スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第3章 第24話 死んだユニコーンの齎した答え

 

死んだユニコーンの(もたら)した答え

 

ハグリッドから貴重なドラゴンの卵の殻を貰ってから約2週間。セリクスは暇を見つけては魔法の鞄の中に身を(ひそ)め、魔法薬の調合に(いそ)しんでいる。細かく砕いた殻の粉末が指先でさらさらと音を立て、銀の大鍋からは甘い香りが立ち上っていた。

 

ここ最近では(まれ)に見るほどご機嫌な──他人から見たらいつも通り無表情の──セリクスに、コーウェンは首を傾げていた。

 

談話室のソファに並んで座りながら、コーウェンが不思議そうに口を開く。

 

「セリクス最近どうしたの? なんかいいことあった?」

 

カップの縁を指でそっと撫でながら、続ける。

 

「最近マルフォイくんもすごいご機嫌でニコニコしちゃってさ。ちょっと変だよ、君たち」

「ドラコとは関係ない」

 

セリクスが紅茶を一口含んでから答える。しかし、口元に微かな満足げな笑みが浮かんでいた。

 

「まぁ、だがドラコのおかげで良い物が手に入った」

「ふうん?」

 

コーウェンが興味深そうに身を乗り出した。しかしセリクスが黙ったままだったので、聞き出すのは諦めたらしい。また背もたれにもたれかかった。

 

「マルフォイくん、さっき『ついに今日だ。これであいつらも』とかブツブツ言ってて気持ち悪かったな。セリクス、何か知ってる?」

「さあな」

 

本当に欠片(かけら)も興味なさそうに流したセリクスである。紅茶のカップから立ち上る湯気だけが、静かに揺れていた。

 

しかし、その答えは翌日にはもう分かった。

 

朝食時の大広間は、いつもより静まり返った雰囲気に包まれていた。グリフィンドールのテーブルからは活気が失せ、代わりに重苦しい沈黙が漂っている。首位に立っていたグリフィンドールの点数が、一夜にして150点も引かれていたのだ。

 

「噂によると、原因はあの有名な英雄ハリー・ポッターだってよ。ポッターとその一味が、馬鹿なことをしでかしたせいらしいぜ」

 

モンタギューが嬉しそうに報告する。その声には隠しきれない愉悦が滲んでいた。

 

スリザリン以外の3寮の鬱憤(うっぷん)が全てポッターに向かっているらしく、ポッターとその仲間たちはとても肩身の狭そうな顔をしていた。レイブンクローやハッフルパフの生徒たちからの視線が、まるで針のように突き刺さっている。

 

一方、スリザリン生はほとんどの者が楽しそうに、わざとらしくポッターに感謝を伝えていた。

 

「ポッター、君のおかげで寮杯に近付いたよ、ありがとう」

「本当に感謝してるんだ、ポッター」

 

その皮肉たっぷりの声が、大広間に響いている。ポッターやその周りにいる数人の生徒の背中が小さく震えているのが、セリクスからでもはっきりと見えた。

 

コーウェンも例に漏れず、スリザリンの順位が上がったことに純粋に嬉しそうな顔をしていた。クィディッチの敗北はもう振り切れたらしい。薄いブルーの瞳がキラキラと輝いている。

 

セリクスはドラゴンのことが噂に上がらなかったことに内心首を傾げた。だがそれよりも、ハグリッドの小屋にドラゴンの気配が既にないことの方が気になった。どうやらもう手放してしまったらしい。卵の殻だけではなく、最後にドラゴンの爪や唾液くらい貰っておけばよかったと後悔していた。

 

ドラコは自身も20点引かれていたが、それを殊更(ことさら)に指摘する者はスリザリンには誰もいなかった。マルフォイ家にわざわざ楯突(たてつ)く無鉄砲はいないし、セリクスはそもそも寮杯に興味がないせいだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

しばらく経ったある夜、談話室でセリクスとコーウェンが談笑していると、ドラコが浮かない顔で近寄ってきた。普段の自信に満ちた表情はなく、どこか不安そうに眉を寄せている。

 

「忘れていたけど、今日11時から罰則があるんだ。多分書き取りとかだと思うんだけど……」

 

声が微かに震えている。なんとなく白い小動物がぷるぷる震えている映像を幻視してしまった。

 

「何もこんな夜中にやらなくてもいいと思わないか?」

「そんな遅くに? 災難だね、マルフォイくん」

 

話し掛けたセリクスではなく、コーウェンが気遣わしそうな声で返した。ドラコは横目でチラリとコーウェンを見る。ふんと鼻を鳴らし、軽く胸を張る。彼なりに虚勢を張っているらしい。

 

「まぁ多分大したことはないさ。罰則担当がフィルチなのはちょっと嫌だけど」

 

コーウェンはつかの間返事をしなかった。意味をなさない沈黙が談話室に落ちる。ドラコとセリクスがコーウェンの顔をまじまじと見つめる。彼の表情には、何かしらの不安な色が浮かんでいた。

 

「──なんか嫌な予感がする。本当にそれ、ただの書き取りなのかな?」

「えっ、嫌なこと言わないでくれないか? 他に何があるって言うんだよ」

 

ドラコの声が上ずった。

 

「何か感じたのか?」

 

セリクスの声が低く響く。コーウェンの予知の才能を知る彼にとって、この反応は軽視出来ない。コーウェンは忙しなく目線を泳がせたが、最後は(うつむ)いてしまった。

 

「なんか胸がざわざわするけど……。ううん、よく分からないや。ごめんね、マルフォイくん」

「……あんたちょっと変わってるな。まぁいいや」

 

顔をしかめたドラコが立ち上がりながら言う。

 

「──セリクス、僕はもう行く」

「あぁ、気を付けて行け」

 

セリクスは珍しく軽く手を振った。ドラコは目を(みは)ったが、少しだけ嬉しそうに手を振り返して、そのまま談話室を出ていった。石床に響く足音が次第に遠ざかっていく。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

セリクスは深夜の三頭犬の世話を済ませた後、いつものように就寝した。しかし、うとうとし始めたところで、足音荒く誰かがセリクスの寝室へ飛び込んできた。

 

反射的に杖を構え、その侵入者に突きつける。しかし相手はドラコだった。月明かりに照らされた顔は蒼褪め、肩で息をしている。

 

セリクスが構えを解くと、ドラコがそのまましがみついてきた。体が氷のように冷え切ってしまっている。震えが止まらない様子だった。セリクスは存外優しい動作で、ドラコをベッドに座らせてやる。

 

「ドラコ? どうした。《カレファシオ(温めよ)》」

 

セリクスの呪文で、ドラコの周りに温かな風がふわりと吹いた。血の気が引いて真っ青だった顔色が、徐々にマシになっていく。ドラコが唇をわなわなと震わせながら開いた。

 

「化け物だ。森に化け物がいたんだ……」

「化け物?」

 

セリクスが促すように問いかけると、ドラコは震え声で語り始めた。

 

 

 

 

すっかり書き取りかと思い込んでいたが、罰則は深夜に禁じられた森へ入ることだった。暗闇の中、松明の明かりだけを頼りに、傷付けられたユニコーンを探さなければならないらしい。そんなことは召使いの仕事のはずなのに。いけ好かない大男の森番はしかつめらしい顔をしてドラコを追い立てた。

 

ドラコはこんなことをするためにホグワーツに来たのではないと憤慨したが、結局逆らうことは出来なかった。

 

最初はビクビクと周りを見回していたが、自分以上にビクつくロングボトムを見ているとだんだんと落ち着いてきた。緊張で強張った空気を和らげようと、少し驚かせて場を和ませてやろうと考えた。間抜けなロングボトムは、ドラコが後ろに回ったのにも気付かなかった。

 

そのまま(つか)みかかったら、ロングボトムが大声を上げて空に赤い光を放ってしまった。救難信号が夜空に弧を描いて消えていく。

 

少ししてあの大男の森番がやってきて、こっぴどく叱られた。ドラコは大したことはしちゃいない。ビビりのロングボトムのせいだというのに。あいつは前から情けないやつだと思っていたけど、想像以上だった。勇猛果敢なグリフィンドールとか真っ赤な嘘だ───

 

 

 

 

「それで?」

 

途中まで黙って聞いていたセリクスだったが、ドラコがだんだん愚痴を言う口調になってきたので軌道修正を試みた。ドラコはハッとした顔をして、また語り出した。

 

 

 

 

それで、ポッターとファングという犬と組んで、更に森の奥深くまで歩いた。松明の明かりが作る影が、木々の間で不気味に踊っている。銀色に光り輝くユニコーンの血がどんどん多くなっていった。見た目は美しく光っているが、所詮は血だ。ドラコの目には禍々しく不気味に映った。

 

30分は歩いただろうか。鬱蒼(うっそう)とした森の中に、ぽっかりと開いた広い空間があった。月光が差し込み、そこだけが蒼白く照らし出されている。その真ん中に、大きなユニコーンが倒れていた。

 

もう既に死んでいた。真珠色の毛がつやつやと光っているが、やはりドラコはそれ以上近寄る気にはなれなかった。──だって死体なのだ。

 

その時、木の影からフードを被った人影が滑るように現れた。その動きには人間らしさがなく、まるで霧のようだった。明らかに常人ではない。そのフードの不審者は、ドラコたちには目もくれず、ユニコーンの死体に取り憑くと、その銀色に輝く血を(すす)り始めた。

 

ぞっとするような音が夜の静寂に響く。

 

ドラコは我慢出来ずに大声で叫んで、ポッターを置いて逃げ出した。目の前を邪魔する木の枝なんかも何も目に入らなかった。とにかく逃げなければ。捕まったらドラコが第2のユニコーンにされてしまう。

 

気が付いたときには、もう森の浅いところにいた。そこで初めて体の周りを薄い膜のようなものが張っていることに気が付いた。これはなんだろう? 僕の体を守っている? これのおかげで木の枝やらに傷付けられずに済んだようだ。

 

それでそのまま、セリクスのところへ来たのだった。

 

 

 

 

「そうだ、あの不思議な膜ってもしかしてセリクス? あの時、手を振ってたのってこれだったとか?」

「あぁ、念の為に掛けておいたんだ。少しは役に立ったようだな」

「助かったよ……」

 

セリクスが淡々と答えると、ドラコがほっとしたように息をついた。

 

「それにしてもあのフードの化け物はなんだったんだろう……」

「そのフードの化け物は、死んだユニコーンの血を飲んでいたんだな?」

「あぁ、そう見えた。顔は見えなかったけど。いや、見えなくてよかったかも。もし見えてたら夢に出そう……」

「お前が見えていないなら、向こうからも見えていないだろう。顔を覚えられていたら厄介だった」

「怖いこと言わないでくれよ!」

 

ドラコが身を震わせた。マシになっていた顔色がまた少し悪くなってしまった。セリクスはいたいけな後輩を無闇に怯えさせてしまったことを、ほんの少しだけ反省した。

 

「ホットミルクを」

 

セリクスが誰にともなく呟くと、湯気の立つ大きなマグカップが宙に現れた。甘い香りが部屋に広がる。マグカップを持たせてやると、やっと肩から力が抜けたようだ。

 

「──ほら、これ飲んでもう寝ろ。化け物もここまでは来られない。ホグワーツ城には強固な守護魔法が掛かっている」

「……うん、ありがとう……。飲んで寝るよ。おやすみ」

 

大きなマグカップを両手で抱え、とぼとぼと寝室から去るドラコの背中を見つめながら、セリクスは高速で思考を巡らせていた。

 

フードの化け物。死んだユニコーンの呪われた血。生きながらの死の命。賢者の石。命の水。魔力の変わったクィレルから漂う死臭。半死半生の何か。

 

そして、一つの名前が脳裏に浮かんだ。

 

──ヴォルデモート──

 

セリクスの極めて優秀な頭脳は、最短時間で最も確かな答えを導き出した。10年前の10月、死んだとされた闇の帝王。もし死んでいなかったとしたら。奴が死んだというのは、父マウリシオも懐疑的(かいぎてき)だった。世紀の闇の魔法使いが蘇りをかけて、今現在もホグワーツに潜伏(せんぷく)しているとしたら───

 

月明かりが差し込む寝室で、セリクスの瞳が薄暗闇の中で静かに、そして不気味に光っていた。

 

 

 

 

 




【あとがき】
ドラコは普段、尊大で傲慢で立派なクソガキですが、何かあるとすぐセリクスのところにすっとんで行く可愛いところがあります。完全にドラえもんに縋るのび太で草。まぁセリえもんから出てくるのは、主にホットミルクだけですが。

しれっと杖なし無言魔法を使っていますが、さすがのセリクスも、全ての魔法を杖なし・無言で使える訳ではありません。結界魔法は特に得意分野です。一応理由はありますので、そのうち作中で出ると思います。

爆睡コーウェン君
こんな大騒ぎしてコーウェンは起きなかったのか、というツッコミがあるかもしれませんが、そこはご都合主義ということで……。もしくは起きたけど空気読んで黙っているということにしてください(*・ω・)*_ _)ペコリ
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