簡雍酔夢   作:高島智明

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外伝の8 「6月の花嫁」の言い伝え

乱世と言うのは「野望」の時代でもある。

そんな野心家たちにしてみれば、天下の動乱は中途半端に終わってしまった。

 

俺こと簡雍(真名絆(きずな))の謹慎をウヤムヤにしてしまったのも、結局は”そんな”取り残された野心家であった、のだろうか?

 

謹慎していた私邸から皇宮に呼び出された俺は、当然に先ずは状況を説明された。

 

結論から言えば、天下は太平に成って未だ数年。治安も回復している途上。

目の行き届かない処には、変なやつらがウロウロしているものなのだ。

 

俺が呼び出された時点で「変なやつら」自体への実力行使は終わっていた。

屯田村にでも入植させるのが公正、と考えられる難民崩れの選別も終わった。

 

乱世で荒れた耕作地や過疎化した村々に、故郷を無くした難民や復員兵士を送り込んで、耕作地の再開発や村の復興に当らせる。

この「屯田」政策は、王朝が交代する度、当然に実施するべき政策だった。

 

だがしかし、首領LVや「本当」に「賊」だった悪質な連中は別な処分を要する。

そして「その」処分の検討中に、無視出来ない情報が加わった。

ここで、皇帝に報告がされ、皇帝は相談の為に個人的な相談相手の俺を呼び出していた。

 

「連中は「大公府」の名前を出した。

判明している事だけでも、当人たちは「そう」宣伝していた様だ」

俺は皇帝である北郷一刀から、そう相談を持ちかけられた。

「けれども「大公府」そのものからは、報告も来ていないんだろう」

 

歴史上「献帝」と呼ばれる、後漢王朝の末代皇帝。

「今上」皇帝に継承した後は、その新しい皇帝の「養父」としての待遇で、帝都の北の郊外に建てて貰った宮殿に暮らしている。

「大公府」とは、その「先帝」の身辺と宮殿の管理を担当している役所だ。

 

実の処「大公府」の責任者は「北宮」から送り込まれている。

『恋姫』たちの中から適任者が交代で。

彼女たちが「ご主人様」を裏切るとも、陰謀を見抜け無いほど無能とも信じては居ない。

 

「だから、今回「も」連中の虚勢だと判断しているんだろう。皇帝陛下は」

「絆の言う通りだよ。だけど、判決を下す前に誰かに相談したかったんだ」

「分かるよ。

余計な虚勢を張らなければ「北邙山(ほくぼうざん)」で済んだんだろう。

“この”陛下は優しいからな」

 

「今上」の皇帝は優しい。天下が太平に成ってしまえば尚更。

乱世の間に戦場で死なせるなら兎も角、太平に成った後に自分の権力で死刑にするのは好きじゃ無い。

 

帝都洛陽の北にある北邙山には、後漢王朝歴代の皇帝たちの陵墓が在る。

こうした陵墓etc. …の土木工事が死刑から減刑された場合の刑罰だった。

歴代の中華帝国の法に置いて。

 

「だけど「大公府」の名前が出てしまった以上、見せしめが必要だ。

今回がウソだったのなら、尚更」

目を閉じたまま、口から吐き出していく。

「本来の罪に「不敬」が加わった以上、ワザワザ「大公府」の城外まで引っ立てて行って、晒し首だな。

結果的に大物扱いして貰った事に成るか」

 

「平和ボケ」していた「天の国」から落ちて来た人間には、愉快な話では無い。

それでも、逃げるわけには行かなかった。

そして、こういう辛い決断の前に、皇帝が内心をぶつけられる相手として俺の存在は貴重だった。

 

「結局は「先帝」ご本人に関する限り、何も御存知無かった、と言う事で貫き通すしか無い。

今回「も」其れは其れで本当なのだし」

「そうだな。まあ「北宋」を見習った以上は「先帝」の待遇まで見習うさ。

それに「正史」の「献帝」も天寿を全うしたし」

 

「北宋王朝」の初代皇帝、趙匡胤は「前」王朝の王族だった柴氏1族の保護を、後に続く皇帝たちに厳命している。

柴1族は「南宋」と運命を共にするまで、宋帝国の「貴族」であり続けた。

また「献帝」にしても「正史」で劉氏1族を断絶させたのは、曹操の「魏」王朝でも司馬仲達の「晋」王朝でも無く「騎馬の民」の侵略者だった。

 

だから「大公府」よりも「長城」に注意する方が「現実的」な筈だった………。

 

……。

 

…皇帝としての、生々しい仕事も片付けられた後。

 

今度は、俺が「天の御遣い」こと北郷一刀に「公私の私」の問題で相談を持ちかけた。

 

「俺は『天の国』の風習通りの式を挙げようと思う」

「確認しておくけれど、絆と希望(のぞみ)(馬謖の真名)の結婚式だよな」

「ああ。正々堂々と挙行してやる。

それしか、俺たちの流儀を”この”時代で認めさせる方法が無い気がして来た。

謹慎の間も考えていたんだ」

 

「絆の考えた事は、俺には理解出来るよ。それで、希望の方は?」

「これから相談する積もりなんだ。その前に背中を押して貰いたかったんだ」

「好いだろう。突き飛ばしてやりたい位だな。ただ…何故?今」

「今年の6月までに準備する事を考えたら、そろそろ時間が無く成りそうだからだよ」

「其れは其れは…頑張ってくれよ」

さて「北宮」に帰宅した一刀から、何気に話を聞いた何人かが、疑問を持ったそうである。

「ねぇ?ご主人様」

「桃香?」

「どうして6月なんですか?」

疑問に思っているのは、桃香だけでは無さそうだ。

 

「ええと…」

俺の為も在って、かなり真剣に回答を考えた末に一刀は語ったのだと言う。

「多分、絆は希望を喜ばしたいから6月にしたと思うよ」

「どうして6月だと喜ぶんですか?」

「「天の国」には”羅馬”から伝わった言い伝えがあるんだ。確か…」

 

「”羅馬”での言い伝えだと、1月ごとに其の月の守り神がいるんだけど、6月の守り神は結婚の守り女神でもあるんだ」

「”羅馬”の言い伝え、ですか」

「だから『6月の花嫁』は、その守り女神の加護を受けるという言い伝えだよ。

最近は「天の国」にまで、伝わっているんだ」

「あはは。あは、あは」

思いっ切り色気も無いと言うか、中身は「前世」で天寿を全うしていたから出来る笑い方と言うべきか。

そんな豪快な大爆笑をしている希望を、大真面目に睨み返している俺だった。

 

「俺は真面目だぞ」

「ご…御免なさい…あはは……だって、今更『6月の花嫁』だなんて」

「俺の言っている意味が理解出来ないのなら、もう1度詳しい説明をしようか」

「よ…好々。絆の言いたい事は分かるわよ。理解出来ているから、笑えちゃうの」

まったく、これほど真剣さと滑稽さが両立している事情は、私こと馬謖(真名希望)の「2回」分の人生でも未経験だった。

しかも、当事者として体験出来るとは!

 

無論、絆が真剣で、更に誠実である事は疑っていない。

(…Noなんて答える積もりは無いわよ。私だって…本心は嬉しいんだから…)

「6月」までが忙しく成りそうな今年に成るだろう。俺と希望には。

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