簡雍酔夢   作:高島智明

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外伝の9 「天の国」の普通の結婚

「プール付の豪邸」なんてものの例えが後世には在るが、この時代の或る程度の高官が帝都に構える私宅の池だって、後世の1戸建てに付いた「プール」に負けてもいない。

それに「何故か」ビキニや縞パンが有る『三国志』だったりする。

 

流石に私こと馬謖(真名希望(のぞみ))は、夜を選んでいた。

縞ビキニで泳ぎ回るという行為にまで出たのは、早い話が「マリッジブルー」な訳だったりする。

 

「もう三日月も過ぎたなあ…」

 

月を見ると「マリッジブルー」に成る理由が在った。

「この」時代の婚礼は昏(たそがれ)を選ぶ。その伝統までは無視出来ない。

その為か、6月の中でも満月の晩に予定されていた。

同じ月を見ながら、俺こと簡雍(真名絆(きずな))も落ち着く事が出来ないでいた。

 

この期に及んで、と言うべきなのは何方(どちら)だろう。

俺は、年長の飲み仲間の夏侯翁を上座に仰いで、だがしかし断言していた。

「俺は希望と「天の国」の普通(?)の結婚式を挙げます」

「承知した」

夏侯翁も、この期に及べば、そう答えざるを得ない。

泰山で歴史を「修正」しそこねた左慈と干吉は「只の」道士として帝都の隅で生活していた。

元々「卜占」が「科学」である時代なのだ。ソコソコに繁盛していた。

 

そこへ、奇妙な依頼が来た。いや、どちらかと言うと、物騒な依頼だ。

 

「まさか『呪殺』を依頼されるとは」

人を喰った干吉も相変わらずだ。

「どうする。受けるのか」

「『今』の我々でも、特定の個人を殺す位の「力」は残っています」

「だが、後が面倒そうだな」

心底、左慈は面倒そうだ。

「そうですね。「今」の我々は死刑にされたら「普通」に死ねますからね」

 

「卜占」が「科学」である時代なのだ。「呪殺」は法的にも「立派」な殺人と認められている。

 

「だからと言って「やつ」らに密告してやるのも面白く無いな」

「では、黙殺する事にしましょう。何も無かった事に」

 

「呪殺」が法的にも殺人と認められている時代であるため、逆に政敵を落し入れる冤罪事件としても、しばしば利用された。

「正史」に於いても何度も記録されている。

そんな記録を1つ増やす事も無いだろう。

どうせ”この”歴史には、もう関係も無い自分たちだ。

道士たちは、そう結論付けた。

純白の「ウェディングドレス」を前にして「北宮」では盛り上がっていた。

尤(もっと)も、残り日数から言って、ドレスが完成していなかったら大変だ。

 

尚、お披露目されたドレスを前にして、郭嘉(真名稟)が遠い目をした事と、その稟を見た麗羽が思い切り溜息を付いた事の事情はどれだけが知っていたか。

悪友時代の曹操と袁紹がやらかした「花嫁泥棒」

”この”外史の華琳と麗羽もやらかしていた。

逃げる途中で麗羽が転んだ時、

「花嫁泥棒は此処だーっ!」

と、華琳が叫んだことまで、その通りだった。

側近以前に親族だった、春蘭・秋蘭姉妹等は、華琳が「中身」の有る「ウェディングドレス」を意気揚々(いきようよう)と持ち込んで来た時のことを覚えている。

当時から、華琳の「悪癖」を知っていた春秋姉妹等は、華琳の動機を疑った。

 

ついでに、何時もに増して意気揚々とする華琳に対して、何故か麗羽はボロボロに成っている。

「…大体、あの時、他人のフリどころか、大声で「花嫁泥棒は此処だ―っ」とは、どういうお積もりですの!」

「あらあら、つまづいて転んだまま、ウンウン唸っていたのは誰かしら。

それが、自分で立ち上がって逃げる事が出来たじゃないの。

力を尽くして戦うべき時には、あえて死地に放り込むのも兵法よ」

 

「だったら、そうだと、おっしゃりなさい!」

「バラしちゃったら、死地になんて成らないわ。それにそんなヒマも無かったし」

未だ憤慨している麗羽だったが、春秋姉妹等とかにしてみれば其れどころでは無かった。

 

この娘をどうするんだ?

 

実は、この時に盗まれた花嫁というのが稟だったのである。

華琳は、こう、うそぶいた。

「この娘には、才能が在るわ。

幾ら、親の命令だからって、あんな無能者の第何夫人かで、飼い殺しなんて勿体無い位のね」

意外とも、曹操らしいとも、受け取れる言い分だった。

6月の満月の昏(たそがれ)

「天の国」すなわち現代日本の西洋式挙式と『三国時代』の婚礼との、絶妙な折衷形式での儀式と祝宴が、帝都の俺こと簡雍の私邸で挙行された。

 

ただし「ブーケトス」だけは微妙だった。

何せ、列席者の中で花嫁の女友達に「未婚」が少ない。

結局「トス」を受け取ったのは璃々だった。

 

翌朝、俺と希望は、帝都の城門を出て目的地に向った。

 

漢王朝時代の「リゾート」として最も有名なのは、帝都の西に置かれた「上林苑」である。

無論、本来は皇帝専用だ。

秦・前漢王朝の時代に長安の西に置いた「上林苑」に習って、後漢王朝が洛陽の西に置いていた「上林苑」も乱世に荒れていたが、ここ数年の太平と復興で、ある程度は修復されるだけの余裕が出来ていた。

皇帝本人の趣味よりも、帝国としての面子、の問題だった様だが。

 

その「上林苑」の事を”こんな”機会に思い出した皇帝は、友人への「プレゼント」を思い付いた。

「絆。新婚旅行はどうする。

こう成ったら「ハネムーン」まで貫徹するのが意地みたいな物だろう」

 

そういう訳で、俺と希望は、どうやら修復が出来て来ていた「上林苑」の離宮の1つを有り難く使用させて戴いて「天の国」の新婚旅行としては常識的な日数になる程度の数日間を送る予定にしていた。

絆と希望の「上林苑」での「ハネムーン」は何事も無く日時が過ぎて行ったが、その頃、帝都の1隅では黙殺した筈の依頼人に再び困惑させられている「道士」たちが居た。

 

「しつこいな」

元々、左慈は余り気が長くない。

「我々が、こんな面倒事で”この”世界の当局に頼る羽目に成るとは。

不本意で無いとは言えないですね」

そんな不穏な事態が密かに進行中、などとは未だに誰も気も付いていない。

ここ「上林苑」では「16夜(いざよい)」の欠け始めの月を見上げて兎を探していた。




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