スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第1章 第19話 試験本番/第20話 貼り出された序列

 

試験本番

 

試験当日の朝、大広間には緊張した様子の生徒たちが集まっていた。筆記試験の会場となる大広間では、机が整然と並べられ、各席にはカンニング防止羽根ペンが置かれている。

 

セリクスは自分の席に着き、いつものように万年筆を取り出そうとした時、監督のマクゴナガル教授に止められた。

 

「ミスター・ゴーント、試験では指定の羽根ペンを使用してください」

 

内心面白くないセリクスだったが、微塵(みじん)も顔には出さず、静かに万年筆をしまった。星屑の入った(きら)めく美しいインクで書くことは出来ないが、仕方がない。無骨でシンプルな羽根ペンを久しぶりに握った。

 

「それでは、試験を開始します」

 

マクゴナガル教授の合図と共に、テストの羊皮紙が一斉にひっくり返された。

 

セリクスは問題を一瞥(いちべつ)すると、ものすごいスピードで記述を始めた。特に魔法史、変身術、魔法薬学では、教科書に載っていない詳細な内容まで、流れるように細かく書き込んでいく。

 

魔法史の1612年ホグズミードにおけるゴブリン反乱の詳細など、セリクスには欠片も興味はないが、書いておけば加点になるだろう。

 

周囲では様々な反応が見られた。レイブンクロー生は答案の見直しに時間を掛けすぎて、最後の問題が時間切れになりそうになっている。グリフィンドールのとある生徒は、羽根ペンの扱いに慣れず、「おわぁ! 燃えた!」と小声で叫んでいる。

 

──試験用に支給された羽根ペンには、カンニング防止と自動インク補充の魔法がかけられていたが、魔法制御に慣れていない生徒には少々手強かった──らしい。

 

セリクスは淡々と答案を完成させ、残り時間で軽く見直しを行った。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

午後は実技試験だった。呪文学の試験会場では、フリットウィック教授が基本的な浮遊呪文《ウィンガーディアム・レヴィオーサ》の実演を求めていた。

 

「それでは、この羽根を浮遊させてください」

 

多くの生徒が苦戦する中、セリクスの番が回ってきた。

 

「《ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ) 》」

 

羽根が美しく宙に舞い上がる。しかし、セリクスはそこで止まらなかった。杖を鋭く振り下ろす。

 

「《ディセンド(落ちろ)》」

 

──数週間前、教授がほんの一言だけ触れた降下呪文。誰も本気で覚えていなかっただろうが、セリクスには十分だった。羽根を緩急をつけて落としたり浮かせたりと、まるでダンスを踊らせるかのように操った。

 

その精度はハロウィンでフレッドが見せた《ディセンド》よりも数段上だった。

 

「素晴らしい!」

 

フリットウィック教授が大興奮で手を叩く。

 

「まだほとんど教えていない《ディセンド》をここまで使いこなすとは! 完璧な呪文制御です! 20点満点に加えて、5点のボーナスを差し上げます!」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

呪文学に続いて魔法薬学だったので、ほとんどの生徒は既にうんざりしているようだった。教科書やノートの持ち込みは禁止。全て詰め込んだ記憶を頼りに調合しないといけない。さすがに材料置き場には引っ掛けで紛らわしい材料は置いていなかったが、質はバラバラなようだった。

 

周囲であわあわとしている生徒たちを尻目に、セリクスはさっさと最上級の材料をきっちりの分量だけ量り取った。割り当てられた大鍋の前でスムーズに調合を始める。

 

スネイプ教授は蛇のような執念さで生徒たちの大鍋を覗いていく。気の弱いハッフルパフ生はそれで自滅していた。スネイプ教授の鼻で笑う音が聞こえる。

 

セリクスはいの一番に仕上げた。斜め前の席でブレッチリーが競うように仕上げに入っている。『忘れ薬』を詰めた小瓶をほぼ同時にスネイプ教授に提出した。小瓶から見える薬液の見た目は2人とも遜色ない。あとはスネイプ教授の採点を待つしかなかった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

全ての試験が終わると、大広間は「終わったああああ!」という解放感に包まれていた。生徒たちが抱き合い、泣き、笑い、騒いでいる。

 

セリクスはその騒々しい光景を静かに眺めていた。特に感慨もなく、ただ淡々としている。

 

(……大袈裟だな)

 

「セリクス……」

 

そこにコーウェンが疲れ果てた様子で近づいてきた。顔は蒼白く、目の下には隈が出来ている。最近の詰め込み勉強で夜も満足に寝ていなかったらしい。

 

「お疲れ様」

「うん……。君は疲れてないの?」

「それほどでも」

 

コーウェンは苦笑いした。

 

「気晴らしに外に行かない? 新鮮な空気を吸いたい」

「いいだろう」

 

久しぶりのお茶会と洒落込むのもいいだろうと、内心独りごちた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

中庭の芝生で、セリクスは何の躊躇(ちゅうちょ)もなく屋敷しもべ妖精を呼んだ。

 

「ティーセットを」

 

「パチン」という音と共に現れた屋敷しもべ妖精は、慣れた様子で豪華なアフタヌーンティーセットを用意し始めた。しかし、明らかに2人分には多い量だった。テーブルも大きく、椅子も7脚ほど並べられている。

 

「椅子、多すぎない? これ……7脚もあるけど」

 

コーウェンは不思議そうに首を傾げているが、セリクスは校舎の方からそろそろと近付いてくる5人組をじっと見つめていた。

 

「……お茶会するの? もし良かったら僕たちも、いいかな?」

 

と、エイドリアン・ピュシーがセリクスの顔色を(うかが)うように言った。

 

「構わない」

 

セリクスが頷くと、モンタギュー、ブレッチリー、ヒッグス、ワリントンも安堵の表情で席に着いた。この前の一触即発な空気になった時からまともに会話していなかったのだ。セリクスが怒っている様子がないので、安心したらしい。

 

「みんな、試験お疲れ様」

 

ヒッグスは晴れ晴れとした顔をしている。先程変身術の実技で凡ミスをやらかしていたが、気にしないことにしたのだろうか。

 

「お前の《ディセンド》の実演、すごかったな。俺には思いつかないぜ」

 

モンタギューが感心したように言う。

 

「あれは参考程度に聞いただけだったのに、まさか実演するとは……」

 

ブレッチリーも敬服している様子だった。

 

「俺の魔法薬学、マジでヤバかった。多分『忘れ薬』になってない……。ゴーントはどうだ?」

 

ワリントンが落ち込みながら尋ねる。

 

「それなりに」

 

セリクスの短い返答に、皆苦笑いした。彼の言う「それなり」が満点を意味することは、もはや彼らには分かっていた。

 

「そういえばテストで使ったマンドレイクなんだけど、根っこの手っぽい部分がハート型になってるのに当たったよ僕。変だよねー。下処理するのに何故か心が痛んだよ……」

「なんだそれ。ハート? 気持ち悪っ……」

 

ふと思い出したようにヒッグスが言った台詞を聞いて、コーウェンが何かに思い当たるような顔をした。だが、すぐに何でもないというように首を振る。セリクスは特に反応を示さず、紅茶を口に運んだ。

 

屋敷しもべ妖精たちが運んできたケーキや焼き菓子、上質な紅茶を囲んで、7人は和気藹々(わきあいあい)とした時間を過ごした。試験の緊張から解放された解放感と、友情の暖かさが中庭に満ちている。

 

通りかかった他寮の生徒たちは、スリザリンの1年生たちが豪華なティーパーティーを開いているのを見て、目を合わせないようにして早足で通り過ぎていく。特に、中央に座るセリクスの姿を見ると、皆一様に緊張した表情を浮かべていた。

 

「来年はもっと勉強しないと」

 

コーウェンが溜息をつく。

 

「君も十分よくやっていた」

 

セリクスが珍しく慰めの言葉をかけると、コーウェンの顔がぱっと明るくなった。

 

「えっ……! 君がそんなこと言うなんて……! ありがとう」

 

春の暖かな日差しの中で、7人のティータイムは静かに続いていく。試験という試練を乗り越えた安堵感と、深まりつつある友情が、穏やかな午後のひとときを彩っていた。

 

セリクスは紅茶カップを口に運びながら、ふと思った。

 

(──悪くない時間だ)

 

中庭に吹く春風が、銀色の髪を優しく揺らしていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

貼り出された序列

 

昼休み、大廊下には人だかりができていた。

 

石造りの荘厳(そうごん)な壁の一角に、学期末試験の順位表が魔法で貼り出されている。数十人の生徒が歓声を上げたり、溜息を漏らしたりする中、小柄な教授が鼻歌交じりに掲示の仕上げをしていた。

 

フリットウィック教授は満足げに一歩下がり、杖を軽く振った。次の瞬間、順位表の最上部に書かれた名前の上に、細い金糸で編まれたようなリボンと、光を帯びた星型のマークがふわりと浮かび上がる。一拍遅れて、生徒たちから「おお……」という声が漏れた。

 

セリクスは人混みから離れた壁際に立ち、騒々しい光景を静かに眺めていた。特に急ぐ様子もなく、腕を組んで待っている。

 

「見てこようか?」

 

(かたわ)らで様子を(うかが)っていたコーウェンが尋ねると、セリクスは無言で軽く頷いた。

 

人混みをかき分けて掲示の前にたどり着いたコーウェンは、素早く視線を走らせた。

 

1位 セリクス・ゴーント 754点

 

「うわぁ……。こんなの本当にありえるの?」

「満点以上って何よ……」

「あの金のリボンと星の装飾って魔法省の印のやつじゃん。すげぇ、本当にあるんだ……」

 

生徒たちがざわめき始める。

 

2位 セドリック・ディゴリー 658点

3位 マイルズ・ブレッチリー 656点

 

ブレッチリーは自分の名前を確認すると、一瞬顔が引き()った。セドリックとは僅差(きんさ)だったが、ハッフルパフ生に負けたという事実が受け入れられない。

 

「……ディゴリー? ……ハッフルパフの?」

 

苦しそうに呟く。唇が震えた。その直後、彼の視線が上へと移動し、そこに燦然(さんぜん)と輝く金色の装飾付きの名を捉えた。

 

「……ゴーント君……」

 

一瞬、呆然とし、次いで顔が真っ青になる。

 

「は? 754点……? 700点を超えている……? い、意味が分からない……」

 

4位 ロジャー・デイビース 642点

 

デイビースは結果を見て、にやけつつもあっけらかんと言った。

 

「あ、僕、4位か。ふふん、まあまあじゃない?」

 

そして、近くにいたブレッチリーに声を掛ける。

 

「実技は僕の勝ちってことで。ね、ブレッチリーくん、君の呪文学は何点だった?」

 

ブレッチリーが引き攣った笑顔で答える。眼鏡の奥の涼しげな瞳が鋭く光る。

 

「……呪文学が何点とか関係あります? 総合では僕の方が上ですが?」

 

空気が凍った。デイビースは総合点では下だが、実技でブレッチリーより上の科目があることを少し自慢したかっただけなのに、ブレッチリーの過敏な反応で気まずい雰囲気になってしまった。デイビースはそろりとブレッチリーから視線を逸らした。

 

テレンス・ヒッグスは真面目に順位表を確認していたが、思っていたより下で肩を落としている。

 

「25位……。思ったより下か……。やっぱり実技だな。あぁ、あの時ミスらなかったら……」

 

ブツブツと自己反省の言葉を呟く。

 

それを聞き取ったコーウェンがそばに来て、柔らかく声をかけた。

 

「気にしないで。努力はちゃんと実ってるよ」

「……でも君の方が上じゃないか……」

「でっ、でも、僕はDADAが苦手なんだ。ヒッグスの方がDADAの点数は上でしょ?」

「……うん」

 

微かに苦笑して、ヒッグスは言った。励ましは届いたようで届かない、それでも感謝の気持ちは表情に滲んでいた。

 

一方、ウィーズリーの双子は───

 

「俺たちって、意外と順位あったのな?」

「マジで? 下から数えた方が早いぞ?」

「ばーか、貼り出しに名前あるだけマシだって! 本当にヤバいやつはこれにも載ってねぇよ」

「いやマジで最下位に近……って、ゲッ! 先生!?」

「静かにせんか」

 

スネイプ教授がいつの間にか背後に立っており、2人はそろって跳ね上がった。スネイプ教授が双子の頭を鷲掴んだ。2人がスネイプ教授に抗議する声が聞こえてくる。

 

コーウェンが人混みから戻ってきて、セリクスに報告した。

 

「1位だったよ。ぶっちぎり。魔法でキラッキラに飾られてた」

「飾られ……。そうか」

 

セリクスはそれだけ言って、相変わらず騒ぐ生徒たちを静かに眺めている。特に喜びの表情も見せない。魔法で飾られていたということに多少の呆れはあるようだったが。

 

順位表の周りでは、セリクスの異常な点数を見た生徒たちがざわざわと噂話を始めていた。

 

「見た目だけじゃなかった……」

「只者じゃないって言うか……」

「今のうちにサインもらっとく?」

「将来有名人になるかもって?」

「そのために貰っとくの? えー……」

 

そんな中、人垣を抜けて歩いてきたブレッチリーが、セリクスの前で足を止めた。

 

「……君の勝ちです」

 

何のことだ、という顔をしたセリクスに、ブレッチリーが強い視線をぶつける。

 

「勝負、していたでしょう」

 

「ああ……」とようやく思い出したように返したセリクスの一言で、空気が妙にしんと冷えた。羞恥からかブレッチリーの頬に血の気が昇っていく。

 

気まずさにコーウェンが小さく肩をすくめる。

 

(やっぱり、忘れてたんだ……)

 

ブレッチリーにとっては重要な勝負だったが、セリクスにとってはその程度の出来事だったのだ。2人の間の温度差が際立った。

 

「まあ、とりあえずお疲れ様でした」

 

ブレッチリーは諦めの溜息をつきつつ、礼儀正しく言った。だが、内心では複雑な感情が渦巻いていた。もうこれでセリクスには到底敵わないことは理解したが、セドリック・ディゴリーやロジャー・デイビースに対しては別だ。特にハッフルパフのセドリックに負けたことが悔しくて仕方ない。

 

(ハッフルパフ風情に負けるなど、断じて許されない)

 

ブレッチリーは奥歯を噛み締めた。

 

順位表の前から人だかりが少しずつ散っていく中、セリクスとコーウェンも静かにその場を離れた。

 

「君って本当にすごいね」

 

コーウェンが改めて感心したように言う。この1年間で何度言っただろう。もう既に彼の口癖のようになっていた。

 

「普通のことだ」

「普通じゃないよ。満点以上なんて聞いたことない。フリットウィック先生も言ってたよ、快挙だって」

 

セリクスは大した感慨もなさそうに肩をすくめただけだった。

 

廊下を歩きながら、コーウェンは振り返った。まだ順位表の前で、ブレッチリーが難しい表情で立っているのが見えた。彼の中で新たな競争心が燃え上がっているのは明らかだった。

 

「来学期も大変そうだな……」

 

コーウェンは小さく溜息をついた。セリクスの圧倒的な実力が、周囲に様々な波紋を広げていくのを感じていた。

 

しかし、セリクス本人は相変わらず無表情で、そんな周囲の動揺など意にも介していない様子だった。

 

春の日差しが廊下に差し込む中、1年生の試験は幕を閉じた。しかし、この結果が生み出した新たな競争と嫉妬は、来学期へと持ち越されることになりそうだった。

 

 

 

 

 




【あとがき】
原作ではあんまり普段どんな授業してるのかとか、試験ではどんな内容をやるのかよく分からなかったです。どうやら1年生ではパイナップルにタップダンスをさせる魔法をやるらしいのですが、「パイナップルに……? タップダンス……? 何故???」となったので試験内容を捏造しました( ̄▽ ̄;)

浮遊魔法は1年生でやるけど、降下魔法はどうなんでしょうね? ホグレガでは5年生でやってましたけど……。きっと1年生ではやらない気がする。それを習う前のハロウィンのタイミングでやってのけたフレッドは、普通に呪文学が得意ということで。

『忘れ薬』調合にはマンドレイクは使いません。でもどうしても初恋マンドレイクちゃんを登場させたかったので、ちょっと無理やり出しました。これは魔法薬学のマンドレイクの下処理のテストをしたということでお願いします(>人<;)
生徒たちが下処理したマンドレイクたちは、きっとスネイプ教授が有効活用することでしょう。

セリクスとブレッチリーは無事(?)仲直りしました。いやそもそもセリクス的には、喧嘩した自覚もないかもしれません。
セリクスに敵意向けても柳に風なので、普通にやめた方がいいと思うんですけどね(°▽°)ワハハ

ブレッチリーはセリクスには到底敵わないと思い知って、次はセドリック相手にメラメラし始めました。セドリックが知ったら「僕何かしちゃった?(;'ω'∩)」と困惑しそうですね。基本的にスリザリン生のほとんどが、ハッフルパフ生を小馬鹿にしています。ハッフルパフ生にも頭が良い子はいるんですけど、みんな控えめなんですよね。
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