スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第4章 第14話 2人のパーセルマウス/第15話 新たな被害者と無責任なポルターガイスト

 

2人のパーセルマウス

 

木曜日の夕食後、セリクスがいつも通り談話室の窓辺のソファで読書していると、5人組が興奮した様子で近寄ってきた。

 

「ゴーント! 今日これから大広間で決闘クラブが開催されるって! 君も行くだろ?」

 

ヒッグスが明るい笑顔で誘いをかけてくる。セリクスは本からチラリと顔を上げたが、無言のまま不可解そうに眉を寄せた。

 

「決闘クラブ? ……ってなに?」

 

セリクスの横でコーウェンが首を傾げる。

 

「魔法使いの決闘は知ってるだろ? それを実践的に教えてくれるらしい。面白そうだろ? ゴーントはめちゃくちゃ強そうだし行こうよ!」

「……それに私が参加する意味があるのか? 私より強い者がいるなら分かるが」

「……それはいないかもだけど……。あっ、でもフリットウィック先生なら! 先生って昔は、決闘チャンピオンだったらしいし!」

「……ほう?」

 

セリクスが初めて興味を惹かれたらしい。静かに本を閉じると、ソファからゆっくりと立ち上がった。5人はセリクスとコーウェンを挟んで、意気揚々と大広間へ向かったのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

大広間は熱気で満ちていた。蝋燭の炎が無数に揺れ、磨かれた床にざわめきが映り込む。ローブの擦れる音と人いきれの熱が空気を曇らせていた。

 

「うわぁ……超満員。全校生徒集まってない? これ」

「おい、どけ。通れないだろ」

 

モンタギューが居丈高に扉付近の下級生を威圧する。威圧されたレイブンクロー生たちはムッとした顔で振り向いたが、相手がガタイの良いスリザリン生だと気付くと顔を蒼褪めさせて一歩後ずさった。

 

更にその後ろからセリクスがゆっくり進み出ると、レイブンクロー生は「ひっ!」と息を呑んで逃げていってしまった。セリクス本人は一瞬怪訝(けげん)そうに片眉を上げたが、それ以上は反応せず中まで進んでいく。

 

「……"スリザリンの氷王"だ」

「氷王? "蛇の王子様"じゃなかったっけ?」

「ロックハートを氷漬けにしたらしいよ」

「やば……目が合うと凍らされる?」

「……でも顔いいな」

「分かる」

 

ざわざわと噂話が囁き声で聞こえるが、セリクス本人は全く気にしていないらしかった。逆に5人組の方が、不機嫌そうなしかめっ面になっている。

 

セリクスたちが見学によさそうな場所を陣取ると同時に、中央の決闘舞台に誰かが上がってきた。その人物を目にした瞬間、セリクスは回れ右をして帰ろうとした。慌ててモンタギューとヒッグスがセリクスの肩を掴む。

 

「離せ」

「まー待て待て待て」

「ゴーントの気持ちはすっごくよく分かる。でも見て、スネイプ先生もいるよ!」

「なに?」

 

くねくねと気持ち悪い動きで生徒たちにアピールしているロックハートの後ろから歩いてくるのは、確かにスリザリン寮監、セブルス・スネイプその人である。人を1人か2人ほど殺してきたのではないかというくらい凶悪な表情をしているが。ロックハートがそれに欠片も気付いていないのが不思議なほどだ。

 

鈍感もここまでくるといっそ清々しい。

 

「静粛に!」

 

ロックハートが生徒たちへ手を振りながら、芝居がかった仕草で演説を始めた。

 

「みなさん、集まって。さあ、集まって。みなさん、私がよく見えますか? 私の声が聞こえますか? 結構、結構! ダンブルドア校長先生から、私がこの小さな『決闘クラブ』を始めるお許しをいただきました。私自身が数え切れないほど経験してきたように、自らを護る必要が生じた万一の場合に備えて、みなさんをしっかり鍛え上げるためにです。──詳しくは、私の著書を読んでください。では、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう」

 

ロックハートがスネイプ教授に手のひらを向けた。教授の今にも歯ぎしりが聞こえてきそうな形相に気が付いた何人かは、(おのの)いたように後ずさる。

 

「スネイプ先生がおっしゃるには、決闘についてごく僅かご存知らしい。訓練を始めるにあたり、短い模範演技をするのに、勇敢にも手伝ってくださるというご了承をいただきました。さてさて、お若いみなさんにご心配をおかけしたくはありません。──私が彼と手合わせしたあとでも、みなさんの『魔法薬』の先生は、ちゃんと存在します。ご心配めさるな!」

 

「今日があいつの命日らしい」

 

セリクスの静かなトーンで繰り出されたブラックジョークに、6人が一斉に笑いを(こら)えて肩を震わせた。彼らの周りにいた他の生徒たちには到底ジョークには聞こえず、真っ青になって震えているのが数名いたのは余談である。

 

ロックハートとスネイプ教授が決闘舞台に向かい合って立ち、互いに礼をする。ただそれだけの事のはずなのに、ロックハートの動きの気持ち悪さと教授の無駄のない動きの対比がすごい。

 

「ご覧のように、私たちは作法に従って杖を構えています。3つ数えて、最初の術をかけます。もちろん、どちらも相手を殺すつもりはありません」

「本当かなぁ?」

 

コーウェンがボソッと小さく呟いた。確かにスネイプ教授の方には殺意が隠せていない。

 

「1──2──3──」

 

2人同時に杖を振り上げる。

 

「《エクスペリアームス(武器よ去れ)》!」

 

スネイプ教授のはっきりとした発音が響く。赤い閃光がまっすぐロックハートの腹部にぶち当たり、ロックハートの体が吹っ飛んだ。そして壁に激突し、そのまま床に滑り落ちてしまった。

 

「よっしゃあ!!」

「スネイプ先生、すごい!」

 

モンタギューとヒッグスの歓声が重なる。誰かが指笛を吹く音が聞こえた。男子生徒のほとんどがニヤニヤと喜んでいるようだった。

 

「スネイプ教授は杖をわざと大振りに分かりやすく振ったように見えた。発音も大きくはっきりしていた。まごうことなき模範演技だな」

「あのロックハート見て、そこまで冷徹に分析出来るもの?」

 

コーウェンが呆れた声を出したと同時に、ロックハートがよろよろと復活した。どうやら2人1組になっての決闘をやるらしい。

 

セリクスはコーウェンと組もうと振り返ったが、コーウェンは苦笑いをしながら珍しくワリントンの袖を掴んでいる。セリクスも驚いたが、掴まれたワリントンが1番驚いていた。自分よりだいぶ小さく頼りなさそうなコーウェンを見下ろして、すっかり困った顔をしている。

 

「ごめん、ワリントン。僕、攻撃魔法苦手なんだ。お手柔らかに?」

「……え、お、おう……」

 

セリクスは1人になってしまった。周りを見回しても誰も目を合わせてもくれない。セドリックは近くにいないようだった。

 

ブレッチリーはピュシーと、モンタギューはヒッグスと組んだようだ。セリクスは腕を組んで憮然としていたが、ふいに肩を叩かれた。艶やかなブルーがかった黒髪を、お洒落にセットしたイケメンが立っていた。

 

「ロジャー」

「よっ、色男。1人なのか?」

「不本意ながら」

「じゃあ僕と組もうぜ。レイブンクローには僕と実力が近いやつがいなくてね」

「ミス・デールとミスター・ターナーは? 順位は近いだろう?」

「彼ら筆記は強いけどね……。あと、もう別の人と組んじゃった。余り者同士やろうよ」

「……分かった」

 

どうやら無事参加出来そうだった。

 

「相手と向き合って! そして礼!」

 

ロックハートが壇上から大声で号令をかける。セリクスとロジャーが先程よりもよほどお手本のような礼をした。

 

「杖を構えて! 私が3つ数えたら、相手の武器を取り上げる術を掛けなさい。──武器を取り上げるだけですよ──みなさんが事故を起こすのはいやですからね。1──2──3──」

 

「《エクスペリアームス》!」

 

ロジャーが武装解除呪文を放つ。セリクスは無言で《プロテゴ(盾の呪文)》を掛けて魔法をいなした後、すぐさま無言の《エクスペリアームス》を放った。ロジャーはまさか無言呪文で対抗されるとは予想もしていなかったらしい。呆気なくロジャーの杖はセリクスの左手に収まっていた。

 

「驚いた。無言呪文? しかも精度高すぎないか? 君、実は20歳とかじゃない?」

「正真正銘、15歳だが」

「あ、誕生日早いね……」

 

周りを見渡すと惨憺(さんたん)たる有り様だった。特に下級生が酷い。謎の煙が立ち上がっていたり、鼻血を出して倒れている生徒もいる。コーウェンは一生懸命魔法を掛けているが、全く効いていない。棒立ちのワリントンが気まずそうな顔をしていた。

 

少し微笑ましかったのはダフネとパーキンソンだ。《リクタスセンプラ(くすぐり呪文)》でも掛け合ってしまったのか、キャラキャラと甲高い声で笑い転げている。

 

ロックハートとスネイプ教授が、なにやら生徒たちを集めている。誰かモデルを選出して決闘をさせるつもりのようだ。最初ネビルとハッフルパフ生が選ばれかけていたが、教授の意地悪そうな発言により却下された。最終的にポッターとドラコが選ばれた。作為的である。

 

「なんで2年生? 僕とセリクスの方がよっぽど見応えあると思わない?」

「教授はポッターが嫌いでドラコがお気に入りだからな」

「今更《タラントアレグラ(踊り魔法)》とか見させられてもねえ」

「それには同意だ」

 

ロジャーとセリクスがグダグダと話しているうちに、双方の教授から助言を受けたらしき2人が向かい合っていた。

 

「1──2──3──それ!」

 

ロックハートの号令とほぼ同時にドラコが杖を振り上げた。

 

「《サーペンソーティア(蛇出よ)》!」

 

ドラコの杖先から黒く長い蛇がにょろにょろと出てきて、ドラコとポッターの間辺りにどすんと落ちた。舞台の近くにいた生徒は悲鳴を上げて後ずさる。

 

「ほう。ドラコはもう生物を発生させる魔法を使えるのか。『呪文学』ではまだ習わないはずだが」

「スネイプ先生に贔屓(ひいき)されてるんなら、先生から習ったんじゃない?」

「教授は忙しそうに見えるんだが、そんなことしてる暇あったのか」

「もしくは大好きなパパから夏休みの間に習ったとか?」

「そちらの方が可能性は高そうだ」

 

スネイプ教授が何故か嬉しそうに蛇に向かっていく。ポッターが怯えているのを見てとって溜飲が下がったのだろうか? 助けるつもりのようだ。さすがにもし毒蛇なら、噛まれたら大問題になる。

 

「動くな、ポッター。吾輩が追い払ってやろう───」

「私にお任せあれ!」

 

またロックハートがしゃしゃり出てきた。そしてなんと蛇を消すどころか高く弾き飛ばし、更に攻撃性を高めてしまった。蛇は怒って近くにいたハッフルパフ生に噛み付こうとしていた。セリクスは咄嗟に杖を振り上げて蛇に向けようとした。

 

───その瞬間、ポッターが蛇に歩み寄り一言叫んだのだ。

 

[手を出すな。去れ!]

 

セリクスにはその言葉の意味がはっきり分かった。だが不思議なことに、以前聞いたことのあるポッターの声とは、どこか違って聞こえた気がした。どこか掠れたような冷たい響き。

 

蛇は命令を聞いて大人しくとぐろを巻いた。警戒心はほとんどなくなったらしい。ポッターは少し誇らしそうな顔でハッフルパフ生を見つめている。感謝でもされたいのだろう。しかしハッフルパフ生の顔には恐怖と怒りが滲んでいた。

 

「いったい、何を悪ふざけしてるんだ!?」

 

そう怒鳴ると、走って大広間を出て行ってしまった。スネイプ教授が蛇を消したと同時に、ポッターも友人たちに連れられて大広間を出て行った。

 

「へー、驚いたな。ハリー・ポッターはパーセルマウスだったのか。てことはあいつが『秘密の部屋』の継承者?」

 

ロジャーの言葉に、セリクスは内心で驚愕した。先程の不思議な響きの声はパーセルタングだったのか? セリクスには少し訛りのある英語に聞こえた。コーウェンが慌てた様子でセリクスに駆け寄ってくる。

 

「ねぇ、セリクス。さっきの聞いた? ポッターがパーセルタングを話してた! ポッターはスリザリンの子孫なの!? セリクスは何か知ってる?」

 

コーウェンは興奮して声が高くなっている。周りの生徒がぎょっとしてこちらに注目しているのが分かった。セリクスはコーウェンを連れて大広間を出て、スリザリン寮の自身の寮室へと向かった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「セリクス。ポッターは『秘密の部屋』の継承者なの? ミセス・ノリスを石化したのはポッターってこと? 許せない! すぐスネイプ先生に言わなくちゃ!」

「コーウェン、一旦落ち着け」

 

セリクスはコーウェンを椅子に座らせて肩を軽く叩いた。コーウェンが興奮を抑えるように深呼吸している。

 

「まず第一に、ポッターがパーセルタングを使ったということは本当か?」

「……え? 多分。蛇に向かってシューシュー言ってて、あの子にけしかけてたじゃないか」

「まずそこから私の認識と違う。私には『手を出すな、去れ』と、あのハッフルパフ生を守ったように聞こえた」

「えっ」

 

コーウェンが大きな瞳を更に大きく見開いた。

 

「セリクスにはあれがそう聞こえたの?」

「あれがパーセルタングなら、私もパーセルマウスだ。今まで知らなかったが、まぁスリザリンの直系なので不思議ではない。──しかしその論理でいくと私も『秘密の部屋』の継承者ということになるが」

「セリクスは違う!」

 

コーウェンが叫ぶ。

 

「セリクスがあんな酷いことするはずないよ!」

「……ありがとう、コーウェン。しかし私もポッターのことはあまりよく知らないが、彼も猫や1年生を石化させて喜ぶような人間には見えないんだが……。あと彼は純血主義者なのか?」

「え……。いや、知らないや……」

「パーセルマウス=継承者だとするのは少し短絡的すぎるかもしれない。まぁ彼が私の親戚かもしれないというのは少し複雑な気分だが……」

「それは……そうだね」

 

コーウェンの顔に微かに笑みが戻った。セリクスはそれにことのほかほっとしていた。怒っているコーウェンはあまり見たくない。まだ()ねている方がマシだ。

 

「しかし他の生徒の様子を見る限り、パーセルマウスだということは黙っておいた方がよさそうだ。動きづらくなる」

「うん。僕も黙っておくよ」

「ポッターの様子は注視しておく。犯人と断定するには早いが、他に手掛かりもない」

 

コーウェンは2度3度と深く頷いた。ミセス・ノリスのことが、彼の心に未だに影を差していることが分かる。

 

(しかしパーセルタングか……。あの時寝室で聞こえた声も蛇だったのか? 秘密の部屋の化け物──スリザリンに縁のある蛇。蛇の王……バジリスク? いや、バジリスクなら見た者は即死のはず。石化という現象と矛盾する。別の生物か、あるいは何か特殊な条件があるのか。……調べる必要がありそうだ)

 

セリクスはコーウェンに声を掛けられるまで、深い思考に沈んでいった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

新たな被害者と無責任なポルターガイスト

 

決闘クラブの翌日は猛吹雪だった。そのせいで予定されていた『魔法生物飼育学』が休講になって、セリクスとコーウェンとヒッグスは時間がぽっかりと空いてしまった。

 

「こんな吹雪じゃ、さすがにクィディッチの練習も出来ないな」

「『魔法薬学』のレポートでも書いたらどうだ。昨日まだ書けてないと言っていただろう」

「……正論すぎて胸が痛い」

「提出まであと3日しかないが。お前はそんなに『魔法薬学』が得意だったか?」

「もう……勘弁してくれない……? オーバーキルなんですけど……」

「……オーバーキルとは?」

「世俗の言葉に(うと)いの、すごいおぼっちゃま感あるな……」

「喧嘩を売っているのなら、言い値で買ってやるが」

「うそうそうそ!」

 

セリクスとヒッグスが雑談していると、何事か考え込んでいたコーウェンがソファからすっくと立ち上がった。

 

「僕、スプラウト先生のお手伝いに行ってくる。この吹雪だとマンドレイクが心配だし、多分今寒さ対策してると思うから」

 

マンドレイクは石化された生き物の解呪に必須だ。一刻も早くミセス・ノリスを元に戻したいのだろう。

 

「マンドレイクのお世話しに行くの? 物好きだなぁ。行ってらっしゃい」

「セリクスとヒッグスも手伝ってよ」

「何故私が?」

「えっ、僕も!?」

「セリクス、マンドレイクの扱い抜群に上手いじゃん。ヒッグスはどうせ暇でしょ? 手伝ってくれたら後でレポート手伝ってあげるから」

 

そう聞いてヒッグスはいそいそと立ち上がったが、セリクスは渋い顔をしていた。セリクスに何のメリットがあるのか。しかしコーウェンの薄いブルーの瞳でじっと見つめられることに弱いセリクスは、結局溜息ひとつで立ち上がったのだった。

 

それを見ていたヒッグスが忍び笑いしているのには全く気が付かずに。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「スプラウト先生。お手伝いしにきました」

「まあ! ミスター・セルウィン。ミスター・ゴーントとミスター・ヒッグスまで!」

 

いきなり現れたスリザリンの4年生に、ハッフルパフ寮監のスプラウト教授は驚きのあまり、手に持っていたマフラーでマンドレイクをぎゅっと締め付けてしまっていた。

 

「ぎゅ───……」

「あっあら、ごめんなさいね。マンドレイク」

 

コーウェンはやる気満々の顔で温室へ足を踏み入れる。セリクスとヒッグスも渋々それに続いた。スプラウト教授はマンドレイクが叫び出さない内に、急いで土を被せている。おかげで3人は気絶せずに済んだ。

 

スプラウト教授は耳当てを外しながら急いでこちらに来た。コーウェンが笑顔で説明し直す。

 

「先生1人でこれ全部の寒さ対策をするのは大変だと思って……。だからお手伝いさせてください。セリクスはマンドレイクの扱いが上手いから連れてきました」

「そうだったのですね! 助かります。生徒たちの手伝いは断ったのですが、正直この数を1人で全部こなすのは骨が折れるのですよ」

 

ほくほくとした笑顔になったスプラウト教授は、3人にマンドレイク用のマフラーと靴下を等分に配布した。

 

「もう言うまでもありませんが、耳当てを付けてくださいね。もし叫び声を聞いて体調が悪くなったらすぐに合図してください」

「はい!」

「ピンクの耳当てじゃなくていいのか?」

「もう! セリクスからかわないで!」

「ピンク? ……あぁ、1年生の時の! 懐かしい。セルウィン、あれ似合ってたよ」

「ヒッグスまで! 怒るよ!」

 

コーウェンとヒッグスは戦々恐々としながらも、気合いを入れてマンドレイクを引き抜いた。以前授業でやった時よりは幼いようだった。まだ月齢が低いのだろう。

 

「ぎゃああああ!!! ぁぁぁ……?」

 

セリクスが引き抜いたマンドレイクがここぞとばかりに叫び出したが、うっすらとうんざりしているセリクスの顔を見て不思議そうに黙ってしまった。

 

「……きゅ……?」

 

不気味な化け物の赤ん坊のような顔をしている癖に、首(らしき箇所)を傾げてセリクスを一心に見つめている。セリクスはその様子にまったく頓着せず、さっさと靴下とマフラーを装着させていた。

 

「きゅっきゅっきゅっ」

 

幼児マンドレイクが精一杯可愛い仕草でセリクスに懐こうと頑張っていたが、セリクスは履かせ終わるとすぐにマンドレイクを鉢植えに戻して土を被せてしまった。マンドレイクはもぞもぞと顔を出そうとしていたが、更に土を被せて表面をスコップでぽんぽんと(なら)してしまう。全くの無感情な動きであった。

 

それを早いスピードで次々とこなしていく。

 

ヒッグスはそれを横目に見て(相変わらず理解不能な懐かれ方してるな……。しかもそれを見ても全然気にしてないところがすごい……)と妙に感心していた。

 

コーウェンは目の前のマンドレイクに精一杯向き合い、泥だらけになっていた。ヒッグスのマンドレイクは、たまたま大人しい性質だったらしい。

 

4人が順調に寒さ対策を終えて一息ついていると、ピュシーとブレッチリーが息せき切って温室へ駆け込んできた。

 

「3人ともいた! 大変なんだ! すぐ寮へ戻ろう!」

「2人目の犠牲者が出ました!」

 

衝撃の知らせに、3人は思わず目を見合わせたのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

ハリー・ポッターが蛇をけしかけていたハッフルパフ生と、『ほとんど首無しニック』が餌食になった。そんなセンセーショナルな噂は、一瞬でホグワーツ中を駆け巡った。

 

ホグワーツ生を恐怖に陥れたのは、ニックの存在だった。既に死んでいるゴーストさえ石化させる──そんな前代未聞の事態に、生徒たちはほとんど恐慌状態であった。

 

「やっぱりポッターだったの? ピーブズが見たって聞いたよ」

 

コーウェンが、怒りと困惑を等分に混ぜたような顔でセリクスに聞いてきた。セリクスは難しい表情で腕を組んだ。

 

「そのピーブズの証言がどの程度信頼出来るかだが……」

「……ピーブズだもんねぇ」

「一度確認してもいいが」

「ピーブズに? まともに会話出来るかな?」

「援軍が必要だ」

 

不思議そうなコーウェンを尻目に、セリクスは談話室を出ていった。コーウェンが慌てて後を追う。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

セリクスが辿(たど)り着いたのは大広間だった。食事の時間ではないせいもあり、生徒は数えるほどしかいなかった。数名の生徒もこそこそと噂話に精を出している様子だ。

 

誰もいないスリザリンテーブルの上空で、虚ろな眼差しで『血みどろ男爵』が浮いていた。何事か考えているのか、腕を組んで難しい顔をしている。

 

「男爵」

「……ん? おお、ゴーント卿」

「少し手を借りたいのですが」

「貴公からの頼みならば」

 

普段気難しい男爵の、内容も聞かずの二つ返事での快諾に、コーウェンは口と瞳を大きく開けて驚いていた。

 

厳格そうな顔付きのまま、男爵はふわふわと廊下を進んで行った。セリクスとコーウェンは黙ってそれについていく。男爵にはピーブズの居場所が分かるのか、迷いのない足取り(?)で階段を登って行った。

 

4階の廊下で、宙返りしながらご機嫌に鼻歌を歌っているピーブズを発見した。どうやら廊下に立っている鎧騎士の兜で、お手玉をしていたらしい。兜を奪われた騎士の身体部分が、おろおろと困ったようにピーブズの周りをうろついている。

 

「……ピーブズ。何をしておる」

「───ひっ! こ、これは男爵閣下ではありませんか……! このピーブズめに何か御用でしょうか?」

 

ピーブズは男爵に威圧的な声掛けをされ、兜を放り投げてペコペコとへりくだり始めた。騎士たちが慌てて兜を回収して装着している。男爵は厳しい顔でピーブズを睨んだ後、セリクスへ向き直った。セリクスが一歩前へ出る。

 

「ピーブズ。少し確認したいんだが───」

「んー? あっ、お前、スリザリンの優等生だな!? お前みたいなやつが俺になんの用だよ!」

「ピーブズ、黙れ。ゴーント卿の質問に大人しく答えるがいい」

「はっ! かしこまりました、閣下」

 

セリクスは軽く溜息をついた後、質問を続けた。ピーブズが苦々しい顔でセリクスを見下ろす。

 

「ハッフルパフの2年生と、ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿が石化された時、ポッターが一緒にいたというのは本当か?」

「あー、本当だよ。俺がこの目で見たんだから確実だ。まさか魔法界の英雄様がスリザリンの継承者とはな〜! 次は誰が石化するかな!?」

 

ピーブズがケタケタ笑い、嬉しそうに宙返りした。

 

「ポッターが石化させた瞬間を見たということだな? どういう手を使っていた? 闇の魔術? それとも『秘密の部屋』の怪物か? なんの生物だった?」

 

セリクスが確信に迫る質問を畳み掛けると、それまで楽しそうにしていたピーブズがピタリと口を閉じた。

 

「ピーブズ?」

「………………見てない」

「なんだと?」

「───あいつが石化させた瞬間なんて見てないって言ったんだ! 俺が来た時にはもうあいつらは石化してて、あのアホ面がビビって固まってたんだよ!」

「なるほど───」

 

静かにセリクスの目が据わった。『血みどろ男爵』の顔を見上げると、先程よりも厳しい表情でこめかみをピクピクとさせている。

 

「要するに、見てもいないのに断定して犯人扱いしていた訳だ。男爵、こういう無責任なポルターガイストの存在をどう思われますか?」

「……躾が必要のようだ」

 

男爵が重々しく言った瞬間、ピーブズの顔色が一気に悪くなった。ポルターガイストに血液は存在しないはずだが、明らかに血の気が引いている。

 

「ゴーント卿。ピーブズめは私にお任せくだされ」

「分かりました」

 

セリクスは何の感慨もなく、あっさりと2体に背を向けた。コーウェンがチラチラと後ろを気にしつつ追い掛けてくる。

 

「結局ポッターじゃないってこと?」

「それはまだ分からない。判断材料が足りない。……が、まだ第一容疑者であることは間違いない」

「難しいなぁ」

「だがそもそもポッター本人には、高度な石化呪文は扱えないはずだ」

「そうなの?」

「彼が私のようにホグワーツ入学前から、高度な魔法教育を受けていたのなら可能性はあるが……」

「あー、どうだろね……」

 

2人は寮に戻りながら、答えのない推論を話し合ったのだった。

 

遠くの方で、ピーブズの悲鳴が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 




【あとがき】
第14話 2人のパーセルマウス
●ホグワーツ生はみんな噂に流されすぎ
原作を読んだ時、パーセルマウス=『秘密の部屋』の継承者ってめちゃくちゃ短絡的だと思っちゃいました。サラザール・スリザリンが遺した部屋→サラザールはパーセルマウスだった→パーセルタングを話したハリーが犯人! ……マジか( ̄▽ ̄;)ってなりました。
今回セリクスもパーセルマウスだと判明しましたが、本人に自覚はありませんでした。だって、身近に蛇なんていませんでしたから。

●ロジャーとは一応友達
ロジャーはセリクスのことをとても気に入っていますが、普段から一緒につるむような関係ではありません。彼はセドリックとは少し立ち位置が違います。
セリクスの方もロジャーのことは、他の一般生徒よりは視界に入れています。ロジャーから感じるまっすぐな好意と、優秀さを気に入っているようです。


第15話 新たな被害者と無責任なポルターガイスト
●よちよちマンドレイクちゃん
マンドレイクちゃんが再登場しました。もちろん1章に出てきた初恋マンドレイクとは別個体ですけどね。どんなに好意を向けても、朴念仁なセリクスには一切伝わりません。幼児マンドレイクちゃんもきっと土の中から「あのお兄ちゃん来ないかな〜」なんてずっと待っていることになるのかもしれません。可哀想に……。

●血みどろ男爵
あの堅物の男爵がセリクスにはいやに協力的だったり、どこか敬意を示しているように見えますが、それはシンプルにセリクスがサラザール・スリザリンの直系子孫であり、優秀な人物だからです。サラザールは男爵の恩師なんですよね。セリクスのキャラがもっと傲慢だったり、チャラチャラしてたらこんなに好意的ではなかったはずです。

●自由すぎるポルターガイスト・ピーブズ
ピーブズって基本的に、男爵の言うことしか聞かないらしいですね。理由はよく分かりませんが。賢者の石編でパーシーが「男爵を呼ぶぞ!」って脅す場面がありますが、グリフィンドール生が呼んでも男爵が来てくれるとは思えませんけどね(笑) 今回、男爵に懲らしめられたピーブズですが、彼の辞書に『反省』という言葉は存在しません。またセリクスに遭遇した時は、舐めた口を利きます( ̄▽ ̄;)
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