スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~ 作:如月斎
ドラコのクリスマス
ドラコはせっかくのクリスマス休暇なのに、ずっとイライラしていた。原因はたくさんある。ルシウスに、帰って来るなと言われたこと──これは理由を知っているので、まだマシだ。帰れないから、
何より、セリクスが残ってくれなかったこと。
ドラコは帰ろうとしているセリクスに対して、散々一緒に残るようにねだっていた。セリクスは冷たく見えて、ドラコが歳下らしく甘えると意外と折れてくれることが多いからだ。しかし今回は全く折れてくれなかった。
(セオと先に約束してたから? そんなことで? 僕を優先してくれてもいいのに。そんなにあいつが大事なのか?)
ドラコはたくさん届いたクリスマスプレゼントにもちっとも心
「……待てよ。セリクスからは来てるか?」
クリスマスディナーを食べて自室へ戻っていたドラコは、早速プレゼントを
ルシウスとナルシッサ、アブラクサス、クラッブ、ゴイル、セオドール、パンジー、ダフネ、ブルストロード、ザビニ、カロー姉妹、フリント他チームメイト。──セリクス。
「あった!」
セリクスからのプレゼントは、一抱えありそうな箱であった。ワクワクとしながら、早速開封する。ビリビリと包装紙を破る音が部屋に響いた。
「……これ、『ニンバス2001』専用メンテナンスキット!? 欲しかったやつだ!」
革張りの小型トランクには『Nimbus Racing Broom Company』と金字で焼印が捺されている。手で触れると、上質な革の質感が伝わってきた。中には細工が美しい瓶が数本。おそらく箒用のオイルだろう。琥珀色の液体が光を反射して煌めいている。専用クロスもたくさん入っている。他にも細々とした道具類も。
「セリクス、クィディッチには興味ないくせに……。僕が前に欲しいって言ってたの覚えててくれてたんだな」
ドラコはここ数日のくさくさした気持ちが軽くなるのが分かった。胸の奥の重苦しさが、ふわりと浮き上がって消えていくようだった。どうせ休暇はあと2週間ほどだ。外は寒いが、防寒をしっかりして1人で箒の練習をしてもいいかもしれない。このメンテナンスキットで手入れすれば、きっともっと速くなる。
歳相応の笑顔が戻ったドラコは、嬉々としてプレゼントの開封を続けた。ルシウスとナルシッサからは、マフラーと銀のブローチと万年筆のセットとお菓子の詰め合わせだった。相変わらずの物量である。箱の中には、更に小さな箱がいくつも重なっていた。
「このマフラー、カシミヤとシルクか? まさか母上の手編み? もう小さい子供じゃないのに……。あ、このマカロン、ラデュレラのだ! こっちはボワシエールのマロングラッセか。ここの菓子、美味しいんだよな」
ドラコはマカロンを1つ口に放り込んだ。軽い食感で、サクサクと口の中で溶けていった。上品な甘さが鼻を通り抜ける。
「隠しておかないと、クラッブとゴイルに全部食べ尽くされるな……」
お菓子の箱は、すぐにクローゼットの奥底に隠した。銀のブローチと万年筆にはチラリと
「……ん? なんだこれ」
プレゼントと一緒に、メッセージカードと新聞の切り抜きが入っている。それを読んだドラコは楽しそうにニヤリと笑い、クラッブとゴイルを探しに部屋を出たのであった。
◆ ◆ ◆
ドラコはひとまず大広間へ行った。まだクラッブとゴイルが食べ散らかしてると思っていたが、さすがにもう誰も残っていなかった。長いテーブルには食事の痕跡だけが残され、松明の明かりが静かに揺れている。手当たり次第にいろいろと探し回ったが、最終的に2人は何故かグリフィンドールの赤毛の監督生と一緒にいた。意味が分からない。廊下の角で3人が並んで立っているのが見えた。
(あの頭でっかちに減点されてなければいいが)
助けに入ると、2人はアホそうな顔をした。いつもより更にうすらぼんやりしているように見える。ドラコは2人を引き連れて談話室へ戻ってきた。
「なんで眼鏡なんだ?」
ゴイルがどこか既視感のある眼鏡をしている。全く似合っていない。丸い黒縁の眼鏡が、ゴイルの大きな顔に不自然に乗っかっている。ゴイルは慌てたように眼鏡を外す。
「あー、あのー。本を読んでて……」
「本を?」
「ウン……」
「……字が読めたのか……」
新たな発見だった。最低限読めるなら、もうドラコにレポート作成を頼らないでほしい。自分でやれ。ドラコはちょっとムカつきつつ、新聞の切り抜きを取りに部屋へ戻った。これを読ませたら、あのぼんやりどももきっと喜ぶだろう。あいつらもウィーズリーは嫌いなのだから。
ドラコはクラッブの鼻先に新聞を突き付けた。
「これは笑えるぞ」
クラッブとゴイルが『日刊予言者新聞』を読み始めた。文字が読めると言ったのは、嘘ではなかったらしい。比較的難しい単語もあるが、いつものように聞いてはこなかった。ドラコは内心で首を傾げた。2人の目が、いつになく滑らかに行を追っているのが分かった。
「どうだ? おかしいだろう?」
ドラコがせせら笑うと、2人も同時に笑った。しかしどこかぎこちない。
「アーサー・ウィーズリーはあれほどマグル
ドラコが
「クラッブ、どうかしたか?」
「腹が痛い」
「ああ、それなら医務室に行け。あそこにいる『
やっぱり腹痛らしい。早く医務室へ行ってマダム・ポンフリーの苦い薬を飲んでくればいいのに、クラッブは動こうとはしなかった。食い意地が張ったクラッブなら、あの薬さえも喜んで飲み干すはずなのに。ソファに座ったまま、額に手を当てている。
「それにしても『日刊予言者新聞』が、これまでの事件をまだ報道していないのには驚くよ。多分、ダンブルドアが口止めしてるんだろう。こんなことがすぐにもお終いにならないと、彼はクビになるよ。父上は、ダンブルドアがいることが、この学校にとって最悪の事態だと、いつもおっしゃっている。彼はマグル贔屓だ。きちんとした校長なら、あんなクリービーみたいなクズのおべんちゃらを、絶対入学させたりはしない」
コリン・クリービー。真っ先に石にされた『穢れた血』。いつもカメラを構えてて、あのいけ好かない英雄にまとわりついていた。今思い出してもムカムカする。パシャパシャとシャッター音を立てながら、ポッターの後を追い回していた姿が目に浮かぶ。
「ポッター、写真を撮ってもいいかい? ポッター、サインを貰えるかい? 君の靴を舐めてもいいかい? ポッター?」
カメラを構えるフリをして物真似をしてやった。いつもこれで爆笑するのに、不思議と2人は沈黙したままだった。ゴイルも腹痛か? 一体何を食べてしまったんだ。2人の顔色を見ると、どちらも妙に蒼白い。
「2人とも、いったいどうしたんだ?」
ほんの少しだけ心配して聞いてやったら、やっと笑い出した。なんだ、消化中か? だからいつにも増して鈍いんだな。心配して損した。
「聖ポッター、『穢れた血』の友。あいつもやっぱりまともな魔法使いの感覚を持っていない。そうでなければあの身の程知らずの穢れグレンジャーなんかと付き合ったりしないはずだ。それなのに、みんながあいつをスリザリンの継承者だなんて考えている!」
そうだ。あいつなんかがスリザリンの継承者であるはずがない。他寮のやつらの見る目のないことよ。だけど───
「いったい誰が継承者なのか、僕が知ってたらなぁ。手伝ってやれるのに……」
溜息をつきつつ天井を仰ぐ。
「誰が陰で糸を引いてるのか、君に考えがあるんだろう……」
ゴイルが突然喋り出した。いつもよりはっきりとした口調に少しだけ驚く。声のトーンも微妙に違う気がする。
「いや、ない。ゴイル、何度も同じことを言わせるな。それに、父上は前回『部屋』が開かれた時のことも、全く話してくださらない。もっとも50年前だから、父上の前の時代だ。でも、父上は全てご存知だし、全てが沈黙させられているから、僕がそのことを知りすぎていると怪しまれるとおっしゃるんだ。でも、1つだけ知っている。この前『秘密の部屋』が開かれた時、『穢れた血』が1人死んだ。だから、今度も時間の問題だ。あいつらのうち誰かが殺される。グレンジャーだといいのに」
ドラコはもどかしげに下唇を噛んだ。
「絶対セリクスだと思うのに……。本人は否定するんだ。このホグワーツに彼以上の資格があるやつなんかいないのに、なんで隠すんだろう」
ドラコはあの冷たい美貌を思い浮かべた。銀色の髪とエメラルドグリーンの瞳。いつも無表情で、でもたまに見せる僅かな笑みが忘れられない。ドラコははっきりとは認めないが、セリクスのことが母上と父上の次に大好きだった。悲しいことにどこまでも片思いである。
「……セリクス?」
クラッブとゴイルがまたぼんやりと口を開けた。いつもより更に愚鈍だ。
「はあ? おいおい。冗談がきついぞ。お前らセリクスの世話になることもあるくせに。セリクス相手に『あなた誰ですか?』なんて言ったら、さすがに
2人は顔を見合わせている。この2人の顔をじっくり見ても、特に新しい発見はないだろうに。時間の無駄である。暖炉の炎が2人の困惑した表情を照らしている。
「前に『部屋』を開けた者が捕まったかどうか、知ってる?」
ゴイルがやっと口を開いた。さすがにセリクスのことは思い出せたようだ。かろうじて脳細胞の死滅は免れていたんだろう。取り巻きが減るのは、ドラコにも多少ダメージがあるのでホッとした。
「ああ、ウン……。誰だったにせよ、追放された。多分、まだアズカバンにいるだろう」
「アズカバン?」
「アズカバン──魔法使いの牢獄だ」
やはり脳細胞の残り数を心配した方が良さそうだ。
「まったく、ゴイル、お前がこれ以上うすのろだったら、後ろに歩き始めるだろうよ」
ドラコは盛大な溜息をついた。あまりの馬鹿さに目眩がしてくる。こいつらを留年させないで卒業まで面倒を見続けられるか、全く自信が持てない。
「父上は、僕が目立たないようにして、スリザリンの継承者にやるだけやらせておけっておっしゃる。この学校には『穢れた血』の
途端にゴイルが心配そうな顔になった。そうだ。ゴイル家にも調査があったと聞いた。大丈夫だったのだろうか? あまり興味がなかったので聞かなかったのだ。
「そうなんだ……。幸い、大した物は見つからなかったけど。父上は非常に貴重な闇の魔術の道具を持っているんだ。応接間の床下に、我が家の『秘密の部屋』があって───」
「ホー!」
ずっと黙っていたクラッブが突然
「胃薬だ」
ゴイルが
よくよく考えたら、やはりゴイルが眼鏡をかけているのは変ではないだろうか。あいつらは本当に、クラッブとゴイルなのだろうか。医務室から戻ってきたら、また話の続きをすれば分かるだろうか。
それとも、セリクスならすぐに分かっただろうか。
ドラコは暖炉前のソファに陣取り、新聞の切り抜きを眺めながら、子分たちが帰ってくるのを辛抱強く待ってやったのだった。炎の温もりが頬を撫で、静かな談話室には時計の音だけが響いている。
【あとがき】
●Nimbus Racing Broom Company
ニンバス・レーシング・ブルーム・カンパニー。日本語ではニンバス競技用箒会社。私の創作ではなく、公式設定に存在する箒製造会社です。1967年創設。デブリン・ホワイトホーンという人が創設者らしいです。箒のメーカー名までちゃんと決まっているハリポタ世界、すごいですよね!
●フランスのラデュレラとボワシエール
元ネタはフランスの高級老舗お菓子ブランド、ラデュレとボワシエです。マルフォイ家はフランスにルーツを持つ名家ですが、フランスのマグルのブランドをそのまま愛用しないだろうなと思ったので、この2つはフランスの魔法界にある高級お菓子メーカーということにしました。ちなみに、私はそんなオシャンティーなブランドで買い物したことはございません( ̄▽ ̄;)
●「……字が読めたのか……」
ドラコがゴイルの眼鏡にツッコミを入れていますが、これは原作ではなく映画準拠です。このシーンはトム・フェルトンのアドリブだと聞きましたが、めちゃくちゃお気に入りのシーンです(笑)