スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~ 作:如月斎
宝物になった名前
6月末、三頭犬は狭い廊下から外の世界へと運び出された。
ずっと暗くて狭いところにいたせいで、急に明るい場所に出されると目がぱちぱちと瞬いた。陽光が眩しくて、3つの頭がそれぞれ違う方向を向いて光に慣れようとする。
すぐそばには大好きなハグリッドがいた。それだけで尻尾が勢い良く振れそうになったが、何故かハグリッドは泣いていた。大きな体を震わせて、涙をぽろぽろと流している。
他にも何人か人間がいる。なんとなく強そうな気がする髭の長い老人と、黒いローブを着た見知らぬ大人たち。
三頭犬は首を傾げた。ハグリッドと遊べると思って喜んでいたのに、この雰囲気は何だろう。
「ダンブルドア校長。どうしてもですかい? フラッフィーはいい子だ。こーんなにいい子なんだ。ずーっとおれが面倒みますだ。なんでギリシャなんぞにまた戻すんですかい」
ハグリッドの声が震えている。普段の陽気な調子とは全く違う、悲しみに満ちた声だった。
「仕方ないんじゃよ。ハグリッド。フラッフィーにはここは狭すぎる。ギリシャの元いたところならきっとフラッフィーももっとのびのびと生きてゆけるはずじゃ」
髭の老人──校長と呼ばれた人が答える。その声は優しいが、どこか諦めのような響きも含んでいた。
人間たちが、あの細い棒切れを三頭犬に向けてきた。いつもあの"小さなお友達"が向けてきた時は、温かくて心地良い感じがしたのに、今度は違う。
冷たくて、拒絶するような──嫌な感じ。
三頭犬は本能的に身構えた。そばにいた全身黒いローブの見知らぬ人間に向かって、低く唸り声を上げる。
「ウウウウウウ!!」
三つの口が同時に牙を剥き、
「フラッフィー! いかん!」
ハグリッドに止められて、とりあえず唸るのはやめた。でも、ここはなんだか嫌だ。空気が重苦しくて、みんなの表情が暗い。
ハグリッドが手招きしてくる。近付いてみると、三頭犬がギリギリ入れそうな大きさの檻が用意されていた。鉄の匂いと、冷たい金属の感触が鼻先に触れる。
──嫌だ!
檻の中は狭くて、息苦しそうで、とても入りたくない。三頭犬は生まれて初めて、大好きなハグリッドに牙を剥いた。
「ガウ〜!! ガウガウガウッ!!」
怒りと困惑が混じった吠え声が、廊下中に響き渡る。周りにいた人間たちが、更に嫌な感じのする棒切れを突きつけてくる。魔法の力が空気を震わせ、毛の一本一本が逆立った。
その時だった。
鼻をひくひくと動かすと、懐かしい匂いが風に乗って流れてきた。あの優しくて、いつも美味しい肉をくれて、気持ちよく撫でてくれる───
──あの小さなお友達が来る!
三頭犬は突然、その場から走り出した。大きな体が廊下を駆け抜け、石の床が足音に震える。
「フラッフィー! どこへ行く!」
「戻ってくるのじゃ!」
ハグリッドや老人が何か叫んでいたが、もう耳に入らなかった。大切なのは、あの匂いを
廊下の角を曲がったところで、遂に見つけた。
──いたいた! 会いに来てくれたの?
三頭犬は
構わず、大きな舌で頬をベロンと舐める。ほんのり温かな肌の感触と、いつもの安心出来る匂い。ああ、やっぱりこの人だ。
「いかん! 離れるんじゃ!」
「校長……?」
「フラッフィー。どうしたんだ。こっちに来い!」
大人たちがまた騒いでいるが、三頭犬は小さなお友達から離れる気はなかった。
──嫌だ! ハグリッドももう嫌い! たまにしか来てくれないし! 寂しかったしお腹もすいた! この子はいっぱい可愛がってくれた! この子といる!
「ガウガウガウ!!!」
三頭犬は大人たちに向かって吠えた。でも、小さなお友達には絶対に牙を向けない。
「いかん。興奮しておる。先生方、失神呪文を」
「待ってください」
小さなお友達の声が響く。いつもの落ち着いた、優しい声だった。
「ミスター・ゴーント。三頭犬は危険なんじゃ。噛まれる前にゆっくり離れなさい」
「大丈夫です。舐められただけです。……落ち着け」
優しく話しかけられて、三頭犬は吠えるのをやめた。小さなお友達はいつもとてもいい匂いがする。微かに人肌の温もりを
ぺろぺろと頬を舐めていると、いつものように幸せな気分になってくる。心臓がゆっくりと落ち着いて、呼吸も穏やかになった。
「フラッフィーが……。信じられん。こんなに大人しくなるのは初めて見る……」
髭の老人が驚いたような声を出している。
「何があったんです? 何をするつもりだったんですか?」
「フラッフィーは役目を終えたので、元いたギリシャに返す予定なんじゃ」
「ホグワーツはフラッフィーには狭いって、校長先生は言いなさる。でもギリシャがフラッフィーに対して良い場所か俺にはわからん。校長先生、やはり森で世話しちゃダメですかい?」
ハグリッドの声には、まだ希望が残っている。
「いかんよ。ハグリッド。生態系が壊れてしまうからの」
「校舎内でこんなに大きな生き物を飼っていたんですね。だから4階が立ち入り禁止に? ギリシャに返すのは心配だけど、禁じられた森も駄目と……。なるほど」
小さなお友達は何やらぶつぶつと言いながらも、三頭犬の胸のあたりを優しく撫でてくれている。その手は温かくて、毛を
「なら私が引き取りましょうか?」
その瞬間、空気が変わった。
「なんじゃと?」
「お前さんがか? あー……、気持ちはありがてぇがフラッフィーみたいな大型の魔法生物は一般家庭じゃ荷が重くねぇか?」
ハグリッドの声に、急に明るさが戻ってきた。
「森番殿。心配はご無用。我がゴーント家は一般家庭ではないので。実家の周りはマグルが立ち入れない深い森になっています。このくらいの生物なら問題ないでしょう」
小さなお友達の声は、いつものように淡々としている。でも三頭犬には分かる。この人は本気だ。
「おお。それなら……。それにギリシャは遠いが、お前さんの家ならイギリス国内だな?」
「ええ。ちょうどペットを飼ってみたいと思っていたところです」
「いや、しかしの……」
髭の老人がまだ何かごちゃごちゃ言っているが、三頭犬はもう聞いていなかった。小さなお友達のそばにいられる。それだけで十分だった。
その後、人間たちがいろいろと話し合っていたが、三頭犬には理解出来なかった。でも最終的に、小さなお友達のそばにいることが出来るようだった。
それだけで、大満足だった。
◆ ◆ ◆
それから数日間、三頭犬は再び元の狭くて暗い廊下に押し込まれた。でも今度は違う。希望があった。
また明るいところに出されると、小さなお友達が待っていた。その隣には、前回の檻よりもふた周りほど大きな檻が用意されている。
それでも檻は檻だ。三頭犬はとても嫌だったが、小さなお友達に頼まれては仕方ない。渋々と中に入った。
しばらく周りの景色が見えなくなり、ガタガタと揺れ続けた。乗り物に乗せられているのだろう。時間の感覚が分からないほど長い間、揺れは続いた。
やがて動きが止まり、小さなお友達が檻を開けてくれた。外に出てみると───
息を呑んだ。
今まで見たこともないくらい広い空間が広がっていた。どこまでも続く青い空。風に揺れる緑の木々。足元には柔らかな草が生え、色とりどりの花が咲いている。虫たちが羽音を立てて飛び回り、鳥たちが枝から枝へと移っていく。
生暖かい風が毛を撫でていく。草の匂い、花の匂い、土の匂い──生命に満ちた、豊かな匂いたちが鼻腔をくすぐった。
三頭犬は
どこまで走っても壁にぶつからない。どこまで行っても、まだ先がある。こんなに広い場所があることを、今まで知らなかった。
──楽しい!!
息が苦しくなるまで走り回って、ふと小さなお友達のことを思い出した。慌てて元の場所に戻ると、お友達は一歩も動かずに、じっと待っていてくれた。
「気に入ったか。ここは私の魔法の鞄の中だ。ここなら外敵もいないし運動不足にもならないだろう。世話もしやすいし、素材もすぐ回収出来る」
最後の部分はよく分からなかったが、三頭犬には十分だった。
──ここ好き! ありがとう!
「ガウッ!」
嬉しさを込めて一声鳴くと、小さなお友達の頬をべロリと舐めた。ほのかな温もりと、いつもの優しい香り。今日は特別に心地よく感じられる。
「そういえばお前フラッフィーって名前だったんだな。フラッフィーって……仔犬か? 森番のネーミングセンスはどうなっているんだ……。だからと言ってケルベロスは種族名だしな……」
小さなお友達が何かぶつぶつと呟いている。三頭犬は首を傾げた。
──僕、別にどっちでもいいけどな。君が呼んでくれるなら。
「……そうだな、冥府の神の名をとって、オルクスはどうだ?」
──オルクス。
新しい名前が、風に乗って響いた。なんだかとても格好良くて、大切にされているような気がする名前だった。
「ガウッ!」
フラッフィー──いや、オルクスは嬉しそうに一鳴きした。大きな尻尾が勢いよく揺れて、草花を撫でていく。
青い空の下で、新しい名前と新しい家を手に入れたオルクスは、心の底から幸せだった。この広い世界で、大好きな小さなお友達と一緒に過ごせる。
これ以上の幸せがあるだろうか。
オルクスは再び駆け出した。今度は純粋な喜びのために。風を切って、草原を駆け抜けて、新しい生の始まりを全身で感じながら。
第3章・[完]
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登場人物紹介
◆ ゴーント家:関係者
✦ 氏名:レオ・ノックス
(Leo Nox)
✦ 生年月日:1961年8月23日、乙女座
✦ 髪色/瞳色:黒髪/灰青色
✦ 血統:純血(セリクスの母方の親戚)
✦ 性格・特徴:ミステリアス、人当たりが良い、朗らかな物腰、非常に高度な魔法の使い手
✦ 備考:セリクスの兄のような存在であり魔法の師でもある
セリクスの愛用品の万年筆はレオからのプレゼント
◆ ホグワーツ生徒:スリザリン
✦ 氏名:セオドール・ノット
(Theodore Nott)
✦ 生年月日:1979年11月20日、蠍座
✦ 髪色/瞳色:黒髪(前髪がやや長め)/黒目
✦ 血統:純血(聖28一族) ✦ 成績:学年2位
✦ 家族:ノット・シニア、母は幼少期に他界、屋敷しもべ妖精のブラム
✦ 性格・特徴:無口、控えめ、毒舌、一匹狼気質、聴覚過敏で静寂を好む、血統オタクの読書家
✦ 得意科目:魔法薬学、魔法史、古代ルーン文字学
✦ 苦手科目:飛行術、闇の魔術に対する防衛術の実技、天文学
✦ 備考:認めた相手以外には辛辣だが、セリクスのことは深く尊敬し懐いている
ブレーズ・ザビニと同室だが、性格や価値観が合わず特に仲は良くない
✦ 氏名:ドラコ・ルシウス・マルフォイ
(Draco Lucius Malfoy)
✦ 生年月日:1980年6月5日、双子座
✦ 髪色/瞳色:プラチナブロンド/冷たい灰色
✦ 血統:純血(聖28一族) ✦ 成績:学年8位
✦ 家族:ルシウス・マルフォイ、ナルシッサ・マルフォイ、屋敷しもべ妖精のドビー
✦ 性格・特徴:強い純血思想、プライドが高く傲慢、強気なビビり、隠れ寂しがり屋、両親への強い敬愛(実態は重度のファザコン&マザコン)
✦ 得意科目:魔法薬学、飛行術、呪文学
✦ 苦手科目:魔法史、薬草学、魔法生物飼育学
✦ 備考:何かあるとすぐセリクスになんとかしてもらおうとする甘ったれ
自分とセリクスの思想が全く同じものだと勘違いをしている
✦ 氏名:パンジー・パーキンソン
(Pansy Parkinson)
✦ ビジュアル:小柄、黒髪のおかっぱ、鼻がやや低めのぶちゃかわ系。ドラコからは内心、少しパグに似ていると思われている
✦ 血統:純血(聖28一族) ✦ 成績:学年35位
✦ 性格・特徴:強気、高飛車、感情的、面食い、キャンキャンうるさい
✦ 得意科目:天文学
✦ 苦手科目:魔法史
✦ 備考:ドラコに夢中で、懲りずにアタックを続けている
セリクスのこともミーハーな意味でファンだが、遠巻きに騒ぐ程度
✦ 氏名:ダフネ・グリーングラス
(Daphne Greengrass)
✦ ビジュアル:ブロンドヘア、蜂蜜色の瞳、すらりとした体型。胸が小さいことがひそかな悩み
✦ 血統:純血(聖28一族) ✦ 成績:学年13位
✦ 性格・特徴:お淑やか、控えめ、礼儀正しい、妹を溺愛、グリフィンドールには辛辣
✦ 得意科目:変身術、魔法史
✦ 苦手科目:薬草学、魔法薬学
✦ 備考:セリクスに憧れており、話しかけられると有頂天になる
ドラコとは仲良くはないが、互いに遠慮なく物を言える関係
✦ 氏名:ミリセント・ブルストロード
(Millicent Bulstrode)
✦ ビジュアル:同年代の女子の中ではかなり大柄で、肩幅が広く、がっしりとした体格
✦ 血統:半純血(聖28一族) ✦ 成績:学年49位
✦ 性格・特徴:気が強い、腕力がある、杖より先に手が出る、仲間思い、猫好き
✦ 得意科目:闇の魔術に対する防衛術、薬草学
✦ 苦手科目:魔法史、魔法薬学
✦ 備考:半純血であることに少しコンプレックスを抱いている
親しい女友達2人を自分が守らなければならないと思っており、見下してくるドラコには強く反発する
◆ ホグワーツ生徒:他寮
✦ 氏名:ネビル・ロングボトム
(Neville Longbottom)
✦ 生年月日:1980年7月30日、獅子座
✦ 髪色/瞳色:焦げ茶色/褐色
✦ 血統:純血(聖28一族)
✦ 寮:グリフィンドール ✦ 成績:学年65位
✦ 家族:フランク・ロングボトム、アリス・ロングボトム、オーガスタ・ロングボトム、ヒキガエルのトレバー
✦ 性格・特徴:おっちょこちょい、忘れん坊、劣等感の塊、偏見が少ない、素直、動植物への愛が深い
✦ 得意科目:薬草学
✦ 苦手科目:魔法薬学、実技全般、暗記物
✦ 備考:行動がニフラー、見た目がパフスケインに似ているとセリクスから思われている
困っているとなんだかんだ助けてくれるせいで、セリクスのことを良い人と認識している
【あとがき】
●独り言
まさかの三頭犬「フラッフィー」視点です。あんまり他で見たことがなく需要があるかは分かりませんが、思い浮かんでしまったので書き上げました。1年間もダンブルドアの都合で主人と引き離され、散歩も出来ない狭い部屋で飼い殺され、やっと出られたと思いきや問答無用でギリシャに返されるフラッフィー、不憫すぎません? 現代マグル界だと絶対動物愛護の観点からダンブルドアは大バッシングを受けるだろうな~と思いました( ̄▽ ̄;)
ちなみにセリクスは以前から、ちょこちょことオルクスに肉を差し入れていました。やっていることがまんま、お母さんに内緒で拾った仔犬にこっそり餌付けする小学生です。゚(゚^ω^゚)゚。
●裏話
ダンブルドアはセリクスに危険生物を渡したくないため、結構ギリギリまで渋りますが、ハグリッドの涙ながらの懇願と周りの教授たちからの冷たい視線に最後は折れます。ちなみに名前は出てませんが、その場にはスネイプ教授やマクゴナガル教授、フリットウィック教授あたりはいました。
●魔法の鞄
ホグレガの必要の部屋にある草原や、ファンタビのニュートのトランクの中の空間を想像して頂ければ大体合っています。あれくらい広ければ運動不足にはならないでしょう。ホグワーツの教授たちはその鞄の存在すら知りませんけどね(笑)
第3章、やっと完結することが出来ました! 皆様、お付き合いいただきありがとうございました!
お気に入り登録やしおり、感想などをいただく度に、いつもヽ( ▼∀▼)ノ フォー!!となっております。
「ここが好きだった」「このキャラが気になった」など、一言だけでも感想をもらえると、とても励みになります。
評価も押していただけましたら、今後の執筆のモチベーションに繋がります!
次回からは『秘密の部屋』編が始まります! 相変わらずハリーたちとの接触はほとんどありませんが、その代わりスリザリン生たちとは着々と絆(?)を深めていく予定です。
第4章でもどうぞよろしくお願いいたします(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)“ペコ