スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第1章 第6話 初めての魔法薬学

 

初めての魔法薬学

 

地下の薄暗い魔法薬学教室に足を踏み入れると、壁沿いに並ぶ無数の瓶が不気味に光っていた。中には得体の知れない生き物の標本が浮かんでおり、教室全体に独特の薬品臭が漂っている。

 

スリザリン生とグリフィンドール生が教室の真ん中からきっちり分かれるように着席すると、黒いローブを(ひるがえ)してスネイプ教授が颯爽と教室に現れた。

 

「魔法薬学は───」

 

教授の低く響く声が教室を支配する。

 

「精密な科学であり、優雅な芸術でもある。お前たちの大半は、大釜で煮え立つ液体を棒でかき回すだけの単純な作業だと思っているだろう。だが、どろりとした液体が静かに湯気を立て、(きら)めく蒸気が立ち上り、人の血管を流れる液体の微妙な力を理解出来る者はほとんどいない……」

 

スリザリン生たちは真顔でその演説に聞き入っている。一方、グリフィンドール生の何人かは少し引いた様子で、互いに視線を交わしていた。特にフレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリーの双子は、怪訝(けげん)な顔で眉をひそめている。リー・ジョーダンも不安そうな表情を浮かべていた。

 

スネイプ教授の鋭い視線が教室を見回し、セリクスで止まった。ダンブルドア校長から特に注意して見るよう言われていた生徒だ。理由までは聞かされていないが、おそらく不穏分子なのであろうとスネイプ教授は当たりをつけた。

 

「ミスター・ゴーント」

 

名前を呼ばれたセリクスは、無表情のまま静かに立ち上がる。

 

「ベゾアールとは何で、どこで手に入るか答えろ」

 

教室が静まり返る。新入生にとっては難しい質問だった。コーウェンが慌てて教科書の目次を見るがどこにも記述はなさそうだった。しかしセリクスは迷わず即答した。

 

「胃石です。ヤギの胃の中で形成される石で、ほとんどの毒の解毒剤として機能します。薬草店や薬剤師、場合によっては闇の魔法使いが取引に使うこともあります」

 

セリクスの答えは完璧だった。淀みなく、正確に、そして教科書以上の知識まで含んでいる。セリクスの隣に座っているコーウェンが、慌てて羽根ペンでガリガリとメモを取り始めた。それを見た他のスリザリン生も遅れじとメモを取り始める。グリフィンドール生は動かなかったが。

 

スネイプ教授の口角が微かに上がった。久しぶりの逸材の予感がしたのだ。

 

「正解だ。スリザリンに10点」

 

セリクスは表面上はピクリとも表情を動かさなかったが、内心では不可解に感じていた。初回の授業で10点も加点されるのは普通のことなのだろうか。それとも贔屓(ひいき)なのだろうか。スネイプ教授はスリザリンの寮監だ。ゴーント家嫡男のセリクスに媚びを売るような人物には全く見えないが、もしかしたらスリザリンには甘いのかもしれない。

 

(それにベゾアール石なんて誰でも知っているだろう)

 

セリクスの認識は少し人とはズレていた。ベゾアール石は教科書の最後の方に記載されていて、まだ初日で授業を受けていない1年生のほとんどは知らなかったのだ。

 

グリフィンドール生たちの間に不満の空気が流れる。特にフレッドは明らかに機嫌が悪くなり、セリクスを睨みつけていた。

 

「当然知ってるってことか、スリザリンのお坊ちゃんは」

 

フレッドが苦々しげに小声で吐き捨てた。だがその声は教室の静寂の中で、思ったより響いてしまった。

 

スネイプ教授の冷たい視線がフレッドに向けられる。

 

「ウィーズリー。余計な口を叩く前に、自分の知識を心配したらどうだ」

 

フレッドの顔が一気に赤くなった。ジョージとリー・ジョーダンが心配そうに見つめる中、フレッドはセリクスへの敵意を隠そうともしなくなった。悔しそうに睨みつけている。

 

セリクスは相変わらず無表情で、フレッドの視線など意にも介さない様子だった。コーウェンは隣で、この微妙な空気を察して少し居心地悪そうに縮こまっている。他の寮生の中には、ピリピリとした空気に顔をしかめている者もいた。

 

初日から、寮間の対立の火種が生まれてしまった瞬間だった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

授業の後半、スネイプ教授は無言のまま黒板に杖を向け、一瞬で文字を書き出した。

 

———

【おできの薬】

・乾燥したネズミの脳

・角ナメクジ

・ヘビの牙

・ヤマアラシの針(※注意! 最後、火から下ろしてから入れること!)

———

 

「配合と加熱を間違えれば、鍋ごと吹き飛ぶぞ。注意しろ」

 

スネイプ教授の静かな声に、生徒たちは慌てて材料に手を伸ばし始める。しかし初めての実習に、多くの1年生は戸惑い、分量や手順を確認しながらもたついていた。

 

セリクスはというと、教科書すら開かず、淡々と材料を並べていく。火加減を魔法で安定させ、乾燥したネズミの脳を鍋に落とす。木べらを反時計回りに3回、寸分の狂いもなく混ぜると、角ナメクジとヘビの牙を順に投入。

 

鍋の中が青白く泡立ち始めたのを確認すると、セリクスは静かに火から鍋を下ろした。最後に、小さな乳鉢で丁寧にすり潰しておいたヤマアラシの針を加える。

 

しゅん、と音を立てて湯気が上がり───

 

液体はあっという間に滑らかなピンクがかった銀色へと変化した。

 

スネイプ教授が背後から鍋を覗き込む。ジロジロとしつこく確認した後、ニヤリと口角を上げた。

 

「完璧だ。スリザリンに10点」

 

再びの加点に、グリフィンドール側の空気がぴりついた。特にフレッドは小さく舌打ちし、まるで言葉を飲み込むようにセリクスを睨んでいた。

 

一方、周囲の鍋ではあちこちから不安な色の煙が立ちのぼり、妙に緑がかった液体や、凝固した失敗作が次々と生まれていた。

 

「ヤマアラシの針って……。先に入れるんだっけ……?」

「え、火から下ろすの!? 聞いてない……!」

 

そんな声が飛び交い、軽くパニックになっている生徒もいた。モンタギューとワリントンの鍋など、中身が蒸発し焦げ付いてしまっている。火加減が強すぎである。

 

コーウェンは隣で苦笑しながらも、慎重に工程をなぞっていた。明らかな失敗はしていなさそうだ。

 

「ほんと……。誰かさんのせいで、加点ハードルが上がってるよね」

 

ぼそりと呟くが、セリクスは相変わらず無表情で、何の反応も返さない。

 

魔法薬学、初回の授業。

 

フレッドの睨みと、スリザリン生たちの誇らしげな視線───

 

新たな序列の芽が、静かに芽吹きつつあった。

 

 

 

 




【あとがき】
完全に『賢者の石』のオマージュですが、スネイプ教授は意地悪をする時、この問題を出すということにしてください。とはいえ、ハリーへのような私怨混じりの意地悪ではなく、今回はダンブルドアに「少し注意して見ておけ」と言われていた生徒への小手調べに近いです。セリクスがあまりにもスラスラ答えてしまうので、トリカブトの出題はやめました(笑)

フレッドがセリクスのライバル(?)枠になりました。ジョージよりもフレッドかなぁ?となんとなくですが。でもジョージの方もちゃんとセリクスのことは嫌いです。ちなみにセリクスはフレッドとジョージの見分けは全くついていませんし、見分ける必要性も感じていません。

疑惑の加点ですが、1回の授業で1人の生徒に20点はまあ普通じゃないですよね。同じことをグリフィンドールがやっても多分1点もくれないことでしょうꉂꉂ(ˊᗜˋ*)
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