”この”時代、水運の地位は高い。
まして、乱世以前ならば人口5000万人以上を養えていたのは、皇帝の責任と「リーダーシップ」によって黄河や長江の治水灌漑の工事が続行されていたからだ。
ここは「官渡水」
黄河から分かれ、遠くは長江まで続く重要な運河である。
当然の様に”その”時も、官渡水での「メンテナンス」工事は続行されていた。
皇帝とは個人的にも親しい側近という地位に居るなら、尚更こうした治水灌漑の工事現場は体験しておくべきだ。
皇帝が、真面目に皇帝をしている以上。
そういう訳で、俺こと簡雍(真名絆(絆))と妻であり補佐官でもある馬謖(真名希望(のぞみ))は官渡水での工事を巡察していた………。
……。
…巡察の途上で宿を取った村は、別に「西門」家の領地でも無いのに、先回りして接待の用意を整えていた。
席上、西門家の異母姉妹たちが、何人も酌とかをして来る。
しかも、俺だけではなく希望の機嫌までをあからさまに取っていた。
おまけに気のせいか、酒や料理に、微妙な味や風味がしていそうだ。
何と無く、身の危険を感じてしまう。
それでも、大人しく接待を受けていたのは、今回の巡察には「アリバイ」を含めた1石何鳥かの目的も有ったからだ。
西門家の「呪殺」疑惑が冤罪で無かった場合,俺と西門家の私怨を皇帝の寵愛を頼んで晴らした、という別の疑惑に備えての「アリバイ」である。
お陰で、今はアヤしくても接待そのものを断わる訳にもいかなかった………。
……。
…食後、俺は希望を抱えて寝室に逃げ込むと、絶対に信頼出来る部下を廊下に立ち塞がらせた。
翌朝、何故か(?)夫婦揃って、やたらと疲れていた。
結局は、そのまま1昼夜の間、爆睡(ばくすい)。翌々日は大食して、どうやら回復した。
*
その頃、帝都。
何と”あの”左慈と于吉が、司馬仲達の依頼で「囮捜査」なんかをやっていた。
「西門家では「第1夫人」から「第6夫人」までが、当主の寵愛と跡継ぎを争っている。
今回の件も、内部に絡んでの事かも分からんぞ」
仲達が、道士「ども」との打ち合わせの時に、そんな事を言い出した。
「予断は禁物だがな。その方が事は小さく済む。
恐れ多くも陛下は、むしろ事を大きくしたくは無いらしい」
「やつらしいな」
左慈がウッカリそんな事を言って、于吉が仲達を誤魔化したりした………。
……。
…結局の処”その”配慮が無駄に成ったか、どうか。
何れにせよ、西門家に仕官していた誰それが、左慈や于吉よりも“もっと”アヤしい道士らしきものに依頼していた証拠までが複数出てきた。
ここに至って、西門家当主は皇帝に呼び出された。
それに先立って「“もっと”アヤしい道士らしきもの」たちは、城内の市場(歴史時代の中国では公開処刑場にも使用されていた)に引き出されて、自分の罪状を告白させられた上で帝都から追い出された。
この期に及んでも道術で報復する事も、窮地を脱出することも出来ない醜態を表した以上、商売変えしか無いだろう。
その上で、皇帝は御前に引き出された西門氏に宣告した。
「後、1度だけ寛容にする。誰を呪う積もりだったかも聞かない」
しかし、ここでワザと硬い態度をした。
「誤解して貰いたく無いが、俺の友人と揉め事を起こした相手だからこそ、権力を持っている側が公正に振る舞っているだけだ」
あえて、この事を明言する。
「次の寛容が在ると思うな。権力を持ってしまったからこそ、舐められても困る場合だって在る」
これが、権力者の脅しに見えただろうか………。
……。
…あれで好かったか?
「天の御遣い」から確認を求められて「北宮」の『恋姫』たち、華琳や雪蓮、竜鳳たちも、
「まあ好いでしょう」
と、いう感じの答えを出した。
「私だったら別な判決もあったでしょうけれど、ご主人様だったらあんなものでしょうね」
華琳の結論である。
「それに、これで“次”は絆が「10常時」に成る心配も無しに思い切り出来るわ」
*
かくて、事態が1段落した後に「官渡水」から俺と希望が戻って来た。
「それで?西門家は大人しくなったのか」
俺にしろ希望にしろ、それで終わりなら平和だろう、位は考える。
官渡水での接待を考えたら、正直ウザい気分も残ってはいるが、
これ以上の露骨な振る舞いは、幾ら何でもしては来ないだろう。
もっと正直に言えば、折角(せっかく)結婚した希望と只イチャつきたいのが俺の本音だった。