スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~ 作:如月斎
第4章 第1話 人外の成績表/第2話 ゴーント家の密談
人外の成績表
夏季休暇初日、ホグワーツ生たちは皆大きなトランクを抱えて、ホグワーツ特急に乗り込んでいく。車輪と線路が立てる金属音が響く中、白い煙を吐く機関車が重々しく動き出した。
普段はセリクス、コーウェン、セドリックの3人でコンパートメントに座るのが恒例だったが、今回は様子が違った。セドリックがハッフルパフの友人に誘われたらしく、代わりにいつもの5人組がやって来たのだ。セリクス、コーウェン、そして5人組の計7人という大所帯になってしまった。
「うわぁ、狭い……」
7人で座るにはコンパートメントはあまりにも手狭で、ワリントンの大柄な体が座席からはみ出している。それを見たセリクスが、何の
「《
検知不可能拡大呪文が掛かった瞬間、コンパートメント内の空間がぐんと拡がった。初めてそれを目の当たりにしたピュシー、モンタギュー、ワリントンは、まるで間近に野生のトロールでも出たかのように、目を剥いて驚愕していた。
「これ、法律違反だぞ!」
比較的良心的なピュシーが、血相を変えて叫んだ。しかしブレッチリーとヒッグスは、慣れた様子で肩をすくめるだけだった。
「それね、もう僕が前に言った台詞」
「ゴーント君に常識が通じると思ってたんですか?」
訳知り顔の2人に対して、セリクスの瞳が冷たく光った。
「一緒に座りたいと言われたから掛けただけなんだが。文句があるなら解除するぞ」
その言葉に、ヒッグスとブレッチリーが慌てて手をひらひらと振った。
「わー! 嘘、嘘! ごめんって! さすがゴーント様。3年連続のぶっちぎり1位は伊達じゃないです!」
「僕たちまだ1回も同席したことないじゃないですか。たまにはいいでしょう?」
媚びを売るような口調に、セリクスの機嫌が僅かに直った。モンタギューとワリントンは相変わらず大口を開けて、拡がったコンパートメントの中を見回している。ピュシーが深々と溜息をついた。
「まぁゴーントならもし見つかっても大丈夫そうだし。とりあえず座るか」
7人が適当に席に座った。毎度のことながら、口数が少ないセリクスが何故か自然と真ん中に座っている。コーウェンはそのすぐ隣に滑り込んだ。5人組がそう動くのは、もはや本能のようなものだった。
「見てください! 遂に学年2位になりました。苦節3年、やっとディゴリーを抜かせましたよ」
ブレッチリーが嬉々として成績表を広げた。確かに大廊下に貼り出されていた順位表でも、堂々の2位に輝いていた。言わずもがな、セリクスは満点超えの1位で金色の星とリボンで装飾されていたが。
「うわぁ! すごいじゃん、勉強めちゃくちゃ頑張ってたもんね!」
コーウェンが心から嬉しそうに拍手を送った。ブレッチリーは見るからに鼻高々という顔で、その称賛を受け入れている。
「待てよ。俺だって今回はめちゃくちゃ頑張ったんだぞ。最後の方、記憶ないけど」
「グラハム、最後なんか口からゴーストみたいなよく分からないもん出てたよ」
「なにそれ! きもっ!」
成績下位のモンタギューが謎の張り合いを見せ、すぐさまヒッグスに突っ込まれていた。ワリントンは自分の成績を思い出したのか──留年はかろうじて回避していた──蒼い顔をしながらハニーデュークスで買い込んだ蛙チョコを
「去年より総合点数も上がっていた。まぁお前も頑張ったんだろう」
セリクスからの労いらしき言葉に、ブレッチリーの瞳が輝いた。未だにセリクスに対してひそかな憧れがあるのだろう。
「セドリックは選択科目全履修という所業をやってのけたからな。必須科目が多少落ちたんだろう」
「はあ? 選択科目全履修? ディゴリーって分身魔法でも使えたんですか?」
ブレッチリーの当然の疑問に、セリクスは何食わぬ顔でかわした。
「さすがに4年生からはやめろと言っておいた」
タイムターナーのことは絶対秘密なのだ。コーウェンが少し慌てて話に割り込んだ。
「セリクスも選択科目全部試験受けてたよね? 結果はどうだったの? 『占い学』は自信ないって言ってたけど……」
「ああ、『占い学』はコツがあるんだ。全て満点だったが、『古代ルーン文字学』と『マグル学』の点数がおかしかったな」
「おかしいって?」
セリクスが鞄から成績表を取り出して開いた。全員が覗き込んで、同時に呻き声を上げた。
「……う、わぁ……」
「『マグル学』、350点? あれって100点満点では?」
「『古代ルーン文字学』は、……なんだこれ。お前
「……400点……???」
「……おえ……」
「おい、えずくな」
ちなみに上からコーウェン、ブレッチリー、モンタギュー、ヒッグス、ワリントン、ピュシーである。
6人全員から人外を見るような眼差しを向けられ、セリクスは口元を引き結んだ。本人にも予想外の点数だったのだろう。バブリング教授からは多少贔屓されている可能性もあった。それにしても100点満点で400点は異常な気がするが。
ブレッチリーが黙って自分の成績表をしまいこんだ。恥ずかしくなったらしい。セリクスもさっさと畳んで鞄にしまった。誰もが今見たことをなかったことにしたようだった。
気を取り直したセリクスが、いつものティータイムを始めることにしたようだ。杖を振ると、ポコポコとお湯が沸いているティーポットと7人分のティーカップ、早朝に屋敷しもべ妖精に作らせたスイーツや軽食の数々、ついでにテーブルも宙から現れた。セリクスが茶葉の入った袋を取り出し、真向かいのピュシーに差し出す。
「紅茶を淹れてくれ」
「えっ? 僕が? 君いつも自分で淹れてなかったっけ?」
「いつもはハウスエルフが淹れている。私は自分では淹れたことがない」
「嘘だろ? 君なら料理とかお菓子作りとかも、杖の一振りで出来そうなもんだけど」
ピュシーもあまり紅茶を淹れたことがないらしい。なかなか受け取らないので、セリクスの機嫌が目に見えて下がってきた。それを察知したコーウェンが代わりに茶葉を受け取り、慣れた手付きで紅茶を淹れ始める。
「ああいうのは、自分でまず出来るようにならないと魔法も発動しない。私は生まれてこの方、家事をしたことなどない」
その発言に、一同が絶句した。
(このお坊ちゃまめ……)
全員の気持ちが一致した貴重な瞬間だった。
◆ ◆ ◆
「そういえば、夏休みは君たち何するの?」
屋敷しもべ妖精作の美味しいバタークッキーをサクサク食べていたヒッグスが何気なく発した言葉に、全員の注目が集まった。興味津々な眼差しで見つめられる。
「僕は1ヶ月間、セリクスのお家でご厄介になる予定だよ。楽しみだな〜」
コーウェンがにこにこと、本当に嬉しそうに言った。セリクスも小さく頷く。
「え〜、いいなぁ。それ俺らも行っちゃダメか?」
「お泊まり会か? ゴーントん家、お宝とかご馳走とかありそう」
モンタギューとワリントンが身を乗り出したが、セリクスの返答は冷ややかだった。
「どうしても来たいのなら父上に打診してみるが……。お前たちゴーント家の当主と毎日ディナーを囲みたいのか?」
「ヤッパリイイデス」
何も深く考えずに言ったモンタギューは、すぐさま前言を撤回した。ワリントンも慌てて頷く。会ったことなどないが、セリクスの父親なぞどう考えても楽に息が出来る相手とは思えなかった。そしてコーウェンは取っ付きやすいが、なんだかんだで純血の名家出身なのだなと改めて認識したのだった。
◆ ◆ ◆
軽食も食べ切り、話し疲れて皆が少しうとうとする頃、やっとホグワーツ特急がキングス・クロス駅に到着した。汽笛が長く響き、蒸気が白く立ち昇る。大荷物を抱えて生徒たちがホームに降り立つ。背を伸ばし周りを見渡す者、早速親を見つけて走っていく者、様々だったが、コーウェンはセリクスに向き合って小さく手を振った。
「じゃあ、えーっと1週間後のお昼頃に、セドリックと待ち合わせて煙突飛行ネットワークで向かうね」
「ああ、待っている」
「うん、じゃあね! セリクス!」
コーウェンは、父のエドモンドのところに駆け出していった。セリクスも、少し離れた位置にいたマウリシオの元へゆっくりと歩いていく。相変わらずマウリシオの周りは、ぽっかりと空間が空いていて歩きやすかった。
「父上、戻りました」
「うむ」
2人は人気のない隅へ移動し、独特の音と共に姿くらましで姿を消した。夏の陽光が差し込むキングス・クロス駅のホームには、夏休みという新たな章の始まりを告げるように、機関車の汽笛が駅に響いていた。
◆ ◆ ◆
ゴーント家の密談
夜の
セリクスが無言のまま魔法の鞄から小さな布の包みを取り出し、テーブルの中央にそっと置いた。杖を振ると、
マウリシオが、それを慎重な手つきで手に取る。まるで壊れ物を扱うような丁寧さで、布の包みを解いていく。中から現れたのは、血のように真っ赤に輝く『賢者の石』だった。
月光を映し込み、石の表面が神秘的に輝いている。その光は見る者の心を惹きつけ、離すまいとするような力強さを秘めていた。赤い輝きが壁に反射して3人の影が揺らめいた。
「おお……」
「……これが」
マウリシオもレオも、すぐには言葉が出てこない。エメラルドグリーンと灰青色の瞳が、それぞれ大きく見開かれ、2人は伝説の『石』の輝きに見入っていた。夜虫の鳴き声が窓の向こうから微かに聞こえる中、しばらく沈黙が続いた。
やがてマウリシオがゆっくりとセリクスの方を向く。その表情には複雑な感情が入り混じっていた。
「それで、首尾よく
「はい。理由は分かりませんが、どうやらダミーの『石』を砕いたようです。少しの間発覚しなければいいと思っていたんですが、嬉しい誤算でした」
セリクスの声は相変わらず淡々としているが、瞳の奥に満足げな光が宿っている。
「『賢者の石』を砕く理由か……。あの老人とは、ほとんど会話をしたことがないからな。何を考えているのか分からん」
父子で首を傾げて悩む姿は、そっくりだった。同じ角度で眉をひそめ、同じように唇を薄く引き結んでいる。その様子を眺めていたレオは、『石』を受け取ってじっくりと見つめながら、小さくクスリと笑った。
「私はなんとなく分かる気がするけど。こんな物があるからいけないんだって言ったんだろうけど、本当は自分より優れたものがあることが許せないんじゃないかな」
レオは伏し目になりながら、どこか遠くを見るような表情で言った。何かを思い出すような、苦い記憶を噛みしめるような顔だった。
「これがないと、ニコラス・フラメル夫妻は生きられない。フラメルが生きてるのは許せなかったんじゃないかな?」
「フラメル氏とダンブルドアは友人関係では?」
セリクスの疑問に、レオは曖昧に頷く。
「うん、そうなんだけどね。ダンブルドアって怖いよね」
その時浮かんだレオの苦い笑みを見て、セリクスは何かを感じ取った。
「ダンブルドアに詳しいんですね。面識が?」
「…………」
レオは答えなかった。ただ黙ってセリクスを見返す。その瞳は何も映していない透明なガラス玉のようで、
レオが再び優しく笑いかける。いつものように人当たりの良い、誰からも愛されそうな笑顔だった。
「セリクス、君これを使って何をするつもりだい? 億万長者? 永遠の命?」
「……両方興味はありませんが……。命の水は作ってみようかと。何かに使えるかもしれませんし」
セリクスの答えに、レオの瞳が僅かに細められる。
「フラメルのレシピもないのにかい? 本当に天才だな、君は」
「さすがにフラメル氏に聞く訳にはいきませんからね。まぁ精進します」
2人のやりとりを黙って聞いていたマウリシオは、深い溜息をついた。愛する息子の才能を誇らしく思う一方で、その危険な方向性に頭を抱えたくなる。
「セリクス。絶対に何があってもバレるんじゃないぞ。さすがにこれは
「父上、お気遣いなく。そんなヘマはしません。別邸にある資料を取り寄せてくれたら助かりますが」
「それくらいならやってやる。……疲れた。アゼル、紅茶を」
ソファに背中を預けた父親を尻目に、セリクスは『賢者の石』を元の通り何重にも保護魔法をかけて鞄にしまいこんだ。姿を現さないままアゼルが紅茶の準備を進める気配を感じながら、セリクスは次の話題を切り出した。
「1週間後にコーウェンとセドリックが来るのは聞きましたよね? その時、レオさんには2人に閉心術を叩き込んでもらいたいんです」
レオの表情が一瞬曇る。
「ええ? 閉心術? 君じゃないんだから、あんなの4年生には無理だと思うよ」
どうやらレオは乗り気ではないようだった。というよりも、最初から習得出来ないと決めつけている節がある。確かに、大人の魔法使いでも習得している人はほとんどいない高等魔術だ。しかしセリクスには、どうしても引き下がれない理由があった。
「コーウェンは恐らく大丈夫だと思います。セドリックは性格的に閉心術は苦手分野かもしれませんが……」
セリクスの言葉に、レオが興味深そうに首を傾げる。
「ああ……コーウェン君、なんかちょっと闇抱えてそうな子だよね。でもどうして閉心術なんか」
「同室のコーウェンに、いつまでも『石』のことを隠し通せないかもしれないからです。ダンブルドアは会う度に私に開心術を仕掛けてきます。突破されたことはありませんが、コーウェンが狙われたらひとたまりもありません」
この説明に、2人は深く納得したようだった。『賢者の石』のことがダンブルドアに知られたら、セリクスは一巻の終わりである。闇の魔法使いと断じられてアズカバン行きの可能性すらある。ただでさえ何故か入学当初から何かを疑われている身だ。万全の態勢を取りたかった。
「OK。仕方ないな。可愛い弟分がアズカバン行きになるのは忍びないからね」
レオが苦笑いを浮かべながら承諾する。
「もしそうなったらレオさんも道連れですよ。もしくは脱獄手伝ってくださいね」
「君って顔に似合わずめちゃくちゃ前向きだよね」
「杖を取り上げられると聞きました。……杖なし魔法を使えばいいのでは?」
「セリクス、それ以上はいけない」
「……?」
年の離れた仲の良い兄弟のような2人のやりとりを、なんとはなしに聞き流しながら、マウリシオは頭が痛くなる思いがした。我が子はまっとうな学生生活を送ろうという気がさらさらないようだった。愛する妻との間に出来た愛し子であることには変わりないが、もう少し大人しくしてほしいと願うマウリシオなのであった。
月光が窓ガラスに反射し、紅茶の芳醇な香りが部屋に漂う。アゼルが静かに紅茶を運んできて、3人の前にそっと置いていく。
(性格は私にもセレスティアにも似ていない。恐らくレオの影響だろう)
そんなことを思いながら、マウリシオは紅茶に口をつけた。セリクスは見た目も性格も自他ともに認めるほど父親似だが、マウリシオ本人だけが頑なに認めないのだった。
◆ ◆ ◆
「コーウェン君たちに教えるのは閉心術だけでいいのかい?」
「あとは宿題を見てもらえればと……。あ、《
「いや、そっちじゃなくて開心術はいいのかい? 一応セットの魔法なんだけど」
「開心術なんて習う必要あります?」
「……どういう意味かな?」
「生まれつきの開心術士ならともかく、後天的に会得して日常的に使う人間は信用に値しません」
「…………」
「……? レオさん?」
「いや……。必要にかられて使う場合はどうかな?」
「日常生活の中でどんな場合があります?」
「…………そうだね。君がまっとうな倫理観の持ち主に成長してくれて私は嬉しいよ」
「……? ありがとうございます?」
【あとがき】
●魔法
作中に出てくる呪文ですが、原作には明記されていませんが、ポッターモアに出典が載っている公式呪文です。ちなみに、その呪文を使っているところを闇祓いに見つかったら、例えセリクスだろうと普通に捕まるはずです( °▽° )ワハ
●半死のモンタギュー
モンタギューの口から漏れていたゴーストのような物質は、エクトプラズムみたいなものだと思ってください。たぶん勉強疲れと寝不足で見えていた幻覚です( ̄▽ ̄;)
●疑惑の成績
セリクスの成績ですが、断じて依怙贔屓ではありません。問題に対して常識的な答えだけでなく、鋭い独自の考察などもびっしり書き込んだため、教授陣は真面目にチェックして加点していっただけです。セリクス本人ですら「もしかしたら贔屓かも……」と思ってしまっていて教授が知ったらショックかもしれませんね(笑)
●ダンブルドア
ダンブルドアに対する言及はレオの個人的な考えであり、それが正解なのかは私にも分かりません。ただ、レオはダンブルドアのことをそう理解しているということです。原作を読んでいても結局ダンブルドアが真に何を考えていたのか、あまりよく分かりませんでした。主人公であるハリーの視点から見ても、ダンブルドアのことを全て分かっていたとは言い切れませんよね。
●開心術・閉心術・忘却術
セリクスは閉心術の腕前は超一流ですが、開心術はそうでもありません。忘却術はそこそこ。
レオは3つとも高水準ですが、どちらかと言えば開心術の方がより得意です。