スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第2章 第5話 二度はない/第6話 早く治りますように/第7話 謝罪と首席の秘密

 

二度はない

 

昼下がりの廊下には、突如として炸裂音が響いた。蒼白い閃光が走り、悲鳴が混ざる笑い声にかき消された。

 

「やった! これで3連続成功! 見たかジョージ!」

「見たさ、フレッド! でも次はあの爆発ボンボンの改良版───」

「お前たち! 何やってる!!」

 

ふざけて調子に乗っている双子に、冷や水を掛けるような怒鳴り声が廊下に響き渡った。双子の厳格な兄、パーシー・ウィーズリーが憤怒に顔を歪めて仁王立ちしていた。

 

「げっ! パースだ!」

「おい誰だよチクったやつ!」

「誰だっていいだろう! こんな物振り回して、もし誰かに怪我させたらどうするつもりなんだ!」

「あっ! やめろよ!」

 

パーシーがジョージの持っていた魔法薬の小瓶を取り上げようと手を伸ばした。しかしジョージは持ち前の運動神経でそれを身軽に(かわ)し、フレッドに投げ渡そうとした。

 

「ヘイ、フレッド! パス!」

「よっしゃ! ──あっ!」

 

しかしフレッドはその小瓶を取り損ねた。地面に落ち、粉々に砕けてしまう。その瞬間、衝撃で炸裂した小瓶が、制御を失った炎を()き散らした。それは双子の予想の数倍の威力、方向へ飛び散っていった。爆発音が連続で鳴り響き、灰色の濃い煙が廊下に充満した。たまたま廊下にいた女子生徒の悲鳴や、教授を呼ぶ男子生徒の声が聞こえる。

 

「ギニャ———!」

「うあぁっ!!」

 

廊下の奥の方からミセス・ノリスの悲鳴が響く。フィルチの愛猫も被害を受けてしまったようだ。そして、煙の向こうで倒れている人影が見えた。石床にふわふわの薄いミルクティー色の髪が散らばる。

 

「コーウェン!」

 

少し離れたところにいたセリクスが駆け寄ると、倒れているコーウェンの頬に赤く火傷の痕が広がり、左のこめかみから血が滲んでいるのが見えた。瞳は半ば閉じられ、意識が遠のいているようだった。

 

その光景を見た瞬間、セリクスの表情が氷のように冷たくなる。

 

「おい、ちょっと……。まずいかも……」

 

フレッドが蒼褪めて後ずさりしようとした時、セリクスが素早く振り返った。

 

無言のままフレッドに杖を向ける。セリクスの体から放たれた魔力は目に見えない波となって広がり、周囲の生徒たちが思わず一歩下がる程の圧を感じさせた。

 

───バチィンッ!!

 

声には出さない無言呪文の《エクスペリアームス(武装解除呪文)》。しかし、セリクスの込めた魔力は通常を遥かに超えていた。

 

瞬時に杖が吹き飛び、フレッドの体が弾かれるように後方の壁に叩きつけられる。ジョージが息を呑むのと同時に、辺りは水を打ったように静まり返った。

 

「っぐあああ!」

「───フレッド!」

 

フレッドの悲鳴が廊下に響く。パーシーが真っ青な顔で駆け寄った。

 

「何事だ!」

 

そこに誰かに呼ばれたらしいスネイプ教授が黒いローブを(ひるがえ)して駆けつけてきた。廊下の惨状を見て、眉をひそめる。当たりは焦げ臭く謎の煙が立ち込めている。壁の至るところに焦げ跡まであった。セリクスの足元に倒れているコーウェンを一瞥(いちべつ)し、教授の眉間に更に深い皺が寄る。

 

逃げたミセス・ノリスを追っていたらしいフィルチも半狂乱でやってきた。

 

「教授! ウィーズリーどもめが! 私のミセス・ノリスとあの男子生徒に怪我を負わせました!」

 

フィルチが激怒して叫ぶ。激情のまま彼が見た事実をスネイプに切々と訴えていた。フィルチの腕の中で保護されたミセス・ノリスが、傍目(はため)にも分かる程身を震わせている。

 

スネイプ教授は床に座り込むフレッドを見下ろし、冷たく言った。

 

「ウィーズリー、グリフィンドールから50点減点。そして罰則だ」

「でも先生、俺たちだけじゃ───!」

「黙れ。口答えするなら1人50点だ。2人合わせて100点の減点」

「そんな!」

 

スネイプ教授の声は冷たく、鋭い刃のようだった。そして視線をフレッドの横にいたパーシーにまで向ける。

 

「ミスター・ウィーズリー。君は双子と違い、品行方正の優等生と評判だが……。弟の振る舞いを矯正することは難しいようですな。来年には監督生確実との噂も、どうなることやら」

 

思い切り当て(こす)られ、屈辱にかパーシーの顔が真っ赤に染まった。鼻を鳴らしたスネイプ教授は、冷徹な視線をセリクスにも向ける。

 

「ミスター・ゴーント、20点減点。理由は冷静さを欠いた行動だ」

 

セリクスは目を伏せ、何も言わない。

 

「──ただし、無言呪文による正確な反撃と、抑制された呪文選択。20点加点。──差し引きゼロだ」

 

スネイプ教授は皮肉げな笑みを浮かべた。フレッドが抗議しようとしたが、咄嗟にパーシーに口を塞がれ言葉を出すことは出来なかった。

 

「3人とも罰則だ。今夜、魔法薬学室に来い」

「はい」

 

返事をしたのはセリクスだけだった。彼はスネイプ教授からもウィーズリー兄弟からも目を逸らし、倒れているコーウェンを見つめた。彼の傍らでしゃがみこみ傷口に杖を向ける。

 

「おい、何する気だよ……」

 

ジョージが恐る恐る口を出したが、セリクスは無視を貫いた。彼らに意識を向けるとセリクスは今まであまり感じたことのなかった怒りがまた湧き上がりそうになるからだ。

 

「《エピスキー(癒えよ)》」

 

杖先から温かい光が生まれコーウェンの傷口を優しく包み込んだ。流れていた血はそれで止まったようだが、傷口までは癒えなかったようだった。セリクスは軽く溜息をつくとコーウェンを優しく横抱きにし、医務室の方角へと静かに足を向けた。

 

野次馬をしていた複数の生徒たちに冷たい視線を向けられたウィーズリーの双子は、悔しげな顔をしながらもスネイプ教授に言いつけられた廊下の掃除を始めたのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

その夜、魔法薬学教室で罰則が始まった。

 

フレッドは大きな鍋を洗い、ジョージは棚の掃除と整理整頓をさせられている。だがその手付きは乱雑で丁寧さとは真逆の仕上がりになりそうだった。

 

一方、セリクスは魔法薬の調合の手伝いをしていた。薬草の下処理や材料の準備など、技術を要する作業だった。

 

「なんで俺たちだけこんなきつい作業で、あいつは楽な仕事なんだ!」

「差別だろこれ……!」

 

文句を言う2人に、スネイプ教授はせせら笑った。

 

「君たちに高度な魔法薬の調合を任せられるとでも思っているのか? ウィーズリー。君たちの技術では鍋洗いや掃除がお似合いだ」

 

スネイプ教授の(あざけ)りを含んだ台詞に更に双子の顔が大きく歪んだ。2人は頭が悪い訳ではないが、如何(いかん)せんスネイプ教授とは根本的に相性が悪かった。これで何度目の罰則か、反省もせず苛立ちが(つの)っていく。奥歯を強く噛み締めながら手を動かしている。

 

それを尻目にセリクスは無表情で黙々と薬草を刻んでいる。ベラドンナの葉を正確に等分し、ムーンストーンを正しい手順で細かく砕いていく。作業はどんどんと進みもう終わりが見えそうな程だった。

 

その手際の良さと正確さを見て、スネイプ教授は満足そうに頷いた。珍しく皮肉ではない笑みが口端に浮かんでいる。

 

「さすがだ、ミスター・ゴーント。完璧な前処理だ」

「いえ……」

 

どう褒められてもこれは罰則である。セリクスは入学してから初めての減点と罰則自体はどうとも思っていなかったが、未だに医務室にいるであろうコーウェンのことを考えるとどう頑張っても明るい気分にはなりようがなかった。

 

罰則を早く終わらせられれば消灯までに少しはコーウェンの元へ見舞いに行けるかもしない。その一心でセリクスは作業スピードを上げたのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

罰則が終わったその後、彼は医務室を訪れた。夜遅くの見舞いにマダム・ポンフリーはいい顔をしなかったが、憂いを帯びた美少年の上目遣いを受けて堅物のマダムが珍しく折れたのだった。彼が校内でも有名な天才優等生だと言うのも理由になったのかもしれない。20分だけですよとの念押しだけは忘れなかったが。

 

ベッドの上で、コーウェンが包帯を巻かれて眠っている。顔の半分が包帯で覆われており、痛々しい姿だった。

 

セリクスは近くにあった座面が丸いシンプルな椅子に座り、友人の寝顔を見つめながら眉をひそめた。

 

(───二度はない)

 

セリクスの心の中で、静かな怒りが燃えていた。その怒りが向かうのは傍迷惑(はためいわく)な双子にか、親友を護れなかった自分にか、はたまたゴーント家の子息が公衆の面前で感情を抑制できなかったからか、それは本人にも分からなかった。

 

窓の外では月が静かに輝いている。その柔らかな月光が窓を通してセリクスとコーウェンを優しく照らしている。セリクスはその光にほんの僅かに心が慰められる気がしたが、怒りが完璧に鎮火することはなかった。

 

彼の左手首で、バングルのエメラルドが怒りに呼応するように、僅かに赤みを帯びて光っている。アクアマリンも白く濁ってしまっている。

 

校医が10分ほど時間をオーバーしてから声を掛けてくるまで、セリクスは微動だにせず、ただ静かにコーウェンの寝顔を見つめていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

早く治りますように

 

事件の翌日、朝食を急いで摂ったセドリックとセリクスは、2人連れ立って医務室へ訪れていた。マダム・ポンフリーはスリザリン生のお見舞いにハッフルパフ生が来るとは思わなかったらしい。少し目を丸くした後、入室を許可してくれた。

 

白いシーツの上、包帯を巻かれたコーウェンが穏やかに微笑んでいた。病棟の窓からは秋の柔らかな朝陽が差し込み、空気は静かで、どこか別世界のようだった。

 

「大丈夫かい?  傷はまだ痛む?」

 

ベッドの脇に立つセドリックが、心から心配している声で尋ねた。コーウェンがくすぐったそうにはにかむ。

 

「包帯が大袈裟に見えるだけで、もうほとんど痛くないんだ。マダム・ポンフリーの薬のおかげで傷も残らないって。まあ原因が原因だから、今日いっぱいは入院してなさいだって」

「そっか、良かった」

 

セドリックは胸を撫で下ろすように笑い、袖口からちらりとバングルを覗き込んだ。

 

「いきなりバングルのアクアマリンが曇ったり、エメラルドが真っ赤になったりで何があったかと思ったんだ」

「心配かけてごめんね」

 

コーウェンは申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「取り返しがつかない怪我じゃなくてまだ良かったよ」

 

そう言ったセドリックは、少し笑って付け加えた。

 

「さっき朝ご飯食べてたら、セリクスが魔王になったとかって噂を聞いて、つい笑っちゃったけど」

「魔王って何?」

「なんか目が光ってたとか。フレッドがぶっ飛んで天井突き破ったとか?」

「何それ! 嘘だー」

 

コーウェンも笑いながら首を傾げる。コーウェン自身は気を失っていたので、昨日のセリクスの激怒を見ていない。魔王は言い過ぎだろうと思ったのだ。本当に突き破っていたら、今頃フレッドは死んでいるだろう。さすがに人が死んでいたら、セリクスは今ここにいない。アズカバン行きである。

 

「ていうか、そんなに怒ってくれたんだ。ありがとう、セリクス」

「……別に、怒ってない」

 

セリクスは短くそう返すと、視線を逸らし、ベッド脇のテーブルへ向かった。そこには、銀の縁取りがされたゴブレットが置かれている。中には淡い緑色の薬液が満たされていた。微かに湯気が立っており苦味を感じる匂いがした。

 

「これは?」

「あ、これは火傷の跡を消す薬ですよ」

 

後ろからやってきたマダム・ポンフリーが説明する。簡単な調合ならマダム自らが行うらしい。ちなみに難易度が高い物はスネイプ教授に作成を依頼するそうだ。

 

「バーニングセージが入っています。苦いですけど全部飲みなさいね」

「うっ……。はぁい……」

「それでしたら───」

 

ゴブレットを覗き込んだセリクスが淡々と口を開く。

 

「ムーンセルバの方が効き目がよく、苦味も少ないと『魔法薬草の新知見』第36巻の論文で報告されていました」

「……あ、あら、そうですか」

 

マダム・ポンフリーは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑んだ。

 

「あなた、まだ2年生なのに、そんな専門書まで読んでいるのですね。素晴らしいわ」

「ありがとうございます」

 

セリクスが軽く頭を下げる。ここまでまっすぐ褒められることは最近減ったこともあり、セリクスは僅かに面映(おもは)ゆそうな顔をした。

 

「今度、その文献を確認してみますね。より良い治療が出来るかもしれません」

 

マダム・ポンフリーが感謝を込めて言うと、セリクスは浅く頷いた後席に戻った。

 

コーウェンが苦そうな顔をして薬を飲み干すと、セドリックが軽く噴き出した。口の端に薬液が付いている。指摘すると恥ずかしそうにハンカチで拭った。

 

「ふふ。顔がくしゃくしゃになってるよ」

「だって本当に苦いんだもん」

 

コーウェンが(しか)めっ面をしていると、セリクスの左手首のエメラルドが、ゆっくりと元の美しい緑色に戻っていく。ひそかに昨日から続いていた怒りはようやっと鎮火してきたらしい。

 

コーウェンのアクアマリンも、透明感のある青色を取り戻していた。3人は示し合わせたかのように同時に左手首を持ち上げた。

 

「バングルの色が戻ったね」

 

セドリックが安堵の表情で言う。

 

「うん。もう大丈夫だよ」

 

コーウェンが微笑む。顔を覆う包帯は痛々しいが、その笑顔はいつも通り柔らかいものだった。

 

セリクスは静かに窓の外を見つめていたが、その表情は先ほどより穏やかになっていた。友人が回復し、平和な日常が戻ってきたことを、3人とも心から安堵していた。

 

医務室に差し込む朝の陽光が、3人の友情を温かく照らしている。

 

「明日には退院出来そう?」

「うん、マダム・ポンフリーが許可してくれれば。多分」

「それなら図書館で宿題を一緒にやろう」

 

穏やかな会話が続く中、セリクスは心の奥で静かに誓っていた。

 

二度と友人を傷つけさせはしない、と。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

医務室を出た2人は、言葉少なに寮へ戻る廊下を歩いていた。人気のない角で、セドリックが足を止める。

 

「セドリック?」

「…………」

「どうした?」

「……ごめん」

 

(うつむ)いたまま、セドリックが小さく頭を下げた。セリクスは謝罪の理由をすぐに察したが、納得出来ずに問い返すことにした。

 

「君から謝罪をされる(いわ)れはない」

「フレッドとジョージは……僕の幼馴染なんだ。だから───」

「それでもだ。そもそも私に謝ってどうする? 怪我をしたのはコーウェンだ」

「……そうだね」

 

セリクスは淡々と続ける。

 

「あのウィーズリーの双子は確かに君の幼馴染かもしれない。だがそれがどうした? 君が罪悪感を抱く必要はない。──私と君は親友だと思っていたんだが……」

 

その言葉に、セドリックはハッと顔を上げた。セリクスは視線を逸らし、足元を見つめる。

 

「まるで双子の方が身内で、私は君にとって部外者のようだ」

「そんなつもりはない!」

「分かっている。君に他意はない」

「でも……ごめん。僕、そんなつもりじゃ───」

 

セリクスは静かに背を向けた。その細い背中は、何故かひどく遠く見えた。セドリックは何故か置いていかれそうな気持ちになる。

 

「いい。──あの双子を責める資格は、元から私にはない。あの時は咄嗟に攻撃してしまった。これ以上は何かするつもりもない。彼らに怒る権利があるのはコーウェンだけだ」

「……うん」

「でもきっとコーウェンは怒らない。それがコーウェンだから」

 

小さく息を吐いて、セリクスは呟いた。

 

「だから私は双子のやったことを絶対に忘れない」

「……」

 

セドリックは言葉を失った。セリクスはそのまま静かに歩き出した。

 

セドリックはただ、柔らかな陽光の射す廊下の先で歩き去っていく、美しく伸びた背中を見送ることしか出来なかった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

謝罪と首席の秘密

 

医務室の一角。白いカーテン越しに差し込む光が、白いシーツに複雑な陰影を描いていた。包帯を外されたばかりのコーウェンがベッドに腰掛けている。その隣では、読んでいた本を閉じて立ち上がるセリクスの姿があった。

 

彼は静かに歩み寄り、コーウェンの顔を覗き込む。突然の距離に、コーウェンの肩がびくりと跳ねた。動揺のあまり、目線が右へ左へと泳ぐ。

 

「えっ、なに? どうしたの?」

「……傷痕も、もうないな」

「う、うん。マダム・ポンフリーのおかげだよ。まあ、ちょっとくらい残っても僕、男だし平気だけどね」

 

冗談めかして笑ったその言葉に、セリクスは少しだけ首を傾げた。

 

「いや、もったいないだろう」

「……えっ」

 

思わず固まるコーウェン。その瞬間、セリクスの唇が僅かに緩んだように見えた。

 

(もったいない!? ってどういう意味!? なにが!?)

 

コーウェンの頭の中で謎の警鐘が鳴る中、セリクスは小さく呟いた。

 

「綺麗に治って良かった」

「…………」

 

その瞬間、ノックの音と共に赤毛の上級生が入ってくる。いつ見てもしかつめらしい表情をしているが、今日はより一層厳しい顔つきをしていた。

 

「失礼。セルウィン君、ゴーント君、少しお時間いいかな」

 

入ってきたのはグリフィンドールのパーシー・ウィーズリーだった。2人の様子に一瞬狼狽(うろた)えたように目線を泳がせたが、気を取り直して律儀に制服の襟を正し、真面目な表情で頭を下げる。

 

「双子のことで、謝りたくて来たんだ。本当にすまなかった。」

「……僕はもう平気です。あなたがやった訳じゃありませんし」

 

コーウェンは静かに微笑みながら首を振った。彼の表情から本当に気にしていないのが分かる。呆れる程のお人好しだ。

 

「でも僕もあの現場にいて、双子の暴挙を止められなかった。咄嗟のことで体が動かなかったんだ。申し訳ない」

「いえ、タイミング的に止めるのは難しかったと思います。それに傷ももう治ってますから怒ってませんよ」

「……それでも、本来なら彼ら自身がすぐに来るべきだった。ちゃんと謝らせるよ。僕からも厳しく言っておく」

「は、はい……」

 

パーシーの真剣な口調に、コーウェンは気圧されて小さく頷いた。だがその隣で、セリクスは沈黙を破る。

 

「無理に謝罪させても、表面だけなら意味がない」

 

低く冷静な声が、空気をぴんと張り詰めさせた。

 

「コーウェンは優しいから許すと言うだろう。でも───」

 

セリクスのエメラルドの瞳が、パーシーを真っ直ぐに射抜く。その瞳はいつもより暗く輝いていた。

 

「私は、悪意には即座に応じる。それが誰であれ」

 

パーシーは少しだけ眉をひそめる。

 

「つまり……、あの場で魔法を使ったことを、悪いとは思っていない?」

「思っていない。……謝る気もない」

 

きっぱりとした返答に、パーシーは驚いたように目を見開いたが、すぐに苦笑を浮かべた。

 

「随分と、筋の通った言い方だね。正直でいい。……元はと言えば、悪いのはフレッドとジョージだ。君が怒るのも当然だ」

 

そう言って頷くと、パーシーはふとセリクスに視線を向け直した。

 

「君は、去年の1年生の首席だったね? 聞いたよ。『満点を超えた』って、教師たちの間で噂になってる」

「事実だ」

「……僕だって、満点を超えたことはない」

 

パーシーは複雑な笑みを浮かべながら、少し肩をすくめた。彼自身も学年首席である。

 

「君はどうやってそれを?」

 

パーシーの純粋な好奇心に、セリクスは少し考えてから答えた。度々聞かれる質問だが、毎回答えは同じだ。大抵相手を怒らせてしまうがセリクスは他に答えを持っていなかった。

 

「特別なことはしていない。授業を聞いて、理解しただけだ」

「それだけで?」

「あなたは授業を聞いていないのか?」

 

セリクスの何気ない返答に、パーシーが苦笑いした。不思議そうにしている様子に悪気はないのが分かる。

 

「僕なりにちゃんと聞いてはいるけど……。君ほど理解出来ているかは分からない」

「理解出来るまで考えればいい」

「なるほど……」

 

パーシーが感心したように頷く。到底真似出来ないということだけは分かった。

 

「君と話していると、なぜ君があれほどの成績を修められるのか分かる気がする」

「そうか」

 

セリクスの淡々とした返答に、パーシーは笑った。彼にしては珍しく屈託のない笑みだった。

 

「改めて、弟たちのことは申し訳なかった。もし何かあったら遠慮なく言ってくれ。あいつらがまた絡んできた時も」

「分かった。まぁ基本はどうにでもなる」

 

セリクスの淡泊な返事を聞いてから、コーウェンも笑顔で頷く。

 

「ありがとうございます、パーシー先輩」

「いや……。それでは失礼する」

 

パーシーが丁寧に一礼して医務室を出ていくと、コーウェンがセリクスを見つめた。

 

「君って、すっごく正直者だよね。他寮とはいえ先輩相手に物怖じしないし」

「当然のことを言っただけだ」

「でも、パーシー先輩も納得してくれて良かった」

 

パーシーとの会話で、改めてセリクスの考え方の一端が垣間見えた瞬間だった。彼は決して妥協せず、自分の信念を曲げない。もし万が一同じことが起こったら──恐らく二度とないはずだが──即座に反撃するだろうと思えた。

 

それが時として冷たく見えることもあるが、その誠実さこそがセリクスの本質なのかもしれない。冷静沈着、冷徹無表情で本性を覆い隠した優しい親友の顔を見てコーウェンは微笑んだのであった。

 

(……ああ、やっぱりセリクスは優しい。気付かれないように、そう見えないようにしてるだけで)

 

コーウェンはいつも通りの鉄面皮を見上げて、にっこりと笑ったのだった。

 

 

 

 

 




【あとがき】
言い訳させてください。私はフレジョが嫌いではありません! 嫌いじゃないんです! 大事なことなので(略)
映画版のフレジョは気の良い兄ちゃんですが、原作ではなかなかエキセントリックな双子ですよね。幼いロンに破れぬ誓いをさせようとしたと知った時は、ちょっと戦慄しました。
グリフィンドールから見たスリザリンは"悪の権化"ですが、スリザリンから見たグリフィンドールも"偽善者で迷惑な存在"。こういう視点の違いがたまらなく好きです。
ちなみにフレジョの成績はモンタギューより上の66位と68位。やる気がないので筆記は振るいませんが、実技の才能はあります。(※モンタギューは100人中70位)

セドリック謝罪の巻。書いてて「いや本当に謝る相手違うよね」って自分で突っ込みました( ̄▽ ̄;) セドリック関係ないし。
でもこういうことが起こると、セドリックって自責してつい"ごめん"って言っちゃいそうだなって感じてます。
良い子なんだけど、今回はちょっとズレちゃったかな。
セリクスはとりあえず怒りは引っ込めたけど、執念深くずっと覚えてます。なんせ属性"蛇"な男なので:( ;´꒳`;):

原作も映画もパーシーって登場回数も台詞も少なくて、正直まだキャラを掴みきれてません。
兄弟のことで彼が謝りに来るかどうかも分かりませんが、まあ「私のパーシー」は責任感が強いということで(;^ω^)
セリクスの"授業を聞いただけでテスト満点"は、まさに学生の夢ですよね。私もそんな頭脳ほしかったです。
ウィザーディング・ワールドにIQテストは存在しませんが、一度測ってみてほしいですよね。
フレジョはスリザリン大嫌いですが、さすがに怪我をさせたことは内心少し気にしていると思います。
それでも直接スリザリンに謝りには行けません。コーウェンに恨みがあるわけではなく、そこは"意地とプライド"というやつです。
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