共生型転生したけど共生対象の環境がヤバそうだから助けたい!   作:地底土竜

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魂的ミラクル交通事故

 

 光が、流れている。

 

 幾つもの光りが様々な色の輝きを放って、まるで流れ星のように一つの方向へと進んでいく。

 

 そして、それを見上げる一つの意識があった。意識は自分が進んでいるのか、光が流れているかも分からないままに、ただ存在している。

 

 何をするでもなく、何を考えるでもなく、光を見ていた。

 

 初めからずっとそうだった訳ではないけれど、何かをしようとすれば、何かを考えようとすれば、自分が割れることは覚えていたから。

 

 どれだけの時間が経ったのだろう。そんな思考すらないままに、それでも多くの記憶の欠損を抱えた意識を取り巻く時間は変動を続けていた。

 

 変動は変化を呼んだ。意識をさらに深くへと引きずり込む引力が発生した。無我と化していた意識はようやく思考を取り戻す。

 

 そして———。

 

 

 

 世界が一変した。

 

 光は消え、空とも地とも分からなかった無形の空間は形を得ている。そこは和室だった。

 

『あれ···?』

 

 長らく思考すらしていなかった意識は未だ動かしたての錆びに錆びた思考でぼんやりとそう言葉を発した。

 

(んなっ!?)

 

 それに応じる声があった。同時に視点が意識の意図しないままに大きく動く。屋根の方を見ていた視点が壁へと向かって、下から伸びる足と腕が映る。

 

『おわぁ!?』

 

(頭ん中から声がする!!?? 何なんだよこれ??? 受肉か!? 何か術式でも喰らったか!?)

 

『おわ?』

 

 急変に錆びが消え飛んだ意識は景色から『これ人の視界じゃん』と認識しながら、こちらの入力を受け付けない身体と謎の声から『このうるさいのが体の持ち主?』と考察する。

 

(うるさいだと!?)

 

『だからうるさいって! 一旦静かにしてよ!』

 

「思考に言葉を返した!!?? 喋れんのなら答えろ! 誰だお前は!!」

 

『それを言うなら君こそ誰だよ!? というか、静かに···頭に響くんだってば』

 

(ってかあいつらはどうなってる!? 無事なのか!)

 

 身体が立ち上がる。言葉から察するにこの部屋の外にいる誰かに現状を伝えに行くつもりだろう。『それは止めなきゃマズイ』と理由はないが直感的に確信した。

 

『あちょっ、待ちなさい!』

 

 とはいえ、止めようにも意識には手も足もないので出来るのは声掛けと念じることだけ。頭に突然響き出した怪しい声なんて信じられるはずもなく、念じてどうにかなるとも思えない。

 

 意識はそう思っていた。

 

「がっ」

 

 動きが止まった。

 

『おろ?』

 

 加えて、意識に変化があった。意識の全身が拡大していく。大の字を書いて体を形成するように。肉体に、根付こうとしているかの如く。

 

(動かな···んだこりゃあ!? 体の制御が奪われてんのか?)

 

 意識の拡大が止まる。全身の感覚と意識が接続されていく。そして、押しつぶされるような重圧が伸し掛かった。

 

(盗らせるか!)

 

『ぐう!?』

 

 持ち主と意識による肉体の主導権をかけた意識と意識の正面衝突。重圧はその衝撃によりもたらされたものだった。

 持ち主は自分の体を守るために、意識は訳も分からず重圧に押し潰されないように踏ん張り続けている。

 

 一進一退の拮抗状態。どちらも主導権を握れない。しかし、時間を経るごとに均衡は崩れていく。意識が、押され始める。

 

 崩れてからは一瞬だった。まずは意識が弾き出される。勢い余った持ち主も同じ方向へと飛んでいく。その先で、二つの意識は断絶した。

 

 断絶は瞬きほどの長さで、意識はすぐに浮かび上がる。だが、視界は再び切り替わっていた。

 

 空には一点を中心に反時計回りに回転する無数の星があり、足元にはガラスのように透き通った地面が広がっている。加えて数刻前と同じく身体があり、今度は自由に動かせる。

 

 しかし、今の身体はさっきとは違う。自由度が違うというだけでなく、そのものが変わっている。両手両足から覗く服が異なっており、体格も違う。それに、力が溢れてくるような感覚もあった。

 

 この身体に変わってから意識は不思議な安心感に包まれていた。まるで自分という存在を世界に肯定されているような安心感で、その心地よさに身を任せていると正面から声がした。

 

「これは」

 

 正面には少年がいた。いつの間にか、気付かぬ内に。

 

「領域? ···いや、これは、しかし」

 

 少年の服は先程視界の端から覗いていたものと同一。体の持ち主その人だろうという推測は今の声で確定した。

 声は焦りと怯え、警戒を含んでおり、未知の事象を恐れているようだった。

 

『あ』

 

 目を合わせる。意識ははっきりと少年の瞳に映る自己を見た。

 

 鑑等犠(かんらぎ)千里(せんり)。映る姿を意識の中の無意識はそう呼んだ。そして、その名とこの姿が自分のものであったことを思い出す。

 

「おまえ、何しやがった」

 

『それはこっちが知りたいぐらいだっての。だけど前の質問になら答えられるよ』

 

「前の質問だと?」

 

『うん。僕が誰だって質問してたでしょ』

 

 意識だけになって身体と記憶を失って何処ともしれない場所を漂う。そんなあり得ないことが起こっていた。

 

 意識こと千里(なまえ)を取り戻した人間はあれを千里の死後の景色だったのだろうと推定する。死んで記憶を剥がされて、まっさらになって新しく産まれ落ちるという転生のサイクルの途中だったのだと。

 

 そうなると、どうして生きた人間に意識が入り込んだのかなどが不可思議だが世界にも不備の一つや二つあるだろうと流すことにした。

 

 まずは答えられる問いに答えよう。自分が誰か。端的に説明する言葉はすでに浮かんでいた。

 

『僕は千里(せんり)。転生者だよ』

 

 転生者。死んで転生した後にまで前世の意識を持ち越した存在。何故前世の意識を持ち越すなんて意味の分からないことが起こっているのか千里には皆目見当も付かないが、直感的にそうだと分かった。

 

「転生者? 何だそりゃ」

 

『え』

 

 通じなかった。記憶の無い千里の語彙は自分の名前を知った時のような直感に支えられている。それが周りの常識とまでは分からない。

 

『えーっと、前世の自分を持ち越して生まれ直して——うひぃ!?』

 

 生まれ直しという言葉を聞いた瞬間に少年の視線が冷えた。

 

「何だよ」

 

『すっごい目が怖くなったからさあ! 驚いたんだよ! 生まれ直しになんか因縁でもお有りで?』

 

「あるにはある。が、今は流して続きを言え」

 

『お、横暴だあ···あと続きってほど続かないよ。後ろに『る』と『人』が増えるだけだし。こっちなら伝わった?』

 

「伝わった。なら千里、おまえ国落望(こくらくぼう)って言葉に覚えはあるか」

 

 こくらくぼう。千里としてはどの文字を用いているかすら分からない。恐らく生まれ直しについて関わりのある言葉なのだろうと思いながらも口から出る言葉はひどく単純だった。

 

『ナニソレ?』

 

 真っ直ぐに聞く。常識すら定かではない現状では考える時間が勿体ない。

 

「簡単に言や俺たちの頭領だ」

 

『あ、名前だったんだ。頭領ってことはリーダーか、どんな人?』

 

「りーだー? 知らねえが俺としては早くここを脱したい。その解答は後にして先にこっちの質問を聞くぞ」

 

 肉体の取り合いが始まる前に少年は彼の仲間の無事を確認しに行こうとしていた。恐らく、だからこそ急いでいる。

 

『(それはいいけど、その前に僕のこと話さないようお願いしないと。なんだかマズいみたいだし。どこで触れよっか)』

 

『ダメかー。ま、あとで答えてくれるなら良いや。質問って?』

 

「千里、お前はこの場所に心当たりはあるか?」

 

『あるよ。正直、どんな繋がりしてるのかは分かんないけど』

 

 心当たりはあった。

 それは上空で回転している星空。あれは少年の身体に漂着する前に見ていた光の群れに似ている。肉体があることやあの場所で思考する度に起きた記憶欠損の気配がないことからそのものではないのだろうが、何かしらの関係性はある可能性が高い。

 

「だろうな。なら呪力出力向上の恩恵も受けているのか?」

 

『ジュリョク出力向上?』

 

「おまえまさか、呪力が分からないのか? ···ならそうだな、強くなった感覚みたいなものはないか?」

 

『あ! あるね。力が漲る感じがする。君、ここが何処か分かってる感じ?』

 

「ああ、今確信した。ここはおまえの生得領域だ」

 

『ショートク領域?』

 

「おまえの心の中ってことだ」

 

『これがぁ?』

 

 逆回る星空は分かる。千里は途方もない時間あの場所にいたのだから。だが、この透けまくりの世界は何なのか。『(いやこれもしかして記憶がスッカラカンだからこんなことになってたり?)』なんて考えて記憶が戻った先の景色に思いを馳せていると、少年から意味不明な言葉が飛んでくる。

 

「なあ、おまえ願いはあるか」

 

『(Youもしかして願望機?)』なんて思考が頭から噴き出し、『(願望機って何だよ!)』と一瞬で沈静化する。しかし、その一瞬の間に間の抜けた声が出た。

 

『ひょ?』

 

「できる範囲で叶えてやる。その代わりに肉体の主導権は常に俺に持たせろ」

 

 ここまで来てようやく得心する。『(いやその切り出し方はないけどね)』とは思いながら。

 

 とはいえ、気になる点はある。肉体の主導権の絶対的譲渡の方法だ。会ったばかりの人間に口約束はあり得ない。ジュリョクにはそういう約束事を守らせる効果でもあるのだろうか。

 

『じゃあ、僕のことを誰にも話さないで欲しいんだけどあり?』

 

「それだけか?」

 

『それだけって、結構そっちに不都合ありそうなお願いじゃないコレ。あとあとこの約束にどうやって強制力を持たせるか聞いても? 口約束って訳じゃなさそうだけど』

 

「縛りを使う。これで結んだ約束を破れば死の危険があるからな、破ろうなんて考えんじゃねえぞ。そんで、俺の方の縛りが結べるならこの位なんとでもなる。それに、積極的に話そうとも思ってねえんでな。俺の縛りに釣り合わない。増やしても良いぞ」

 

『こっわー。まあ、それなら増やそうかな』

 

 願いを増やすとして、何がいいか。千里が今欲しているものは···。

 

『よし決めた。行動の邪魔になる予感しかしないからこっちは縛りなしで頼みたい願いなんだけど、記憶探し手伝ってくれない?』

 

「記憶探し? 転生者は前世の自分を保持するとか抜かしてたろ」

 

『自分に記憶が含まれてないっぽくてね。名前とかみたいなちょっとしか分からないんだよ』

 

「なんだそりゃ、まあいいだろう。手伝ってやる」

 

 少々目が疑わしげだが、了承があるならそれで良し。所詮は口約束だが、律儀に縛りの説明をして、その上で釣り合いまで取ろうとする彼なら守りそうだ。

 

『ありがとう』

 

「他にはないか? 縛りの方で」

 

『ないよ。他にもう思い付かないし急ぎなんでしょ? さっさと縛って起きよう』

 

「···もう一度だけ確認しておく。おまえは肉体を永遠に失うが、願いはそれでいいのか?」

 

 薄っすら納得行っていないという雰囲気を漂わせて少年は言う。

 

『大丈夫だって。ところで縛りってどうやるの?』

 

「そいつは簡単だ。俺が縛りの内容を言うからそれに同意すればいい」

 

『怖いぐらい簡単だね。ではどうぞ』

 

「"俺はおまえの存在を明かさない"代わりに"俺の肉体の制御権の持ち主は俺が絶対的に決定する"良いな?」

 

『それだと僕が肉体を盗る可能性を排せなくない?』

 

 肉体を永遠に失うという話だったが、この縛りの場合だと少年が精神的なダメージで自失した時に千里に身体を奪われかねない。

 

「まあな。だが、俺が自分を保てれば良いだけの話だ」

 

『自信が凄いね! 分かってるなら良いか。じゃあ、その縛り認めましょう! ···これで良いの?』

 

「ああ、完了した」

 

『おー、驚くほどに実感がない』

 

「最初の頃は俺もそう思ったよ」

 

 微かに笑いを溢しながら、少年はこちらに手を出した。

 

「俺の名前は捧己羽(ほうこう)だ。記憶喪失のところ済まねえが俺はおまえを警戒している。だからある程度隠すことはあるが、よろしく」

 

『うん、よろしく。捧己羽(ほうこう)。というか記憶喪失、信じてくれたんだ』

 

 捧己羽(ほうこう)の手を握って、次いでに疑問も口にする。千里は捧己羽(ほうこう)から見て怪しすぎる。そういう客観視が少しはできるようになっていた。

 

「信じ切っている訳じゃねえが、おまえに嘘は厳しそうだろ」

 

『マジで』

 

「その言葉が何を指すかは分かんねえが、俺は戻るぞ」

 

『そういえばどうやってここから戻るの?』

 

 ここは千里の心の中。少年がいる理由が分からないが、あの主導権の取り合いが原因だろう。あの衝突を発端に今がある。そんな風に当たりをつける程度のことはできても理解しているわけではない以上、脱出の方法は思い付かない。

 

 一体どのようにして少年は心の中から出るつもりなのだろうか。

 

「それはな、一旦後ろを向いてくれ」

 

『はい? 良いけど』

 

 言われた通り背を向ける。すると少年の方向から——

 

「こうする」

 

 鈍い音がした。

 

『は?』

 

 振り返る。そこには誰もいなかった。数秒前までそこにいた、少年の姿が跡形もなく消え去っていた。

 

『今の音は···』

 

(聞こえてるか?)

 

『ぬあざ!?』

 

 千里の頭から声が響いた。その瞬間、視界が混ざる。生得領域内部の景色と捧己羽(ほうこう)の視界が一緒くたに。

 

『あがぁ!?』

 

(どうした)

 

『何か視界が混ざってる! キモい!』

 

(へえ、そちらからだとそうなるのか)

 

 そう言う捧己羽(ほうこう)の声は興味深げだった。

 

『楽しそうだねぇそっちは!』

 

 キレにキレてる千里だが、彼は視覚情報を二つ同時に処理できている。千里の能力が高いからという話とは思えない。そうできるようになっているのだろう。

 

『大丈夫ってのが逆に怖いな、なんか』

 

 捧己羽(ほうこう)の側の視界は一人でに動き続ける。複数の部屋を渡り、周りの安否を確認しているようだ。

 

 一通り見て回ったようだが特に異常はないようで、捧己羽(ほうこう)は安堵の息を漏らしている。

 

『みんな大丈夫だった?』

 

(みんなと言や多すぎるが、俺の知り合いの範囲だとな)

 

『良かった。じゃ、そろそろここがどことか聞いても良い?』

 

 捧己羽(ほうこう)という少年の体に転生者として突っ込んで、色々あって生得領域問答を終えて今。少し時間は経ったが千里は正直まだ何も分かっていなかった。

 

(良い。が、それは俺には分からない)

 

『本当に?』

 

(嘘じゃねえよ。俺、というかここにいる奴らは全員ここで生まれてここで死ぬ。外を見ることなくな。そういう訳だから場所なんて誰も知らねえさ)

 

『そんなこと』

 

 頭の中の無意識がおかしいと叫んで、不快感が立ち昇る。

 記憶を失う前の千里はこれを異常だと断じられる環境で生きていたようだ。

 

(その表情。記憶喪失のお前からしてもやはり変か、ここは)

 

『そうみたいだ、そう感じるよ。一体何のためにこんなことを』

 

(場所を知らないと言ったがここに居るやつで一人、例外がいる。そいつが国落望だ。ここはあいつが力をつけるための場所だ。俺たちはそのために生きている)

 

『力を付けて一体何を』

 

(国、とかいうのを落としたいらしいぞ)

 

『な——』

 

 スケールの大きさに頭を真っ白になる。

 

 しかし、あまりに変な話だ。捧己羽(ほうこう)はかなり多くの部屋を回っていた。そこにいたのは子供ばかりだった。捧己羽(ほうこう)は口ぶりからして国という言葉の意味すら知らない。国落望は一人の人間のようだ。それなのに国落望という人物は国を打ち砕こうだなんて考えている。とても正気とは思えない。

 

『(ジュリョク!)』

 

 捧己羽(ほうこう)が当たり前としていて、千里には無い知識。恐らくコレがこの不可思議を解くカギになる。千里はそう思った。

 

『(てのはまぁ一旦置いて···)』

 

 

 

 

 

 

 

『(何ここ色々ヤバそうすぎるって!!!)』

 

 起きてからあった色々なことへのストレスを載せて心の中で一度叫ぶことにした。

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