簡雍酔夢   作:高島智明

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第8席 帝都皇宮の迷走

黄巾の乱は収束するかに思われていたが、帝都の皇宮では大事が起こっていた。

それこそ、曹操軍が捕らえた首領張3姉妹の処刑が延びてしまう位に。

それを好いことに3姉妹の利用価値を考える辺り、ここが「治世の能臣」と「乱世の奸雄」の分かれ目だった。

 

大事というのは、皇帝がまだ若いのに重病らしい。

しかも、後継者が定まっていない。

朝廷は、次期皇帝を巡る後漢王朝の恒例とも言うべき政争に陥っていた。

 

それでも盧植(真名風鈴)辺りが強く推薦してくれたのだろう。

劉備には、平原県の県令という官職が与えられた。

無名の私軍にしては、破格と言えた。

 

平原県は、白蓮こと公孫賛が太守である幽州北平群の管内に在る。

これも風鈴辺りの配慮だったろう。

劉備軍は、公孫賛軍とともに北の幽州に帰った。

ところが、平原に落ち着く間も無く、珍客が訪れたのである………。

 

……。

 

…頭に猫耳を生やし、お尻には尻尾。おまけに幼女程の等身。

(南蛮族かな)

俺だけは内心そんなことを思ったが、服装からして南蛮らしくない。

それに、ここ平原は帝国でも北の方だ。

 

「わらわは大将軍何進じゃ」

「「「えーっ!」」」

流石に1同で驚愕した。

 

「先帝」諡(おくりな)を霊帝とされる皇帝が崩御し、新皇帝を巡る政敵に怪しい薬を盛られた、と言う。

(アニメ版かよ)

俺は内心で突っ込んだ。

 

そして何進(らしきもの)が語る帝都の迷走は、これだけでは無かった。

こんな姿を晒せば、政治生命としては死んだも同然。

そんな変わり果てた姿の何進が皇宮の門から放り出された時、門前には直属の部下でもある「西園8校尉」の8人の2人、袁紹(真名麗羽)と曹操(真名華琳)が手兵を率いて待っていた。

 

麗羽は、ものの見事にキレた。

元々、麗羽と華琳がそれぞれの拠点から連れてきた兵力で、充分だったのだ。

只、皇宮に突入するという決断だけが、必要だったのである。

 

「先帝」霊帝に盲信されて権力を壟断(ろうだん)し、更に未だ少年の新皇帝と其の生母で何進の妹でもある何大后を取り込んで権力を持続させようとしていた10常侍と呼ばれる宦官たち。

何大后の呼出と言って何進を呼び寄せ、始末したことで勝った気に成っていたが、自分の首まで落としたのも同然の結果に成った。

 

虐殺。遂に後漢帝国の皇宮は虐殺の場になった。

宦官は体質上、髭が生えないと言われる。

髭が薄い官吏が「ズボン」を脱いで命拾(いのちびろ)いした、などといった笑えない「実話」が残っていたりする。

 

虐殺の中で、華琳の方は麗羽よりは冷静であり、いち早く何大后を保護していた。

そう、所詮「帝国」では皇帝を手中にした方が正義。

だがしかし、10常侍の内のまだ数人が生き残り、幼い皇帝と皇妹の兄妹を拉致して城外に走り出ていた。

後宮の中しか知らない筈の宦官が皇宮どころか帝都の外へ、それも幼君を連れ出すなどとは、華琳をしても想像の斜め上だった。

しかも、その斜め上をさらに飛び去った結末が待っていた。

「天のお告げ」でもなければ、予測不可能な。

帝国の各地で租税として徴収された穀物は、帝都近郊にある「備蓄基地」にひと先ず蓄(たくわ)えられ、その後順次、帝都に搬入されて此の「百万都市」を養う。

その「基地」に接近しつつある1軍。

後漢の平均的な「軍」としては騎兵の割合が高く、そもそも兵士たちの雰囲気が、中原の農民から徴兵された兵と何処か異質だ。

 

朝廷の権力闘争の1派が呼び寄せた涼州の軍閥の1つ、董卓軍だった。

長城の外の異民族と接する涼州の軍。

中原の民とは、価値観の異なるハイブリッド騎兵を統率する為、最初に巨大な食料を見せる必要があると考えたためだ。

そう考え、主君の同意を得て実行に移した軍師は、兵士の統率に悩んでいた。

 

古参の兵士、中級以上の幹部は、あの「らしからぬ」主君への忠誠心において問題ない。

問題は、黄巾を追い回し始めてから加わった、新しい兵士だ。

特に済成(成(な)り済(す)ます)などと、ふざけた、見え透いた偽名を名乗っているやつなど、信用なるか。

どうせ、黄巾崩れに決まっている。

たかが平の兵士1人に神経を尖(とが)らすのも大げさのようだが、何かが気に障(さわ)る。

 

だがしかし、それどころでは無い大事が起こった。

実は「それどころ」一大事に結びついて大いに後悔するなどとは、知る術(すべ)も無かった………。

 

……。

 

…涼州軍が目を付けた「備蓄基地」は帝都本体にこそ及ばずとも其れなりの城壁に守られ、帝都と結ぶ搬入路もしっかりと防御された「かくれ道」に成っていた。

その為、逃亡者に利用されたのである。

 

逃亡者たちは、予期しなかった「狼」の群れに自分から飛び込む結果に成った。

あっさりと10常侍の最後の生き残りは涼州兵に惨殺され、幼帝兄妹は董卓軍に保護された。

もっとも「董卓」を見て、幼い兄妹はホッとしたのだったが。

その場の、誰もが軽視していた。

彼女たちの視界の外から、ギラつく欲望を、向けられている事に。

*

幽州平原県。

何進(らしきもの)が俺たちに語った、帝都と皇宮で何があったかは、彼女が放り出された後のことについては要領を得ていたとは言い切れなかった。

 

だがしかし、間も無く続報を得ることに成る。

そして、俺と「天の御遣い」は其々に”この”先を予測していた。

ただし”そこ”には、俺だけが知るズレが存在していたのだが。

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