簡雍酔夢   作:高島智明

86 / 90
とある友人同士

皇帝とは、帝国の政治に関する限り、全ての権力を1人で持っている。

それだけに、臣下に任せるべき仕事は任せないと、

「天秤に竹簡を乗せて、その日の仕事分を計量する」

等と言う笑い話を後世の歴史に残したりする。

 

「天の御遣い」は優秀な部下を信頼する主君であり、時と場合によっては「丸投げ」でもするのだが、本来の性質として真面目である事もあって「天秤に竹簡」の危険は日常的に存在した。

 

そんな某日、所管の官吏から提出された1通の人事案に、とある「正史」を連想させられた。

「兗(えん)州陳留郡の太守である張孟卓に対して、現職と兼任のまま朝廷における名誉職を併せ与える」

北郷一刀の知る「正史」に於ける張孟卓は、曹操や袁紹が「花嫁泥棒」なんかをしでかした頃からの親友だった。

その縁も在ったか、袁紹や曹操が「反董卓連合」を起こした時、治めていた陳留を連合軍の集結地としている。

更に、董卓軍に返り討ちにされた曹操が出直すための勢力圏としたのが、張孟卓の居る陳留が在る兗州だった。

 

これだけの縁があったからだろう、曹操が父親の復讐のために徐州へと出陣する時には、残して行く家族に対して、

「自分に“もしも”の事があった場合は孟卓を頼れ」

と、言い残した。

 

だが、徐州大虐殺の報いか、曹操は留守の拠点を預けていた旧友の信頼を失ってしまった。

張孟卓と軍師陳宮は、涼州軍の残党を率いて落ち延びて来ていた、猛獣呂布を引き込んで挙兵したのだ。

 

勢力圏を失った曹操を迎え入れたのが、10年近く前に初陣を飾った予州潁川郡の名士、荀文若たちだった。

潁川郡の許昌に今度こそ拠点を確保した曹操は、旧友たちに反撃を開始。

呂布と陳宮は、劉備が譲(ゆず)られて治めていた徐州へと追い払われた。

 

そして、曹操と張孟卓の友情は、最悪のDead Endを迎えた。

だがしかし”この”外史においては”転生者”簡雍の「天の御遣い」の「お告げ」を借りた暗躍も在って、「徐州大虐殺」はスルーされた。

 

したがって、張孟卓は兗州陳留郡の太守のままだった………。

 

……。

 

…竹簡を見付けた「天の御遣い」は担当の官吏に確認した。当人は帝都に出頭して来ている。

「それから、華琳と麗羽は休憩する余裕が在るかな?」

 

広い皇宮の庭の隅にある亭(あずまや)。

そこにささやかな飲茶の席が設けられ、華琳と麗羽に「天の御遣い」そして、張孟卓が同席していた。

 

「それで、例の『花嫁泥棒』の時は、孟卓はどうしていたの?」

「私の役目は証言でした。問題の刻限には両名と共に酒席に居たと」

「成程「アリバイ」か」




ご意見ご感想をお待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。