スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第3章 第5話 神頼みのクィディッチ選抜/第6話 グリンゴッツの謎

 

神頼みのクィディッチ選抜

 

9月も中旬を迎え、ようやく夏休みの感覚が抜けてきた頃。大広間に朝の光が差し込む中、セリクスは静かに朝食を摂っていた。切り分けられたソーセージを口に運ぶその所作は、いつもながら完璧に洗練されている。

 

そこへ、足音を響かせながらエイドリアン・ピュシーが近付いてきた。その表情には、妙な決意のようなものが浮かんでいる。その勢いにセリクスは、嫌な予感がした。

 

「ゴーント。拝ませてくれ!」

 

フォークを止め、セリクスは眉をひそめた。こいつはいきなり何を言っているのか。

 

「……? 拝む、とは?」

「夏休み中に本で読んだんだ。東洋の島国では何か願い事があるときは、ゴシンボク?とか、ゴホンゾン?とか、神様っぽいものに手のひらを合わせて願うと叶うって!」

 

ピュシーは興奮気味に身振り手振りを交える。その様子を見て、セリクスの眉間の皺が深くなった。

 

「今日のクィディッチの選抜、今年こそ受かりたいんだ!」

「それで何故私なんだ」

「ゴーントならなんか叶えてくれそう!」

 

まるでグリンデローを見るような、もしくはアクロマンチュラに対するような冷ややかな目でピュシーを見たセリクスは、呆れたように一言。

 

「意味が分からない」

「今日選抜なんだ? 頑張ってね。僕、見学しに行こうかな?」

 

コーウェンが場の空気を和らげるように割って入る。その優しい声に、ピュシーの表情が明るくなった。セリクスは怪訝そうな顔でコーウェンを見る。

 

「試合でもないのに。物好きだな」

「セリクスも行くでしょう?」

「何故私が?」

「えー。行こうよ。友達が頑張ってるんだし……」

 

コーウェンの説得に、セリクスは小さく溜息をついた。結局、今年も引っ張られて見学に行くことになりそうだ。普段控え目なコーウェンだが、ことクィディッチに関することは驚く程強引になることがままあるのだ。

 

そしてその後結局、しっかりピュシーからは念入りに拝まれてしまった。それは座っているセリクスの前で両膝をつき、両手を合わせて何事かをブツブツ呟くという、セリクスからしてみれば凶行としか言えないものだった。しかも大広間での犯行(?)だったのでその異様な光景は大多数の生徒に見られてしまった。

 

問題は、セリクスが普段通り背筋を伸ばして堂々と座ったまま無表情で拝まれている姿が、まるで崇拝を当然のように受け入れているかのように見えたことだった。内心では(何故こうなった……)と困惑していたにも関わらず、他の生徒たちには「やはりあの人は自分を特別な存在だと思っているのだ」という、またしてもあまり良くない印象が深く刻まれてしまった瞬間だった。

 

まさしく災難である。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

クィディッチ競技場には秋の風が吹き抜けていた。観客席から見下ろすクィディッチ・ピッチでは、新キャプテンに任命されたマーカス・フリントが大張り切りで選抜を取り仕切っている。

 

「今日で3枠埋める! 本気で来いよお前らぁっ!」

 

フリントの大声が風に乗って響き渡った。

 

卒業によって空いたチェイサー1枠、ビーター2枠。ピュシーはチェイサー、モンタギューとワリントンはビーター狙いだという。

 

「3人とも、すっごく練習してたんだ。ほら見て、ピュシー、結構速いよ!」

「姿勢が良いな」

 

空中を駆け抜けるピュシーの飛行フォームを見ながら、セリクスは素直に評価する。

 

「モンタギューとワリントンは3年生にしては大きい方だけど、あの先輩たちの方が大きいねぇ。勝てるかな?」

「さあな」

 

コーウェンの指差す方を見ると、確かにビーターの選抜を受けている体格の良い上級生が2人いた。ブラッジャーを打ち返す速度も威力も、モンタギューとワリントンの数倍は強いようだ。

 

選抜が終わり、フリントの大声が再びピッチに響く。

 

「チェイサーは、ピュシー! ビーターには、デリックとボールだ!」

 

大柄な上級生2人は喜びを爆発させ、拳をぶつけ合っている。一方、モンタギューとワリントンは明らかに肩を落としていた。ピュシーは友人たちを気にかけて、喜びを素直に表現出来ずにいるようだ。

 

「終わったな。図書室に行かないか?」

「それは後にして、モンタギューとワリントンを慰めてあげて、ピュシーのお祝いもしないと!」

 

クィディッチのことになると、いつもの遠慮がちなコーウェンが別人のように積極的になる。セリクスはまたもや小さく溜息をついた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

先に談話室で戻って待っていると、5人組が戻ってきた。既存メンバーのブレッチリーとヒッグス、新しくチェイサーに決まったピュシーが、落選したモンタギューとワリントンを懸命に慰めている様子が見て取れた。

 

「みんな、お疲れ様! モンタギュー、ワリントン、惜しかったね……」

 

眉尻を下げて声を掛けるコーウェンに、モンタギューが応える。しかし、その表情は落ち込みというよりも、怒りに満ちていた。

 

「ありがとよ、セルウィン。──にしても、あいつらマジでムカつくぜ! いくらスリザリンがラフプレー上等って言っても、やりすぎだろ! 俺たちは同じスリザリン生だぞ!」

「そうだ。あいつら嫌いだ」

 

無口なワリントンまでもが低く唸るように言った。普段はナマケモノ似の眠たそうな目も、珍しく燃え上がるような怒りを見せている。

 

「ど、どうしたの? あの先輩たちに何かやられたの? あの2人ってどんな人?」

「あいつらは僕たちの1個上の先輩で、ペレグリン・デリックとルシアン・ボールだよ」

 

怒りで言葉にならないモンタギューに代わり、ヒッグスが説明する。

 

「僕も詳しくは知らなかったけど、素行が荒っぽいことで有名らしくて……」

「あのビーターの棍棒で殴り掛かってこようとしたんだぜ!? 馬鹿かよ!」

「俺たちの頭、ブラッジャーじゃない」

 

モンタギューとワリントンの怒りが、談話室の空気を重くしていく。コーウェンが心配そうに顔を曇らせた。あんな物で頭部を思い切り殴られたら、怪我では済まない可能性もある。

 

その時、それまで黙って聞いていたセリクスが口を開いた。

 

「お前たち、怪我はないな?」

 

その言葉に、モンタギューとワリントンは怒りを忘れて呆然とした。セリクス・ゴーントが、自分たちを心配している? まさか! モンタギューは天変地異の前触れかと一瞬慄いた。

 

「あ? あー、ないよ。避けたから……」

 

モンタギューが戸惑いながら答える。

 

「心配してくれてんのか? お前が?」

「していないが?」

 

セリクスはそっぽを向いた。無表情なのは変わらないが、目線がどことなく泳いでいるようにも見える。

 

「……セリクス……」

 

6人全員が一斉に顔を見合わせ、にやけを堪えるように唇を噛み締めた。

 

セリクスは既に立ち上がり、後ろ姿だけを見せながら言った。

 

「コーウェン、先に部屋に戻る。……もし、何かあったら私に言え」

 

その一言に、談話室は形状しがたい感情で満ちた。

 

「あれは……」

「完全に……」

「ツン……」

「……デレッ!」

「うおぉ……」

「……」

 

悶える6人を残して、セリクスは足音静かにその場を後にしたのであった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

グリンゴッツの謎

 

秋の午後、スリザリン談話室は石壁に囲まれながらも、湖面から差し込む柔らかな光に包まれていた。セリクスはゆったりとした1人掛けのソファに座り、分厚い魔法書『高位呪文の連鎖と逆呪詛』を静かに読み進めている。──6年生向けの専門書だったが、彼にとっては午後のひとときに読むには丁度良い内容だった。

 

その隣ではコーウェンが『日刊予言者新聞』を広げており、向かいの席にはモンタギューとワリントン、少し離れた場所にはセオドールが控えめに腰掛けていた。

 

この珍しい組み合わせは偶然ではない。ピュシー、ブレッチリー、ヒッグスの3人がクィディッチの練習で外出中のため、騒がしい面々がいなかったのだ。

 

モンタギューとワリントンは、魔法薬学のレポートが全然終わらないので、セリクスに助けてほしいと拝み倒してきた。

 

セリクスに自覚はなかったが、1度懐に入れた人間には弱いところがある。嫌そうに眉をしかめたが、断ることはしなかった。

 

セオドールは単純にセリクスのそばが落ち着くらしく、大人しく読書している。本を抱え込みながら、両足を上げてソファの上で小さくなっている。その姿勢は純血貴族の子息としては少々行儀が悪かったが、小動物のようだったのでセリクスは目溢しをした。

 

「あー。ここが分からない。なんでこうするんだ? ゴーントなら分かるか?」

「俺も同じところ……」

 

これで5度目の質問だった。セリクスの機嫌は、少しずつ下降線を辿っている。眉間に刻まれた皺が、その証拠だった。

 

「『縮み薬』のレシピで、"雛菊の根は刻んでから入れる"ってあるけどさ、なんで刻まないといけないんだ? 丸ごと入れた方が楽だろ」

 

セリクスはページをめくる手を止めずに答えた。

 

「楽をしたいなら、レポートも出さなければいい。……雛菊の根は刻むことで表面積が増え、溶液との接触が均一になる。丸ごと入れれば、溶け出す成分にムラが出て効果が不安定になる」

 

モンタギューは頬をかいた。

 

「じゃあ毛虫の数も厳密に5匹じゃなきゃダメってことか?」

「当然だ。毛虫は収縮作用を補助するが、過剰に入れれば反応が暴走する。試したければしてみればいい。大鍋ごと吹き飛ぶがな」

「……はい」

 

俯いたモンタギューの声には、消沈と諦めが滲んでいた。

 

セリクスは溜息をひとつ。

 

ワリントンが手元のノートを睨みながら呟いた。

 

「ヒルの汁って、先に入れてもいいんじゃないか? よく混ぜたニガヨモギの後ってあるけど、逆でも変わらなくないか?」

 

セリクスは即座に否定した。

 

「変わる。"よく振り混ぜたニガヨモギ"で抑制作用を先に安定させなければ、ヒルの活性成分が暴発する。収縮どころか腐食性のある失敗薬になる」

「マジか……。あぶねぇ……」

「そこ、スペルが違う。読み書きくらいは出来ないと、さすがに進級出来ないぞ」

「……ちょっと間違えただけだって……」

 

情けない顔をした2人を見て、セリクスは内心で呟いた。

 

(ガタイのいい男2人がそんな顔をしても、可愛くもなんともない。むさ苦しいだけだな……)

 

そのとき、コーウェンが勢いよく顔を上げた。

 

「セリクス、見てこれ! グリンゴッツ銀行に強盗だって! あそこって強盗出来るもんなの!?」

 

セリクスは眉をひそめた。

 

「グリンゴッツに? 何かの間違いではなく?」

「ほら、この記事───」

 

コーウェンがご丁寧に新聞の記事を読み上げ始める。

 

「───7月31日に起きたグリンゴッツ侵入事件については、知られざる闇の魔法使い、または魔女の仕業とされているが、捜査は依然として続いている。グリンゴッツの小鬼たちは、今日になって、何も盗られたものはなかったと主張した。荒された金庫は、実は侵入されたその日に、すでに空になっていた。「そこに何が入っていたかについては申し上げられません。詮索しない方が皆さんの身のためです」と、今日午後、グリンゴッツの報道官は述べた───だってさ」

「へー。でも盗まれたもんがないならいいんじゃね? ていうかこれ、結構前の新聞だな……。なんで今更こんなもん……」

 

能天気な様子でモンタギューが言う。ワリントンもしきりに頷いている。セオドールは何も言わないが、先輩2人を胡乱な目で見ていた。おそらく、密かに評価を下げているのだろう。

 

「絶対に侵入出来ないはずの場所に侵入されたのが問題なんだ。何も盗まれなかったのは、ただの結果論だ」

 

セリクスは腕を組み、熟考に入った。

 

「……しかし、何が目的だったのか……。『詮索しない方がみなさんのため』、か……」

 

彼の明晰な頭脳が回り始めたようだが、さすがにヒントが少なすぎたのか、途中で諦めたようだった。

 

「あー、終わったぜ! ゴーントがいなかったら俺ら2人ともレポートTだったかもしれねえ……」

「スネイプに怒られないなら、もうなんでもいい……」

「レポートT? トロール並? あれって実際に書かれることがあるのか? そもそもスリザリン贔屓と言われるスネイプ教授の科目でTの可能性があることすら信じられん」

 

セリクスの2人を見る目付きは、アクロマンチュラを見る目を通り越し、スカートを履いたトロールを見ているかのようになっていた。モンタギューとワリントンが気まずそうにヘラヘラと笑う。

 

その時、セリクスのローブの裾が遠慮がちに引っ張られた。目を向けると、セオドールがセリクスの顔を(うかが)うように覗き込んでいる。

 

「セリクス先輩。僕も聞いていいですか? ここの記述がちょっと難しくて」

 

セオドールが指したのは、変身術の教科書『変身術入門 第1巻』。開かれていたのは「変身の持続と魔力の安定性」についての章だった。

 

「『物体に対する変身は、魔力の放出が途中で揺らぐと持続が困難になる』ってありますけど、これってつまり、変身後に"変えられた物"が元に戻ることもあるってことなんですか?」

 

セリクスは少しだけ眉を上げた。2年生でも扱う応用内容に踏み込んでいたからだ。

 

「そうだ。特に"無生物から生物への変身"では、魔力の集中が切れれば元に戻る可能性が高い。マクゴナガル教授も言っていたが、変身を維持するには術者の意志と魔力の均衡が必要になる」

「なるほど……。だから、授業でスズをネズミに変えるとき、尻尾だけが残ったりするんですね。"完全に変える"ってことが出来なければ、魔法は不安定なまま」

 

セオドールの小さな口から、思いのほか論理的な言葉が返ってきた。

 

そのやり取りを横で聞いていたコーウェンが、新聞から顔を上げて微笑んだ。

 

「ノット君、頭いいんだねぇ。その調子なら学期末テストの順位、首席狙えるかもよ?」

 

セオドールは無表情のまま、耳先だけを赤くした。

 

「ええ、勿論。僕はセリクス先輩の後輩ですから」

 

普段、自己主張の乏しいセオドールの珍しい台詞に、セリクスは少しだけ不思議な気分になった。胸の奥から、コト、と何かが動いたような音が聞こえた気がした。

 

「ティーセットを頼む」

 

呼ばれた屋敷しもべ妖精が、5人には少し多いほどの量のアフタヌーンティーのセットを用意してくれる。金彩の施されたティーカップに、湯気の立つ紅茶の薫りが広がった。そこへタイミングよく、クィディッチの練習を終えたピュシー、ブレッチリー、ヒッグスが戻ってきた。

 

「あ! なんかいいことやってる! 僕たちもいいかい?」

 

ピュシーが嬉しそうに言う。セリクスが無言で頷くと、みな定位置の椅子に座った。総勢8人でのお茶会が始まる。談話室には和やかな笑い声と、ティーカップの触れ合う音が響いていた。

 

お茶を飲むためにコーウェンは新聞を畳んだが、セリクスはその新聞をちらりと一瞥だけした。グリンゴッツの謎は、まだ彼の頭の片隅に残ったまま───

 

 

 

 

 

 

 

 




【あとがき】
ピュシーは日本のファンです。
でも本からの知識だけで憧れてるので、ところどころ間違ってたりします。彼は未だに「サムライ」がいると思ってたりして(笑)

ペレグリン・デリックとルシアン・ボールは私のオリジナルではなく、ちゃんとした公式キャラクターです。でも確か台詞はありません。めちゃくちゃ乱暴者って感じです。ホグワーツって暴力振るっても退学にならないのがすごいですよね( ̄▽ ̄;)

作中でセリクスがツンデレだって言われてますけど、わたし的にはツンデレじゃなくてクーデレかな?って思ってます。クール9割、デレ1割のバランスぶっ壊れキャラꉂ(´‎‪ᗜ` )

6話のメインは、モンタギューとワリントンです。彼らは脳筋気味で勉強が苦手、ガタイが良い。条件だけ並べると、どうしてもクラッブとゴイルを連想してしまいます。でも、やっぱり少し違うんですよね。

スリザリンらしくグリフィンドールを嫌い、ハッフルパフを見下し、レイブンクローを変人扱いしますが、根っからの悪人ではありません。もちろん、彼ら自身も彼らの家も闇陣営ではありません。かといって光陣営というわけでもない、その中間です。

モンタギューはお喋りでお調子者。喧嘩っ早く、ゴシップ好き。暗記が苦手で、魔法史と変身術は壊滅的です。

ワリントンは無口で粗暴、本能に忠実なタイプ。たまにズバッと、みんなが言いにくいことを口にします。魔法薬学と天文学が壊滅的です。

2人に共通してそこそこ得意なのが、DADA。生存本能と闘争心が強いからです。

一方、セオドールはとても頭が良く、筆記も実技も全般的に得意。壊滅的なほどの苦手科目はありません。ただし彼の弱点は、フィジカルの弱さです。

箒に乗ればバランスを崩してふらつき、走ればすぐにバテてしまう。成長すると背はひょろっと伸びますが、筋肉はほとんど付きません。それが、彼のちょっとしたコンプレックスだったりします。
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