スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~ 作:如月斎
空飛ぶフォード・アングリア
新学期初日のホグワーツ特急は、いつもと変わらぬ
セリクスはいつものように、コーウェンとセドリックと同じコンパートメントに腰を落ち着けていた。3人は向かい合うように座り、柔らかなクッションに身を預けながら和やかに談笑している。話題はもっぱら、夏季休暇後半での出来事だった。
「えー! ギルデロイ・ロックハートが『DADA』の先生!?」
コーウェンが目を丸くして声を上げた。驚きと興奮が入り交じった表情で、セリクスの顔を覗き込む。
「ああ」
「その宣言にたまたま立ち会ったんだ? セリクスってなんか
セドリックが柔らかく微笑みながら相槌を打った。2人は顔色を明るくし、楽しそうにセリクスをからかっている。
しかし当の本人は、未だにロックハートが『闇の魔術に対する防衛術』の教授に就くことを受け入れられずにいた。眉間に僅かな皺を寄せ、腕を組んで溜息をつく。
「去年はクィレル。今年はロックハート? 『DADA』は呪われているのか? これなら1、2年生の時の教授の方がまだマシだった」
「あー、あのテンションの高い先生たちね。元気にしてるかなー?」
コーウェンが懐かしそうに目を細めた。
2年生の時の教授は、いやにハイテンションで、何かあるとすぐ「マーベラス!」や「エモーショナル!」などと叫んで大袈裟に拍手するような男性だった。何故かブレッチリーとロジャーに対して、暑苦しい対応をしていたらしい。ブレッチリーがブツブツ言っていた記憶が蘇る。セリクス的には可もなく不可もなく、といった評価である。記憶の中の教授は、常に何かに興奮しているような様子で教室を駆け回っていた。
1年生の時の教授も、何故か似たようなタイプであった。特に思い出などはないが、えらく気に入られていた記憶がある。すぐ加点加点の嵐であった。スネイプ教授と競っているのかと疑わしいほどに。2人ともクィレルよりは幾分かマシであった。
「でもなんでロックハートが駄目なの? 教科書読む限りではすごいことしてるみたいだよ?」
セドリックが首を傾げて尋ねた。コーウェンも横でうんうんと頷いている。2人はロックハートを疑いもしていないようだ。
「ふん。これを全て本人がやっているとでも?」
「えっ? 違うの?」
2人はポカンと口を開けて呆然とした。驚きに目を見開き、まるで思いもよらぬ事実を突きつけられたかのような表情だ。しかし全ての本にノンフィクションの表記があったのにと、納得いかない様子である。
「全ての本を読破した訳ではないが。全部で何冊あるんだ。そしてやつは今何歳なんだ。時系列が合わないだろう」
セリクスの冷静な指摘に、2人は顔を見合わせた。
「「あっ!」」
言われてみればその通りである。ロックハートはどう見ても、30歳にはなっていないように見える。ロックハートが何年間も
「えっえっ、じゃああれは全部嘘ってこと?」
「そ、そんなペテン師がホグワーツの教授でいいの?」
「みんな知らないよね? 教えた方がよくない?」
「で、でも、あの人ファンが多いらしいし、誰も信じてくれないかも……」
にわかに慌てだした2人の声が重なる。焦りと困惑が滲む表情で、セリクスを見つめた。
セリクスは落ち着かせるように手をひらりとさせた。細い指が空中を優雅に舞う。
「最初はダンブルドアが
「……なんか面白がってる……。セリクス、そういえば教科書はちゃんと買ったの? なんかさっきの話ぶりだと買ってない気がするんだけど?」
コーウェンが不安そうな眼差しを向けた。セリクスはふっと薄く笑って言った。
「買いには行ったが、結局買ってない。全学年共通の児童書を買う意義を教えてくれないか?」
「うっ……。でももし怒られたら?」
「どうしても必要になったら、フクロウ通信で買うさ。それよりもやつが私を怒ったりする度胸があるかだな」
不敵な笑みを浮かべてそうのたまったセリクスを見て、コーウェンとセドリックは思わず目を見合わせてしまった。
「でも、じゃあセリクスの思った通りダメダメな先生だったらどうするの? 特に僕は『DADA』すごい苦手科目なんだけど……。単位落としたら落第……?」
「……そしたら仕方ない。また特訓に付き合ってやるさ」
「ほんと!? やった!」
セリクスの言葉に、コーウェンの顔がぱっと明るくなった。
「えっ! それ僕も参加したい!」
セドリックが勢いよく身を乗り出す。セリクスが
「いいだろう」
「4年生の期末テストって何が出るのかな? やっぱり防御魔法とか失神呪文? あと拘束魔法もやるかも?」
「セドはそれ全部もう出来るじゃない」
「セリクスのおかげさ」
「僕も教わってるのになぁ」
「コーウェン、大丈夫だ。何度でも付き合うから」
「セリクスぅ……」
3人はそれから、今年覚える予定の魔法について色々と話し合った。どの呪文が実用的か、どんな練習法が効果的か。会話は弾み、笑い声がコンパートメント内に響く。窓の外を流れる景色は次第に北へ、北へと移り変わっていった。
◆ ◆ ◆
話が一段落し、コーウェンが淹れた紅茶でティータイムに洒落込もうというタイミングで、コンパートメントの扉がノックされた。
こつこつ、と遠慮がちな音。
コーウェンが「どうぞ」と返事をすると、そろそろと扉が開いた。隙間からふわふわの栗毛の少女──ハーマイオニー・グレンジャーが顔を覗かせた。眉を下げ、こちらを
「……すみません。あのー、あー、ハリー・ポッターとロン・ウィーズリー来てませんか? ……やっぱり来てませんよね」
声を僅かに震わせ、視線も左右にキョロキョロとさせていたが、懸命に質問してきた。
「うーん、ここには来てないかな。ごめんね。発車してから結構時間経ってるけど、合流出来ないのかい?」
気まずそうなグレンジャーに気を遣ったのか、セドリックが優しい口調で話を続けようとした。
「ええ。……どこ行っちゃったのかしら。まさか乗り遅れた……? でもフレッドやジョージはちゃんと乗ってたし」
グレンジャーは、友人がどこにもいないことに不安が高まっているようだった。口元に手を当ててブツブツと何事か呟いている。眉を寄せ、視線が宙を
ふと、グレンジャーがセリクスの顔を見て息を呑んだ。
「あっ、まさかあなたがあの"スリザリンの蛇の王子様"?」
「その呼称で呼ぶやつがまだいたのか……」
セリクスが低く呟いた。声には明らかな不快感が滲んでいる。コーウェンがクスリと小さく笑う。
「セリクス、蛇好きそうな顔してるもんねえ」
「どんな顔だ」
セリクスは不躾なグレンジャーの言葉に怒りはしなかったが、眉をひそめて腕を組んだ。
グレンジャーは口を手で押さえながらも、興味深そうにセリクスの顔をチラチラと見てくる。よく見ると目元と耳がほんのりと赤い。緊張と好奇心が入り交じった様子で、落ち着きなく視線を泳がせている。
その時、セリクスが何かに気が付いたように、窓の外の上空に視線をやった。一瞬目を
「グレンジャー嬢。お探しのポッターとウィーズリーがいたようだ」
「……えっ?」
セリクスが顎をしゃくり窓の外を指し示すと、グレンジャーが困惑した表情で窓に駆け寄った。
ホグワーツ特急より10数メートル上空を、真っ赤なフォード・アングリアが走っているのが見えた。陽光に照らされた赤いボディがキラキラと眩しく光っている。運転席に赤毛がチラリと見えた。まるで空想の産物が現実に飛び出してきたかのような、信じられない光景だった。
セリクス以外の3人が揃って絶句した。コーウェンの手から紅茶のカップが滑り落ちそうになる。セドリックは目を見開き、口をパクパクさせている。白昼夢でも見ているのだろうか。
「空飛ぶ車で登校……? えっ、ちょっと意味が分からない。セリクス分かる? セドは?」
コーウェンが混乱した声で尋ねた。その声は上ずっている。
「英雄殿の考えは凡人には分からない」
「うーん。ごめん、僕も」
セリクスが冷ややかに言い放った。セドリックも静かに首を振る。
セリクスはもう興味を失ったかのように、背もたれに背をつけて目を瞑った。長い睫毛が頬に影を落とし、その表情は冷淡そのものだった。
グレンジャーはしばらくポカンと間抜けな顔で大口を開けていたが、はっと我に返った後、猛烈な勢いでコンパートメントを出て行ってしまった。扉が勢いよく閉まり、廊下からカツカツカツと革靴の忙しない音が響いている。その音は次第に遠ざかり、やがて喧騒の中に消えていった。
コーウェンとセドリックは、まだ窓の外を見つめている。フォード・アングリアは先程からフラフラと横に縦に揺れていて、見ているだけで寿命が縮みそうである。車体から微かに煙まで上がっているではないか。白い煙が風に流され、空に溶けていく。
「ねぇ、あれ墜落したらどうなるの……?」
コーウェンの声が震えていた。
「ま、まさか、死……?」
セドリックの顔がどんどん蒼褪めていく。
嫌な想像をしてしまった2人はもう顔面蒼白だ。手を口元に当て、不安げに空を見上げている。他寮とはいえ人が死ぬところなど見たくもない。しかし目が離せない様子だった。
セリクスは目を瞑ったまま、こともなげに言った。
「魔法使いはマグルより体が頑丈だから、あのくらいの高さならギリギリ死なないだろう。まあ、骨の何本かはいくだろうが。それよりもあれがマグルに目撃される方がまずい。あの2人退校処分の可能性もあるな」
その声は驚くほど冷静で、まるで他人事のようだった。
「「え、えぇ〜……」」
あまりの冷徹さに、2人は二の句が継げなかった。ただ呆然と、空を飛ぶ赤い車を見つめ続けるしかなかったのだった。車体は相変わらずフラフラと揺れ、煙を吐きながら、ホグワーツへ向かって飛んでいく。
コンパートメント内には重苦しい沈黙が降りた。窓の外では、あり得ない光景が展開され続けている。セリクスだけが平然と目を閉じたまま、紅茶の香りが漂う空間で静かに座っていた。
◆ ◆ ◆
退校処分よりも恐ろしい声
翌日は生憎の曇り空だった。ホグワーツの大広間の天井は、相変わらず空を映し出していた。どんよりとした灰色の雲が重たく垂れ込め、心なしか蝋燭までもいつもより明るくない気がする。セリクスはいつも通りのコンディションで優雅に朝食を摂っていた。
セリクスがちょうど牛肉のパイを食べ終わったタイミングで、フクロウ便が賑やかにやってきた。羽ばたきの音が大広間に響き渡り、周囲の生徒たちにフクロウが各々手紙や小包を届けている。スリザリンテーブルにもヒッグスの元へ小包が届けられていた。
「あちゃー、そうだ。一昨日の夜、クィディッチのゴーグルを磨いてて、トランクにしまうの忘れてたよ……。良かった届けてもらえて」
「今週だっけ? 選抜。受かるといいね」
「うん。頑張るよ……。マルフォイもシーカーを狙ってる。気は抜けないな」
ヒッグスは深刻そうな顔で、少し離れた位置に座っているドラコを見つめた。ドラコ自身は、昨日の"空飛ぶ車"での派手なご登校を成し遂げた宿敵を睨むので忙しそうであったが。
「新聞記事にまでなったのになんで退学になってないんだ! また
ドラコの文句はクラッブとゴイルくらいしか聞いていないが、今はその2人は目の前のご馳走を胃に収める作業に集中しているようだ。もぐもぐと頬を膨らませながら、ひたすら皿の料理を口に運んでいる。
突然、グリフィンドールテーブルの方から爆音が響き渡った。
それはセリクスの手元のゴブレットの中身が波打つほどの衝撃だった。さすがのセリクスも食事を中断し、音の発生源の方へ顔を向けた。大広間中の視線がグリフィンドールテーブルに集まる。
『……車を盗み出すなんて、退校処分になっても当たり前です! 首を洗って待ってらっしゃい! 承知しませんからね! 車がなくなっているのを見て、私とお父さまがどんな思いだったか、お前はちょっとでも考えたんですか……!!』
吠えメールだ。
あまりの音量に天井から埃がバラバラと落ちてきて、テーブルの上の食器が一斉にガチャガチャと震え出した。セリクスは咄嗟に片耳に手を当てつつ、ローブから杖を取り出して自分を中心に3メートルほどの空間に《
隣を見ると案の定、セオドールがテーブルに突っ伏してダウンしているところだった。両手で耳を押さえ、顔を伏せたまま微動だにしない。
「ノット君!? 大丈夫? しっかり!」
セリクスの真向かいに座っていたコーウェンが、慌てた声を出した。
しばらくした後、セオドールはゆっくりと頭を上げた。しかしふらりとバランスを崩し、セリクスに倒れかかってきたので、セリクスはそのまま肩で受け止めてやった。セオドールの重みが肩にかかり、彼の荒い息遣いが聞こえる。
「な、何が……。今何が?? 敵襲ですか……?」
セオドールの声は震えていた。目の焦点が合っておらず、まだ混乱しているようだ。
「吠えメールだ。昨日の英雄殿の派手な登校の件だろう」
「ポッターとウィーズリーか……。吠えメールなんて品がない……。うぅ……」
いつもの毒舌も今ばかりはキレがなかった。声に力がなく、まだ顔色も優れない。
防音魔法のおかげで吠えメールの続きは聞こえなかったが、離れた位置のドラコが爆笑しているのが見えたので、おそらく痛烈なお叱りだったのだろう。他のスリザリン生たちも嘲笑を浮かべ、グリフィンドールテーブルを指差している。
セリクスにしてみれば、数人のマグルに魔法を見られた代償が吠えメール1つで済むなんて軽いものだと思った。今回は忘却術で収束したので運が良かったのだ。本来なら魔法省の査問会議にかけられてもおかしくない案件である。
吠えメールが終わったのを察して防音魔法を解除しつつ、ポッターたちの様子を見る。2人とも真っ赤になって小さく縮こまっているのが見えた。他のグリフィンドール生たちはそんな2人を笑い物にしているようだ。
───冷たいものだ。
セリクスは小さく鼻で笑うと、再び自分の朝食に意識を戻したのだった。
◆ ◆ ◆
「新学期最初の授業は『魔法薬学』だね」
コーウェンが時間割を開いてそう言ったので、セリクスはコーウェンと、その場にいた5人組と一緒に地下へ向かった。総勢7名での行動だったせいか威圧感がすごい。
石造りの廊下を、黒いローブの一団が波のように進んでいく。セリクスを先頭に、6人が左右へ緩やかに広がって歩くその姿は、静かな威圧感を
しかし2人の小柄な少女が、セリクスの前に立ち塞がった。セリクスは少女たちの前で立ち止まる。明らかにセリクスに用事があるようだったからだ。
少女たちは瓜二つの双子であった。茶色の長い髪を全く同じ形に編み込んでいて、同じ表情で同じ姿勢を取っている。昨夜の組み分けの儀式で見た顔だった。
「お初にお目にかかります。私はヘスティア・カローと申します」
「私はフローラ・カローでございます」
「「お目にかかれて光栄にございます」」
全く同じ角度の流れるようなカーテシーを披露されて、セリクスは半ば反射のようにボウ・アンド・スクレープを返していた。ここは舞踏会ではない。学校の廊下である。後ろからの友人たちの視線を感じて、セリクスははっと我を取り戻しすぐに体勢を戻した。
「……セリクス・アストラル・ゴーントだ」
「存じ上げております。今後どうぞよしなに」
「何かあればご遠慮なく。すぐに
「あ、ああ。分かった」
双子は楽しそうにクスクスと笑い合いながら去っていった。7人はそれをしばらく呆然と見送る。
「なにあれ……」
「分からん」
「こわぁ……」
「え、ゴーストじゃないですよね? 人でしたよね??」
「カローって、あれだろ? あの……」
「グラハム。それ以上はいけない」
「……行こうか」
ちなみに上からコーウェン、ワリントン、ヒッグス、ブレッチリー、モンタギュー、ピュシー、セリクスである。7人は気味悪そうに顔を見合せた後、気を取り直して廊下を進み始めた。
階段を降りるごとに空気が冷たく湿っぽくなっていく。地下特有の石と
ヒッグスが溜息混じりで話し出した。
「エイド。選抜って今週の金曜日の放課後からで合ってる?」
「合ってる。グラハム、カシウス、君たちも遅れるなよ」
「わーかってるよ。……あーそれにしても初っ端から『魔法薬学』とかツイてね〜。スネイプの溜息って腹が痛くなるんだよな」
「分かる。腹減った」
「いや、今食ったばっかだろ! 俺は腹が痛くなるって言ってんだよ!」
「君たちうるさいですよ。君たちのガラが悪いから、下級生が怯えてるじゃないですか」
「目付きの悪いお前にだけは言われたくねー!」
「うるさい。騒ぐなら離れろ」
セリクスが一言呟いた瞬間、一気に静まり返った。後ろを歩いていた5人は揃って口を
スリザリンで1、2を争うほど存在感がある一行が、『魔法薬学』の教室に到着した。
2ヶ月ぶりの教室は相変わらず寒々しく、薄暗かった。松明の炎が壁に揺れる影を落とし、石壁からは冷たい湿気が染み出している。棚にびっしり置かれている瓶の中身は、得体の知れないホルマリン漬けでいっぱいだ。浮かぶ臓器や眼球が、薄暗い光の中で不気味に揺れている。薬品の刺激臭が鼻腔を刺激し、モンタギューとワリントンが更にげんなりした顔になった。2人の顔は心なしか蒼白い。
「『魔法薬学』ってなんで2コマもあるんだよ。早く終わってくれ……。エイドリアン、今日の題材って何か分かるか?」
「いやまだ始まってすらいないけど? 教科書見る限りでは『上級忘却薬』っぽい」
「うわ、工程むずっ! ぜってー無理なんだが!」
2人の会話を聞き流していたが、忘却薬と聞いてセリクスはチラリと隣に座っているコーウェンを見た。コーウェンは夏季休暇中に《
スリザリン生がすっかり着席してから、順々にグリフィンドール生がやってきた。もう既に遅刻ギリギリである。ドタバタと足音を立てながら、赤いローブの集団が教室に
道に迷いやすい1年生じゃあるまいし。セリクスは呆れながら赤いローブの集団を眺めた。その内の2人が振り返る。目が合ってしまった。
「なーに見てんだよ。依怙贔屓で首席を勝ち取った貴族のお坊ちゃま」
「お前のパパ上がお金積んだってもっぱらの噂だぞ〜」
目が合ったので嫌な予感はしたが、当たって欲しくないものほど当たるものだ。ウィーズリーの双子が早速絡んできた。しかも聞き捨てならないことまで言われ、セリクスの眉間に深い皺が寄る。
周囲の空気が一気に張り詰める。スリザリン生たちの視線が双子に集中し、静かな殺気が教室を満たした。
「事実無根だ。当てにならない噂を信じるのではなく、各教師に直接確認してみたらどうだ」
「おっ、いつもより口数が多いじゃないか。図星か〜?」
「何ガリオン積めば、満点超えなんてインチキな点数取れるんだよ」
「ずっとおかしいと思ってたんだよなー」
「寮内で王様みたいな顔して恥ずかしくないのかよ」
「周りのやつら全員家来か何かか?」
「ハリーに寮杯とられて残念だったな。パパに怒られたんじゃないのかー?」
1言えば100の勢いで返ってくる偏見だらけの罵倒に、セリクスは心底げんなりした。スリザリン生のほとんど全員が、目付きを鋭くして双子を憎々しげに睨み付けていた。何人かは杖に手をかけている。グリフィンドール生の中にも数名の女子が双子を睨んでいた。何故だ。双子は仲間ではないのか。
「お前たちが言っている内容は全て間違っている。──『魔法薬学』の時間に喧嘩を売ってくるとは、お前たちは阿呆なのか?」
「「えっ?」」
双子が振り返った瞬間、そこには黒いローブを
「──さよう。授業はとっくに始まっておる。罪のない他寮の生徒に無駄に絡み、吾輩の崇高なる授業を妨害するとは……。減点だけではご不満でしょうな?」
地の底まで沈むかのような低く冷たい声を浴びせられて、双子は石にでもなったかのように固まってしまった。顔から血の気が引き、喉が動くが声が出ない。
セリクスは深い溜息をついた。
結局双子は2人合わせて30点の大幅減点の上、1週間の罰則まで喰らっていた。
元々スネイプ教授は、昨日の"空飛ぶ車登校事件"で機嫌が悪そうだったが、金を積まれて依怙贔屓をしたと言われたことがプライドを傷付けたらしい。いつもより教室内の温度が体感5度は低かったし、生徒たちは肩を縮めて息を
自寮の生徒であるにも関わらずボロクソに言われたモンタギューとワリントンは、ほぼ八つ当たりで指を鳴らしながら双子を睨んでいた。2人の鍋からは焦げた匂いが立ち上っている。
セリクスは相変わらず褒められ10点加点された。完璧な銀色の『上級忘却薬』を見たスネイプが、珍しく満足そうに頷く。その瞬間、グリフィンドール生たちから小さな溜息が漏れた。
こういうことをするから、噂が立つのではなかろうかとセリクスは考えた。魔法薬の詰まった小瓶に栓をしながら、セリクスも小さく溜息をついてしまったのだった。
【あとがき】
●ロックハートの年齢
1964年1月26日生まれなので、1992年9月1日の段階ではまだ28歳なんですよね。映画版では俳優さんの関係で年嵩に見えましたけどね。
セリクスは何か思惑があってロックハートなんかを雇ったのかと疑っていますが、私は単純になり手がいなかったんじゃないかと思いました( ̄▽ ̄;)
ロックハート著の冒険譚って全9冊ですか? 1冊1年と計算すれば18歳で卒業してから毎年冒険していれば27歳で9冊達成、28歳でホグワーツ教授……一応計算上は成立するんですよね。でもめっちゃムキムキになりそう(笑)
でも本の中には「バンシーを封じた」「人狼を退治した」「海蛇と戦った」みたいな大冒険がゴロゴロしているので、1年に1冊ペースでこなすのはどう考えても現実的じゃないんですよね。セリクス的には「普通に無理だろ」という判断になりました。
●1990年度(セリクス2年生時)のDADA教授(裏設定)
ゲーム『ホグワーツの謎』では、年度の途中からオリビア・グリーンという女性の教授が、ダンブルドアからの要請を受けてDADAの教授になりました。しかし『スリ末』の世界線では、ゲームでの大事件は起こっていないことにしています。なので、年度初めに就任した男の教授が最後まで就いていたということになっています。
ゲームをしていない人にはなんのこっちゃかもしれませんが、一応の補足です(*´艸`)
●ヘスティア、フローラ・カロー
この双子のことを知っている方ってどのくらいいるんでしょうか? 原作には一切登場しない映画オリジナルキャラです。美少女だけどちょっと不気味で、2人の世界で完結してる系の双子ちゃん。
珍しくこの双子の空気に呑まれて、セリクスが素でボウ・アンド・スクレープしちゃいました。本筋には絡まないモブですけど、もしかしたら今後もちょこっと出てくるかもしれません。
●フレッド、ジョージ・ウィーズリー
久しぶりに双子に絡まれてしまうセリクス。そしてまたまた減点と罰則を喰らう双子。もう様式美みたいなものですね。
双子に言わせる悪口の塩梅に悩みました。あんまり下品なことや、酷すぎることは言わせたくなかったんですよね。
フレジョは悪い子じゃないけど、スリザリン(特にセリクス)には敵愾心があるので、つい絡んじゃうって感じにしたかったんですよね。でもあんまり下劣なことを言わせるのは、キャラヘイトになっちゃうかなって( ̄▽ ̄;) 難しいです……。