スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第1章 第11話 誕生日、歴史を刻む時計

 

誕生日、歴史を刻む時計

 

10月24日。

 

朝食の時間の大広間は、生徒たちのお喋りの声で大変騒がしかった。しかしざわざわと楽しげに会話しながら食事をしている3寮と比べて、スリザリンのテーブルは静かなものだ。それぞれがほとんど会話することなく、黙々と食事をしている。

 

フクロウ便の到着時間になったのか、数百羽もの色とりどりのフクロウたちが大広間になだれ込んできた。フクロウたちは手紙や小包みを生徒たちの手元に乱雑に落としていく。周りの騒ぎが更に大きくなっていった。

 

その中から1羽のフクロウが舞い降りてきた。美しい黒い羽根を持つ大型のフクロウは、真っ直ぐセリクスの前に着地する。黒フクロウはセリクスの顔を見ると、ホロホロと嬉しそうに鳴きながら片脚を差し出してきた。

 

足に結ばれていたのは、黒と銀の封蝋が押された封筒と、上質な深緑の布で包まれた小さな包みだった。

 

セリクスは無表情のまま封筒と包みを受け取ると、黒フクロウにゴブレットの水とウインナーの欠片を差し出した。フクロウは美味しそうに水を飲み始める。コーウェンはそれを見て目を丸くした。

 

「大人しくて良い子だね。それにしても大きいな」

「ゴーント家のフクロウだ。名はニクス」

「ニクス君かぁ。良い名前だね」

「ちなみにメスだ」

「……ごめん、ニクスちゃん……」

 

ニクスはコーウェンの言葉に全く気にした様子もなく、悠々とウインナーを咀嚼している。

 

セリクスが包みを開けると、中から銀細工の美しい懐中時計が現れた。蓋には精巧な家紋が刻まれている。セリクスの手のひらの中でチャリ……と微かな音が鳴った。

 

他の生徒たちが興味深そうに見つめる中、セリクスは中身を見せびらかすでもなく、スッとローブの内ポケットにしまった。手紙も同様に、視線を向けることなく懐にしまう。

 

セリクスはまた朝食の続きに戻ったのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

昼休み、中庭の石のベンチに腰掛けてセリクスが本を読んでいると、コーウェンが隣に座った。セリクスは本から顔を上げない。

 

「そういえば、今朝ニクスちゃんが運んできた物って……」

 

コーウェンがふと思い出したように言う。セリクスは本を静かにめくりながら呟いた。

 

「……12歳になっただけだ」

「えっ、あれってもしかしてプレゼント? まさか今日誕生日だったの? 前もって言ってくれれば何か用意したのに!」

「気にしなくていい」

 

セリクスは活字に目を走らせながら、短く答えた。

 

コーウェンは少し困ったような、でもほんの少しだけ嬉しそうな表情を浮かべて、小さく囁いた。

 

「……おめでとう」

「……」

 

セリクスは何も返さなかった。しかし、無表情のままコーウェンのことを拒絶もしなかった。

 

───ほんの一拍の沈黙のあと、ページをめくる手が一瞬だけ止まる。

 

それがコーウェンには無口な彼の返事なのだと感じた。コーウェンは静かなセリクスの横顔を見てにっこりと笑った。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

夜更け、寮の寝室は静寂に包まれていた。コーウェンのベッドからは規則正しい寝息が聞こえてくる。

 

セリクスはベッドサイドの読書灯の下で、今朝受け取った懐中時計を丁寧に磨いていた。柔らかい布で表面を拭う動作は、まるで大切な宝物を扱うかのように慎重だった。

 

時計本体は、光を鈍く反射する、くすみのあるマットシルバー。蓋には精緻(せいち)な家紋が刻まれていた。

 

銀の三日月は艶やかな鏡面仕上げで、その曲線に翡翠のような光沢を湛えた深緑の蛇が巻き付いている。周囲には繊細な銀の茨が絡み、全体を静かに包み込んでいた。

 

そして、時計に繋がる鎖の先には、小さな黒曜石のチャームがひとつ。重みを湛えながら、月明かりの中で僅かに揺れていた。

 

セリクスは時間を忘れたように熱心に時計を磨き続けている。

 

磨き終えた懐中時計を掌に乗せたまま、セリクスはふと目を伏せる。不思議とこれを手にしていると、感情の波が静かになる気がした。

 

───理由は分からないし、確証もない。ただ、そう感じるだけかもしれない。

 

やがて時計をベッドサイドに置くと、セリクスは父からの手紙を取り出した。

 

 

───────◇───────

セリクスへ

12歳になったお前に、我が家の時間を託す。

この時計はかつて私の物であり、私の父、そして祖父の物だった。

時の流れは、力では止められない。だが、理解する者には従うだろう。

この時計をお前が使いこなせるようになる日が、いつか必ずくることを私は疑っていない。

自らを誇れ、セリクス。

父より

───────◇───────

 

 

手紙を読むセリクスの無表情な顔に、ほんの少しだけ安らぎの気配が浮かんだ。形式的でありながら、セリクスだけが感じ取れる深い愛情がその短い文章に滲んでいる。

 

セリクスは手紙を大切にたたみ直し、ベッドサイドにあるチェストにそっとしまった。そして懐中時計を手に取り、もう一度その重みを確かめてから、同じように大切にしまう。

 

読書灯を消すと、部屋は月明かりだけに包まれた。時を刻む音だけが、遠く、静かに響いていた。

 

セリクス・アストラル・ゴーント、12歳の誕生日が静かに終わろうとしていた───

 

 

 

 




【あとがき】
セリクスの誕生日は10月24日です。蠍座の男ꉂ(´‎‪ᗜ` ) 性格、星座、誕生石、誕生花まで調べてつけました。ちなみにセドリックとコーウェンも誕生日を決めてます。そのうち出る予定です。

ニクスという名前は、ギリシャ神話の夜の女神「ニュクス」が由来です。ゴーント家ってそういう神話をモチーフにした重厚な名付けをしそうだなぁと思って付けました。冥王星の第2衛星の名前でもあったりします。

懐中時計は、セリクスの父と祖父と曾祖父の物だったとありますが、正確にはゴーント家が代々受け継いできた家宝だったりします。オミニスが生家を出る時に持ち出せた数少ない持ち物でした。

オミニスの過去に関してもいつか書けたらいいなぁ。ホグワーツ・レガシー2が発売してから書くかもしれません。
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