スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~ 作:如月斎
イースター休暇は相談週間?
怯えて小刻みに震えながらついてくるコーウェンには気付かずに、セリクスはいつもより乱雑な足運びで大広間へ戻っていた。革靴が石床を不規則に打ち鳴らす。前を歩いていた他の生徒が、戦々恐々としながらセリクスに道を譲る。
あと少しで大広間だというところで、人だかりが出来ておりまっすぐ進めなくなった。ざわざわとした
「セリクス……! 吹っ飛ばしちゃダメだよ……! 」
「そんなことしないが」
セリクスは歩く人間地雷ではない。コーウェンはセリクスをなんだと思っているのか。つい先程やったことを棚に上げ、少しだけ
人だかりの中心から、また小人の下手くそな歌が聞こえてくる。音痴な歌声が耳障りだ。しかもポエムの内容も
(いや、やはり同じくらい酷かったかもしれないな……)
思い返してみたらどれもこれもセンスというか、思想が酷いものばかりだ。
周りの生徒たちが爆笑している。その時、セリクスは足元に落ちている黒いノートに気が付いて拾った。
「日記帳?」
「あれ? それセリクスのじゃない?」
「いや、私のは鞄に入っているはずだが……」
表紙はパッと見、セリクスの黒いノートにそっくりであった。革の手触りも似ている。しかし裏表紙にはロンドンのボグゾール通りの新聞・雑誌店の名前が印刷されていた。セリクスは何の気なしに表紙をめくった。人の物を勝手に見るなんて、そんな珍しい所作にコーウェンは目を
「T.M.リドル……。知らないな」
「セリクス! それ貸してくれないか?」
突然ドラコが笑顔でやってきて手を差し出してきたので、そのまま手渡してやった。ドラコの物ではないと思うが、セリクスの物でもないので別に惜しくなかったのだ。
気が付くと人だかりはだんだんと散らばっていった。どうやらパーシー・ウィーズリーが監督生の特権を使って生徒をはけさせているようだ。張りのある声が廊下に響いている。
「おい見ろよ! ポッターの日記だ。さっきポッターの鞄から飛び出ているのを見たんだ」
「ポッターの? しかし──」
ドラコは嬉々として、クラッブとゴイルにそのノートを見せびらかしていた。ポッターがそれに気が付いて、怒りを露わにしている。緑の瞳が燃えるように光った。
「それは返してもらおう」
「ポッターはいったいこれに何を書いたのかな?」
喧嘩でも始まるのかと、周りに残っていた野次馬たちが口を閉じて2人を見守った。空気が張り詰める。パーシーが監督生らしく厳しく口を挟んだ。
「マルフォイ、それを渡せ」
「ちょっと見てからだ」
「本校の監督生として──」
パーシーが更に言い
「《
ドラコの手にあったノートが宙を飛んで、ロン・ウィーズリーの手元に落ちた。強力で正確な魔法技術にセリクスは感心した。エメラルドの瞳が僅かに細められる。
「ほう……。素晴らしい魔法速度と精度だ。ついこの間、あのくだらない決闘クラブで習ったとは思えないほどだな」
「セリクス、注目するところはそこなの?」
怯えている癖に、親友への突っ込みだけは忘れない男である。
「ハリー! 廊下での魔法は禁止だ。これは報告しなくてはならない。いいな!」
パーシーはその場で減点まではしなかった。やはりグリフィンドール
「そういえば廊下での魔法行使は校則違反だったか」
「そんなのすっかり忘れてたね。怒られたこともないし」
2人のけしからん内緒話は、幸いにもパーシーの耳には届かなかった。
ドラコは屈辱に顔を赤く染めながら、歳下の女子生徒へ
「ポッターは、君のバレンタインが気に入らなかったみたいだぞ!」
言われた赤毛の女子生徒は、手で顔を覆い逃げ去ってしまった。あのポエムは彼女作だったらしい。まぁあの内容であれば、あの英雄が気に入らないのも無理はない。たまたま野次馬の中に、カロー姉妹がいたらしい。彼女たちのクスクス笑いは、更に赤毛の女子を
それはそれとして、ドラコの態度はあまり褒められたものではない。スリザリン生として、マルフォイ家の嫡男としての
◆ ◆ ◆
イースター休暇中に、数人の2年生がセリクスの元へ順々にやってきた。皆一様に、あるリストを
まず真っ先に来たのは、やはりと言うかセオドールであった。セリクスが談話室の窓際のソファに座って読書をしていると、向かいの3人掛けソファに細身の体がぽすっと座ってきた。
「セリクス先輩。相談してもいいですか?」
「なんだ?」
本から視線を上げる。
「僕に向いている科目がいまいち分からなくて……。先輩は何を選んだんですか?」
「セオドールならどれを選んでも問題はなさそうだが。……そうだな。『魔法生物飼育学』と、『古代ルーン文字学』がいい気がする。ちなみに私はそれとあと『数占い学』だ」
セリクスが淡々と話すと、セオドールは驚愕に瞳を見開いた。
「3つも!? 忙しくないですか?」
「『古代ルーン文字学』と『数占い学』はとにかくレポートが多い。それを
「『ルーン文字』はなんとなく分かります。僕に向いてそうな気もします。でも何故『魔法生物』? 僕は特段、動物好きという訳ではありませんが……」
セリクスはやっと手元の本を閉じた。背表紙が軽い音を立てる。天井を仰ぐと窓を通して薄い青が波紋を描いていた。談話室の空気は静かで穏やかだ。
「『魔法生物飼育学』は、就職先の
「なるほど……。今のところ就職の予定はありませんが、どうなるかまだ分かりませんよね。ありがとうございます」
セオドールはすっきりした顔をして席を立った。早速提出してくるのだろう。軽い足取りで談話室を出て行く。
セオドールがいなくなったのを見計らったかのようにやってきたのは、ドラコとクラッブとゴイルだ。3人はやはり向かいのソファに並んで座った。真ん中のドラコが若干狭そうだ。ソファがギシギシと
「セリクス。相談いいか? 3年生からの選択科目のやつ」
「私はドラコの得意科目も、目指している就職先も、成績も何も知らないんだが」
「……僕に興味なさすぎないか? 得意科目は『魔法薬学』と『飛行術』と『呪文学』。就職は多分しない。父上の補佐をすると思う。成績は学年8位。これでいい?」
「……ほう? 8位か」
セリクスは僅かに眉を上げ、意外なことを聞いたような表情をした。思っていたよりも上位だったからだ。ドラコは頭は悪くない。言動があまりよろしくないだけだ。
「お前たちは?」
「……俺たち?」
一応クラッブとゴイルにも確認したが、2人は意外なことを聞かれたような表情で顔を見合わせていた。セリクスの助言がいらないのなら、何故ここに来たのか。セリクスの眉間に僅かな皺が寄る。怖い先輩の顔色を読んだのか、慌ててクラッブが口を開く。
「……就職は分からない。得意科目はない、です」
「お、俺も……」
「はあ……」
成績は聞かなくてもなんとなく分かる。ほぼ最下位であろう。セリクスは深い溜息をついてドラコに向き直った。
「お前たち、就職しないならなんでもいいだろう。1番楽なのにしろ。『魔法生物飼育学』と『占い学』だ。そしてドラコはこの2人の面倒を見ろ。以上だ」
「ちょっと適当すぎないか!?」
「適当じゃない。ドラコがこの2人を見捨てるならもう少し考えるが……。そうは出来ないんだろう。この2人に残りの科目は無理だ。ドラコもこの2人の面倒を見ながら『古代ルーン文字学』は難しいと思うが……」
「……確かに……」
ドラコは苦虫を噛み潰したような顔で、己の取り巻きを見やった。セリクスに相談する前から、結果は決まっていたようなものだ。深い深い溜息をついてドラコは席を立った。クラッブとゴイルも慌てて立ち上がる。この2人に自我はあるのだろうか。セリクスは純粋に疑問に思った。
「セリクス、ありがとう。とりあえず出してくる」
「ああ」
世話の焼ける後輩たちが談話室を出て行った後、そろそろと近寄ってきたのはダフネ・グリーングラスとパンジー・パーキンソンとミリセント・ブルストロードの3人娘だ。スカートの裾が揺れ、香水の甘い香りが漂ってくる。セリクスはいよいよ読書を諦めて、書籍をテーブルへと置いた。屋敷しもべ妖精にアフタヌーンティーのセットを頼む。セリクスが読書に戻るのは、まだまだ後になりそうだった。
「先輩……。私たちもご相談よろしいでしょうか?」
「……話しながらアフタヌーンティーにしようか」
「きゃあ! ありがとうございますっ!」
「……パンジー、落ち着いて。セリクス様はうるさいのがお嫌いよ」
「あ、ごめんなさい!」
「お邪魔します……」
がっしりとした肩を縮めながら、ブルストロードが端っこに座った。そしてダフネが真ん中で、パーキンソンが反対端だ。パーキンソンがさっそくテーブルの上に用意されたお菓子に手を伸ばし、ダフネに軽く手の甲を叩かれていた。
「えー! なんで!」
「パンジー、大人しくしなさい。セリクス様。お時間ありがとうございます」
「いや……気にしなくていい。ミス・パーキンソンも別に食べたらいい。……相談とは? やはり選択科目のことか?」
「わーい! ありがとうございます! ……あっ、このクッキー美味しい!」
この女は何しに来たのだろうか。お菓子を食べに来たのかもしれない。ダフネは仕方なさそうに眉を下げて友人を見た後、セリクスに向き直った。
「セリクス様はなんの科目を選んだんですか? それにしたきっかけとか……私たちは何を選べばいいと思いますか?」
「ふむ。私は『古代ルーン文字学』『数占い学』『魔法生物飼育学』だ。きっかけは特にないというか……興味深い科目を取っただけだ。──君たちの学年順位、得意科目と苦手科目、将来の職業は?」
「まあ3つも? 大変そうですね。──私は学年13位で、得意科目は『変身術』と、強いて言うなら『魔法史』でしょうか。苦手なのは『薬草学』と『魔法薬学』です。あの、ぶちゅっと潰れる感じが……。就職は……出来るんでしょうか……。両親は結婚しろと……」
ダフネは最後
「君は?」
「もぐもぐ……あっ、私ですか? えっと、学年35位で、得意は〜なんだろ? あっ、『天文学』は好きですよ。苦手は『魔法史』。起きてられないの。テストの点は別に悪くないけどね! 将来の夢はドラコのお嫁さん! きゃっ!」
「なるほど……」
ドラコの嫁になれるかは置いておいて、永久就職希望なら別に何を選んでもいいのではないかと思えた。多分、本当にお菓子を食べに来ただけなのだろう。セリクスはブルストロードを見た。セリクスのことを見ていたのだろう。バチッと視線が合った瞬間、すごい勢いで下を向いてしまった。取って食う気などないのだが。
「君は? ミス・ブルストロード」
「え、えっと。学年49位です……。得意科目は『闇の魔術に対する防衛術』と『薬草学』。苦手科目は『魔法史』と『魔法薬学』です。将来の夢は……動物や植物に関わる仕事がしたくて」
「ふむ」
少し意外だった。ブルストロード家では、彼女を政略結婚の道具にする気はないらしい。確か彼女の父親はブルストロード家当主の弟で、母親は半純血だったはずだ。恋愛結婚推奨なのかもしれない。
「3人とも、『マグル学』の選択肢はあるのか?」
セリクスの質問には、3人ともが首を横に振った。それだけは有り得ないという顔だった。こう見るとタイプは違うが、3人ともがスリザリン生なのだなと納得した。
「……なら、ミス・パーキンソンとミス・ブルストロードにはあまり選択肢がない。『古代ルーン文字学』は暗記も応用力も必要になるし、レポート数も相当多い。『数占い学』を選ぶ人は将来の就職先が数学者や、魔法省の研究職希望。もしくはグリンゴッツの呪い破りなどか。ニッチすぎて選ぶメリットが少ない。あとは、『占い学』と『魔法生物飼育学』くらいしか選択肢がない」
「なるほどぉ……。じゃあ私はそれにします」
パーキンソンは最初からそう決めていたように、あっさりとそう言った。ブルストロードも横でこくこく頷く。
「私も……『魔法生物飼育学』は元々選ぼうと思ってたんで、それで……」
「そうだな。魔法省の魔法生物規制管理部に就職するためには必須科目だと思う。あと『占い学』は話に聞く限り、学力はほとんど必要ない。ある種の才能は必要そうだが……まぁ問題あるまい」
「才能……大丈夫かな……」
パーキンソンとブルストロードは不安そうに目を見合わせている。セリクスは1つ咳払いをした。
「……んんっ。フリント先輩が出来てるんだから、大丈夫だろう」
「あっ! なら全然大丈夫ですね!」
「良かったぁ。ホッとしました」
3人とも大概失礼である。ダフネは苦笑いをしていた。
「グリーングラス嬢は……そうだな。『魔法生物飼育学』はやめた方がいいかもしれない。やはり綺麗な学科ではないから。私のおすすめは『古代ルーン文字学』だ。就職先の幅が広がるし、13位ならついていけるだろう」
「……じゃあ私は『古代ルーン文字学』と『占い学』にします! セリクス様。本当にありがとうございました」
ダフネが貴族令嬢のお手本のようなお
◆ ◆ ◆
翌日、借りた本を返しに図書室へ向かったセリクスは、午後の光が差し込む廊下を歩いていた。窓から落ちた淡い光が石床を照らし、足音だけが静かに響いている。そこで、たまたまネビルに出会った。この日のネビルはトレバーを探してもいないし、足縛りの術を掛けられてもいない。しかし何か思い悩んでいるようだ。眉間に皺を寄せ、視線は足元に落ちている。
セリクスはネビルの存在は認知したが、特に反応を示さず通り過ぎようとした。だが背後から切羽詰まった声で呼び止められてしまった。面倒そうな予感に眉をひそめながらも足を止める。
「──ゴ、ゴーント先輩っ!」
「……なんだ」
セリクスが渋々振り返ると、頭2つ分は小柄なネビルがぷるぷるしながらセリクスを見上げていた。頭上にいるトレバーも連動してぷるぷるしている。セリクスは無意識的に和んでしまった。こういうところがネビルを突き放せない原因である。
「ぼ、僕、僕、どの選択科目を選んだらいいか、分からなくて……。先輩なら詳しいかもって……」
「何故皆私に聞くんだ……。マクゴナガル教授に聞く方がよほど良いと思うが。それか他に頼れそうな同寮の先輩はいないのか?」
「フレッドとジョージに聞いたけど全然参考にならなくて。マクゴナガル先生は怖いんです……」
マクゴナガル教授が怖いという感想には同意出来なかった。それよりはスネイプ教授の方が怖そうだ。いや、怖そうというよりは面倒臭そう、の方が正しいだろうか。
「お前の得意科目と希望の就職先と学年順位は?」
「えっ……。えーと、得意科目は……あんまりないけど、うーん、『薬草学』かな? 就職はまだ分からないです。学年順位は……えっと、65位、です」
「低いな……」
「うっ」
セリクスの直球な感想にネビルが胸を押さえる。世話係の機微を感じ取ったのか、頭上のトレバーが「ケロケロケロ!」と抗議の鳴き声を上げた。丸いつぶらな目でセリクスを睨んでいる。セリクスはネビルではなく、抗議するトレバーの顔を見ながら言った。
「特に目指している就職先がないんなら、無難に『魔法生物飼育学』と『占い学』でいいのではないか? 成績65位で『古代ルーン文字学』と『数占い学』は厳しい。もしくは保護者が許すなら『マグル学』だな」
「マ、『マグル学』?」
「『マグル学』は、普段マグルが扱う電化製品などを触ることが出来るらしい。しかし、ロングボトム家は聖28一族の純血家系か。なら無理かもしれないな」
「い、いえっ。ちょっと調べてみます! ありがとうございます、ゴーント先輩!」
ネビルはスッキリとした明るい顔をして頭を勢い良く下げた。その拍子にトレバーが落っこちる。セリクスは
セリクスはそのまま背中を向けて、図書室へ向かうことにした。靴音が静かに遠ざかっていく。イースター休暇とは相談週間だったのだろうか? セリクスはこれ以上他人に
ネビルが目の前から消えた先輩に
【あとがき】
●独自設定のオンパレード( ̄▽ ̄;)
原作キャラクターたちの得意不得意科目、学年順位、将来の夢を捏造しました。
公式で『魔法生物飼育学』を履修していたのは、少なくともドラコ、クラッブ、ゴイル、セオドール、パンジー、ネビルあたりだったはず……? ミリセントはいたかなぁ?
ミリセントがびくびくと気弱そうに怯えていますが、彼女は普段、どちらかというと強気で堂々としている子です。シンプルにセリクス個人にビビっているだけです(笑)
将来の夢に関しては、純血貴族の子息たちは「僕、働く必要ある……?」くらいの認識だと思います。
ちなみに、公式だと思い込んでいましたが、卒業後ドラコがヒーラーになるのはファンフィクション発の設定らしいですね。めちゃくちゃびっくりしました。
あんなに白衣似合うのに!? 『魔法薬学』得意そうなのに!?
同じように公式だと思っていた方、きっと他にもいるはず……。
●今回決めた順位表
1位 ハーマイオニー・グレンジャー
2位 セオドール・ノット
8位 ドラコ・マルフォイ
13位 ダフネ・グリーングラス
35位 パンジー・パーキンソン
49位 ミリセント・ブルストロード
65位 ネビル・ロングボトム
ハリーやロンたちは何位なんでしょうね? ハリー学年は、スーパーマイナーキャラクターも含めると40人くらい名前が判明していますが、さすがに全員の順位までは決めませんでした。(決めてもいいけど、需要はなさそう……)
ネビルがこんなに順位低めなのは、杖がお下がりなこと、自信がないこと、成功体験が少ないこと、そして何よりスネイプ先生にビビりすぎなせいです。ネビルは悪くない。環境が悪い。
確かに暗記力は低い気がしますが(忘れん坊だし)、落ち着いてしっかりやればもっと上を目指せるだろうなーなんて考えています。
●ホグワーツ生は、もっといろいろ学んだ方がよくない?
選択科目が少なすぎませんか? 5科目しかないの? 将来の就職、困りそう……。
魔法法律学とか、社交儀礼・魔法界教養とか、魔法経済学・会計学とか、治癒魔法基礎とか、魔法道具学とか外国語etc.
ホグワーツで教えている学科だけだと、正直、卒業してからめっちゃ困りそうだなぁなんて思います。
あ、住み込み出来る教師が少ないのか……。