スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第3章 第17話 冬のホグズミード休暇

 

冬のホグズミード休暇

 

12月の凍えるように寒い週末、遂にホグズミード休暇がやってきた。

 

玄関ホールでは、ワクワクと胸を高鳴らせたコーウェンがいつもよりも少しお洒落に気合を入れて、上品な格子柄のマフラーと手袋を身につけてきた。グレイッシュブルーとチャコールの組み合わせが、コーウェンの薄いミルクティー色の髪に柔らかく映える。マフラーの下には、落ち着いたスレートブルーのショート丈のピーコート。しっとりとした色味が、細身の体付きと穏やかな(たたず)まいをいっそう引き立てていた。

 

一方のセリクスは、「お洒落とは?」と言いたくなるくらいにシンプルすぎるほどの黒い外套(がいとう)姿だった。装飾は何もないのに、背筋の伸びた立ち姿と冷ややかな美貌(びぼう)が、まるで雑誌のモデルのように見える。

 

その無造作な完璧さに、コーウェンは大いに()ねていた。

 

「君はなんで何も考えなくても格好良いんだよ……」

 

ぼそりと呟くコーウェンの隣で、セリクスは首を傾げている。コーウェンの頬がぷくっと小さく(ふく)らんだのを見て、セリクスは人差し指でぷすっと潰してみた。コーウェンの頬が更に大きくなってしまった。

 

ほとんど待つ間もなく、セドリックがやってきた。コーウェンが誕生日にプレゼントした、ハニーマスタード色とスモーキーブルーのチェック柄マフラーと手袋をつけている。それにライトグレーのロングダッフルコートを合わせてきたようだ。

 

「わぁ! セド、やっぱりその色似合うよ!」

 

コーウェンの顔が一気に明るくなった。

 

「ありがとう。暖かいよ」

 

セドリックがはにかんでお礼を言う。その笑顔に、マフラーの色がよく映えていた。

 

玄関に近付くと、ホグズミードへ行く生徒の長い列が出来ていた。みんな外出許可証を管理人のフィルチへ見せるためだ。

 

3人も素直に列に並び、順番を待つ。フィルチは疑わしそうに生徒の顔を覗き込んでいたが、セリクスの番になると彼は真っ直ぐフィルチの目を見返した。

 

フィルチは気圧されたのかすぐにセリクスから目を逸らし、今度はコーウェンの許可証をマジマジと無駄に長く見つめ始めた。

 

当たり前だが3人は無事チェックをパスし、いよいよホグズミード村にやってきた。雪化粧をした村はまるで絵本から飛び出したように美しく、あちこちから生徒たちの歓声が聞こえてくる。

 

外は吐く息が凍るほどの寒さだった。雪解け水が路肩に光り、石畳はしっとりと濡れている。

 

「まずはどうしようか?」

 

セドリックが息を白く吐きながら尋ねる。

 

「道順で行こう。まずは『ハニーデュークス』だったな」

 

セリクスが地図を確認しながら答える。

 

「うん! 行こう!」

 

コーウェンが弾んだ声で応えた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

3人は生徒でごった返している菓子店へやってきた。人混みもすごいが、甘ったるいような色々な菓子の匂いが混ざり合って、セリクスは少し頭痛がした。

 

コーウェンとセドリックは、まるで宝物庫に迷い込んだ冒険家のように、目を輝かせて店内を見回している。店内には手前の方にきちんと並べられた何百種類ものチョコレート、フィフィ・フィズビーの樽、ねっとりしたヌガー、百味ビーンズ、ゴキブリ・ゴソゴソ豆板の瓶などが所狭しと並んでいた。

 

眉をひそめたセリクスは、まっすぐカウンターへと向かった。道を塞いでいた生徒たちは、彼の姿を見るなり静まり返り自然と道を開けていく。

 

別に譲ってもらうつもりはなかったが歩くスペースが出来たので、セリクスは素直にカウンター前まで行き店員へ話し掛けた。

 

「失礼」

「……はっ、はい! 何をお探しでしょう!」

 

若い女性の店員は、セリクスの顔を見て顔を真っ赤にしながらも、職務に忠実であろうとした。

 

「この店で一番高価で、魔法的な仕掛けのない菓子は?」

 

唐突な質問に、若い女性店員が瞬きを繰り返す。

 

「えっと……でしたら、こちらはいかがでしょう。ローズの香り付きチョコレートで、口溶けが滑らかです。形は本物の薔薇そっくりで、女性に人気なんですよ」

「それを貰おう。包装も頼む」

「かしこまりました!」

 

店員がすぐにラッピングを始めた時、周りの生徒たちの(ささや)き声が聞こえてきた。

 

「"スリザリンの蛇の王子様"だよね?」

「ミスター・ゴーントだ」

「チョコだって。しかも薔薇。女の子に渡すのかな?」

「え? もしかして彼女? 付き合ってる子いたの?」

「嘘ー。ショック。孤高の人かと思ってたのに」

「いや、もしも彼女いなくてもあんたは無理っしょ」

 

コソコソ話していても、ここまで近いと嫌でも耳に入ってくる。頭痛が増した気がしたが、セリクスは素知らぬ顔で無視をした。

 

そこにコーウェンがやってきて、不自然なほどの大きな声で話し出した。

 

「あ! チョコにしたの? 後輩へのお土産だよね!?」

「……? ああ」

 

セリクスは顔にはてなマークを付けながらも、素直に頷く。

 

セリクスの返事と共に、周囲のざわめきが静まる。安堵のような、少し拍子抜けしたような空気が流れた。

 

()いで現れたセドリックは、大量の蛙チョコレートを抱えている。

 

「これ下さい」

 

セリクスとコーウェンは頬を引き()らせてそれを見た。

 

「そんなに食べるの? 蛙チョコレート好きなんだね」

 

コーウェンが恐る恐る尋ねる。

 

「チョコ全部はさすがに無理だよ。これは友達とかにお裾分けするんだ。目的はカードさ。コレクションしててね」

「……意外だ」

 

セリクスの言葉に、セドリックはキョトンとした顔を見せた。蛙チョコレートのカード集めはホグワーツの男子生徒の中にはそこそこ愛好家がいるが、セドリックがそういうことをするイメージが湧かなかったのだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

次に通りかかったのは『悪戯専門店ゾンコ』だ。やはり生徒でごった返していたが、それよりもチラリと見えたフレッド&ジョージ・ウィーズリーの後ろ姿に、セリクスは足を止めた。

 

セリクスは元々入る気はなかったが、3人ともがその光景を見て眉をひそめた。また何かろくでもないことを企んでいるのだろう。

 

「あの双子は……」

 

コーウェンが呆れたように小さく呟く。セドリックは何も言わず首を振り、セリクスはげんなりした顔で店から顔を逸らした。

 

200羽ほどのフクロウがいる郵便局を通り過ぎ、『スクリベンシャフト羽根ペン専門店』へ入った。

 

コーウェンは嬉々として羽根ペンを物色し始める。セドリックもそろそろ羊皮紙とインクが切れそうだと、棚を見回している。羽根ペン専門店と書いてはあるが、それ以外の文房具もそれなりに並んでいるようだ。

 

セリクスも店内を見回して、あるインク壺に目をつけた。

 

「このインク壺は?」

「お客様、お目が高い! そちらは当店でも至高の一品です。滑らかな書き心地と素晴らしい発色は勿論、『底なしのインク壺』の魔法が施されておりまして、半永久的に補充が不要なのです。……その分、少々お値段は張りますが」

「そうか。壺のデザインもいいな」

「そうでございましょう。こちらの瓶は、厚手のガラスに半透明の墨色を施してございます。側面には……ご覧いただけますでしょうか?」

 

店員は指先で瓶の側面を軽くなぞる。光の角度によって、細い銀糸のような模様が浮かび上がった。

 

「控えめな銀の蔦模様のエッチングでございます。遠目には無地に見えますが、光が当たると上品に輝きますので、机上でも目立ちすぎず、それでいて長くお使いいただけます」

「これを貰おう」

「毎度ありがとうございます」

 

店員は丁寧にお辞儀をしてラッピングを始めた。コーウェンとセドリックはその様子を見ていたが、値札を見て2人とも引いた顔をしていた。

 

「うわ……」

「無理……」

 

小さな呟きが漏れたが、セリクスは聞こえないふりをした。贈り物に金は惜しまない性格なのだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『スピントウィッチズスポーツ用品店』へきた。俄然セドリックが張り切り出し、店内へ突入していく。

 

店内は狭く、他の客は少なかったがそれでも全員が入ったら邪魔になるだろうと、2人は外で待っていた。

 

そこに女の子連れのロジャー・デイビースが通りかかった。

 

「あれ? 君たち何やってるんだい?」

「友人を待っている。そういう君はデートか」

「そうそう! 可愛いだろう?」

 

ロジャーは彼女に笑顔を向けたが、女の子はセリクスとコーウェンの顔を見て照れているようだ。しきりに前髪を指先で整えようとしている。セリクスは無言で女の子の顔をじっと見つめた。存在だけは把握していた、レイブンクローの生徒だ。美形な男子に囲まれて、女の子の顔が茹で上がっていく。あまりの顔の良さに脳が処理しきれなくなったのか、茹で上がった顔のままそっとロジャーの背中に隠れてしまった。

 

「……君たちって男の敵だよね」

 

苦笑いしたロジャーは、すぐに彼女の肩を組んで去っていってしまった。

 

「……びっくりした。今のってレイブンクローのロジャー・デイビースだっけ」

 

コーウェンがロジャーの去っていった方を振り返りながら言う。

 

「そうだ。久々に会話したな」

「前に1回、授業でペア組んでたよね」

「彼はなかなか物覚えがよく筋が良い」

「えー。セリクスがそんなに褒めるなんて……」

「……私はそんなに他人を褒めない人間なのか?」

「まあ……」

「……」

 

2人の間に何とも言えない沈黙が流れていると、やっとセドリックが出てきた。とても満足そうに荷物を抱えている。

 

「大荷物だね。何買ったの?」

「箒とかグローブのお手入れ用品だよ。お小遣い結構減っちゃった……。ねぇ、そろそろお腹空かない?」

「『三本の箒』に予約を入れてある。時間もそろそろだし行こうか」

 

セリクスは銀細工の懐中時計を取り出して時間を見ている。セドリックの顔が、嬉しそうにぱっと明るくなった。

 

「『三本の箒』! やった、行きたいと思ってたんだ」

「予約? そんなの必要なの?」

「普通、飲食店には予約するものだろう? 並びたくはない」

「なるほどね。セリクスらしいよ」

 

コーウェンは軽く苦笑いした。こういう細かいところで彼の育ちの良さを感じられるのだ。コーウェンは内心で、自分の家柄のことを棚に上げていたのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

3人は『三本の箒』へとやってきた。予約したのが正解だったと思うほど、店内は混雑していた。暖炉(だんろ)の火と人いきれで熱気に包まれている。

 

3人が店内に入ると、入口近くの客たちがセリクスの顔を見てざわめいた。みんなが注目しているが、セリクスは頓着しなかった。慣れっこである。

 

美しい顔をした、色気のある女性店員がやってきた。

 

「予約していた者だ」

「お待ちしておりましたわ。ゴーント様ですわね。お席へご案内致します」

 

女性店員は案内してくれる途中、3人をチラリと振り返った。

 

「それにしても3人ともとってもハンサム。ホグワーツでは、さぞおモテになるんでしょう?」

 

3人は揃って首を傾げた。

 

「告白とかされたことないよね……?」

「ないな」

「ないね……。そもそも僕らまだ3年生だし……。モテないよねぇ。……なんか悲しくなってきた」

「あ、あら。わたし悪いこと言っちゃったかしら」

 

少々暗い顔になった3人は席に座った。

 

女性店員──ロスメルタと名乗った──に次々と注文していく。まず初めにバタービールが大ジョッキ3杯と、フィッシュアンドチップスが大皿で届いた。バタービールの湯気が、白く立ちのぼる。

 

「乾杯!」

「かんぱーい!」

「乾杯」

 

3人は生まれて初めてバタービールを飲んだ。グラスを合わせ、甘く温かな液体が喉を滑り落ちた。防寒の魔法を掛けていても冷え切っていた身体の芯に、じんわりと熱が広がる。

 

フィッシュアンドチップスを摘んでいたら、料理も届いた。セリクスはシェパーズパイ、コーウェンはチキン&マッシュルームのパイ、セドリックはビーフシチュー。成長期らしく旺盛(おうせい)な食欲で食べた。

 

食後の紅茶を飲んでいる時、コーウェンが不思議そうに言った。

 

「そういえば、セリクス、今日買った物はどこに入れたの?」

 

セリクスはどう見ても手ぶらに見える。

 

「ああ。この鞄には検知不可能拡大呪文が掛かっている」

 

いつもローブの下で斜め掛けにしている革の鞄を取り出した。黒い艶のある上品なデザインで、古めかしいが手入れが行き届いている。

 

「私の誕生祝いにと曾祖父が(のこ)したものらしい。元は曾祖父の学生時代の友人が使っていて、その頃はこれで魔法生物の保護をしていたそうだ」

 

鞄を開けて中身を見せる。梯子(はしご)が掛かっていて、下に降りられるようだ。柔らかな金色の光に満ちた部屋のようになっていた。沢山の蔵書が収められている本棚、魔法薬やその材料が入っているらしい瓶、調合途中らしい火にかけられたままの湯気の上がっている大鍋。大鍋の中には、自動で攪拌(かくはん)している木のおたまが見える。

 

「うわぁ……」

「すごい……。だから君いつも身軽そうだったんだね」

 

2人は感心しきりだ。

 

「曾祖父は友人からこの鞄ともう1つ何か譲り受けたらしい。ただ父上はそのもう1つが何でどこに保管されているか教えてくださらない。……だが、私はあのミレヴィエル湖に封印されているんじゃないかと睨んでいる」

「ミレヴィエル湖……」

 

コーウェンの脳裏に、あの美しい湖の真ん中の景色の歪みの映像が浮かんでいた。

 

「そう。コーウェンだけが見えたあれだ。今度その謎を一緒に解明してみないか」

「なにそれ! 面白そう! 僕も行きたい!」

 

セドリックがすかさず立候補した。

 

「ああ。父上にもレオさんにもハウスエルフたちにもバレないようにしなければな」

「難しそう……。でもなんかワクワクする!」

 

こうして3人は、次の夏季休暇の悪巧みの計画を立てたのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

3人は夕方になる前にホグワーツ城に戻ってきた。

 

約束通り、セオドールには細工の美しいインク壺を、ダフネには薔薇のチョコレートを手渡した。2人は頬をピンク色に染め、心から喜んでいた。

 

「ありがとうございます、セリクス先輩!」

「喜んでもらえてなによりだ」

 

セオドールの黒い瞳が珍しく輝いている。まるで黒曜石のようだ。

 

「セリクス様、とても美しいチョコレートですわ……。大事にします」

「いや、悪くなる前に食べてくれ」

「そしたらなくなってしまいますわ……」

「チョコレートなんだが……」

「永久保存の魔法はまだ習得出来ていなくて……」

「チョコレートだから食べてくれ」

 

ダフネも感激した様子で、大切そうにチョコレートの箱を抱きしめた。セリクスは想定外の熱量に押され気味だ。

 

その様子を見つめながら、コーウェンの胸の奥で、小さな(とげ)のような感情が疼く。

 

(セリクスを(した)う人間が増えることはいいことのはずなのに……)

 

───せっかく楽しい気分で帰ってこれたのに。

 

コーウェンだけが微妙な気分で終わったホグズミード休暇だった。

 

 

 

 

 




【あとがき】
冬のホグズミード、イケメン3人組のデート(?)編です。周囲から見れば「高嶺の花すぎて誰も近寄れない」だけ。なのに本人たちは「告白されない=モテない」と本気で勘違いして落ち込んでいます。

またセリクスは無自覚に金持ち貴族ムーブをかましています。チョコレートはともかく、インク壺はかなりのお値段です。父親が魔法省職員のセドリックと、聖28一族の子息であるコーウェンが揃ってドン引きするレベルなので、庶民には想像もつきません( ̄▽ ̄;)

結局保存魔法を習得していないダフネは、チョコレートを一つずつじっくりゆっくり味わって食べたことでしょう。きっとセリクスのファンたちに嫉妬の視線を向けられたと思います。

お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、セリクスの鞄は『ホグワーツ・レガシー』の主人公(レガ主)が使っていたあの鞄です! 見た目はセリクス仕様にお洒落に改造されていますが、中は『ファンタスティック・ビースト』のニュートのトランクをイメージしました。夢が詰まっています。
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