共生型転生したけど共生対象の環境がヤバそうだから助けたい!   作:地底土竜

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ジュリョクって何? 

 

(はあ?)

 

『言えないのなら聞いてごめん。でもジュリョクってのが気になってさ』

 

 千里が国落望について聞く中で思い当たったジュリョクという謎の要素に対する疑問を早速声にする。

 

(···ああ、おまえ本当に知らねえのか?)

 

 捧己羽は国落としの話から急に呪力の話へと飛んだことに戸惑うと同時に生得領域内での会話を思い出す。

 千里は記憶の大部分を失っている。だが、転生者やら不思議な言葉を使いこそすれど会話に問題はない。言葉の意味も理解しているように思える。

 

 それなら真っ先に触れるはずの呪力について何故分からない? 、そんな疑問が頭を擡げる。

 

 捧己羽にとって呪力は生まれてすぐから触れ続けている言わば身体の一部であり、常識だった。

 

『それがもう全く!』

 

(そうか。分かった教えてやる)

 

 そうは考えても教えない理由はない。というか、この先の生活で確実に知るのだから遅いか早いかの話でしかない。捧己羽が生まれ育ったこの場所は術師を育てる場所なのだから。

 

『ありがとう!』

 

 そういう訳で捧己羽は呪力について話し始めた。

 

 曰く、それは人の負の感情から発生する。

 曰く、それを扱うものを術師と呼ぶ。

 曰く、人はそれを使って身体を強化できる。

 曰く、活用するための術式というものもある。などなど。

 

『べ、便利だ···!』

 

 人の感情から生まれるエネルギー。呪いの力と書いて、呪力。応用性も高く、術式を介すれば呪力を水に換えることもできるのだとか。尤も術式というのはそうそう扱えるものではないようだが、何にせよ凄まじいエネルギーだと千里は感じた。

 

『捧己羽って術式使えるの? あ、聞いても良ければなんだけど』

 

 術式には大まかに二つの区切りがある。先天的術式である生得術式とその場で構築する主に結界術などで用いる通常術式。

 

 千里としては固有能力的な生得術式の方に前世の影響かロマンを感じているが、こちらは術式の中でもさらに使い手が限られるとのことだった。だから前者の可能性は低いが、後者の結界術というのにも興味はある。

 

 取り敢えず呪力による特異現象を目の当たりにしたかった。

 

(使えるぞ。生得術式の方ならな)

 

『おおお!!! (目からビームとか出たりする!?)』

 

(これが俺の術式だ)

 

『おお?』

 

 視界は壁へと向き直って、手を壁に押し付ける。そして、すぐに離した。

 

『お、終わり?』

 

(終わりだ。俺の術式は相手に俺の呪力を貸与する。ほら、壁を見てみろよ)

 

 壁には少しの紫色のオーラが付着していた。

 

『···これってさ。術式無しならできないヤツなんだよね?』

 

(これ以上のことができるぞ)

 

『oh···』

 

 この後もこの術式について尋ねたが、分かったのはこの術式がなんとも微妙ということだけだった。

 

 まずは非生物への呪力貸与における微妙ポイント。呪力を与えても物体強化はほとんど出来ない。なら貯める目的として使うことは出来るんじゃないかとも思うかもしれないが、それも出来ない。還ってくる時に呪力は霧散する。普通に呪力を通して武器として使う方が遥かに有用だ。

 

 次に生物への呪力貸与。こちらは呪力を通して武器にすることのような代替案がない上に有用な点もある。呪力を他人に与え、相手にとっての外付けの呪力タンクを作ることができるのだ。

 

 とはいえ、それだけだ。貸与呪力の使用にはかなりの修練が要ることに加えて、これは自己の強化に繋がらない。一対一の戦闘においては術式無しと変わらない。

 

『(思ってたのと違う···)』

 

 分かりやすい攻撃系術式を希求していた千里は心の中で涙した。

 

 

 

 

 やり取りの間、捧己羽は移動を行なっていた。大きな戸を前に移動は終わり、中へと入る。捧己羽や他の子供たちがいた部屋とは比べ物にならないほどに巨大な一部屋が二つの意識を出迎えた。

 

『ここは?』

 

(大広間だ。一日は基本ここで過ごす)

 

『一日かぁ。ここは広いけどずっといると飽きそうだね。基本以外だったらどんなとこがあるの?』

 

 ここにいる子どもたちは外の世界を知らない。青い空を見ることができない。そんな状況で巨大は巨大でも部屋の範疇でしかないここで一生過ごすのは精神的に宜しくなさそうだ、とぼんやり思った。

 

『(最初から知らないのなら気にすることもないのかな)』

 

 そんな思考も頭に浮かべて。

 

(修練場に食処、厠場、後は···そう行くとこでもねえが他の団があるぐらいだな)

 

『団って?』

 

(俺たちは一人の師と五人の弟子を一つの纏まりとして生活や修練を行なっている。その一塊を団と呼んでいるんだ)

 

 集団が作られている。纏めているのは一人の師という存在。それこそこの場所で数少ない大人だろうと当たりをつけていると背後から声がした。

 

「やー、はやーい。今日は早起きだね、(ほう)ちゃん!」

 

「師匠」

 

『んな』

 

 開けた戸を通って姿を現したのは見たことのある人間だった。とは言っても、見たことがあるというのは前世の記憶が蘇って云々なんて話ではない。ほんの少し前の捧己羽の見回りで見たばかりの顔だった。

 

 捧己羽より身長は上だ。しかし、かなり高く見積もって高校生が精々で、少女としか言えない見てくれをしている。

 

『あ、術式か!』

 

 そこで思い当たるのが術式。派手な攻撃だけじゃなく、捧己羽の術式のような補助タイプもあるのだから自身の若さを保たせる術式があっても不思議はない。

 

(術式?)

 

『この人の姿が』

 

(違うが)

 

『じゃ、なんでこの人こんなに若いの!?』

 

(若いか?)

 

『(前世常識ギャップ!)』

 

 反射的にそう吐いた千里の脳内(?)では"もしかするとここの人間の寿命は恐ろしく短いのではないか"という疑念と"子供から見ると高校生は大人か"という納得がクロスカウンターをキメていた。

 

(それに生得術式あるなら師匠にはなれねえよ)

 

 通常の術式はその場で構築する都合もあるのだろうが、超常的な達人でもなければ複雑なことは行えない。若さの維持ともなれば生得術式である必要がある。

 

『それはまた、どうして?』

 

(術式持ちはそいつの修練と解析に専心しなければならねえんだ。術式について調べて、指南書やら何やらを一から作るよう指示される。他人に教える余白はない)

 

 生得術式には一家相伝のものもあり、一人に付き新しい一種類が生まれるという形ではない。ランダム性は高いがそれでも一つの術式についての理解を深めしたためることは後の糧となる。

 

『大変だ···ってあれ? となると君も』

 

(こっちのはもう終わったようなものだ)

 

『まあ、そっかあの術式だもんね』

 

 術式は拡張もしていける。だが、捧己羽の術式の拡張性は高そうには聞こえなかった。

 

(そ——)

 

 捧己羽の何かしらの言葉が外からの声に遮られた。流石に心の中での会話が長すぎたようだ。

 

「朝から皆の部屋を回ってたらしいけど、何かあった?」

 

「ここが襲われる夢を見たんだ。だから安否を確認していた」

 

「それは、悪夢ね。確かめたことは聞いたけど、改めて私たちは無事よ。安心なさい」

 

「良かったよ。本当に」

 

 他の団に行くことは少ないということを鑑みれば、彼らは生まれてから死ぬまでほとんど六人で暮らし続ける。一生には狭すぎるこの場所で。

 

 絆は否応なしに深まっていくのだろう。千里はまるで家族のようだと感じた。

 

 千里は聞いたことがないくらい優しい調子の捧己羽と彼を慮るように優しい笑みを称えた師匠と呼ばれる少女を見て縛りのためとはいえ嘘を言わせるのは胸が痛むなと思いつつも心が温かくなった。

 

『(僕の家族はどんな人たちなんだろう)』

 

 二人のような関係だったなら良いなと思った。

 二人を見てそう感じたのだからきっとそうだと、願った。

 

『(記憶探し、難しそうかも)』

 

 ここから出るなんて要望が国落望から認められることはないだろう。でなければ捧己羽はああ言わない。

 

『(だけど僕の常識はこことは違う)』

 

 鑑等犠千里という人間は恐らく外で生きていた。記憶を真に探そうとするならば、その手掛かりはここにない。

 

『(それなら···)』

 

 転生者とは死者だ。そして千里は捧己羽の体を縁に何とか永らえているだけの残骸に過ぎない。生きているとは言い難い。意識を未だ保てることこそ喜んでもそれ以上は望みすぎている。

 

『(そういえば他の人に明かすのはマズいとか思ってたけど)』

 

 それは目覚めたばかりの頃の直感の話。直感は千里の存在が他者に知られることを拒んだ。

 さっきの判断からその理由を死んだ人間が生きた人間に関わることを忌避し、これ以上の関わりを減らそうとしたからなんじゃないかと推察した。今の千里ですら当たり前にそう考えているのだから。

 

『(···でも)』

 

 その上で見過ごせない事態があった。

 

 国落望は国家転覆を目論む術師だ。いつ決行されるかは分からないが、国落望は恐らく大人で、捧己羽は実年齢こそ分からないがまだ若い。生きている内に決着を着けたいはずだ。いつか、巻き込まれる。

 

『(何か僕にできることはないのか)』

 

 肉体はない。生得領域の外は千里の世界ではない。使えるは言葉だけ。しかしその言葉にすら記憶喪失の千里では価値を持たせられない。

 

 それでもただ見過ごしてはならない。それだけは何故だが何より強く感じていた。

 

(妙に静かだがどうした?)

 

『あ』

 

 思考の底に埋没していた千里の意識を捧己羽の声が引き戻す。

 

『ちょっと考え事を···』

 

 そう言って外の景色に目を向けると状況は変わっていた。捧己羽と師匠だけじゃなく、さらに四人現れている。合計六人、団の全員が揃っていた。

 

『フルパじゃん!』

 

(一体何を言っているんだ)

 

 捧己羽はいつの間にか会話をやめていて、今は四角い謎の和紙のような物質と対面していた。

 

『なにこーれ?』

 

(呪力が通されると変色する呪具だ。こいつを使って呪力操作の訓練をしている)

 

 捧己羽の指が呪具に触れる。

 

 呪具の色が変わる。全面同色、ではない。同心円状にグラデーションがついている。

 

(呪力の込め具合で色が変わる。これを意のままにすることが今やっている訓練内容だ。多毘(たび)ならこの呪具に顔を描ける)

 

『多毘?』

 

 視界がある一人を向いて止まる。

 

(あいつだよ。ここで二番目の年長だ)

 

 長い髪を結っている少年だった。こちらも身長は捧己羽より高く、千里的予測年齢は中学生あたり。彼も手元に同一の呪具を持っているがその出来映えはまるで違う。

 

 色ではなく絵。それどころか映像だった。絵は呪力操作により時間ごとに破綻なく変わっていく。

 

『うっそお』

 

(驚くよな。あいつの技術は途方もない)

 

 そう言う捧己羽の声は誇らしげだ。

 

「おん? どうしたよ」

 

 視線に多毘は気づいたようで右人差し指の上で呪具をくるくると回しながらこちらに歩み寄ってきた。未だ映像は止まらず流れ続けている。それどころか映像には捧己羽の姿がフェードインしてきていた。

 

『(テクニカルすぎて最早こわいんだけど)』

 

「いや、相変わらず恐ろしい技術だと思ってな」

 

「はっはっはっ、そうだろうそうだろう!」

 

 何とも高らかな哄笑を響かせる多毘。手元の映像では捧己羽が胴上げされている。

 

「捧の調子は···まあよろしくはなさそうか。良いだろう! 俺が付いて教えてやろうじゃないか! 今度こそな!」

 

「教え下手が改善されたか見ものだな」

 

「ふっふっは! では———」

 

 それから暫く、多毘の"教え"は続いたが擬音混じりでさらに雑然としていた。

 

『いつもこんな調子なの?』

 

(ああ、一応改善しようと努力してはいるがあまり成果は出ていない。だが、本当に努力はしてくれている)

 

 捧己羽によると最初はさらに酷かったらしい。多毘は昔から天才的な呪力操作技術を持っていたが、あまりに直感的過ぎてその説明ができない。人が生まれ持った自分の体の細胞の動き、血の流れ、筋肉の動きを細かに説明することができないように。

 

(あまり出ていないだけで成果がないわけじゃない。時間さえ掛けていけば、上手くいくようになる)

 

『? ···だね。ゼロじゃないのならなんとかなるよ』

 

 捧己羽の声にほんの少しだけ怒りが混ざっているような気がした千里は疑問を覚えながらも言葉にそう応じた。

 

 

 

 

 呪力操作の修練が終わり、多毘と別れた。

 その後も複数の修練を捧己羽はこなしていき、一日のメニューが終わったようだ。

 

『修練内容はだいたい見せてもらったんだけど···』

 

 修練内容は個人個人で違いがあった。

 

 団に入ったばかりの人間は呪力操作、結界術など分野の違う内容の修練を等量行い、自らの適性を探していく。

 そして、適性が見つかればそれを中心とした修練内容に切り替わる。

 

 全体的な上昇ではなく長所を伸ばすことに重きを置いているようだ。

 

 しかし、そんな中で捧己羽に偏りらしい偏りはない。

 

『結構新参?』

 

(まあ、新参だな。後ろから二番だ。本来の適性把握期間よりは断然長いが)

 

『うん? 何で延びてるの?』

 

(延びてはいねえよ。秀でたものがなかった、それだけだ)

 

『あ···ごめん嫌なこと聞いたね』

 

(気にするな。俺も気にしちゃいない)

 

『ありがとう』

 

 話しながら歩いている。自室に向かうでもなく、知らない方向だった。修練場に厠場は修練中に、食処は休憩で訪れているがどの方向とも違う。

 

『これ、どこに向かってるの?』

 

(国落望がいる場所だ)

 

『な』

 

 絶句した。

 思考が止まって生得領域の中で優に三十秒は固まり続けた。

 

 

 そして。

 

『なんで!!!!???』

 

 叫んだ。

 

 突然の大音量に捧己羽はビクリと体を震わせた。

 

(うるせえ)

 

『うるさくもなるよ! やっばい人なんでしょ! なんで、君が! そこに行くの!?』

 

(修練中に言わなくてよかったよ···説明するから静まれ、話せない)

 

『あ、はい』

 

(俺の術式内容は覚えてるな?)

 

『もちろん』

 

(数少ない利点はなんだ言ってみろ)

 

『えーっと、他の人に呪力を···あ』

 

(そういうことだ)

 

 呪力は人の負の感情から生まれる。しかし、無制限に扱えるものではない。個々人の呪力には性質的な違いがある。だからこそただ流用することは難しいのだ。

 

 捧己羽の呪力貸与は特殊だった。それにより与えられた呪力を蓄えて個人の呪力量という制約を解除する。

 

 そのために捧己羽は呼ばれている。

 

『これは、いつも?』

 

(そうだ。まあ、時間は掛からねえよ)

 

『!』

 

 ある場所を境に空間の色が変わっていた。変えているのは恐らく呪力。体内に抑え込めなかった大量の呪力が部屋の外まで覆っているのだ。

 

(見えてきたな)

 

 この呪力塊の中心に目的の人間はいる。捧己羽は迷いなくその中へと入っていった。

 

『どんな感じ?』

 

 千里は視覚に聴覚にとある程度感覚を共有しているが、痛みや体を動かす感覚などは共有していない。そのため、全身を他者の呪力で覆われる感覚がわからない。

 

(軽く重圧を感じるってぐらいだ)

 

『そんな感じなんだ。もっといやーな感じかと』

 

(慣れもある。昔はより不快に感じていた。本当に少しじゃあるが、領域内に居るような拒絶感もあるからな)

 

『領域ってショートク領域とかの?』

 

(それで合っている。前に言っていた強くなる感覚の逆だ)

 

『うへえ』

 

(それじゃ、開けるぞ)

 

 溢れる呪力の根源となる部屋の前に立って、戸に両手を当てて捧己羽が千里に確認する。

 

『う、うん。おっけい』

 

 結局のところ千里はこの場所について、国落望の目的について知らなければならなかった。知らなければ身構えることも、捧己羽らのために考えることもできない。

 

 この状況は好都合だった。捧己羽の口振りからしてすぐさま殺されるような危険もない。捧己羽の術式は国落望からしても有益なのだ。自ら会話なんて真似はできなくても二人の会話から情報を集めるぐらいは可能だろう。

 

『(捧己羽は話せないことがあると言ってたけどあれは何だったんだろう)』

 

 情報を集める、というところから先刻の会話を思い返す。隠すことはあると話していたが、今日一日で特段そんな様子はなかった。

 

『(視覚と聴覚の同調をあっちで任意に切れるって感じてもないし純粋に隠すのが難しかったのかな。心の声まで聞こえるわけだし)』

 

 そう納得して、開いた戸の先に意識を集中させた。

 

 

 

「——ふむ、来たか。捧己羽よ」

 

 大広間以上の広さの部屋の中心に一人の男が座していた。

 背後には巨大な装置が鎮座しており、そこから白く硬質そうな物体がまるで蜘蛛の糸のように各方向へと伸びていた。

 傍らには遠目から見て剣のようにも楽器のようにも見える不思議な道具が掛けられている。

 

 男は転生を終えてから初めての紛れもなく大人と言える外観をした人間だった。

 

 この男が国落望。国家転覆を目論む術師。

 

 

 

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