TV時代劇で時折在る、斬り殺すまでも無い相手のチョンマゲを両断してザンバラ髪にしてしまう、というのは『三国志』でも成立する。
歴史時代の中国で「侍」に相当する「士大夫」と呼ばれる階級の成人男性ならば「フォーマル」な服装では「冠」を付けている。
この冠に手を触れれば、顔に手を出すも同然の無礼とされた。
また、冠を付けるまでもない庶民でも、成人男性なら「巾」を髪に結ぶ。
冠や巾が付けられない程に短く髪を切ってしまうのは、刑罰だった時代だ。
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俺こと簡雍(真名絆(きずな))が"それ"をやってしまった、という流言飛語が何時の間にか流れた。
「例の」西門家の門内に放り込んだ時に、腰の剣を抜いて相手の髪と髭を切り落としてしまった、などという無責任な噂である。
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相手も腰に剣を付けていたら、その場で斬り合いだ。
それだけでも無責任な噂なのだが、後年の『演義』等は此の無責任な噂を採用していたりする。
芝居の場合、ワザワザ鬘(かつら)を用意したりしていた。
あくまで、後年の話である。
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タイミングが悪い、と言うべきだろうか。
どうやら、道士たちにトンでもない依頼をした使いの人物について、やっと身元が割れそうだという報告を受けてみれば「この」無責任な噂では、髪を切られた筈の相手らしかった。
「困った、とまでは行かなくても、慎重に成らざるを得ないな」
皇帝が側近に、そう相談するのにも理由は有る。
元々「巫蠱(ふこ)」の類(たぐい)には、冤罪に成らない様に慎重に臨んでいる皇帝である。
それが、側近でもある皇帝個人の友人と遺恨の在る相手とは。
下手をしたらどころか、余程上手に処置しなければ、権勢を盾に私怨を晴らした事に成ってしまう。
その意味で、却ってヤヤこしい事態だった。
軍師たちの何人か、からは
「取り敢えず西門家と和解して下さい」
と進言され、俺も納得するしか無かった。
「手を出したのは、俺の方だしな…」
やれやれ、の気分だった………。
…。
…そんな訳で、適当な名目をつけて私邸に西門家を招待しての宴が挙行された。
上座に、西門家の当主と俺が並び、西門家側の下座には「例」の髪を切られた筈の人物も居る。
その相手にも俺は寛容に酒盃を与え、相手も「礼」に従って受けた。
「男女7才にして……」などという建前は在る。
けれども”この”時代、例えば「馬謖、字は幼常」という「男名前」で官職まで持っている場合ならば、馬幼常として”こう”いった席にも出席は出来る。
だがしかし、西門家は「6人」の夫人を、全員連れて来ていた。
こう成ると、屋敷の奥向きで女は女同士の宴席を設ける事に成る。
こうした事態に備えて、俺は馬謖(真名希望(のぞみ))の為の援軍も呼んで置いた。
希望の姉たちを呼んで「馬家の5常」を勢揃いさせておいたのだ。
これで5対6。人数的にも負けない筈だった………。
…。
…和気藹々(わきあいあい)と、少なくとも表面的には和気藹々と宴は果てて、西門家1行を門前まで見送って来た俺が奥向きに入ってみると”そこ”は凍っていた。
何が起こった?などとは恐ろしくて質問出来ない。
1番上の姉が姉らしく憤慨していた。
「とても希望を1人にはして置けなかったわ!」
「それは…取り敢えず礼を言います」
取り敢えずは常識人である姉の1人が公正に判定した処によると
「未だ諦めていないわね。というより、希望の独占欲としか解釈出来ないみたいだったわ」
「結局は「天の国」の人間で無いと、理解出来ないでしょうね。感覚的に」
希望は突っ伏しそうだ。
「…けれども…妙な事も有るわ。「呪殺」の件だけど」
1座の視線が4番目の姉である馬良(真名胡蝶)に集まった。
「『白眉』最も好し」
と言われた馬良だけのことは流石に在る。
「希望を「第1夫人」と認めていて、尚、縁組が成立する可能性があると思っている様だったわ。
西門家の女どもは。だとしたら…」
「胡蝶義姉さんには「白眉」としての意見が有るみたいだね」
俺は先を促(うなが)した。
「ええ。そうだったのなら、希望を呪う必要までは無い筈だわ」
「そうかな」
「縁組が成立して「第2夫人」と「第1夫人」が寵愛とか、跡目とかを争った時なら用も出来だろうが、今は幾ら何でも尚早と思うわ」
「言われて見ると、そうかもな」
俺も胡蝶が言いたい事が納得出来る様な気もして来た。
「まして、絆さんを呪うなど本末転倒でしょう」
「それはそうね」
希望たちも考え込んだ。
「じゃあ誰を?」
幸い、軍師や策謀家に不足はしていない。
「明日にでも報告して、検討して貰おうよ」
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西門家が依頼した「呪殺」の狙いが何処だったのか?
事態は1組の「カップル」の受難よりも、大事に成りそうだった。
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