簡雍酔夢   作:高島智明

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外伝の終 比翼連理 そして和の国へ

長城。

中華帝国の皇帝が、真面目に皇帝をやっていれば、真面目に認識せざるを得ない国境線。

したがって、真面目な皇帝の側近を真面目にやっていれば、長城を「見る」のが1度切りでも済まないだろう。

「だからって、何で黄砂の季節を選ぶのよ」

尤(もっと)も、馬謖(真名希望(のぞみ))の声も表情も笑っている。

黄砂が舞う、場合によっては支障のある季節だからこそ視察の意味がある。

それ位は理解していて、冗句をいっている。

冗句ぐらいは言いたいだろう、と俺こと簡雍(真名絆(きずな))にも理解は出来ていた。

何せ「産休明け」なのだから。

 

だから俺も、あえて斜め上な事をしゃべった。

「この黄砂は日本まで飛んで行くかも知れんな。

尤(もっと)も、卑弥呼の時代の邪馬台国だけれど」

俺が「知っていた」歴史では「三国」時代の後も「五胡十六国」時代とか「南北朝」時代とかの戦乱の時代が、長城の向こう側の侵略者までも混じえて、長く続いた。

 

その末に「漢」に続く「第2の中国」とも呼べる「唐」帝国の時代が来る。

しかし「三国」の時点で大きく歴史を改変した「この」歴史はどう展開していくのか?

もしも、これでも尚、元の歴史に修正されるのならば、それは何時の時点だろう。

1800年後の「現代」?それとも400年後に始まる筈の「唐」の時代だろうか?

 

(…もしも、楊貴妃も玄宗皇帝も白楽天も居ない「未来」だったら『長恨歌』は創作されるかな?…)

 

長城を視察している時に、連想が『長恨歌』にまで届いたのには、必然性も在る。

 

俺と希望の結婚式でも「比翼連理」が、誓いの言霊(ことだま)に使用されたからだ。

「天に在っては願わくは比翼の鳥と成り、地に在っては願わくは連理の枝と成らん」

「比翼の鳥」とは、片方ずつの翼しか持たず番(つがい)でしか飛べない鳥。

「連理の枝」とは、2本の木の枝が互いに絡み合って1繋がりの様になった様子。

 

無論、俺は此の誓いに外れた自覚は無いが………。

 

……。

 

…俺と希望の結婚の時に「比翼連理」が使用された切欠は、当然ながら「天の御遣い」こと北郷一刀である。

かつて、一刀自身が桃香と交わした言霊を守っているか、どうかについては、俺と希望の視点からは微妙だが。

 

「まあ、桃香さん当人は、守って貰っている積もりらしいわ。結局は、当人同士の問題だし」

そういう結論にしか成らない。桃香は劉備だった、つまりは「三国」時代の王族だったのだから。

それに「天の御遣い」が天下太平を齎(もたら)したのも事実だった………。

 

……。

 

…山海関。長城の頭が東の海に突き出る、中国の東北の角。

その地に立って、東の海上へと飛び去る黄砂を眺める俺と希望には、どうしても浮かんで来る感情があった。

 

この時代に転生し、再会し、そして家族と成った。

そして、それも何時かは、歴史と成って行くだろう………。

 

……。

 

…時は流れ、人の諸行は歴史と成って行く。

 

そして、時には歴史が伝説と成り「無双」の英雄と成った乙女たちの伝説は、かつて「倭」と呼ばれた国まで伝わった。

今年も、遠くアジア大陸から黄砂が飛来する季節に成った。

しかし、ともすれば「和」の国の人々の意識は、咲き誇り「この」国の人々を慰(なぐさ)める桜花へと向いがちだった。

また同時に、多くの学園に置いては卒業生を送り出し、新入生を迎える季節でもある。

 

ここ『聖フランチェスカ学園』においても、そうだった。

そう、かつて北郷一刀という男子学生が通っていた学園である。

その学園が、今年も新入生を迎える季節に成っていた。

「及川。それじゃ新入生を恋愛対象としてしか見てない、と誤解されるぞ」

「言われとうないわ。編入した最初の春の間に、しっかりGetした章仁には」

 

それでも、新入生の1人を呼び止める事までは成功した。

友人とその彼女に応援してもらってだが。

 

その“4人”で、咲き誇る桜の下に集まる。

そう、まるで「桃園の誓い」の時の桃花の如く咲き誇っている下に。

 

「これで、俺たちの自己紹介は、取り敢えず出来たけれど。君の名前は?」

「簡…希望(きぼう)」

「中国の人?留学生なんだ」

 

ここで、不意に思い当たった事が在った。

今日この日を共にしていない事が惜しまれる、もう1人の友人。

その友人が寮の自分の部屋に置いて行った、小説やゲームの登場人物からの連想。

「もしかして「三国」の時代の?

確か劉備玄徳に関係した簡雍とかが居た筈だけど、君と関係在るの」

 

簡希望と名乗った少女はコクリと頷(うなず)いた。

そうすると、いかにも勝気そうだけど率直な、そんな魅力を持った美少女に見えた。

 

「私の御先祖様は、簡憲和と馬幼常です」

「知っとるわ。知っとるわ」

ちょっと調子に乗った反応だっただろうか。

「確か、かずピーから聞いたこと在ったはずや。何か「泣いて馬謖を斬る」とか何か」

 

「1つ訂正させて貰っても好いですか。先輩」

クスリと微笑んだ。

「御先祖様は、そんな悲劇の当事者ではありませんでした。

普通の恋愛をして、結ばれ、生涯を全うしました。その証拠に……

私という子孫が今”ここ”に居ます」

 

彼女たちの頭上で風が桜花を揺らした。

もしかしたら、遠く中国から黄砂を運んで来た、かも知れない西からの風が。




外伝的新章は此処までと成ります。
これまで読み続けて頂いた皆様には、厚く御礼を申し上げさせて頂きます

尚、本編と此の外伝の投稿中に思い付いた、単独の短小編が幾つか在ります。
その投稿が、後しばらく続きます。
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