スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第1章 第25話 友人の初来訪/第26話 緊張のディナーと象牙の盤上

 

友人の初来訪

 

外部からは基本的に来ることの出来ないゴーント邸に、特別に魔法省管理の中継暖炉とゴーント邸の暖炉を一時的に繋げて貰っていた。午後、セリクスは自室の窓際に置かれた肘掛け椅子で『日刊予言者新聞』を読んでいた。魔法省関連の記事を斜め読みしていると、扉から小さなノック音が響いてきた。

 

「ぼっちゃま、お客様がいらっしゃいました」

 

セリクスは新聞を畳み、静かに立ち上がった。

 

「分かった」

 

ノクティに呼ばれて応接室へ向かうと、緑の炎が消えた暖炉の前にコーウェンとセドリックが立っている。アゼルが暖炉の煤を丁寧に払ってくれている最中だった。

 

「よく来たな。───っ!」

 

セリクスが挨拶をすると、セドリックの背の高さに軽い衝撃を受けた。夏の間に随分と伸びたようで、以前より少しだけ大人っぽく見える。頭半分ほど高い位置にあるセドリックの顔を、思わずまじまじと見つめてしまった。

 

「セリクス! 久しぶり!」

「お邪魔します」

 

セドリックは何も気付かなかったようで、明るく挨拶を返してきた。コーウェンも安堵の表情を浮かべて軽く手を上げる。コーウェンの背はほとんど伸びていないようだった。セリクスは謎の安心感を覚えた。

 

2人は応接室の広さと内装の豪華さにそわそわしている。天井の高さ、壁に掛けられた古い肖像画、精巧な家具の数々に圧倒されているようだった。コーウェンは天井の高さに目を丸くし、セドリックは壁に掛けられた絵画をじっと見つめている。描かれている男性に突然ウインクされて、肩がびくっと跳ね上がっていた。コーウェンがそんなセドリックを見て、クスクスと笑っている。

 

「とりあえず座ってくれ」

 

セリクスがソファを勧めると、アゼルが白磁のティーセットと幾つかの焼き菓子を運んできて、3人の前にそれぞれ置いた。上質な紅茶の香りが立ち上る。コーウェンが焼き菓子を見て顔をパッと明るくさせた。

 

しばらく静かにお茶を飲んでいると、応接室の扉が開いた。マウリシオが現れると、コーウェンの背筋がピンと伸びた。明らかに緊張している。

 

「父上。お疲れ様です」

 

セリクスが立ち上がって挨拶をする。マウリシオは軽く頷き、2人の客人に視線を向けた。コーウェンが慌てたように立ち上がり、手に持っていた包みを差し出した。繊細な刺繍が縁取りされた絹で包まれた箱状の物だった。焼き菓子か何かだろうか。

 

「お招きいただき……、ありがとうございます。こちら、つ、つまらないものですが……」

 

マウリシオは包みを受け取りながら、コーウェンを見つめた。

 

「マウリシオ・ゴーントだ。君の名前は?」

「コ、コーウェン・セルウィンと申します」

 

その名前に反応したマウリシオの表情が僅かに和らいだ。知っている家名だったのだろう。

 

「ありがとう。心遣い、感謝する」

 

一方、セドリックは小声でセリクスに詫びていた。

 

「ごめん、手土産用意してこなかった……」

「気にするな」

 

セリクスが短く答える間に、マウリシオがもう一つのソファに座った。

 

「君の名は?」

「セドリック・ディゴリーです。よろしくお願いします!」

 

セドリックが明るく自己紹介した。マウリシオの表情に微かな変化があった。やはり知る名だったらしい。マウリシオはまずコーウェンの方に視線を向けた。

 

「最近の生活や成績はいかがかな?」

「は、はい……。お陰様で良好です」

 

コーウェンの返答が途切れ途切れになっている。緊張のしすぎで要領を得ない。これではマウリシオには伝わらないだろう。セリクスが静かに口を開いた。

 

「彼は私の信頼できる同室です。記憶力が群を抜いていて、特に筆記が素晴らしいです」

 

さらっとしたフォローの一言で、場の空気が和らぐ。マウリシオは一度浅く頷いた。コーウェンが肩の力を抜いたのが分かった。

 

マウリシオはセドリックにも話を振る。

 

「セドリック君はどうかな?」

「授業は楽しいです! 特に変身術が好きです」

「そうか。変身術は難しい学問だ。君も優秀なのだろうな。──お父上は魔法省だったかな?」

「はい! 魔法生物規制管理部で働いています!」

 

セドリックは元気に応対するが、多少素朴で直球な返しだった。しかし、その誠実さがマウリシオには逆に新鮮で好印象だったようだ。

 

「なるほど。悪くない」

 

マウリシオが目を細めて小さくそう呟くと、おもむろに立ち上がった。結局紅茶には手を付けていない。

 

「私は仕事があるので先に失礼する。ゆっくりしていくといい。セリクス、後は任せた」

「はい。お任せください」

 

マウリシオが退室すると、コーウェンが大きく溜息をついた。

 

「緊張した……。威厳が半端ないよ……」

「お疲れ様」

 

セリクスには父親の威厳や威圧は、日常過ぎて慣れっこである。コーウェンを労う台詞も熱を感じさせないものだった。紅茶を飲み切ったセリクスが立ち上がる。

 

「邸内を案内しよう」

「やった! 見たい!」

 

豪邸探検を楽しみにしていたらしいセドリックが喜びの声を上げた。先程ウインクを飛ばしてきた肖像画の男性が、思わずといったようにクスクスと笑っていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

廊下を歩きながら、2人は辺りをキョロキョロと見回していた。長い廊下、壁に掛けられた肖像画、豪華な調度品に目を奪われている。セドリックが大きな壺を触ろうとして、コーウェンが真っ青になって止めていた。

 

「秘密の部屋とかある?」

 

セドリックが冗談まじりに聞くと、セリクスが振り返った。

 

「あるにはある。案内は……気が向いたらな」

 

セリクスの答えに、2人の目が輝いた。由緒正しき古の血筋であるゴーント家の秘密の部屋。中には何があるのか。金銀財宝か、はたまた古来より受け継がりし魔法道具か。2人の脳内では様々な妄想が繰り広げられていた。

 

ゴーント邸は非常に広大だった。廊下に面している扉の一つ一つは精巧な細工が施されており、審美眼の特にない2人の目すら楽しませた。大広間、食堂、キッチン、娯楽室、そして用途のよく分からない広い部屋。何故か片側にはステージと、白く艶やかなグランドピアノが置かれている──聞いたらダンスホールとのこと。ダンス!?──セリクスは途中まで丁寧に案内してくれたが、最後は面倒になったらしい。家族の居住するフロアに行き先を変更していた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

案内の最後にセリクスの私室に着くと、2人は更に驚いた。セドリックが天蓋付きの大きなベッドを指差して驚きの声を上げる。天蓋付きのベッドなんて物語の王族みたいだ。あまりに整然としすぎていて、生活感がほとんどない。玩具の類いも見当たらなかった。

 

「寝てるの? ここで?」

「……? ああ」

 

コーウェンはベッド横の本棚を見つめていた。分厚く頑丈そうな革装丁の専門書が大量に並んでいる。パッと見、児童書などはないようだ。本好きのコーウェンの瞳が輝いている。

 

「これ全部読んだの?」

「当然だろう。読まない本を置く意味はあるのか?」

 

セリクスの返答に、セドリックが感心したように手を叩いた。

 

「やっぱりすごい。何冊あるの? 壁一面が本棚で埋まっちゃってるじゃないか」

「普通はこのくらいないのか? よその家に行ったことがないから分からんが……」

「僕ん家はそもそも専門書自体父さんしか持ってないや。僕はまあ『吟遊詩人ビードルの物語』のシリーズくらいは読んだことあるけど……」

 

セドリックはどちらかというとアクティブな性格のため、好んで読書をする(たち)ではない。コーウェンは本棚に並んでいる本のタイトルを読みながら感嘆の溜息を吐いた。

 

「すごい……。このヴィンディクタス・ヴィリディアン著の『呪いの魔術的用途』とか絶版になってるのに、これ初版じゃないか……! 僕の家の蔵書にあるのは第6版だよ。しかもボロボロで……。どうやって手に入れたの?」

「普通に屋敷にあったが。ここ以外にも図書室があるから明日にでも案内しよう」

「わあ! 絶対だよ!」

「個人宅に図書室があることにまず驚こうよ……」

 

純粋に喜んではしゃいでいるコーウェンに対して、セドリックは呆れたように天井を仰いだのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

しばらくして、セドリックが手洗いを借りに部屋を出ていくと、コーウェンがセリクスに小声で話し掛けた。

 

「正直、緊張で手が震えてた。失礼だったらごめん」

「問題ない。父上は本当に不愉快な相手には微笑まない」

 

その言葉で、コーウェンの肩から力が抜けた。言葉は少なく簡潔だが、セリクスなりのフォローだった。コーウェンには十分な効力があったようだ。

 

「ありがとう……。君がいてくれて良かった」

 

セリクスは軽く頷くだけだったが、友人を安心させることが出来たようなので、内心では満足していた。コーウェンは少しの間下を向いて何事かを考えていたが、何かを決心したかのような目をしてセリクスの顔をじっと見つめた。

 

「正直に言うとね、父さんからマウリシオさんになんでもいいから気に入られてこいって言われてて……。友達のお父さんにそんなことしたくないって言ったし、兄さんも無理強いするなって言ってくれたんだけど……」

 

そう言いながらもコーウェンの顔色はどんどん悪くなっていった。もしセリクスに嫌われたらどうしようとでも考えているのだろう。しかし黙っていることも出来なかったのだ。性根が善良で正直者なのは損なのだなと、セリクスは少し同情した。

 

「別にコーウェンが父上に媚びを売っているだなんて思わない。お父上の言うことは気にしなくていい。コーウェンの好きにしたらいいんだ」

「あ、ありがとう……。そう言ってくれてすごいほっとした。……父さんは何を焦っているんだろう。セルウィン家なんかがゴーント家になんて釣り合うはずないのに……」

「君のお父上の考えてることは分からないが……。何があってもコーウェンと私の関係は変わらない。それにセルウィン家は由緒正しい家系だ」

 

セリクスとコーウェンは目を見合わせてほんの僅かに笑い合った。優しい時間がゆっくりと流れていく。セリクスはセルウィン家のこともコーウェンのことも見下さない。それだけは確信出来た。

 

窓の外では、ミレヴィエル湖の静かな水面が夕日に照らされて輝いている。友人たちとの穏やかな夏の午後が、静かに過ぎていこうとしていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

緊張のディナーと象牙の盤上

 

夕食の時間になると、ダイニングルームにはティフルが張り切って用意した豪華なディナーが並んでいた。銀の燭台に灯された蝋燭が温かな光を放ち、クリスタルのグラスが美しく輝いている。料理は芸術品のような美しさで、香りも格別だった。

 

マウリシオを含めた4人がテーブルに着くと、それぞれ異なる食べ方を見せた。

 

コーウェンは貴族の家系で育っただけあって、行儀よく正しい作法で食事を摂っている。背筋を伸ばし、ナプキンの使い方も完璧だった。

 

一方、セドリックは見様見真似でそわそわと食べている。フォークとナイフの使い方に少し戸惑いながらも、一生懸命マナーを守ろうとする姿が微笑ましい。

 

セリクスとマウリシオは黙々と、しかし非常に優雅に食事を進めている。2人の所作は完璧で、まるで舞踊を見ているかのような美しさがあった。

 

マウリシオが赤ワインのグラスを傾けながらコーウェンに視線を向ける。

 

「コーウェン君、ご家族のことを少し聞いても?」

「はい、父は最近忙しくしております。魔法省での新しいプロジェクトに携わっているようです」

 

コーウェンが丁寧に答える。

 

「兄君はどうかな?」

「兄も順調です。国際魔法協力部で研修を積んでおります」

「そうか。セルウィン家は優秀な方が多いようだ───」

 

マウリシオが満足そうに頷く。しかし、次の質問でコーウェンの表情が変わった。

 

「そういえば、叔母上のご近況は?」

 

コーウェンの顔が一気に蒼褪め、黙り込んでしまった。フォークを持つ手が僅かに震えている。

 

マウリシオは何かを察知したようで、すぐに話題を変えた。

 

「そうそう、セドリック君。お父上の魔法生物の研究は興味深いと思っていた」

「はい! 父は交雑種──つまり、異なる魔法生物の間に生まれた新しい種の調査と分類をしていて、時々面白い話を聞かせてくれます。最近では、キメラのような見た目なのに穏やかな性格の個体が見つかって、種として独立させるか議論になったそうです」

「……興味深い。魔法生物の交雑種は危険性の割に制御が難しいはずだが」

「はい。父も言ってました。理性を持たない種を掛け合わせるのは一種の賭けで、成功例は僅かしかないそうです」

「中には、学生が好奇心から禁じられた交配を試みた例もあったと聞いたが……」

 

セリクスが小さく咳払いをした。2人は流れるように会話していたが、思わずと言ったように口を閉じた。

 

思わぬ方向に話が転がったが、お陰で空気は和らいだようだった。コーウェンの蒼白かった顔色も幾分緩和されていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

なんとか食事を終えて、3人はセリクスの部屋に戻った。しかし、先程の件で微妙な気まずさが漂っている。

 

セリクスは何も感じていないような顔をしながら、静かに立ち上がった。クローゼットから美しい装飾の木箱を取り出し、蓋を開ける。中には象牙と黒檀の高級そうな魔法のチェスセットが収められていた。「自分の出番か?」とでも言うかのように、ナイトが勇んで小さい剣を振り上げている。

 

「チェスをしないか」

 

セリクスの提案に、コーウェンの顔がパッと明るくなった。ちょこちょこと小走りでセリクスの方へ近寄ってくる。

 

「ぜひ!」

 

ホッとした表情で快諾する。セドリックも「僕もやりたい!」と手を上げた。

 

 

 

チェス盤を囲んで3人が座ると、まずセリクスとコーウェンが対戦することになった。

 

「ポーンe4」

 

セリクスが静かに一手を指すと、小さな兵士の駒が勇ましく前進していく。剣を振り回しては無意味にポーズを決め、まるで勝利を確信しているかのようだ。そのコミカルな動きに3人は少し癒されていた。

 

「うーん……。ポーンe5」

 

コーウェンが慎重に応じる。セリクスは間を置かずナイトをf3へ進め、コーウェンもナイトをc6へ動かした。すると今度は、セリクスのビショップが滑るように盤上を横切り、黒のナイトへ鋭く圧をかける。

 

「えっ、もうそこ狙うの……?」

 

コーウェンはつい身をすくめた。盤上では、まだ駒同士がぶつかった訳でもないのに、黒のナイトがじりじりと後ずさるような仕草をしている。

 

その数手後、動揺したコーウェンがクイーンを動かした瞬間、それすら読んでいたセリクスのルークが盤上を滑った。盤上では駒たちが「チェックだ!」と誇らしげに叫び、黒い王様がしぶしぶ後退する。

 

20手ほどでキングが詰み、黒い王様は腰に手を当て、ぷんすか怒った仕草をしていた。

 

「参りました。……ごめんって。そんなに怒らないで」

 

コーウェンが苦笑しながら降参すると、周りの駒たちは一斉に勝者のセリクスに頭を下げていた。

 

 

 

次はセドリックの番だったが、彼はコーウェンよりも更に苦戦した。魔法のチェスに慣れていないこともあり、駒の動きに戸惑っている。また自信なさげな指示に対して駒たちが微妙に反抗してくるのだ。

 

「あれ、ナイト……ってどう動くんだっけ?」

「L字型だ」

 

セリクスが静かに教えると、ナイトは嬉しそうに「その通り!」と叫びながら、勝手に跳ねるように動いた。勢い余って隣のポーンを転ばせてしまい、セドリックが慌てて謝る羽目になる。

 

序盤はセドリックも果敢に攻めたが、動かす度に駒がいちいち文句を言ってくるのに手を焼いた。クイーンは「こんな位置じゃ働けないわ」と腕を組み、ルークは「早く前に出せ!」と騒ぐ。

 

「ちょっと静かにしてよ!」

 

セドリックが珍しく声を荒らげた隙に、セリクスのビショップが盤を滑るように進み、セドリックのクイーンをあっさりと討ち取ってしまった。

 

「え、うそっ……!?」

 

その後もセドリックは防戦一方。ナイトが「オレに任せろ!」と勇ましく突撃するも、相手のルークに一撃で倒されてしまい、あっという間に王手に追い込まれる。

 

15手ほどで敗北が決まり、白い王様は肩をすくめて溜息をついた。

 

 

 

最後にコーウェンとセドリックが対戦すると、こちらは接戦になった。

 

「そこだよ……。ポーンを前へ」

 

コーウェンが指示すると、白い兵士が短く「了解」とだけ答えて歩を進める。

 

「ええっと……ルーク、ここでいいよね?」

 

一方、セドリックは自信なさげに指示を出した。黒いルークは呆れたように肩をすくめるような仕草をして駒を滑らせる。

 

盤上は静かに進んでいたが、ところどころで駒がぼそりと文句を言う。「おい、もうちょっと考えてくれよ……」黒のナイトが小声で呟けば、白のビショップが「任務だ、従え」と淡々と返す。

 

セドリックは必死に食らいついていたが、最後はコーウェンの慎重さが上回り、黒のキングは追い詰められてしまう。

 

「……チェックメイト」

 

白いキングは誇らしげに胸を張り、セドリックの黒いキングは冠を深くかぶり直して黙って降参した。

 

「勝った……!」

「あーあ。負けちゃった……。でも次は負けないよ」

 

セドリックは肩をすくめながら苦笑する。

 

「君たち、上達が早いな」

「セリクスは強すぎるよ」

 

セリクスが珍しく褒め言葉を掛けると、セドリックが苦笑いしながら言い返した。

 

「どうしたらそんなに上手くなれるの……?チェス大会に出たら優勝しちゃうんじゃない?」

 

コーウェンはつんと唇を尖らせて僻みながらも称賛した。セリクスは魔法界にチェス大会があるのかと、そっちの方が気になってしまった。

 

「優勝すると良いことでもあるのか? 父上は私より数段上手いぞ」

 

2人は魔王のように敵をバッタバッタと薙ぎ倒すマウリシオを想像して、思わず身震いしてしまったのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

チェスを片付ける時間になると、セリクスは何気なく杖を取り出した。優雅な仕草で杖を一振りする。2人が止める間もなかった早業だった。

 

「《パック(詰めろ)》」

 

呪文と共に、散らばったチェスの駒が宙に舞い上がり、綺麗に木箱に収まっていく。ナイトは最後までキザな仕草で剣を振り回していた。

 

「「うわぁっ!!」」

 

セドリックとコーウェンが慌てたように立ち上がった。その反応の方にセリクスは驚いてしまい、目を見開いた。

 

「セリクス、学校の外で魔法を使ったら魔法省に捕まっちゃう……! 退学だよ!」

 

コーウェンが蒼褪めて言い募ると、セリクスが冷静に首を横に振った。目線は手元のチェスセットだ。まだ張り切って暴れているナイトの頭を、セリクスが駄目押しのように指先で押し込んでいる。完全な無感情の動作であった。その直後、蓋が飛んできてきちんとしまった。ナイトの大騒ぎは途端に聞こえなくなった。

 

「マグルの家でなければ、魔法省は見逃す。ここはゴーント邸だからな」

「え?」

「純血の魔法使いの家で、未成年が魔法を使っても、大人が近くにいれば問題ない。厳密に誰が魔法を使ったのかまでは感知出来ないんだろう。魔法省の監視はマグルの目を避けるためのものだ」

 

セリクスの説明に、2人は目を点にしていた。

 

「そんなルールがあったの?」

「知らなかった……」

 

2人は呆然としている。

 

「君たちは純血の家で育ったのに、そんなことも知らないのか?」

 

セリクスが不思議そうに首を傾げると、2人は顔を見合わせた。

 

「そんなの教えてもらったことない……。それに父さんも兄さんも魔法を使っちゃダメだぞ〜って……」

「うちも使って良いとか何も言ってなかったな……」

「我が家では使うのが当たり前のことだったが」

 

セリクスの無邪気な発言に、またも2人は自分たちの家庭環境との違いと言うか、教育方針の違いを実感することになった。

 

夜が更けていく中で、3人は静かに語り合った。ノクティが丁寧に淹れてくれたカモミールティーの香りが部屋に漂っている。話していくうちに格差を感じる瞬間もあったが、友情は確実に深まっていた。

 

ゴーント邸での夜は、こうして穏やかに過ぎていく。明日もまた、新しい発見と驚きが待っているのだろう。

 

 

 

 

 




【あとがき】
ゴーント邸の規模はマルフォイ邸に勝るとも劣らない程度にふわっとお考えください。貴族の豪邸とか見たこともないので全て想像で書きましたが、中世ヨーロッパの貴族の家なら、ダンスホールくらいありそうだな……という完全な想像です。

ちなみに所在地ですが、トム・リドルの母、メローピー・ゴーントの生家があったリトル・ハングルトンではありません。ゴーント家は元々このミレヴィエル湖の畔の屋敷に代々住んでいましたが、浪費の末に維持することが出来ず、マールヴォロ・ゴーントの時代にリトル・ハングルトンに落ち延びたという設定にしました。

セリクスの曾祖父、オミニス・ゴーントがホグワーツ卒業までいたのが、ここミレヴィエル湖の屋敷になります。放棄されて朽ち果てていた屋敷を買い戻したのがマウリシオの父親、カシュートス・ゴーントです。

コーウェンは脇役のオリキャラですが、セリクス並に裏設定が多いです。脇役というか裏主人公みたいなものなので、かなり設定を練り込んでしまいました。登場頻度も主人公並に多いですが、彼のことも気に入っていただけると嬉しいです(˶ᐢωᐢ˶)

セリクスは6歳からホグワーツ入学までの数年間を外の世界に出ないで育ったので、初めてのちゃんとした友人はコーウェンとセドリックになります。友達を自宅に呼ぶというのは彼の中で一大イベントなので、内心ではちょっとソワソワしています(笑)

セドリックは公式では『純血または半純血』とされているようですが、『スリザリンの末裔』における設定では純血としています。カンタンケラス・ノットが書いた『純血一族一覧』にはディゴリー家は載っていません。 一応純血だけど家柄としては庶民寄りという感じにしています。生活に困る程貧乏じゃなくて、そこそこ裕福寄りだけど、家に屋敷しもべ妖精はいないレベルかなぁと。

チェスについてですが、マウリシオは現時点でセリクスよりは強いですが、それは経験値の差です。地頭はセリクスの方が良いのであと何年かすれば、セリクスの方がマウリシオを圧倒すると思います。その時はマウリシオは少し悔しいけど息子の成長を喜ぶことでしょう。

ハリポタの名チェスプレイヤーといえばロンですね。じゃあロンとセリクスはどちらが強いんでしょうか? やってみなければ分かりませんが、2人がチェスで勝負することは多分一生涯ない気がしますꉂꉂ(ˊᗜˋ*)

私自身はチェス未経験で全然分かりません。作中のチェスの描写は一生懸命調べたものですが、もし間違っていても何卒ご容赦くださいませ_|\○_ε≡ ヽ__○ノ ズザー
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