ある時、俺こと簡雍(真名絆(きずな))と妻であり補佐官の馬謖(真名希望(のぞみ))は帝都皇宮の皇帝官邸である「南宮」での執務の合間を利用して、とある上司の執務室を訪問した。
『恋姫』たちは、日常生活は皇帝である「天の御遣い」の妃として後宮である「北宮」で送っているが、文武の高官の執務の為には「南宮」へと通勤していた。
その1人「天の御遣い」の「第2妃」であると同時に「魏王」でもある曹操(真名華琳)も、幼い娘の曹丕(真名玉琳)を「北宮」で此の時代の上流階級らしく乳母に預けて「南宮」に与えられた執務室に出勤していた。
「少しばかり不愉快な話に成るかも知れませんが」
俺とて、目上に対する礼と言葉使いは保っている。
日頃、皇帝にタメ口の様な口を利くのは「天の御遣い」の方が「天の国」の言葉で話せる相手を貴重に思っているからに過ぎない。
それでも、酒飲み仲間の気安さで、誰とも話しやすい雰囲気は作っていた。
「何なの」
「『赤壁』で歴史を改変してしまいましたから、多分「無効」に成っていると思いますけれど、参考程度に聞いて欲しいのです」
実の処、華琳たちが次々に「産休」に入った頃から気にかかっていた。
そして、希望がいよいよ「産休」の番が近づくと、やはり言って置いた方が好い気がして来たのだ。
……ある王が亡くなり、何人かの王子が残された。
長兄に当る王子は、父王から政治家としての資質を受け継ぎ、弟王子の1人は、詩人の才能を受け継いで父王から愛された。
結局の処、兄王子が父王の位を継承するまでに、弟王子を担ごうとした臣下の何人かが粛清される騒ぎに成ってしまった。
その挙句、弟王子を捕えて兄王は詰問した。
「お前は詩の才能を以って父上である先王に愛された。
それは王位を狙う策謀では無かったのか」
更に兄王は追及した。
「お前が歌い父王に愛された詩は、本当に自作なのか。
お前の側近の誰かが父王の歓心を買うために、密かに代作していたのでは無かったのか」
「兄上。私は王位を狙った事は在りません。
私の詩は、父上や兄上に喜んで貰いたくて作ったのです」
「ならば、この場で作詞して、これまでが偽作で無かった事を証明して見せよ」
兄王は宣告した。
「朕とて、あれ程の詩人であられた父王の子だ。前に作っておいた詩なぞ判るぞ」
「承知いたしました」
「7歩だけ歩む内に朕を感心させる詩を作れ。
詩が出来なくても、朕が感心しなくても、8歩目には首が落ちておるぞ」
そして、弟王子は歩き出し……
「それで、どんな詩を歌ったの」
華琳も興味を示した様だ。
豆を煮(に)るために豆萁(まめがら=豆の茎(くき)や莢(さや)を乾燥させた物)を燃やし、
豆は釜の中に在って泣く。
本これ同じ根から生じる、
相(おたがい)を煎(に)るのが何んで太(はなは)だに急なのか?
「それで、どちらなの」
「華琳様?どういう意味でしょうか」
「名前を出さなくても判るわよ。豆と豆萁のどちらの王子が玉琳なの」
「華琳様」
今度は希望が続けた。
「最初に言った通り『赤壁』から後の歴史が変わっていますから、そっくり今の話のままには成らないでしょう。
ですが」
俺と希望は頷き合った。
「それよりも少しばかり別な形の問題が在ると思いますが」
そう、俺は話を纏めた。
少しだけ考えて華琳も理解した様だ。
「阿斗や月蓮の事ね」
「そうです。例え形が変わっても、玉琳様を「こんな」悲劇の当事者にしたくは無いでしょう」
「お礼は言っておくわ。確かに…
阿斗を蹴落として玉琳を跡継ぎにする事が、私への忠誠だと錯覚しそうなのが居るしね」
「誰…とは、聞かない事にします。
俺が知っていると、余計にヤヤこしく成りそうですので。
華琳様に説得は任せます」
「好々。陰謀とかは何も無かった事にするわ」
華琳は約束した………。
……。
…この時の約束を華琳は守った。
「天の御使い」から、この王朝の第2代皇帝への継承の時には「7歩の詩」の様な事件らしきものは起きなかった。
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