スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~ 作:如月斎
マンドレイクの初恋
春の暖かな日差しが温室に差し込む中、薬草学の授業が始まった。今日はハッフルパフとの合同授業で、思春期マンドレイクの植え替えという重要な実習だった。
「皆さん、思春期のマンドレイクの叫び声は大変危険です。必ず耳当てを着用してください」
スプラウト教授の指導の下、生徒たちは耳当ての争奪戦を繰り広げていた。スリザリン生はセリクスに真っ先に1番良い物を譲っていたが。ちなみにコーウェンは出遅れてしまい、最後に残ったピンクのふわふわモコモコした耳当てを手に取る羽目になった。
「えー、これ……」
うっすらとフローラルな香りが漂うピンクの耳当てを装着したコーウェンは、恥ずかしそうに頬を染めながら前髪で顔を隠そうとしている。
その様子をセリクスが横目に見て、目元だけで笑っていた。いつもの無表情な顔だが、瞳に微かな笑みが宿っている。
「笑わないでよ……」
「笑ってない。……ふっ」
「! 今笑った!」
「笑ってない」
「もー!」
2人がふざけているとスプラウト教授が半目で
「ゴホンッ。……では、始めましょう」
スプラウト教授の合図で、生徒たちは一斉にマンドレイクを引き抜き始めた。温室内に響き渡ったのは、金属を引っ掻くような甲高い叫び声だった。コーウェンは耳当てがズレないように咄嗟に押さえる。
マンドレイクの口の中には、びっしりと小さな牙が生えている。おぞましい叫び声をあげながら手足のような根っこを振り回して土を
ところが、セリクスのマンドレイクだけは様子が違った。
セリクスが静かにマンドレイクを見つめ、軽く睨むような視線を向けると、マンドレイクは叫び声を止めてしまった。ひくひくと葉を揺らしながら、まるで目を逸らすようにして口を閉じる。
そして、何故か手のように見える根っこを擦り合せて、恥ずかしそうにモジモジし始めた。
「え……、何それ……。もしかして恥じらってる? ……まさか、恋……??」
コーウェンがピンクの耳当てをしたまま、ドン引きした表情でセリクスの持つマンドレイクを見つめる。他のスリザリン生たちも、同様に唖然としていた。気付けば他の生徒のマンドレイクも全て鉢の植え替えが終わっていたようだった。
「すごいじゃないか、セリクス!」
セリクスのマンドレイクの行動を見ていたらしいセドリックが、明るく笑いながら話しかけてきた。
「セドリック、やめろよ!」
「あの人に関わっちゃダメだって〜!」
セドリックの友達のハッフルパフ生たちが、必死にセドリックを引き留めようとしている。"スリザリンの蛇の王子様"として有名になってしまったセリクスに近付くのは危険だと思っているようだった。
しかし、セドリックは気にせず歩み寄る。セドリックの友達はおろおろしているが、こちらまでは来ないようだ。
「マンドレイクを手懐けるなんて聞いたことないよ。どうやったの?」
セリクスは相変わらず無表情で答えた。
「特に何もしていない」
その時、スプラウト教授が唖然とした表情でこちらにやってきた。
「ミスター・ゴーント……。これは一体?」
セリクスのマンドレイクは、まだ恥ずかしそうにモジモジしながら、大人しく新しい鉢にちょこんと座り込んでいる。最後にセリクスの顔をじっと見つめてから、自ら顔を隠すように土に潜っていった。セリクスは無感動な手付きでその上からスコップで駄目押しのように土を
「私も初めて見ました。マンドレイクがこんなに……、従順になるなんて」
スプラウト教授は困惑しながらも、感心したように頷いた。
「課題の達成以上に驚くべき成果だわ。これは……追加点を与えざるを得ませんね……。スリザリンに10点差し上げます。素晴らしい……いえ、驚異的な植物との親和性ですね」
授業が終わった後、コーウェンは感心したようにセリクスを見つめていた。
「君って、本当に……すごいというか、普通じゃないよね」
コーウェンは最近口癖のようになってしまった台詞を呟いた。しかしセリクスは軽く肩をすくめるだけだった。
温室の外では、セドリックがまだ友達に引きずられながらも、振り返ってセリクスに手を振っていた。その屈託のない笑顔は、春の日差しのように温かかった。
セリクスは静かに手を上げて応えると、コーウェンと共に城へと戻っていった。
◆ ◆ ◆
最近のホグワーツの第1温室では、大量のマンドレイクの鉢植えがずらりと並んでいる。
その内の1つの鉢植えに植えられているマンドレイクは、毎日土からほんの少し根っこをちょこんと出して、きょろきょろと温室の入り口を見回していた。
今日もあの人は来ないのね……と確認するとまた大人しく土に潜る、という行動を繰り返していた。スプラウト教授はその健気とも不気味とも言える行動に気付いてからは、少し複雑な心境に陥っていた。
「魔法植物が魔法使いに恋心を抱くなんて……聞いたこともないわ。マンドレイクはまた彼に会いたいようだけど……。もう生徒の植え替え授業はないのよね……」
心優しい薬草学教授は、ふっくらとした頬に手を当てながら悩んでいた。もうマンドレイクの植え替え授業はない。彼は授業でもないのに温室へ来るほど薬草学に熱心という訳ではないらしい。ではどうするべきか。
「そもそもこれ以上会わせて無駄にマンドレイクの恋心を燃え上がらせることもないかしら。成就することはないんだから逆に可哀想よね……」
親切心を働かせて彼に言ったとしても、いつもの淡々とした無表情で「論文にまとめて発表すれば、ある程度の評価はされるでしょうか」とでも言いそうだ。可哀想だからマンドレイクにはこのまま静かに失恋してもらおう。
スプラウト教授は1人うんうんと頷き、希望を根っこに抱きそわそわもじもじしているマンドレイクの鉢植えから、背を向けて温室を後にしたのだった。
その後、無事立派に成熟したマンドレイクたちは全員収穫され、魔法薬学教授の元に納品されたという。
マンドレイクの恋心とともに───
【あとがき】
まさか作中初めての恋愛要素がマンドレイクとは思いもよらないですよね。私もびっくりしてますが、情景が思い浮かんでしまったので仕方ないですね。
まだセリクスたちは11〜12歳くらいなので、恋バナとかしないと思います。あ、女子はしているかもしれませんが。私自身はもうとっくに学生時代は過ぎ去っているので、小学校高学年の頃って何話してたか全然覚えておりません……( ̄▽ ̄;)