スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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3章 3年生編 【賢者の石】
第3章 第1話 黒衣の来訪者/第2話 星降る夜に贈る想い


 

黒衣の来訪者

 

夏季休暇が始まってから、静かな日々が1週間ほど続いていた。ダイニングルームには穏やかな静寂が漂っていた。窓から差し込む陽光が、白いテーブルクロスの上で踊っている。セリクスは丁寧にナイフとフォークを使い、ベーコンエッグを口に運んでいた。

 

向かいに座るマウリシオは、いつものように『日刊予言者新聞』を広げている。新聞をめくる音だけが、静かな朝の空気を破っていた。

 

セリクスが最後のクロワッサンを食べ終え、ナプキンで口元を拭うと、マウリシオがゆっくりと新聞を畳んだ。

 

「今日からレオが我が屋敷に来る」

 

その言葉に、セリクスの手が止まった。エメラルドグリーンの瞳が見開かれ、普段の無表情がほんの少しだけ崩れる。

 

「レオさんが? いつまでですか?」

 

声に含まれた驚きと期待を隠し切れずにいるセリクスを見て、マウリシオの表情が僅かに和らいだ。

 

「期限は未定だ。少し彼の力が必要になってな。新学期からはお前はホグワーツに行くから、あまり関係はないが」

「いえ、教えていただきありがとうございます」

 

セリクスは背筋を伸ばし、丁寧に頭を下げる。しかし、その後に続く言葉には、抑えきれない懐かしさが滲んでいた。

 

「……7年ぶりくらいですかね。懐かしいです」

「そうか、お前はそのくらいは会っていないか」

「勉強を見て貰っても構わないでしょうか?」

「レオがいいと言えばな」

 

その瞬間、セリクスの頬にほんのりと血の気が上った。普段の鉄壁な無表情からは想像もつかないほど、嬉しそうな表情を浮かべている。その顔を見てマウリシオの口角が微かに上がった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

夏の陽射しが西に傾いた夕刻、広い玄関ホールに乾いた独特な破裂音が響いた。姿現わしの音である。

 

「レオさん」

 

セリクスが呼び掛けると、振り向いたのは全身黒ずくめの格好で、黒髪の端正な顔立ちの青年だった。実年齢を感じさせない若々しい容貌に、温和な笑みを浮かべている。透き通った灰青色の美しい瞳がセリクスを(とら)えた。

 

「久しぶりだね、セリクス。随分大きくなった。元気にしていたかい?」

 

その声は7年前と何も変わらず、セリクスの記憶の中の優しい音色そのものだった。

 

「はい。レオさんは……お変わりなく」

「ああ。今日からお世話になるよ。マウリシオさんは?」

「父上は仕事です。もうすぐ帰ってくるはずです。……それまで、お茶でもいかがですか?」

「いいね」

 

2人は足音を小さく響かせながら応接室へと向かった。セリクスの歩調は、いつもより僅かに弾んでいる。

 

しばらくするとアゼルが現れた。いつもの落ち着いた様子とは違い、耳をぴくぴくと震わせながら、慎重にゴーント家所蔵の最高級ティーセットを運んでくる。

 

「ありがとう。……アゼル、だったね?」

 

レオの言葉に、アゼルの大きな目が更に見開かれた。

 

「アゼルの名前を憶えていてくださった……! 尊きお方。あなた様のお世話は、アゼルが誠心誠意込めてさせていただきます」

「堅いなぁ。まぁよろしくね」

 

レオが苦笑いを浮かべると、セリクスが口を挟んだ。

 

「アゼル、私とレオさんは話をするから、父上が戻ってきたら教えて」

「はっ!」

 

アゼルは深々と頭を下げ、その場でバチンと姿くらましをした。

 

応接室に2人だけの空間が生まれる。レオは優雅にティーカップを持ち上げ、湯気の立つ紅茶を一口含んだ。

 

「美味しい紅茶だ。相変わらずアゼルの腕は確かだね」

「レオさんがいらっしゃるということで、特別に上等な茶葉を用意したようです」

 

セリクスもカップに口をつける。アールグレイの芳醇(ほうじゅん)な香りが鼻腔をくすぐった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

1時間ほど談笑していると、2人の横にアゼルが突然現れた。会話が唐突に終わる。アゼルは深々とお辞儀をしながら言った。

 

「ご主人様のお戻りでございます」

 

その台詞と同時に廊下の方から、静かな足音が聞こえてきた。セリクスが立ち上がると、マウリシオが応接室の扉を開けて現れた。

 

「おかえりなさいませ、父上」

「今戻った。……久しぶりだな、レオ。来てくれて感謝する」

「久しぶり。マウリシオさんのお願いなら断れないさ」

 

レオは軽やかに笑いながら答える。その表情には、どこか懐かしむような色が浮かんでいた。

 

「早速だが、ディナーが終わったら話がある。書斎に来て貰えるか」

「いいよ」

 

その時、セリクスが遠慮がちに口を開いた。

 

「父上、すみません。今年もコーウェンとセドリックを招いてもいいでしょうか? 1週間ほどでいいんですが……」

「彼らをか……?」

 

マウリシオの表情が僅かに曇る。視線がちらりとレオの方へ向いた。

 

「今はタイミングが悪い。彼らには悪いが……」

 

そこでレオが手を上げて(さえぎ)った。

 

「いいんじゃない? セリクスのお友達でしょう? 私も挨拶くらいはしたいし」

「……レオがそう言うなら」

「ありがとうございます。レオさん、父上」

 

セリクスの顔に、再び嬉しそうな笑みが浮かんだ。

 

3人で囲んだディナーは、普段より更に手の込んだ一皿一皿が運ばれた。ティフルが本気を出した成果なのだろうと、セリクスは内心で苦笑する。普段が手を抜いている訳ではないだろうが、デザートに出てきたドラゴンの形をした飴細工には思わず笑ってしまったのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

夜。セリクスは静かな自室で、革のブックカバーがかけられた日記帳を広げていた。藍色のインクに、星屑のようなラメが煌めく。

 

 

 

✒︎───────❖───────✒︎

7年ぶりに、レオさんに会えた。

容姿がほとんど変わっていない。不老不死の妙薬でも飲んでいるのかと疑うくらいだ。

あれでもうすぐ30歳? 精々20代前半にしか見えないが。

性格も変わらない。私を変わらず優しい声で「セリクス」と呼んでくれる。

✒︎───────❖───────✒︎

 

 

 

筆を止め、セリクスは窓の外の星空を見上げた。今夜のインクは、いつもより煌めいて見える。

 

 

 

✒︎───────❖───────✒︎

魔法薬学の課題、レオさんに見てもらえばもっと深められるはず。

縮み薬の応用や材料の選定理由など、理論的な部分を聞いてみたい。

ティフルの料理が今日は格別だった。ドラゴンの飴細工はやりすぎな気もするが。

アゼルは緊張で耳を震わせていた。あれはどういう意味だったのだろう?

✒︎───────❖───────✒︎

 

 

 

文字を書き進めるうちに、セリクスの胸の奥で小さな疑問が膨らんでいく。

 

 

 

✒︎───────❖───────✒︎

父上が「レオさんの力を必要としている」と言っていた。何をしているのだろう。

私はまだ13歳の子供だから、話していただけないことがあるのは分かっているけれど……ほんの少しだけ、寂しい気がする。

もうすぐレオさんの誕生日だ。コーウェンとセドリックに相談して何か贈ろう。喜んでくれるといいが。

✒︎───────❖───────✒︎

 

 

 

「また長くなってしまったな……」

 

呟きながら日記帳を閉じる。セリクスは再び窓の外を見つめた。夜空に散らばる星々が、まるで日記帳のインクのように深い藍色に輝いている。

 

コーウェンとセドリックにはなんてレオを紹介しよう。逆にレオには、なんて彼らのことを説明しよう。

 

そんなことを考えながら、セリクスは久しぶりに温かい気持ちで眠りについた。7年ぶりの再会がもたらした静かな喜びとともに。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

星降る夜に贈る想い

 

レオがゴーント邸に滞在してから3週間ほどが経った。午後の陽光が自室の窓から差し込む中、セリクスは魔法薬の調合に集中していた。大鍋をぐるぐるかき混ぜていくと、魔法薬がどんどん透明になっていった。大鍋から立ち上る蒸気が、ゆらゆらとセリクスの視界を歪ませている。

 

「その通りだ。火加減が完璧だね」

 

レオの声に、セリクスの口元が僅かに緩んだ。3年生の範囲などとうに終え、今は高学年向けの複雑な調合を学んでいる。ホグワーツの教授陣より遥かに分かりやすい説明に、内心で苦笑を禁じ得なかった。

 

「次は閉心術の復習をしようか」

 

レオの提案に頷きながら、セリクスは大鍋の火を消した。この3週間で、閉心術と開心術の熟達、果てはオブリビエイトのような危険な魔法まで叩き込まれている。明らかに学生相手に教えるものではないが、信頼するレオのことだ。疑問を抱きながらも、セリクスはそのまま知識を吸収し、心を研ぎ澄ませていった。

 

ホグワーツからの新学期の手紙が届いたのは、ちょうどその頃だった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

コーウェンとセドリックが、魔法省経由の煙突飛行ネットワークでやって来たのは、午後の陽が傾き始めたころ。応接室で待機していたセリクスとレオのもとに、(すす)で汚れた2人が姿を現した。アゼルが慌てて煤を払う中、懐かしい声が響いた。

 

「セリクス。久しぶり!」

「よく来たな」

 

コーウェンの弾んだ声に、セリクスの表情が和らぐ。続いて現れたセドリックは、(かたわ)らに立つ見知らぬ大人を見て戸惑っているようだった。

 

「こんにちは。……えぇっと」

「彼は母方の遠縁の親戚だ」

 

セリクスの紹介に、レオが温和な笑みを浮かべる。

 

「初めまして。レオ・ノックスといいます。セリクスがお世話になってるね」

 

柔らかい口調とは裏腹に、レオの(まと)う雰囲気にはどこかしら圧があった。貫禄、とも呼べるものかもしれない。2人は姿勢を正しながら、ぎこちなく頭を下げたのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

そのまま4人は応接室でアフタヌーンティーを囲むことになった。ティフルが用意したのは、金彩のティーセットに、絞り模様のケーキ、宝石のような焼き菓子たち。給仕はノクティがしてくれた。いつもより遥かに豪華な歓待に、コーウェンとセドリックの目が輝いた。

 

談笑が弾むなか、レオがふと懐かしむように語り始めた。

 

「セリクスは今でこそこんなすました顔をしてるけど、小さい頃は本当にニコニコしていて可愛かったんだ。ほっぺたもぷくぷくでね。見ているだけで、ずいぶん癒されたよ」

 

レオの言葉に、セリクスの背筋がぴんと伸びる。嫌な予感がした。

 

「よく私にも『レオしゃんレオしゃん、だっこちて?』って甘えてきてさ」

「レオさん、やめてください」

 

普段の無表情が崩れ、明らかに困惑した表情を浮かべるセリクス。その様子に、コーウェンとセドリックは必死に笑いを(こら)えている。

 

「マウリシオさんとセレスティアさんは仲睦まじい夫婦だったからね。2人がデートしてる間は私がセリクスを預かってたんだよ。『行かないでー』って泣いて泣いて大変だったな」

「レオさん……もう本当に、そのくらいで……」

 

珍しく、露骨に弱った顔を見せるセリクスに、コーウェンとセドリックは堪えきれずに笑ってしまった。応接室が明るい雰囲気に包まれている。

 

「レオさんはどちらの寮だったんですか? やっぱりスリザリン?」

 

セドリックの質問に、レオの表情が一瞬曇った。

 

「あー……。私はホグワーツ出身じゃないんだ。でも学生時代、噂には聞いていたよ。スリザリンは仲間思いの素晴らしい寮だって。あと、クィディッチが強いことでも有名だったかな」

「え? そうなんですか? レオさんが学生の頃って、どんな選手がいたんでしょうね?」

 

興味深そうに首を傾げる2人を横目に、セリクスはじっとレオの表情を見つめていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

翌日、3人だけでダイアゴン横丁を訪れた。新学期の準備と、レオへの誕生日プレゼントを探すためだった。石畳に朝の光が踊り、早くも賑やかな人々の声が響いている。

 

教科書や道具類はすぐに揃った。途中、魔法生物ペットショップの前で、毛並みがふさふさの赤茶色の大猫にコーウェンとセドリックが夢中になってしまった以外は。

 

「可愛い〜」

「本当だ、可愛いね。……飼いたいなぁ。母さんに聞いてみようかな……」

「いいなぁ。僕の母さんは動物の毛が駄目なんだ。くしゃみと涙が止まらないんだって」

「そうなんだ……。それはつらいね。……猫ちゃん、こっちおいで」

「ぶにゃー」

「返事した! 可愛い!」

 

どうやらセドリックが本格的に購入を検討し始めたらしい。愛想のほとんどない猫の、低い返事にすら喜んでいる。

 

(鼻が低いし、あまり可愛いとは思えないが……)

 

セリクスが密かに評価を下していると、背後から声が掛かった。

 

「もしかして……セリクス?」

 

後ろから聞こえた声に振り返ると、プラチナブロンドの髪が陽光に映える少年と、その母親が立っていた。

 

「ああ、ドラコ。久しぶり。ナルシッサ様もお久しぶりです」

「ご機嫌よう」

「久しぶり! 新学期の買い出しかい?」

「……ああ。君も?」

「そう! 今ちょうどマダム・マルキンで測ってきたところさ」

「そうか。……あまり引き留めてはいけないな。またスリザリンで会おう」

「うん。もちろん!」

 

言葉少なに別れを告げ、2人は再び歩き出した。セリクスがそれを見送っているとコーウェンとセドリックが合流してきた。保護者からの許可を得ないと買えないらしい。3人はそのまま他の店で買い物を続けることにした。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「そういえば僕、杖のメンテナンスしたいな。オリバンダーの店に行きたい」

 

コーウェンの提案で向かったオリバンダーの店は、昼間だというのに薄暗く、杖の箱が天井まで積み上げられていた。

 

「ぶなにユニコーンの尻尾の毛、11インチ、ややしなやか。ふむ、少し待ってなさい」

 

オリバンダーがコーウェンの杖を受け取り、手早く検査を始める。メンテナンスが終わると、その銀色の鋭い目がセリクスに向けられた。

 

「おや、あなたは? 私は全てのお客さんを憶えているが、あなたは初めてのようだ。どれ、杖を見せてごらんなさい」

「いや、私は……」

「セリクス、ここでは買わなかったの? メンテナンスはここでもいいだろうし、見て貰えば?」

 

セドリックの勧めに、セリクスは渋々杖を手渡した。

 

「ふうむ……これは私の作品ではないな。……おお、もしやこれはスネークウッド……?」

 

オリバンダーの手が、急に熱い物を触ったように杖から離れる。

 

「杖が拒絶しておる。どうやら私にはメンテナンスも難しいようだ。まだ大丈夫だろうが、あと数年する頃には元の作成者に一度見せた方がいいでしょう」

 

杖を受け取りながら、セリクスは複雑な気持ちになった。ここでメンテナンス出来ないのは不便極まりない。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

店を出た後、コーウェンとセドリックが興味津々に問い掛けてきたため、休憩ついでにフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーへ向かった。店舗の日陰の席で、3人は冷たいアイスクリームを味わっていた。

 

ちなみにセリクスはチョコミント、コーウェンはバニラ、セドリックはピスタチオのアイスを選んだ。性格が出ている。

 

「これは昔、アメリカの魔法学校・イルヴァーモーニーの校庭に植わっていたスネークウッドの一部を父上が特別に譲り受けて、グレゴロビッチに作成を依頼したものだ。芯材は角水蛇(ホーンド・サーペント)の角片。予知と治癒の特性があるらしい」

「でも君、予言の才能は皆無って言ってなかった?」

「皆無だ。ついでに治癒魔法も苦手分野だ。杖の忠誠心を完璧には得られていないのかもしれないな」

「セリクスにも苦手なものがあったんだねぇ」

「……どういう意味だ」

 

セリクスがむすっと口を(つぐ)むと、コーウェンとセドリックは慌てて(なだ)めにかかった。アイスを食べ終わると、次の目的地へ向かった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

去年も立ち寄った不思議な雑貨屋の前で、3人は足を止めた。何故か足が引き寄せられるように立ち寄ってしまうのだ。

 

「バングルもここで買ったし、レオさんに似合う何かがあるといいねぇ」

 

コーウェンののんびりとした声に、セリクスは頷く。

 

「レオさんって何が好きなの?」

 

セドリックが店内に目を走らせながら言った瞬間、店の奥からひらりと魔女が現れた。

 

「あら、去年も来た坊やたちじゃない。何かお探し?」

「親戚の兄さんの誕生日プレゼントを」

「お兄さんねぇ……。20歳くらい? 腕時計とかどう?」

「いや、もう少し離れてて……」

 

セリクスが店内を見回していたそのとき、ふと、一つの品が目に留まった。

 

「これは……」

 

それは黒い宝石が嵌め込まれた指輪だった。黒い石の中心で、細い星の筋が静かに瞬いている。

 

「あら、お目が高いわね。それはブラックスターサファイアよ。綺麗に星が出てるでしょう? 魔法効果が1つだけ込められていて、夜の間だけ守護の魔法が働くの。あなた可愛いから、少しおまけしてあげるわ」

 

魔女の魅力的なウインクは、セリクスではなくたまたま後ろにいたセドリックに効果があったようだ。セドリックの頬が僅かに赤らむ。

 

「そのまま指に()めてくれるとも思えない。チェーンも貰えるだろうか」

「あるわよ〜。これくらいの太さのチェーンでどうかしら?」

「ふむ。これは銀製か?」

「まさか。プラチナよ。あなたなら買えるのではなくって?」

「……まぁいいだろう」

 

セリクスは指輪とチェーンをまとめて購入した。価格を見たセドリックは、思わず(うめ)いた。セドリックの考える子供の小遣いを超えている。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

その夜、ディナーを終えた後、セリクスはレオが滞在している客間を訪れた。ノックの音が静寂を破る。

 

「レオさん。少し早いですが、お誕生日おめでとうございます」

 

丁寧に包装された小包を、そっと手渡す。

 

「ありがとう。何かな?」

 

丁寧に包装を剥いだレオの指先が止まる。現れたのは、星のような輝きを(たた)えた黒い宝石の指輪だった。

 

「これは……」

「ブラックスターサファイアです。ささやかですが、贈り物を。気に入っていただければ」

 

レオは黙って宝石を見つめ、そして視線を伏せた。その横顔を、セリクスは黙ったままじっと見つめていた。

 

「ありがとう。大事にするよ」

「チェーンも入ってるので、ペンダントにでもしてください」

「至れり尽くせりだね。……そうさせてもらうよ」

 

窓の外では星々が静かに瞬いている。2人は残り少ない夏休みを惜しむように、深夜まで語り合った。星降る夜に贈られた想いとともに。

 

 

 

 

 




【あとがき】
第3章、3年生編『賢者の石』が始まります。
今回、初登場のレオは、セリクスの母方の親戚で、彼のお兄さんのような存在です。
7年ぶりの再会に、普段無表情なセリクスが嬉しそうな顔を見せます。
こんな表情見せるんだ!ってきっとびっくりすると思います( *´艸`)

2話の冒頭で調合しているのは『生ける屍の水薬』です。セリクスはまだ3年生なのに、6年生で習う魔法薬を作っています。

途中で出会うドラコは、マダム・マルキンの店からの帰りです。実は原作では、ハリー・ポッターと同時に採寸しているんですよね。映画ではそこが丸ごとカットされてるので、原作読んだ人だけが「あー」ってなるかもしれません。

セリクスは大体の魔法が得意ですが、予知と治癒の魔法だけは大の苦手です。治癒は軽傷を《エピスキー》でかろうじて治せる程度。彼も完璧超人じゃないってことですね( ̄▽ ̄;)

ブラックスターサファイアの価値はピンキリです。高いものは目が飛び出るほど高価ですが、安いものなら私でも手が出ます。多分普通の13歳なら「わぁ(っ’ヮ’c)」ってなるくらいですかね。いやでも、プラチナチェーンも一緒に買ってるから、やっぱり買うの躊躇しそう……。
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