スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第1章 第4話 ナイトティー

 

ナイトティー

 

スリザリン談話室を抜けた新入生たちは、上級生の案内に従って寮の奥にある寝室棟へと向かった。女子たちはファーレイについて女子寮の階段を登っていく。男子たちは男子監督生であるウィントリンガムにぞろぞろと雛鳥のようについて行った。

 

湖水の(きら)めきがほのかに差し込む石の回廊を歩く。

 

「女子寮に入ろうなんて思わない方がいいよ。階段に魔法が掛かってて、途中で急に滑り台になるんだ。まぁ気になるなら試してみればいい。無様に転んでるところを思いっきり笑ってやるからさ」

 

ウィントリンガムは何が面白いのかクスクスと忍び笑いをしている。1年生がなんとも言えない顔をしているのを全く気にした様子もなく、どんどんと寮室へと案内していく。どうやら1部屋につき2〜3人振り分けられているらしい。

 

コーウェンとセリクスが最後に残った。回廊の1番奥まった重厚な木扉を開けると、そこには落ち着いた緑と銀のトーンで統一された2人部屋が広がっていた。

 

ウィントリンガムが2人に向かってニコリと微笑む。コーウェンの瞳よりも濃い碧眼が煌めいた。

 

「ゴーント家とセルウィン家のご子息と同寮生になれるなんて光栄だな。君のお兄様のセルウィン先輩には特に良くしてもらった。何か少しでも困ったことがあったら声を掛けてくれ」

 

それだけを言うと、胸に片手を当てて軽く頭を下げ扉を閉めてしまった。

 

コーウェンは上級生の慇懃(いんぎん)な態度に面食らったが、セリクスは特に表情を変えていない。慣れている様子だった。コーウェンは軽くセリクスの顔を(うかが)った。

 

「……君と同室で良かった」

 

コーウェンがほっとしたように微笑む。窓からは湖底らしい幻想的な光が差し込み、部屋全体を柔らかく照らしている。

 

重厚なマホガニーのベッドフレーム、深緑のベルベットカーテン、真鍮(しんちゅう)の読書灯。石の壁際にはそれぞれの荷物が既に運び込まれていた。

 

「落ち着く部屋だね」

 

そう言いながら、コーウェンは自分のらしいベッドに腰掛け、ベッド脇に置いてあったトランクを開ける。きちんと畳まれた寝巻きとタオルを取り出し、慣れない寮生活に少し緊張しながら着替え始めた。

 

ふと横目で見ると、セリクスは一言も発さず杖を一振り。トランクの蓋が静かに開き、衣服や本が空中を舞うようにして所定の場所に収まっていく。そして次の瞬間、彼の制服がするりとシルクの黒い寝巻きに変わった。

 

「……え?」

 

コーウェンの手が止まる。着替えの途中で硬直してしまう。その動きの優雅さと、何より魔法の精度に目を奪われていた。

 

セリクスはベッドに腰を下ろしながら、何の躊躇(ためら)いもなく一言呟いた。

 

「ナイトティーを」

 

一瞬、誰に言っているのかも分からず固まるコーウェン。空気に向かって話しかけているようにしか見えない。もしかして自分が彼のお世話をしないといけないのだろうかと悩んでしまった。

 

「え、僕が……?」

 

しかし次の瞬間、部屋の隅で「パチン」という軽い音と共に、1体の小さな屋敷しもべ妖精が現れた。無表情だが、大きな耳をパタパタと嬉しそうに動かしているので内心がダダ漏れている。ホグワーツ城には多くの屋敷しもべ妖精が仕えていると聞いていたため、彼もその1体なのだろうとコーウェンは納得した。

 

お盆の上にはエレガントなティーポットと、繊細な金縁のティーカップ。香り高いカモミールティーが立ち上る湯気と共に、部屋に上品な香りを漂わせる。

 

「お坊ちゃま。ナイトティーでございます」

 

屋敷しもべ妖精は(うやうや)しく一礼し、セリクスの手の届く位置にお盆を置くと、再び姿を消した。

 

唖然とするコーウェンの視線の中で、セリクスは当たり前のようにティーカップを手に取り、静かに口元へ運ぶ。

 

「……すごいね、君」

 

コーウェンは思わず苦笑いしてしまった。筋金入りのお坊ちゃんだ、これは。

 

同じく純血の名家育ち──のはずなのに、自分は今まで一体何を"お坊ちゃん"と呼んでいたんだろうと思い直す。セルウィン家も純血名家の一角として決して貧しい訳ではないが、目の前の光景は別次元だった。

 

セリクスは、育ちの良さという言葉では収まらない。あまりにも自然に、生まれながらにして、世界の全てが自分の指先一つで動くことを当然としている。

 

───まだ11歳のはずなのに。

 

湖底の薄明かりの中で、セリクスのエメラルドグリーンの瞳が静かにティーカップの縁越しにコーウェンを見つめた。その視線には、計算も(おご)りもない。ただ、これが彼にとっての日常なのだということが、静かに伝わってきた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

ナイトティーを飲み終わったセリクスは、さっさと天蓋のカーテンを閉めるとベッドに滑り込んだ。少し離れた位置にあるコーウェンのベッドからも、ゴソゴソとシーツに潜り込むような音が聞こえる。コーウェンも寝るのだろう。

 

セリクスが何もしなくても、部屋をぼんやりと照らしていた魔法灯の明かりが消える。ホグワーツに掛けられている魔法か、屋敷しもべ妖精が消しているのだろう。セリクスはもう寝ようと瞼を閉じた。

 

コーウェンのベッドからまだ微かに身動ぎする音が続いている。緊張で眠れず寝返りを打っているのだろうか。彼にもナイトティーを淹れてやればよかった。鎮静効果のあるカモミールのお陰で、もう優しい眠気が近寄ってくるのが分かる。

 

「……もう寝ちゃった?」

「起きているが……」

「ごめん、もし明日の朝僕が寝坊してたら起こしてくれない? よく考えたら1人で起きれたことがなくて……」

「ハウスエルフに起こして貰っていたのか?」

 

セルウィン家は由緒正しい聖28一族の家系だ。屋敷しもべ妖精の1人や2人、当然のようにいると思ったのだ。コーウェンからの返答が僅かに遅くなった。

 

「……ううん、僕の家にはハウスエルフいないんだ。小さい頃死んじゃったらしくて……。いつも母さんが起こしてくれてた」

「……そうか。分かった、もし寝てたら起こそう」

 

セリクスがそう言うと、コーウェンから安堵したような気配が伝わってきた。

 

「ありがとう、おやすみ」

「ああ」

 

今度こそコーウェンは静かになった。セリクスの脳内では、小さいコーウェンが女性に優しく揺り起こされている光景を想像してしまい、無意識に一瞬だけ口の端が僅かに上がった。それは本人ですら気付かない程の小さな動きだった。

 

こうして1日目のホグワーツ生活が幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 




【あとがき】
スリザリン寮って他寮と比べると寮生が少ないから、1部屋につき2〜3人くらいの割り振りな気がします。そして他寮とは違い血統でもメンバーが違いそうだなと。気位の高い純血貴族が、マグル生まれと同室になって上手くいくとは思えないんですよね( ̄▽ ̄;)

ちなみに1番奥の部屋が上座的な考えです。
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