スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第1章 第15話 静寂のクリスマスと1人きりの探索者

 

静寂のクリスマスと1人きりの探索者

 

クリスマス前週、大広間前の廊下の壁に羊皮紙が掲示された。ホグワーツに残る生徒用のリストだった。

 

セリクスは迷いなく万年筆を取り出し、星屑のようなラメの入った濃い藍色のインクで「S. Gaunt」と記した。その文字は他の生徒の筆跡と比べて際立って美しく、品格が漂っていた。

 

「セリクスは帰省しないの?」

 

背後からコーウェンの驚いた声が聞こえた。

 

「ゴーント家の跡取りなのに、社交の予定とかないの?」

 

セリクスは振り返ることなく、淡々と答えた。

 

「帰ってもいいが、面倒だ」

 

そして、誰にも聞こえない程小さく漏らした。

 

「──どうせ夏は戻らないといけない」

 

その声には、義務として課せられた重荷を感じさせる響きがあった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

数日後の帰省の日、談話室はスーツケースやトランクでいっぱいになっていた。ほとんどの生徒が帰省準備に追われている。ピュシーたちも、家族への土産話を楽しそうに語り合っていた。

 

「この前のスリザリン対レイブンクロー戦の話、絶対父さん喜ぶと思うんだ! 兄さんが大活躍したんだ。こうクアッフルを何度も叩き込んでさ!」

「テレンスのお兄さん、めちゃくちゃ良いチェイサーだよな。でも今年O.W.L.(ふくろう)試験なのに、そんなに入れ込んで大丈夫なのか?」

「……それ言ったらめちゃくちゃ怒ってたから、もう言うのやめとく」

 

ヒッグスが兄自慢をしているらしい。セリクスはクィディッチに興味が微塵(みじん)もないが、1年生男子が集まって盛り上がっている。

 

談話室の隅で1人ぽつんとしているセリクスに気が付いたらしいコーウェンが、その輪の中から抜けて近寄ってきた。

 

「セリクス。僕ももう行かなくちゃ……。じゃあ、良い休暇を」

 

コーウェンがやや気まずそうに声を掛ける。何故かいつもよりも言葉が喉に詰まる感じがした。

 

「……君も」

 

セリクスの返事はいつものように短かったが、どこか名残惜しそうでもあった。

 

コーウェンが扉に向かう足取りも、普段より重い。振り返りたい気持ちを抑えながら、談話室を後にした。

 

セリクスはそのまま誰の見送りにも行かず、自室で静かに『古代ルーン文字の解釈学』を読んでいた。意識が本へと向かっていく。時間を忘れて読み(ふけ)った。

 

夕方になると、ホグワーツ中が静まり返った。談話室はがらんどうになり、廊下を歩く足音だけが石の壁に響く。暖炉の火がぱちぱちと音を立て、窓辺には雪が静かに積もっていく。

 

いつもは騒がしい城が、まるで眠りについたかのように静寂に包まれていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

クリスマスの朝、スリザリン寮の寝室に綺麗な包装紙に包まれたプレゼントの山が届いていた。

 

セリクスは眉をひそめながらも、送り主を確認する。家族からの物、セドリックとコーウェンからの物もあった。

 

他にも多数の贈り物があったが、セリクスはほとんど未開封のまま脇に置いた。名前しか知らず会話もしたことのない相手ばかりであったからだ。とりあえず家族とセドリック、コーウェンの分だけを開封する。

 

セドリックの木彫りの蛇は素朴だが、丁寧に作られており、小さなメッセージカードが添えられていた。

 

 

───────◇───────

君に似合うと思って作ってみました。ちょっと不格好ですが、気に入ってもらえれば嬉しいです。

-セドリック・ディゴリー

───────◇───────

 

 

コーウェンからのプレゼントは『失われた純血家系の研究』という、なかなか手に入らない専門書だった。

 

 

───────◇───────

前に君が欲しがってた本を、たまたま父さんが持ってたんだ。セリクスにあげたいって言ったら、喜んで譲りますって言ってくれたからプレゼントするね。

-コーウェン・セルウィン-

───────◇───────

 

 

父からの贈り物は、高級な魔法薬の材料セットと、新しい魔法書数冊だった。セリクスはそれらのプレゼントをいそいそと鞄にしまい込む。

 

セリクスの胸に理由のよく分からない温度を感じた。セリクスは首を傾げたが、とりあえずは返礼のカードを書かないといけないなと意識を切り替えたのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

プレゼントを片付けた後、セリクスは冷たい石造りの廊下を歩いていた。

 

───ふと足を止める。

 

自分以外の足音がしないことに気付いた。教授たちも多くが帰省し、残っているのは僅かな人数だけ。こんなに静かなホグワーツは初めてだった。

 

セリクスは思いついて寮の外に出ていくことにした。

 

「……こんなに静かなら、探索日和だな」

 

彼は小さく呟きながら、普段は人目があって入れない場所へと向かった。雪の降り積もる城の中で、セリクスの足音だけが静かに響いていく。

 

この古城には、まだ自分の知らない仕掛けがある。誰かに見つからずに、それを確かめるなら今しかない。知ることは、備えることだ──それが彼にとっての習慣だった。

 

銀色の髪が雪明かりに照らされ、エメラルドグリーンの瞳が静寂の城を見つめていた。

 

1人きりのクリスマス休暇が、静かに始まった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

人影のまばらなホグワーツで、セリクスは1人、城の秘密を探り始めていた。

 

普段は生徒や教師の目があって近付けない場所も、今なら自由に探索出来る。古い肖像画の陰に隠された狭い通路から、普段は行き来のほとんどない廊下の奥のタペストリーに隠された部屋。

 

3階の古いトロフィー室では、埃をかぶった優勝カップと盾の陰に魔法で封印された引き出しを発見した。封印されているということは、何かあるのかと思ったが、引き出しの中は空っぽだった。

 

2階の廊下では、一見何の変哲もないカエルの石像の口の中に手を入れると、まるで吸い込まれるように小さな隠し部屋へと導かれることも分かった。

 

狼人間の変貌が描かれたタペストリーの奥にあったのは、静かで閉ざされた小部屋だった。石造りの壁には連続する重厚なタペストリーが掛けられ、古びた木のベンチと、深く沈む緑がかったソファが2脚。暖炉には魔法の火が揺れており、煤けた空気にほのかな温もりを滲ませている。

 

装飾棚には壊れかけた羽根ペンや使いかけのインク壺、誰かが忘れていったトランプの箱が積まれ、整然とはしていないが、妙に人の気配を感じさせる。展示室のようでいて、どこか、閉じた日記のような空間だった。

 

セリクスはしばし立ち止まり、壁のタペストリーを眺める。男が獣へと変わる過程を描いた絵に、他人事ではない何かを見た気がしたが、言葉にはしなかった。

 

やがてソファの縁に軽く手を置き、音を立てずに腰を下ろす。片肘を肘掛けに乗せ、口元に指先を当てながら、静かに目を細めた。

 

「……悪くない」

 

そう呟いた声は、すぐに暖炉の火音に溶けた。誰にも干渉されない、ただの静寂。それはスリザリンの寮で感じる孤独とは異なる、ひとつの選択肢としての、穏やかな余白だった。

 

一方、カエルの像の口から吸い込まれて入った小部屋は、正直期待外れだった。部屋は狭く、まだ背のそれほど高くないセリクスの頭が擦りそうな程低い天井。壁にも天井にも、完成していない杖が無造作に突き刺さり、床には束ねられた木材や細かく砕かれた杖の破片が散らばっているだけだった。

 

「……くだらない」

 

眉をひそめながら、セリクスはすぐに部屋を後にした。少なくとも、彼の求める「価値のある秘密」ではなかった。

 

 

 

 

「興味深いものを見つけたようじゃの、ミスター・ゴーント」

 

背後から聞こえた穏やかな声に、セリクスは振り返った。ダンブルドア校長が、いつものように温和な笑顔を浮かべて立っている。しかし、セリクスにはその好々爺とした笑みが胡散臭く感じられた。

 

「校長。ご機嫌よう」

 

セリクスは短く、しかし慇懃(いんぎん)に挨拶をする。無表情だが、明らかに警戒していた。

 

「たった1人で探索とは、随分と好奇心旺盛のようじゃの。ホグワーツには確かに多くのワクワクする秘密があるが……」

 

ダンブルドアの視線がセリクスの瞳を見つめる。その瞬間、青い瞳の奥でキラキラと光る"何か"が見えた。セリクスは嫌な感覚を覚えた。

 

(──開心術?)

 

心の中に侵入してくるような気配。セリクスは咄嗟に心の扉を固く閉ざした。閉心術の訓練は、幼少期から父に叩き込まれていた。

 

セリクスの心が読み取れなかったのか、ダンブルドアの表情が僅かに変わった。温和な笑顔は変わらないが、その気配が冷やりと冷えるのをセリクスは感じ取った。

 

「なかなか……しっかりとした心の持ち主のようじゃ」

「……なんのことでしょうか」

 

セリクスは相変わらず無表情だが、内心では極めて不快感を覚えていた。生徒に開心術を掛ける校長がどこにいるのか。

 

「いやいや、なにもなにも。ただ、1人きりの探索は危険な場合もある。古い魔法の仕掛けや、予期せぬ罠もあるかもしれないからのう。わしは君が心配なだけじゃ」

「ご忠告、痛み入ります」

 

セリクスは一礼すらせず、ただ静かにそう告げた。口調は丁寧だが、その言葉には同意も感謝も一切含まれていない。

 

「……そうじゃの。それと───」

 

ダンブルドアは一歩近寄った。

 

「もし何か興味深いものを発見したら、是非わしにも教えてもらえると嬉しい。きっと有益な会話になることと思う」

 

セリクスの瞳が一瞬鋭く光った。

 

「発見したものがあれば、一考しましょう」

「それで十分じゃ。では、良いクリスマスを。気をつけてお帰り」

 

ダンブルドアは相変わらずの笑顔で立ち去っていく。しかし、その後ろ姿からは先程の温和さは感じられなかった。

 

セリクスは1人残され、冷たい石の廊下に立っていた。

 

(開心術を使ってきた……。間違いない。しかもそれを隠す気すらない……)

 

ダンブルドアは信用出来ない───

 

セリクスは静かに歩き始める。今回の探索はここまでにしよう。しかし、これで更に確信した。ホグワーツには、表面的な平和の裏に多くの秘密が隠されている。

 

そして、ダンブルドアという老人は、想像以上に危険な存在なのかもしれない。少なくともセリクスにとっては。

 

夕陽が差し込む廊下で、セリクスの影が長く伸びていた。彼の心の中では、新たな警戒心と共に、更なる探究心が燃え上がっていた。

 

 

 

 

 




【あとがき】
スリザリン生は基本的に家族や伝統を重んじるので、長期休暇には帰省する子ばっかりなイメージです。なのでセリクスが1人残るのはすごい目立ってそうですよね。ダンブルドアはセリクスが何かやらかすんじゃないかと疑ったのかもしれません。それにしても生徒に開心術って……。原作でハリーに開心術を掛けてるっぽい描写を見て「いや、校長なのに何してんねーん!」と突っ込みを入れてました( ̄▽ ̄;)

城内の描写については、ホグワーツ・レガシーをプレイした方はピンときたかもしれません。カエルの石像ににゅるんと吸い込まれるギミック、不思議な魅力があって好きでした(笑) 今後もちょいちょいホグレガ要素をこうやってさりげなく(?)差し込んでいく予定です。
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