スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第1章 第5話 初日の朝

 

初日の朝

 

湖底から差し込む朝の光が、カーテン越しにセリクスの瞼を優しく照らした。彼は目を開けると、いつものように無表情のまま起き上がる。隣のベッドでは、コーウェンがまだ寝ているのだろう、ベッドカーテンがしっかり閉まっている。

 

セリクスはそっとベッドから降りると、コーウェンのカーテンを静かに開ける。シーツを頭まで被っていて、薄いミルクティー色の猫っ毛がシーツからほんの少しはみ出ていた。

 

セリクスはシーツをそっと剥がすと、スヤスヤと気持ち良さそうに寝ているコーウェンの寝顔があった。涎などは垂れていなかったが、頬に薄くシーツの跡が付いている。

 

「……朝だが、起きないのか?」

「……んん……」

 

寝ぐずったような声は出すが、全く起きる様子がない。溜息をついたセリクスは、指先でコーウェンの頬を突っついた。セリクスの指先が冷たかったのか、やっと薄く瞼を開ける。アクアマリンのような薄いブルーの瞳が覗いた。

 

「……おはよ、セリクス……」

「おはよう」

 

短い挨拶を交わしながら、やっと2人は身支度を始めた。セリクスは再び杖を一振りし、制服が身体に滑らかに(まと)わりつく。銀色の髪が整えられ、ローブの皺が消えていく。

 

一方のコーウェンは、まだ手慣れない様子でもたもたと制服のボタンを留めている。

 

「君は本当にすごいね」

 

コーウェンが苦笑いしながら呟く。セリクスは振り返ると、首を傾げた。何がすごいのか、本当に分からないといった表情だった。そんなセリクスを見てまたコーウェンは笑ったのだった。

 

2人は談話室へ入った。そこには既に10人程度の新入生が集まっていた。昨夜挨拶したピュシー、ブレッチリー、ヒッグスと挨拶を交わす。モンタギューとワリントンはいなかった。寝坊だろうか。残りは女子生徒だ。視線は感じたが声を掛けられなかったので、セリクスの方も挨拶をしなかった。

 

その時、ファーレイが朝っぱらからご機嫌そうに近寄ってきた。昨日に引き続きピシリとした制服の着こなしだ。相方のウィントリンガムはもう少し彼女を見習った方が良いだろう。

 

「みんな、おはよう! まだ来てない子もいるみたいだけど、先に行っちゃいましょう。大丈夫、残りの子はハーマンが連れてくるわ」

 

それだけ言うと、キビキビとした動きで談話室の出入口に向かう。スリザリン寮は地下にあるので、石の階段を上がって大広間へ向かった。朝の光が差し込む大広間には、既に多くの生徒たちが朝食を摂っていた。スリザリンテーブルに座り、各々トーストやスクランブルエッグなどに手を伸ばしていると、ハッフルパフのテーブルからセドリックが手を振りながら近付いてきた。

 

「おはよう、セリクス、コーウェン」

「おはよう、セドリック」

 

コーウェンが明るく返す。セリクスは軽く頷くだけだが、セドリックは気にした様子もない。

 

「同じ寮になれなくて残念だったけど、仲良くしてね。何かあったら遠慮しないで声を掛けて」

 

セドリックの屈託のない笑顔に、セリクスはまた無言で頷いた。その様子を確認してから、コーウェンも笑顔で快諾する。

 

「もちろん! こちらこそよろしく」

 

セドリックが自分のテーブルに戻った後、寮監のスネイプ教授が新入生の固まっているテーブルを回って時間割を配り始めた。セリクスとコーウェンの前にも、重々しい雰囲気と共に羊皮紙が置かれる。

 

「最初の授業は魔法薬学だ。遅刻は許さん」

 

スネイプ教授の低い声が響く中、コーウェンは時間割を見つめて少し心配そうな表情を浮かべた。深刻そうに眉をひそめ、唇を噛んでいる。

 

セリクスはその様子を不思議そうに見つめると、悪気もなく口を開いた。

 

「魔法薬学など、余裕だろう?」

 

コーウェンの頬がピクリと引き攣った。

 

「……そ、そうだね」

 

コーウェンは苦笑いを浮かべながら答える。セリクスは本当に悪気がない。ただ、彼にとって魔法薬学程度は「余裕」なのだろう。その天然の自信に、コーウェンは改めてセリクスという少年の規格外さを実感する。おそらく自宅学習がかなり先まで進んでいるのだ。英才教育というものだろうか。コーウェンの家も、優秀な兄や優しい家庭教師がいて色々と学んでいたが、魔法薬学の実技はまだ何もしたことがなかった。母曰く「危ないから」という理由であったので、臆病なコーウェンは大人しくその言いつけを守っていた。しかし母に反抗してでももう少しやっておけばよかったかと後悔したのだった。

 

セリクスとコーウェンのそばに座っていたピュシーたちは、時間割の羊皮紙を持ちながら「信じられない」といった顔でセリクスを見ていた。セリクスは全て黙殺していたが。

 

大広間に響く生徒たちの声と食器の音の中で、スリザリン生たちの初日が静かに始まろうとしていた。

 

 

 

 




【あとがき】
コーウェンのことを「起こさないと起きないお寝坊さん」にしてしまいました。初期案ではもっとがり勉っぽい、せっかちなキャラクターだったのですが、プロットを練っているうちに何故か「臆病だけど穏やかで、空気を読むのが得意な子」になっていました。
ちなみにコーウェンの家族設定はかなり細かく決めています。あまりにもバックボーンを掘り下げたので、途中で「……あれ? こいつが主人公だっけ?」と錯覚しました(笑) そのうち登場します。

まぁ、セリクスはその5倍は細かく決めましたけどねꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)
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