実」の側である貂蝉にサポートされつつも、何とか語り終えた。
聞き終えた乙女たちは理解しただろうか。暫くは沈黙が在った。
「…ご主人様」
沈黙の中から桃香か静かに、そう、何事も無かった様に、むしろ穏やかに語りかけてきた。
「おっしゃられた事の全てを理解出来たとは限りません。でも」
桃香は言い切った。
「最後にご主人様が貂蝉さんに御答えになった事は、はっきりと心に届きました」
桃香は一刀をしっかりと見詰めていた。
「だから1緒に行きます」
1緒に行きましょう。そして、1緒に戦いましょう。
1緒に作って来た”この”国を守りましょう。
そして、必ず戻って来ましょう。1緒に生きていく為に。
「有り難う」
一刀は只ひと言しか言えなかった。
「何よ。1人で全部、言いたい事を言ってしまって」
華琳が文句を付けたのは、そこだった。
「こんな時まで、正妻ぶるつもり?」
雪蓮にいたっては、何分の1かはおちょくっている。
「5虎竜鳳」が桃香に続き、更に他の乙女たちも続こうとしたが、もう1度だけ一刀は確かめた。
「これはある意味”この”世界そのものとの戦いだ。
だから強制も命令もしない。
連れて行く兵も志願兵だけだ」
この宣言が在ったが、それでも遠征軍の編成と準備は順調に進行して行った………。
……。
…もはや形容でも無い出撃前夜。
「みんなに受け取って欲しいものがあるんだ」
この時に至って北郷一刀がそう切り出した。
しかも、なぜかモジモジとしている。
「何でしょうか?」
最初に正面へと立った桃香の頭上に細い銀の鎖を掲げたまま、一刀は硬直していた。
「あのな…これは…」
とうとう、見かねた俺こと簡雍が、苦笑と微笑と溜息を混合した態度で助けを出した。
「“天の国”での風習だよ」
タメ口なのは桃香とは幼馴染だったからに過ぎない。
「男が女に婚約を申し込む時というか、女がそれを受ける時に、男から女に贈る物が在るんだ。
左の薬指に付ける指輪に、女の誕生月ごとに決まった宝石を入れて贈るんだ」
「?」
疑問の思ったのは、その指輪らしきものが銀の鎖の先にぶら下がっているからだ。
「彼は「天の国」では、まだ学生だったからね」
桃香は此れには頷く。「制服デート」の時に聞いていた。
「だから、そういう場合は、年下の方が学院を巣立つまでは大っぴらに指に付ける代わりに、こういう風に銀の鎖を付けて首から下げて置くんだ」
桃色になる桃香。祝福するもの在り、嫉妬するもの在りの乙女たち。
「い…いや。みんなにも1つずつあるよ。ちゃんと石も合わせて」
益々慌てる一刀。
「あ…あの…ごめん」
今度は、直近の桃香に謝ったりと忙しい。
如何にも王族らしい、おっとりとした反応にホッとすると、改めて桃香の首に銀鎖をかけた。
そして、1人に1つずつ、銀鎖をかけて行く。
大喜びするもの在り、ツンデレのツン在り、どう反応するのかに戸惑っている者も居た。
「みんな」
最後にもう1度呼びかける。
「自分から、受け取ってもらって、勝手だけど」
一刀は言葉に決意を込める。
出撃する時は、この帝都で預かってもらって行こうと思うんだ。
そして、返って来よう。必ずみんなで。
そんな「天の御遣い」と乙女たちを俺こと簡雍(真名絆)は、留守を預かる1員に決まっていた馬謖(真名希望)と隣り合って見守っていた。
そして、俺は何気なさそうに、だがしかし、心には決意を込めて希望の左の薬指に用意しておいた指輪を付けた。
「絆…これって」
「今更だけど、受け取ってくれ。希望」
そして、俺は同志たちを振り返った。
「今1つ、告白しなければ成らないことが在る」
指輪のペンダントを首から下げて、其々の反応をしていた乙女たちが、こちらを振り返る。
俺は先程告白した様に”ここ”では「天の国」と呼ばれている処で生涯を送って”この”世界の簡雍に生まれ変わった。
そして希望は、本当は「天の国」で俺と生涯を共にした伴侶だったんだ。
何人かが、驚愕の反応をした。
そして、俺は希望の方を振り返った。
「受け取ってくれ、希望。そして、俺の帰りを迎えてくれ」
「ちょっと、それは何かの「フラグ」じゃ無いの」
「だとしても、俺は必ず帰って来る。希望と”この”世界で生きて行く為に行って来る」
乙女たちの中から愛紗が、何歩か進んで来た。
「心配するな。何時もの様に絆は「木牛流馬」の采配をしながら、後ろで見守っていれば好い。
戦いは、私たちが引き受ける」
それからニヤリとした。
「絆にケガなどさせたら、希望に恨まれそうだな」
*
出撃の時は来た。
帝都の城外に立ち並ぶ旗、旗、旗。
「蜀」に「劉」、「魏」に「曹」、「呉」に「孫」……
星座の如く、無双の雄将、知略の軍師の旗が立ち並ぶ。
その中央に掲げられる「十」の旗。
全軍が泰山を目指して進軍を始めた。
その進発を、私こと馬謖(真名希望)を含めた帝都の留守を預かる少数の文官や武将が見守っていた。
私は只1人、後方の補給部隊の中の1人を見送っていた。
それは、私のエゴかも知れない。それでも、その1人の帰還を願っていた………。
……。
…私は、今日も城門の処まで出てみた。
ここでこうして居ても、待つことしか出来ないことは分かっている。
それでも、出て来てみた。
「ゲーム」の知識によれば、失敗すれば”この”世界そのものが消失する筈だった。
その時私は、そして”あの”人は、どう成るのだろう?
そんなことを思いながら、城門から泰山の方へと続く街道を見守っていると、その街道の向こうから駆けてくる騎馬が居た。
黒髪を翻し赤い駿馬を駆けさせて来た其の乙女は、帝都の城門まで駆けつけると、只ひと言叫んだ。
「我が軍、勝利せり!」
その知らせに、城内から歓声が上がった。
その歓声の中で、私は只1人の帰還を願いながら、左手の薬指の指輪をもう片手で握り締めていた。
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