俺こと簡雍(真名絆(きずな))が「恋姫」たちの「産休」で大惨事と成り、補佐官の筈の馬謖(真名希望(のぞみ))までもが人手不足の結果として、各地方の巡察に駆り出されていた頃。
益州に派遣されていた希望には、1つの特命が課せされていた………。
……。
…後漢以来の天下13州の中で、益州は西南に位置する。
それはつまり「国内」は「天下太平」と成っても、益州の南と西には「国境」が存在するという事。
西には、例えば羌族(きょうぞく)と呼ばれるチベット系(ただしラマ仏教は未だ伝来していない)山岳民族が居る。
また、南には「7度捕らえて7度放つ」で知られる、南蛮王孟獲の王国が在った。
これら、西の羌族とか南の南蛮王国とかの通商交易の関係維持も、益州刺史や属官には当然の任務だった。
そんな訳で希望は、絶賛「営業中」だった。
*
「ぱおん」
象の背中にバナナを積んで売りに来た、見た目にも「ジャングル=コスプレ」が”この”時代にして既(すで)に、流石は中華の技術で作り出された工芸品を買って行く。
そうした交易場所も、中世から更に以前の時代とあっては「官営」とせざるを得ない。
「営業」とは、そういう意味だが、望月には「特命」が1つ在った。
「天の国」なら「車」には「ゴム」を巻いているのが「常識」だった。
では「この」時代の何処に「ゴム」が存在するだろう?
「史実」では、石油合成ゴムが普及したのはWWⅡの時「天然」ゴムの生産地である東南アジアを日本軍が占領したのが切欠だった。
希望の「特命」とは「現在」の南蛮王国に「ゴム」の輸出能力があるか、どうかの情報の入手だった。
こうなると如何に天才的な軍師、優秀な外交官が星座の如くであっても「ゴム」という物質自体の知識が無くては論外。
「天の御遣い」にしか出来ない特命だった。
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「うむむ・・・」
「ブドウ糖」と「ビタミン」を補給するためのバナナをパク付きながら希望は、入手した情報を検討していた。
お菓子としての「ガム」なら、どうやら話が通じそうだった………。
……。
…益州での任務から帰任した希望と、彼女を補佐官としての本来の業務に迎えた俺は、今度は別な問題に取り掛かる積もりで皇宮へと向った。
どうやら「ノルマ」分の書類は片付けた皇帝が「飲茶」で寛(くつろ)いでいる処へ通る事が出来るのが、今の俺の立場だった。
「絆。石炭の件だけど、絆と希望の特命にして好いか」
「皇帝らしく命令すれば好いだろう」
「アシスタント」に (育児休暇から)復帰していた「竜鳳」が資料を渡してくれた。
「鉄の生産は順調でしゅ」
「それだけに…薪炭の問題も切実です」
中華帝国に置いて、国家の専売品として重要だったのが「塩」そして「鉄」である。
黄河や長江の様な灌漑農業文明では、農具であるともに土木工具でもある犂(すき)鍬(くわ)を小改良するだけで「産業革命」が起こっている。
従来通りに木製だった犂鍬の先端に鉄の刃を埋め込むだけで、それまでの社会が激変する程に生産力が向上した。
だからこそ、西暦紀元前後の漢帝国が人口5000万人以上も養えたのだ。
だがしかし、この「鉄の恵み」は1説によれば環境破壊と引き換えだった。
現代でも、製鉄には鉄鉱石より多くの石炭を消費する。
鉄鋼業を基とする工業都市は、鉄鉱石よりも石炭の産地に立地したりするのだ。
まして”この”時代は木炭だった。結果は森林の破壊だった、と主張する歴史家も居る。
「天の御遣い」たちは”この”実態に対して、当然ながら石炭による代替を考えた。
只、中国の何処に石炭の産地が在るかといった、細かい知識までは流石に無い。
したがって、先ずは石炭探しからである。
有望そうな情報は、幾つか入って来ている様だった。
*
後年の呼び方で「山西省」
当時の呼び方で「并州」と「冀州」の州境に沿った山岳地帯に「黒山賊」と呼ばれた独立勢力を維持していて、その勢力ごと降伏した張燕の勢力圏内が有望と判明した。
俺と希望が(名目上は山西の地方官に成っていた)張燕と交渉した結果、官営の鉄鋼工房には石炭が利用される事に成った。
張燕にしても、黒山勢力の北の端は「長城」だ。
騎馬の民の革の鎧なんぞは貫通する刃金の矢尻、その原料を提供するのだから文句は無かった。