簡雍酔夢   作:高島智明

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外伝の13 「天の国」の「カップル」は『金瓶梅』を否定する

「銀の匙(さじ)を咥(くわ)えて生まれて来た好運児」

そんな例えが何処かに在る。

元々、中世ヨーロッパの君主や貴族が銀の食器を使用していた、その事に由来するとも言われるが、彼らが銀を用いたのは見栄だけでは無かった。

 

近代の化学は「毒ガス」の類(たぐい)も進化させたが、それ以前の歴史に於いて暗殺に多用された毒は「砒素」だった。

しかし「この」目的での砒素には、弱点が1つ有った。

銀と反応して黒化させる事である。

劉備玄徳として「蜀」の国主と成った頃から、北郷一刀は桃香に「銀の箸(はし)」を使用させて来た。

贅沢の為では無い。普通の箸の食物に触れる部分に銀メッキを着けただけの物である。

 

残念ながら”それ”が役立ってしまった………。

 

……。

 

…中華は広い。そして人口も多い。したがって食文化も様々だ。

極めて大雑把に2分すれば、北の「黄土地帯」と南の「長江流域」に分かれる。

 

大雑把な話を続ければ「黄土地帯」では、小麦粉を加工して主食にし、家畜をタンパク源にする。

片や「長江流域」例えば「蜀」や「呉」その中間の荊州とかでは、米を主食に魚をタンパク源にする。

そして、この「長江」から「弥生式土器」を作り始めた頃の島国に、食文化が伝わったと考えられている。

 

その日「北宮」には「官渡水」の水運を利用して搬入されてきた食材が在った。

「旧」呉の領内である「太湖」で獲れた海老を同地産の米酒に漬けて運んで来た。

「呉」出身者に限らず、長江流域繋がりで食文化の共通する荊州や益州出身者までが喜んでいた………。

 

……。

 

…それが、突如として大騒ぎに変化した。あちらこちらで銀の箸が黒く反応したのだ。

騒ぎをヤヤこしい方向へ迷走させかけたのは、予州潁川(えいせん)郡や沛国出身が多い「旧」魏出身者の箸が殆ど銀のままだった事だ。

 

その事に気が付いた「旧」呉や「旧」蜀出身者たちが殺気立ち、あわや「三国」乱世に逆戻りしかねない大惨事に……

……成ら無かった。

 

思いっ切り落ち込んでヘタレていた「天の御遣い」の姿に、むしろ『恋姫』たちが大慌てして、今度は突如として騒ぎが終息していた。

 

こう成れば、軍師にも策士にも不足はしていない。

暗殺未遂犯を取り逃がす面々でも無かった………。

 

……。

 

…立派に拷問だろう。例の海老が保管されていた酒瓶に顔を突っ込まされていると言うのは。

かくて、直接の実行者はあっさりと白状した。

 

大体、この程度の拷問で済んだのは「今上」の皇帝が

「拷問の証拠能力を低く見る。特に死刑が絡む場合だと」

と、いう思想の持ち主だったからだ。

更に「天の御遣い」は「天の国」の流儀にしたがって提案していた。

「直接の共同謀議に関わった者以外の連座を回避したい」

大逆(君主暗殺)の罪は、祖先としての祭祀を継続してくれる子孫の断絶が常識だった時代である。

華琳もとい曹操から”この”皇帝の意志を伝えられた司馬仲達は、意図的に”この”情報を漏洩した。

 

結果は、関係者による罪の擦り付け合いである。

具体的に言えば、西門家の6人の夫人たちが互いに密告し合う事態に成った。

最終的には、当主を含めた西門夫婦7人全員の有罪に必要にして十分な証拠・証人・証言が向こう側から集まった。

思いっ切り、俺こと簡雍(真名絆(きずな))と妻の馬謖(真名希望(のぞみ))は疲れていた。

西門夫婦が皇帝の御前に引き出されて尋問され、側近として立ち会った後に帰宅していたのだが。

 

西門家の狙いは「現時点」で満員の「北宮」に欠員が出る事だった。

皇帝本人を含めた全員を殺害するなどと「大それた」事などは、最初から考えていなかった。

実際に起きた様に、情けなくも皇帝がヘタレなかったら“あの”場で剣を抜く騒動に成りかねなかった。

そうした「同士討ち」で後宮に欠員が出れば“あの”種馬皇帝の事だから必ず補充される筈だった。

 

「『天の御遣い』の後宮が、西門家の拡大再生産だったなら在り得たでしょうね」

人間が他人を理解する場合、自分自身の縮小コピーだと理解するのが簡単だ。

西門夫婦に限った話でも無いだろう。

「だけど「天の御遣い」だから「常識」ハズレだったのよね」

 

『恋姫』は『金瓶梅』では無い。

むしろ、こちらの方が「天の国」から落ちて来た「カップル」なんかには常識だったろうが。

「北郷一刀は桃香さんと「天の国」みたいな「カップル」に成れたら幸福」

俺は溜息と苦笑と微笑だった。

「そんな「向こう側」なら普通の男だったなんてのは……」

希望も同感だった。

「西門夫婦からしてみれば、常識の斜め上を飛び去っていたわね」

皇帝は判決を下した。

 

前言通り、直接の共同謀議者以外は死刑にしない。

だがしかし『帝国』である以上は、大逆には見せしめが必要。

西門家の「家名」は断絶する。

当事者である西門夫婦を除く、西門家の関係者からは「西門」の家名を取り上げる。

「西」も「門」も関係ない適当な姓を名乗って何処へなりとも行け。

帝都および西門家の「旧」領地からは追放する。

 

以上が、直接の共同謀議者以外の関係者に対する判決である。

では、直接の主謀者である西門家当主と6人の夫人はどう成ったか?

 

皇帝が命令すれば、いわんや大逆事件であれば、どんなスプラッタ系R21な処刑でも成立しただろう。

しかし「天の御遣い」は、もっと優しい感性を持ち続けていた。

 

その為、他の時代での皇帝への大逆よりは、ずっと楽な末路だった。

尤(もっと)も、例の酒を飲まされるというのが当人にとって残酷だったかどうかは、当人にしか分からないことだっただろうが。

幾ら人命の軽い時代だから、といっても不謹慎かも知れないが、俺にしろ希望にしろ、残酷が目的で皇帝の側近をしているのでは無い。

 

しつこい様だが、只、希望とイチャつきたいだけの俺だった。




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