スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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1章 1年生編【賢者の石の2年前】
第1章 プロローグ/第1話 ホグワーツ特急


 

プロローグ

 

ホグワーツ魔法魔術学校の地下、誰も足を向けることのない古い聖堂に、1枚の肖像画が静かに掛けられている。

 

1920年代の重厚な額縁に収められた絵画には、1人の青年が描かれていた。盲目の瞳を持ちながらも、どこか気品漂う立ち振る舞いを見せる『オミニス・ゴーント』の姿があった。

 

動く絵画であるはずなのに、彼はほとんど動かない。まるで時が止まったかのように、静寂の中でただ佇んでいる。

 

かつてサラザール・スリザリンの血を引く最後の家系と(うた)われたゴーント家。

 

しかし、その血筋は狂気と貧困の中で途絶えたと、魔法界の誰もが信じて疑わなかった。聖28一族の一角は完全に歴史の闇に葬られたのだと。

 

───だが、今この瞬間。

 

ホグワーツ特急の車窓から流れる景色を眺める1人の少年がいる。銀色の髪が微かに揺れ、エメラルドグリーンの瞳が静かに外の世界を見つめている。その整った横顔は、地下聖堂の肖像画の中の青年と不思議な共通点を持っていた。

 

彼の存在を知る者は、イギリス魔法界には誰1人としていない。──だが、それでいい。彼にとって認知度などというものは、今はまだ必要のない代物だった。

 

少年は無表情のまま、僅かに唇の端を上げた。

 

ゴーント家の血は、途絶えていなかった。そして今、その血が再び魔法界に戻ってくる。

 

彼の物語は、まだ誰の記憶にも刻まれていない。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

ホグワーツ特急

 

車窓から差し込む午後の陽光が、セリクスの銀色の髪を微かに照らしている。彼は窓際の席に座り、『純血家系の系譜とその魔法的傾向』という古い書物のページを静かにめくっていた。

 

エメラルドグリーンの瞳が活字を追い、時折何かを考えるように本から顔を上げる。彼の細い指先が色素の薄い唇をなぞった。

 

コンパートメントの扉がノックされガラリと開いた。セリクスは静かに視線だけを向ける。

 

「ここ、空いてる?」

 

明るい声と共に顔を覗かせたのは、ダークブラウンの髪と明るいグレーの瞳をした気さくそうな少年だった。人懐っこい笑みを浮かべている。その後ろには、薄いミルクティー色の髪でふわふわの猫っ毛を持つ、大人しい雰囲気の少年が控えめに立っている。セリクスの顔を見て驚いたように目を(みは)っていた。

 

セリクスは本から顔を上げ、無表情のまま黙って頷いた。

 

「ありがとう」

 

先頭の少年が笑顔のまま席に滑り込む。続いて、後ろの少年も小さく頭を下げながら座った。

 

「僕、セドリック・ディゴリー。君は?」

 

セドリックは人懐っこい笑顔を浮かべながら自己紹介を始めた。その屈託のない様子が、車内の空気を一気に和やかにする。

 

「セリクス・アストラル・ゴーント」

「ゴーント?」

 

セドリックが少し驚いたような声を上げる。

 

「珍しい名前だね。僕は今年の新入生なんだ。君も?」

「そうだ」

 

セリクスは簡潔に答える。

 

薄いミルクティー色の髪の少年が遠慮がちに口を開いた。

 

「僕はコーウェン・セルウィン。よろしく」

 

コーウェンの薄いブルーの瞳が、セリクスの手元の本のタイトルをちらりと見つめる。『純血家系の系譜とその魔法的傾向』──なかなか手に入らない専門書だ。同じ本好きとして、彼は小さく笑みを浮かべた。

 

「面白い本を読んでるね。僕も魔法史や家系について興味があるんだ」

 

セリクスの視線がコーウェンに向けられる。初めて、微かに興味深そうな表情を見せた。それはここに来て初めて見せる表情の変化であった。コーウェンはそれを見て驚いたようにパチパチと瞬きをした。

 

「そうか」

 

セドリックは2人の間に流れる空気を読んで、更に話を続けた。

 

「どの寮になるか楽しみだよね。僕の父さんはハッフルパフだったから、僕もそうなるかもしれないけど」

「僕の父さんはスリザリンだったって。でも僕がなれるかは分かんないな……。えーっと、ゴーント君? セリクスって呼んでもいいかな?」

「構わない。──私の両親はホグワーツ出身ではないから分からないな」

「へーっ、珍しいね」

 

セドリックが驚いたように声を上げた。

 

「父さんに聞いたけど、ハッフルパフ寮は地下にあって冬でもとても暖かいんだって。まるでそう、アナグマの巣穴みたいに」

「暖かいのはいいねぇ。ホグワーツ城は石造りだからすごく寒いって聞いたよ。僕はグリフィンドールだけは無理かも。騎士道精神とかないもの」

「いいじゃないかグリフィンドール。ゴドリック・グリフィンドールとか、格好良くて憧れるな」

「セドリックには似合いそう。なんとなくね」

 

窓の外には、羊がまばらに点在する丘陵が広がり、その先に霞むような湖面が陽を反射していた。ホグワーツへの道のりは、まだまだ続く。

 

セリクスは再び本に視線を落としたが、今度は完全に集中しているわけではなかった。この2人の少年──セドリックの人懐っこさとコーウェンの知的な雰囲気。2人の和やかな会話をなんとはなしに聞いていた。

 

───興味深い出会いだと思った。

 

車輪の音が規則正しく響く中、3人を乗せたホグワーツ特急は、古い魔法学校へと向かい続けていた。

 

 

 

 

 

 

 




初めまして、如月斎(きさらぎいつき)と申します。
Pixivで連載している作品ですが、こちらでも少しずつ投稿・加筆修正していくことにしました。

本作は『ホグワーツ・レガシー』に登場するオミニス・ゴーントの末裔であるオリジナル主人公・セリクスが、スリザリン生として暗躍(?)する物語です。
少しダークな展開や、独自の解釈・設定が含まれますが、彼の辿る運命を見守っていただけたら嬉しいです。

※Pixivの方では既に3章まで進んでいるため、しばらくはそちらからの移植(定期投稿)になります。

ブクマや評価、感想などいただけると執筆の励みになります!これからよろしくお願いします。
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