スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第1章 第16話 気弱な教師と聖夜の道化たち

 

気弱な教師と聖夜の道化たち

 

ダンブルドアとの不快な出会いの後、セリクスは少し不機嫌そうな表情で大広間に向かっていた。いつもより少し足早に進んでいると、廊下の曲がり角で突然誰かとぶつかった。

 

「あ、す、すみません!」

 

慌てた声と共に、大量の書類が宙を舞った。尻餅をついたのはクィレル教授だった。どうやらマグル学の資料をたくさん抱えていて、前が見えなかったようだ。

 

「──大丈夫ですか」

 

セリクスはやや躊躇(ためら)いがちに手を差し伸べた。クィレル教授は恐縮しながらその手を取って立ち上がる。

 

「あ、ありがとうございます、ゴーント君。本当に申し訳ございません」

 

散乱した書類を拾い集めながら、セリクスは流れで半分ほどを持つことになった。

 

「お、お運びいただかなくても……」

「構いません。どちらまで?」

「マ、マグル学の教室まで……ですが」

 

2人は言葉少なに廊下を歩いた。マグル学教室に着くと、クィレル教授は恐縮そうに私室への扉を開いた。

 

「お、お礼に紅茶でも……、お時間があれば、ですが」

「……はい」

 

クィレル教授の私室は、荷物が整理整頓されており、異様にガランとしていた。生活感がほとんどない。まるで引っ越し準備でもしているかのようだった。

 

セリクスは何も言っていないのに、クィレル教授が言い訳のように話し始めた。

 

「あ、あの……お部屋が殺風景で、す、すみません。実は───」

 

紅茶を淹れながら、クィレル教授は弱々しい声で続ける。

 

「来年の新学期から休職して、1年間自分を見つめ直す旅に出る予定でして……。それで荷物を整理しているんです」

「そうですか」

 

セリクスは特に興味もなく、曖昧に頷くだけだった。

 

「ま、また再来年戻ってくる予定ですので……。そ、そのときはマグル学を受講していただけたら嬉しいです」

 

内心、セリクスはマグル学など取るつもりはないと思いながらも、表面的に返事をした。

 

「検討します」

 

天使が通ったような気まずい沈黙が流れた。クィレル教授は紅茶カップを持つ手を微かに震わせている。

 

「あ、そ、そうだ!」

 

突然クィレル教授が慌てたように立ち上がった。

 

「ク、クリスマスディナーに遅れてしまいますね。も、もうお行きになった方が……。申し訳ございません、お引き止めしてしまって」

「いえ……」

 

セリクスは立ち上がり、軽く会釈をした。

 

「紅茶、ありがとうございました」

「い、いえいえ、こちらこそありがとうございました」

 

私室を出る際、セリクスは振り返った。クィレル教授が窓際に立ち、何かを見つめているのが見えた。その後ろ姿には、言いようのない寂しさが漂っていた。

 

大広間に向かう廊下で、セリクスは先程の光景を思い返していた。クィレル教授の異常に片付いた部屋、震える手、そして1年間の旅。

 

ただの気弱な教師の言い訳だろう。セリクスはそう判断した。別に、気に留める程のことでもない。それでも、何故かあの部屋の静けさだけが、耳の奥に残っていた。

 

クリスマスディナーが待っている。大広間からは温かい光と、微かな笑い声が聞こえてきた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

クィレル教授の私室を後にしたセリクスは、静かな廊下を1人歩いていた。石畳に靴音が控えめに響く中、遠くから大広間の笑い声と食器の触れ合う音が滲んでくる。

 

(賑やかすぎるのは苦手だが……。一度部屋に戻る時間はないか)

 

内心そう呟きながら、大広間の扉を押した。

 

中央に一列にまとめられた長テーブルには、帰省しなかった数少ない生徒たちと、数人の教師の姿があった。レイブンクローやハッフルパフの上級生らしき顔ぶれの中に、赤毛の兄弟たち──ウィーズリー家の姿がひときわ目立っていた。

 

チャーリー、パーシー、そして悪戯好きで知られる双子。スリザリンからは自分1人だと気付き、セリクスは咄嗟にダンブルドアの姿から最も遠い席を選んで腰を下ろした。

 

「ゴーント君、メリー・クリスマス!」

 

隣の席の闇の魔術に対する防衛術の教授が快活に笑った。相変わらずハイテンションな教授である。彼の持つワイングラスの中の赤ワインがちゃぷんと揺れた。

 

何が面白いのか、にこにこと笑いながらセリクスの顔を見ている。返事を待っているようだったので軽く会釈を返していると、目の前にある銀の食器に料理が現れた。肉、温野菜、グレイビーソース、香ばしいパン。ローストビーフの香りにハーブの風味。付け合わせの芽キャベツが、目にも鮮やかだ。セリクスはフォークとナイフを手に取り、静かに食事を始めた。

 

「おーっと、見つけたぞ。仔猫ちゃん……、いや、"蛇の王子様"だっけ?」

 

ふいに向かい側から声がかかった。見上げると、双子のウィーズリーがにやにやと顔を突き出していた。どちらがフレッドかジョージか判別出来ないが、どちらも楽しそうにセリクスの様子を観察している。

 

「まーたフォークとナイフかよ! 堅っ苦しいなぁ」

「そのうち紅茶も3回回してから飲むんじゃねぇの?」

「おお! ちゃんと背筋伸ばしてる! 貴族教育こえぇ!」

「こんな堅苦しい食べ方してるの、あんたくらいだぜ?」

「まるで舞踏会の晩餐みたいだよな?」

 

セリクスは一度目を伏せ、無視を選ぼうとした。が、しつこい視線と声が止まない。隣の席の教授は1年生同士がじゃれ合っているとでも思っているのか、微笑ましそうに眺めているだけで助け船は望めそうにない。仕方なくナイフとフォークを一度置き、冷たく言い返す。

 

「君たちのような振る舞いは、家で咎められなかったのか?」

「怒られるけど、またやるんだよな〜。俺たち」

「だって楽しいし?」

「「なーっ!」」

 

無意味で幼稚な挑発に、これまでなら取り合わなかった。だが今夜は何故か、喉の奥に冷たい言葉が引っかかっていた。

 

立ったままパンを取り、手でちぎる様子もなく齧りつく双子たち。あまりの行儀の悪さに、思わず皮肉が口を突いて出た。

 

「せめてパンくらいは手でちぎるものだと存じておりましたが」

「じゃあ王子様は王子様流の作法で召し上がれよ」

「お皿も金で出来てるんじゃない?」

 

───黙れと返すことも出来た。だがセリクスは、あえて静かにこう言った。

 

王子(プリンス)道化(ピエロ)の違いくらいは、教えられてきましたので」

 

一瞬の静寂ののち、双子はきょとんとし、そして腹を抱えて笑い出す。

 

「道化だって! これ使おうぜ、次のネタに!」

「おーい、パース! 王子様が俺らに注意してきた〜!」

「静かにしろ、恥ずかしいやつらだな!」

 

3年生のパーシー・ウィーズリーが席から立ち上がり、眉間に皺を寄せて歩いてくる。

 

「いい加減にしろ、お前たち。良い子にしていないなら、今からでも母さんに言って連れて帰るぞ。洗い物とツリーの片付けが待ってるはずだ」

 

双子の笑顔が一気にしぼむ。しょぼくれて下唇が出ている表情までそっくりだった。

 

「……やだよ家帰ったら皿洗い地獄だもん。ジニーは良いけど、ロニー坊やの相手はちょっと面倒だし……」

「そうだよ。せっかくホグワーツで初めてのクリスマスなのに……」

「監督役として残ってやってるだけありがたいと思え。あと、フレッドはロンに謝れ」

 

パーシーがピシャリと返すと、双子は口をへの字に曲げながらも、やや大人しく引き下がった。

 

パーシーの更に上の兄であるチャーリー・ウィーズリーは、かぼちゃジュースが入っているらしきゴブレットを手にくすくすと笑っていたが、特に止める様子はなかった。そのカラッとした笑顔に悪意や敵意は感じないが、教授と同じようにセリクスが嫌がっているとは思っていない様子だ。

 

パーシーはセリクスの方へ軽く頭を下げる。

 

「すまない、弟たちが騒がしくして」

「お構いなく」

 

それだけを返し、セリクスは再びナイフとフォークを手に取った。ひんやりとした金属の感触が指先に馴染んだ。ローストビーフからはグレイビーとハーブが混ざった温かな香りが立ち上り、一口含めば、ほのかな甘みが舌の上に広がる。

 

冷たいセリクスの態度に動揺したパーシーは、複雑そうな表情で席に戻っていった。

 

やがて料理はデザートに変わり、バター風味のクリスマスプディングが運ばれてくる。

 

魔法の天井には、夜空のような深い青と、静かに降り続ける白い雪が描かれていた。

 

その雪をぼんやり見上げながら、セリクスは思った。

 

(静かな夜が恋しいな……。コーウェンたちは今頃何をしているのだろうか)

 

銀のスプーンが皿の縁を鳴らす微かな音だけが、自分の時間を刻んでいた。

 

 

 

 

 




【あとがき】
チョイ役のDADAの教授は名前もないモブです。セリクスに気軽に「メリー・クリスマス!」っていうフレンドリーな教授は、彼以外にいません( ̄▽ ̄;)

フレジョ、めっちゃうざかわいい〜(笑) 彼らってピエロの仮装とか普通に似合いそうですよね。
この時、フレジョ1年生、パーシー3年生、チャーリー6年生、ビルは卒業しています。
フレジョたちは唯一の妹であるジニーは可愛がっていますが、ロンへの扱いが雑です。そりゃ捻くれるよ。ロン可哀想(´ω`;)
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