スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第4章 第20話  怪物の囁き、継承者の影

 

怪物の囁き、継承者の影

 

イースター休暇が終わり、週末にはクィディッチの試合がやってきた。ハッフルパフ対グリフィンドール戦だ。コーウェンは朝からウキウキと大広間へやってきた。窓から差し込む朝日が、床を明るく照らしている。そして、ハッフルパフのテーブルにいたセドリックを見つける。

 

「セド! 頑張ってね! 今日こそきっとスニッチを捕まえられるよ!」

「コーウェン! うん、精一杯頑張るよ」

 

2人が明るい笑顔で笑い合う。セリクスはその様子を見て、眩しそうに目を細めた。周りにいた他の生徒たちは内心(ここだけなんか顔面偏差値高いな……)と思っていた。ハッフルパフのテーブルでは、ハンナ・アボットとスーザン・ボーンズが、セリクスを見てうっとりと手を合わせていた。まぁセリクスは気付いてすらいなかったが。

 

セドリックが、ふとグリフィンドールのテーブルへ視線を向けた。セリクスとコーウェンも、それに釣られてそちらを見る。ちょうど同じタイミングで朝食を摂りに来たらしいフレッドとジョージとたまたま目が合った。

 

セドリックは反射のように笑顔を浮かべたが、フレッドとジョージはそっくりな顔を歪めて舌を出してきた。セドリックの笑顔が引き攣(つ)る。コーウェンは苦笑いし、セリクスの視線は氷のように冷たくなった。セドリックと彼らは幼馴染みと聞いていたが、思い違いだったのだろうか。

 

結局それ以上のリアクションは取らずに、セリクスとコーウェンはハッフルパフのテーブルから離れたのだった。アボットとボーンズはまだ祈っていた。そんな2人を、同じテーブルにいたアーニー・マクミランとウェイン・ホプキンスが、見てはいけないものを見てしまったような顔でそっと目を逸(そ)らしていたのだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

昼食後、クィディッチ競技場に向かっていた2人だったが、セリクスがふと足を止めた。他の生徒が歩く方向とは逆を向き、何かに集中している。鋭い視線が廊下の奥を射抜いていた。コーウェンが不審そうにセリクスの顔を覗き込む。

 

「セリクス? どうしたの? 試合始まっちゃうよ?」

「コーウェン、何か聞こえないか?」

「え……?」

 

[今度は殺す……引き裂いて……八つ裂きにして……]

 

低く這(は)いずるような声が壁の奥から響いてくる。冷たい悪意が込められた囁(ささや)き。セリクスは鋭く目を細めた。音にならない殺意が、背筋の奥をじわりと撫でた。

 

「今も聞こえた。誰かを殺すと言っている」

「……セリクス、僕には何も聞こえないよ……」

 

コーウェンの瞳が困惑と僅かな恐怖で揺れている。

 

「やはり、これは……。コーウェン、先に行っていてくれないか? すぐ追いつく」

「あっ、セリクス、待って!」

 

セリクスはコーウェンに背を向けると、どこかへ走り去っていってしまった。ひとつに結んだ長い銀髪が、風に靡(なび)いて揺れている。革靴が石床を叩く音が、遠ざかっていった。コーウェンの咄嗟(とっさ)に伸ばした手が虚しく残る。

 

セリクスは、先程聞こえた不気味な声を追い掛けた。声は遠くなったり近くなったりしたが、不思議なほど相手の姿は見えない。どう考えても壁の中から聞こえる。壁の中を移動しているのだ。

 

セリクスはとうとう図書室まで辿(たど)り着いたが、そこで声はプツリと途切れてしまった。急に手掛かりが消えて、少しの間立ち尽くす。杖を構えて、油断なく周囲を警戒した。廊下には誰もいない。静寂だけが残っている。

 

(どこだ? どこから来る?)

 

その時、図書室の扉が開いて茶髪の少女が飛び出してきた。ハーマイオニー・グレンジャーだ。彼女は焦燥(しょうそう)に満ちた表情で廊下を走ってきたが、たまたま死角にいたセリクスには気付かなかったようだ。次の角で前から来たレイブンクローの監督生と鉢合(はちあ)わせていた。

 

(確かあれは……、クリアウォーターとかいう。ウィーズリー先輩と一緒にいるのを見たことがある)

 

セリクスが記憶を漁っていた次の瞬間、彼女たちがいる方からまた声が聞こえてきた。

 

[来た……遂に来た……今度こそ……失敗は許されない……。こっちだ……こちらへ来い……]

 

彼女たちは何事かを話し合ったかと思ったら、何故かクリアウォーターが、ローブから何か小物のような物を取り出してグレンジャーに差し出した。グレンジャーがそれを廊下の曲がり角に差し出す。セリクスは咄嗟に声を掛けようとした時、2人同時にそれを覗き込んでいた。

 

「──グレンジャー嬢! 駄目だ!」

「──────!」

 

小物が謎の光を放った瞬間、2人はたちまち石化してそのまま後ろに倒れ込んだ。小物が石床に落ちて砕け散った。どうやらそれは手鏡だったらしい。セリクスはすぐに駆け寄って2人の様子を見た。カチコチに固まっていて、体温の名残すらも感じられない。見事に石化している。

 

2人が覗き込んだ廊下を、セリクスもそっと覗き込む。しかしもう何もいなかった。影も形もない。声も聞こえなくなっていた。セリクスは完全に危機が去ったと判断出来るまでの数分間、廊下に立ち尽くしていた。

 

やがて杖を己の喉に押し当てる。

 

「《ソノーラス(響け)》。"誰か来てください! 新たな被害者が出ました!"」

 

セリクスの低い声が、廊下や周辺の教室一帯にまで響き渡る。授業はなかったが、遠くの方から慌ただしい足音が聞こえてきた。たまたま誰かがいたらしい。廊下の角を曲がってきたのはグリフィンドール寮監、マクゴナガル教授だった。ローブの裾を翻(ひるがえ)して急いでやってくる。

 

「ああ、ミスター・ゴーント。被害者は……、ああっ、ミス・グレンジャー。ミス・クリアウォーターまで!」

 

マクゴナガル教授は痛ましい表情をして、2人の近くでしゃがみこんだ。恐る恐る頬を撫でている。しかしすぐに立ち上がって、厳格そのものの顔でセリクスを見つめた。

 

「あなたにも聞きたいことがあります。しかしその前に、この子たちを医務室へ運ばなければ」

「よろしければお手伝いいたします」

「助かります。魔法で浮かせて運びましょう。慎重に頼みますよ。少しでも欠けたら事ですからね」

 

恐ろしいことを言われながら、哀れな被害者たちを魔法で浮かせて医務室へ運び込む。マダム・ポンフリーが飛び上がるように駆け寄ってきた。セリクスはマダムへ場所を譲った。マクゴナガル教授がセリクスへと近寄ってくる。

 

「ミスター・ゴーント。犯人を見ましたか?」

「いいえ。私が来た時には、犯人らしきものはもう既にいませんでした」

「あなたは何故あそこに?」

「……図書室で調べたいことがありました」

「今日はクィディッチの試合がありますが?」

「私はクィディッチに興味がありませんから」

「……そうですか」

 

マクゴナガル教授は心底理解不能だという顔をした。セリクスは心外だと思った。全魔法族がクィディッチ好きだと思わないでほしい。

 

「これに何か心当たりは?」

 

教授がハンカチを見せてきた。ハンカチの上には、床に散らばっていた鏡の破片がある。いつの間にか回収していたのだろう。

 

「……手鏡ですね。推測ですが、これを使って曲がり角の先を見たんじゃないでしょうか」

「何故?」

「……分かりません」

「分かりました。もう行ってよろしい。私はこれから、クィディッチの試合の中止を宣告してきます。あなたはまっすぐ寮へとお戻りなさい」

「はい」

 

セリクスは一礼して医務室を出た。足早に寮へと戻る。

 

セリクスは何点か、マクゴナガル教授相手に嘘をついた。犯人自体の見当はまだつかないが、犯人が使役しているであろう怪物の正体には思い至っていたのだ。

 

(やはり怪物は蛇の王、バジリスクだ。被害者たちはおそらくバジリスクの目を直接見ていなかったんだろう。先程のグレンジャー嬢のように。全員なんという運の良さだ。まかり間違っていたら、全員死んでいてもおかしくはなかった)

 

セリクスがマクゴナガル教授に、バジリスクのことを言わなかったのは保身のためだ。もしバジリスクだと言った場合、何故それをセリクスが分かったのかまで説明する必要があった。セリクスがパーセルマウスだと言った瞬間、犯人確定である。セリクスがホグワーツから追放されて、アズカバンに入れられるのがオチだ。真犯人は高笑いするだろう。

 

セリクスが犯人のことを推理していると、外からガヤガヤと生徒たちの立てる喧騒(けんそう)が近付いてきた。ざわめきが廊下に響いている。マクゴナガル教授はつつがなく試合を中止することが出来たようだ。

 

「セリクス! いた! あぁ、良かった!」

 

コーウェンがセリクスに飛び付いてきた。危なげなく受け止めてやる。コーウェンは真っ青な顔でふるふると震えていた。また被害者が出て、しかもセリクスが戻らないので、もしかしたらセリクスが石化したのではないかと不安だったらしい。安心して脱力しているコーウェンを見下ろし、セリクスは冷静に尋ねた。

 

「コーウェン、競技場にポッターはいたか?」

「……え? ポッター? 普通にいたよ。でもそれがどうかしたの?」

「……ポッターではない」

「……???」

 

これで唯一の容疑者が消えた。推理はまた最初からやり直しになったようだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

その夜、超満員になった談話室で、スネイプ教授からの説明を聞いていた。教授の朗々とした低い声が響き渡る。暖炉の火が揺れ、生徒たちの不安げな顔を照らしている。

 

「全校生徒は夕方6時までに、各寮の談話室に戻るように。それ以後はけっして寮を出てはならん。授業に行く時は、必ず教職員の誰かが1人引率する。寮外のトイレに行く時は、必ず誰かに付き添ってもらうこと。クィディッチの練習も試合も全て延期だ。夕方のクラブ活動は全面禁止。これは決定事項だ」

 

スネイプ教授はまるで、仕事が増えて忌々しいとでもいうような顔をして続けた。黒い瞳が鋭く生徒たちを見渡す。

 

「スリザリンの諸君は、団体行動を乱すような下らない虚栄心は持ち合わせていないと信じている。念の為に言うが、1人での行動は一切しないように。おそらく犯人はスリザリン生のことは狙わないとは思うが、何か間違いがあってはいけない」

 

教授の自寮の生徒を心配しているかのような台詞に、スリザリン生たちは意外なことを聞いたような顔になった。教授が心外だとでもいうかのように片眉を上げる。

 

「このまま襲撃者が見つからなければ、学校閉鎖もありえる。もし何か知っている者がいれば名乗り出ろ」

 

教授はそう言いつつも、まっすぐセリクスを見つめた。どうやらマクゴナガル教授から何か聞いたようだ。セリクスは(やはり第一発見者になるのはまずかったか……)と内心独りごちた。

 

教授が談話室から出ていくと、周りの生徒たちが一斉に喋り出した。ざわざわと声が混ざり合う。セリクスにも何人かが集まってきた。

 

「今回の被害者も、グリフィンドールとレイブンクローのマグル生まれらしいね。やっぱり継承者は、マグル生まれをホグワーツから一掃するつもりかな?」

「そうだと思うけどな。でもそれにしてはペースが遅くないか? 今のところ被害者は4人だけ。しかも誰1人死んでない。ホグワーツにはまだまだいるよな?」

「マグル生まれを全滅させる前に、ホグワーツが閉鎖されるのが早そうですよね。継承者の考えていることが、いまいち分かりません」

 

ヒッグスとモンタギューとブレッチリーが他人事のように話している。セリクスと普段関わる人間はおしなべて純血なので、皆どこか楽観的だ。

 

(いや、1人だけいるか)

 

セリクスはチラリと女子生徒の団体を盗み見た。普段大柄で堂々としている体躯(たいく)を縮めて、親友の陰に隠れようとしている半純血の女子。ミリセント・ブルストロードだ。ダフネとパーキンソンが、励ますように背中を撫でてやっている。

 

他にも数名のマグル生まれや半純血が、顔色を失くしている。談話室の空気が重い。セリクスは自身がスリザリンの末裔で真の純血だからと言って、全く安心はしていなかった。怪物がそこまで正確にマグル生まればかり狙えるとは、到底思えなかったからだ。"流れ弾"という言葉も、マグルにはあることだし。

 

(やはりなるべく早く犯人を捕まえるしかない。今更閉鎖になって、ダームストラングに転校になっても困る)

 

セリクスは、自分のすぐ横にいるコーウェンの顔を横目で見た。彼ともセドリックとも、今更離れるなど考えられない。

 

セリクスは、また一から考え直すことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

ここまで読んでくださってありがとうございます。

お気に入り登録、評価、感想など、どれも作者の燃料になります。

最近はハリー世代前後のホグワーツ生たちの名簿整理でだいぶ脳が焼けているので、ひとことでも反応をいただけると嬉しいです(*・ω・)*_ _)ペコ

 

 

 

 

 




【あとがき】
●チラ見えウェイン君
初登場、台詞ゼロでアーニーと一緒にいたウェイン・ホプキンス君ですが、実は公式キャラクターです。ローリング先生が書いたハリーの同級生リストに名前だけが載っている、原作未登場のスーパーマイナーキャラクターです。ちなみに私が創作したセリクスと同学年のハッフルパフ生、エディ・ホプキンスとは兄弟設定です。もしかしたら今後また出てくるかもしれません。

また、ウェイン君と同名のキャラクターは、ハリポタ非公式のパロディ舞台『パフズ』で主人公として登場します。日本では上演されていないようですが、収録版はYouTubeで観られるみたいです。ただ、日本語字幕がないので私はたぶん一生ちゃんとは観られません( ˇωˇ ) でも、コメディとして面白い作品だと聞きました。ハリーの在学中に目立つハッフルパフ生って、セドリックくらいしか印象に残りにくいんですが、きっとハリーが見ていないところで色々な物語があるんだろうなぁと思いました(´▽`*)アハハ

●マグル生まれor半純血
スリザリン生の噂話で、ペネロピーをマグル生まれだと言っていましたが、公式情報上はマグル生まれ確定ではないようです。マグル生まれのハーマイオニーの巻き添えを食った可能性があるらしく。ただヒッグスたちは、石化させられたんだからマグル生まれなんだろうという、ふんわりとした認識なだけです。

●何故そこにいたの問題
いつも解説席にいるマクゴナガル先生が、何故クィディッチが始まる前に図書室の近くにいたんでしょうね? きっと「そろそろ試合だから競技場へ向かいましょうか」と移動していたところだったんだと思います。ホグワーツの先生は忙しいので、試合前にも何かしら仕事があったのでしょう。そういうことにしておいてください(>ω<;)
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