乱世と言うのは「野望」の時代でもある。
そんな野心家たちにしてみれば、天下の動乱は中途半端に終わってしまった。
俺こと簡雍(真名絆(きずな))の謹慎をウヤムヤにしてしまったのも、結局は”そんな”取り残された野心家であった、のだろうか?
謹慎していた私邸から皇宮に呼び出された俺は、当然に先ずは状況を説明された。
結論から言えば、天下は太平に成って未だ数年。治安も回復している途上。
目の行き届かない処には、変なやつらがウロウロしているものなのだ。
俺が呼び出された時点で「変なやつら」自体への実力行使は終わっていた。
屯田村にでも入植させるのが公正、と考えられる難民崩れの選別も終わった。
乱世で荒れた耕作地や過疎化した村々に、故郷を無くした難民や復員兵士を送り込んで、耕作地の再開発や村の復興に当らせる。
この「屯田」政策は、王朝が交代する度、当然に実施するべき政策だった。
だがしかし、首領LVや「本当」に「賊」だった悪質な連中は別な処分を要する。
そして「その」処分の検討中に、無視出来ない情報が加わった。
ここで、皇帝に報告がされ、皇帝は相談の為に個人的な相談相手の俺を呼び出していた。
「連中は「大公府」の名前を出した。
判明している事だけでも、当人たちは「そう」宣伝していた様だ」
俺は皇帝である北郷一刀から、そう相談を持ちかけられた。
「けれども「大公府」そのものからは、報告も来ていないんだろう」
歴史上「献帝」と呼ばれる、後漢王朝の末代皇帝。
「今上」皇帝に継承した後は、その新しい皇帝の「養父」としての待遇で、帝都の北の郊外に建てて貰った宮殿に暮らしている。
「大公府」とは、その「先帝」の身辺と宮殿の管理を担当している役所だ。
実の処「大公府」の責任者は「北宮」から送り込まれている。
『恋姫』たちの中から適任者が交代で。
彼女たちが「ご主人様」を裏切るとも、陰謀を見抜け無いほど無能とも信じては居ない。
「だから、今回「も」連中の虚勢だと判断しているんだろう。皇帝陛下は」
「絆の言う通りだよ。だけど、判決を下す前に誰かに相談したかったんだ」
「分かるよ。
余計な虚勢を張らなければ「北邙山(ほくぼうざん)」で済んだんだろう。
“この”陛下は優しいからな」
「今上」の皇帝は優しい。天下が太平に成ってしまえば尚更。
乱世の間に戦場で死なせるなら兎も角、太平に成った後に自分の権力で死刑にするのは好きじゃ無い。
帝都洛陽の北にある北邙山には、後漢王朝歴代の皇帝たちの陵墓が在る。
こうした陵墓etc. …の土木工事が死刑から減刑された場合の刑罰だった。
歴代の中華帝国の法に置いて。
「だけど「大公府」の名前が出てしまった以上、見せしめが必要だ。
今回がウソだったのなら、尚更」
目を閉じたまま、口から吐き出していく。
「本来の罪に「不敬」が加わった以上、ワザワザ「大公府」の城外まで引っ立てて行って、晒し首だな。
結果的に大物扱いして貰った事に成るか」
「平和ボケ」していた「天の国」から落ちて来た人間には、愉快な話では無い。
それでも、逃げるわけには行かなかった。
そして、こういう辛い決断の前に、皇帝が内心をぶつけられる相手として俺の存在は貴重だった。
「結局は「先帝」ご本人に関する限り、何も御存知無かった、と言う事で貫き通すしか無い。
今回「も」其れは其れで本当なのだし」
「そうだな。まあ「北宋」を見習った以上は「先帝」の待遇まで見習うさ。
それに「正史」の「献帝」も天寿を全うしたし」
「北宋王朝」の初代皇帝、趙匡胤は「前」王朝の王族だった柴氏1族の保護を、後に続く皇帝たちに厳命している。
柴1族は「南宋」と運命を共にするまで、宋帝国の「貴族」であり続けた。
また「献帝」にしても「正史」で劉氏1族を断絶させたのは、曹操の「魏」王朝でも司馬仲達の「晋」王朝でも無く「騎馬の民」の侵略者だった。
だから「大公府」よりも「長城」に注意する方が「現実的」な筈だった………。
……。
…皇帝としての、生々しい仕事も片付けられた後。
今度は、俺が「天の御遣い」こと北郷一刀に「公私の私」の問題で相談を持ちかけた。
「俺は『天の国』の風習通りの式を挙げようと思う」
「確認しておくけれど、絆と希望(のぞみ)(馬謖の真名)の結婚式だよな」
「ああ。正々堂々と挙行してやる。
それしか、俺たちの流儀を”この”時代で認めさせる方法が無い気がして来た。
謹慎の間も考えていたんだ」
「絆の考えた事は、俺には理解出来るよ。それで、希望の方は?」
「これから相談する積もりなんだ。その前に背中を押して貰いたかったんだ」
「好いだろう。突き飛ばしてやりたい位だな。ただ…何故?今」
「今年の6月までに準備する事を考えたら、そろそろ時間が無く成りそうだからだよ」
「其れは其れは…頑張ってくれよ」
*
さて「北宮」に帰宅した一刀から、何気に話を聞いた何人かが、疑問を持ったそうである。
「ねぇ?ご主人様」
「桃香?」
「どうして6月なんですか?」
疑問に思っているのは、桃香だけでは無さそうだ。
「ええと…」
俺の為も在って、かなり真剣に回答を考えた末に一刀は語ったのだと言う。
「多分、絆は希望を喜ばしたいから6月にしたと思うよ」
「どうして6月だと喜ぶんですか?」
「「天の国」には”羅馬”から伝わった言い伝えがあるんだ。確か…」
「”羅馬”での言い伝えだと、1月ごとに其の月の守り神がいるんだけど、6月の守り神は結婚の守り女神でもあるんだ」
「”羅馬”の言い伝え、ですか」
「だから『6月の花嫁』は、その守り女神の加護を受けるという言い伝えだよ。
最近は「天の国」にまで、伝わっているんだ」
*
「あはは。あは、あは」
思いっ切り色気も無いと言うか、中身は「前世」で天寿を全うしていたから出来る笑い方と言うべきか。
そんな豪快な大爆笑をしている希望を、大真面目に睨み返している俺だった。
「俺は真面目だぞ」
「ご…御免なさい…あはは……だって、今更『6月の花嫁』だなんて」
「俺の言っている意味が理解出来ないのなら、もう1度詳しい説明をしようか」
「よ…好々。絆の言いたい事は分かるわよ。理解出来ているから、笑えちゃうの」
*
まったく、これほど真剣さと滑稽さが両立している事情は、私こと馬謖(真名希望)の「2回」分の人生でも未経験だった。
しかも、当事者として体験出来るとは!
無論、絆が真剣で、更に誠実である事は疑っていない。
(…Noなんて答える積もりは無いわよ。私だって…本心は嬉しいんだから…)
*
「6月」までが忙しく成りそうな今年に成るだろう。俺と希望には。