スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~   作:如月斎

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第1章 第8話 初めての飛行訓練

 

初めての飛行訓練

 

早朝のスリザリン談話室、掲示板の前。

 

ガヤガヤとした喧騒(けんそう)の中、1年生たちが張り出された『お知らせ』に群がっていた。その中で、いち早くその掲示を見つけたのはグラハム・モンタギューだった。

 

「……えぇ? 飛行訓練、グリフィンドールと合同だって?」

 

隣で肩越しに覗き込んだエイドリアン・ピュシーがあからさまに顔をしかめる。

 

「よりにもよってあいつらと? なんかの罰ゲーム?」

「普通レイブンクローとかと組まないか? 絶対トラブるぞこれ」

「僕、箒は結構得意だから何かされそうになったら逃げるよ」

「弱虫だな。そこはスリザリン生として堂々とやり返せよ」

「……スリザリン生として?」

 

ピュシーは呆れたようにモンタギューを見た。スリザリンとグリフィンドールの確執(かくしつ)は、兄のいるヒッグスや他の先輩からもよく聞いていた。まだ短い期間しかホグワーツには通っていないが、それでもグリフィンドール生から感じるのは敵対心だけ。2人は軽快に話していたが、後ろでひときわ静かな気配に気付いて声を落とした。

 

壁際では、セリクスが一歩引いた位置で古い呪文書を開いていた。石壁に軽くもたれ、ページをめくる指先は無駄のない所作で動いている。

 

「……ゴーントは、もう授業の予習か? 何あの本、見たことないんだけど」

「さぁな。あいつ、ほんとに何考えてるか分かんねぇよな」

 

モンタギューがひそひそ声で言うと、コーウェンが静かに歩み寄ってきて、セリクスに声を掛けた。

 

「セリクス、次の授業……、飛行訓練だって。グリフィンドールと合同らしいよ」

 

セリクスはほんの一瞬だけ視線を上げたが、表情は変わらない。すぐにまた本に目を落とす。

 

「そうか」

 

それだけだった。本を閉じる気配はない。

 

「……え? それだけ? グリフィンドールだよ?」

「それが?」

「この前悪口言われてたでしょ。ちょっとは気にならない?」

「……悪口?」

 

本当に心当たりがなさそうなセリクスにコーウェンは驚いたように目を見開いた。フレッドの敵愾心(てきがいしん)は一方的な物で、セリクスは歯牙にも掛けていないようだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

空は抜けるように青く、風は少し強い。

 

芝生の広場に整然と並べられた箒の列を前に、生徒たちが集まってくる。飛行訓練の教官、マダム・フーチが鋭い口調で説明を終えると、列のあちこちで「上がれ!」の声が飛び交った。

 

「上がれ! ……上がれってば!」

「跳ねるな、跳ねるなって!」

 

騒ぎの中、セリクスは無言で箒の横に立ち、まるで呟くような小さな声で言った。

 

「上がれ」

 

その一言で、箒は弾かれたように彼の手に吸い寄せられた。無駄のない動きで(また)がり、軽やかに浮かぶ。

 

揺れも、ぎこちなさもない。空気を切る音すらなく、彼の姿は風に溶け込むように空中に浮かびあがる。

 

「……なにあれ」

 

浮き上がるのに必死なコーウェンが、ぽつりと呟いた。

 

「え、あれって人間? 妖精族の血でも混ざってる?」

 

グリフィンドール側にもざわめきが走る。特にウィーズリーの双子が、面白くなさそうにセリクスの飛び方を見ていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「よぉ〜ゴーント! その気取った飛び方、俺たちにも伝授してくれよ〜?」

 

上空から茶化すような声が響く。

 

フレッド・ウィーズリーが、何か小さな包みを手にして箒に乗っていた。

 

「さぁ、王子様にプレゼントだ! 受け取れっ、クソ爆弾!」

「やめろフレッド!!!」

 

ジョージの叫びが微かに届く──が、時既に遅し。

 

黒い小包が弧を描いて、セリクスの背後へ。

 

だが───

 

ふわりと一回転。

 

セリクスの箒が軽やかに回転し、何の力みもなく、まるで舞踏のような動きで爆弾を回避した。

 

その先で──何も知らずに浮かんでいたリー・ジョーダンに、見事に命中してしまった。ジョーダンは何の反応も出来ずポカンと口を開けている。

 

───ドカンッ!!!

 

爆煙。悲鳴。黒煙の中から、ゴホゴホと咳き込みながら墜落していく人影。

 

「ぎゃああああぁ!? 顔が! 顔があああ!!」

「なんでリーが!? お前の爆弾、威力おかしいんだよフレッド!」

「ていうか人に投げんなってば!!」

 

騒然とするグリフィンドール生たちを一喝するように、マダム・フーチの怒声が響き渡る。

 

「ウィーズリー! ジョーダン! 即刻着地! グリフィンドール、20点減点!!」

「げぇ! そんな!」

「臭いぃぃぃ! 助けてー!」

 

地上のざわつきの中、セリクスは静かに空から降りた。無表情のまま箒を丁寧に戻す。

 

その隣で、コーウェンがぽつりと漏らす。

 

「……全然気にしてなかったな……。視界にも入れてませんって感じ……」

 

空を滑るように飛び、騒ぎに巻き込まれることなく、完璧に役目を果たした少年。

 

その背中には、周囲の喧噪など一切届いていなかった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「見なよ。あれこそがスリザリン、だろ?」

 

地面に転がって悶絶しているジョーダンや、周りで大騒ぎをしているグリフィンドール生たちを遠目に眺めながらピュシーが言った。マダム・フーチが、慌てた様子で杖を振っているのが見える。授業終了の鐘は鳴っているが、それどころではなさそうだ。

 

「なるほど。最小限の労力で最大限の報復をってことだな。しかもこれなら大人はグリフィンドールの味方にはなれない」

 

モンタギューが腕を組んで納得したように深く頷いた。

 

他のスリザリン生たちもほとんど全員がグリフィンドール生の様子を嘲笑(あざわら)いながら、校庭を去っていく。

 

先頭を颯爽と歩いていくセリクスの細い背中を見て、スリザリン生たちは尊敬の眼差しを向けたのだった。

 

 

 

 

 




【あとがき】
原作でも飛行訓練はトラブルがありましたけど、『スリ末』では静かに終息しましたね。
リーだけちょっと可哀想なことになりました。リーのことを嫌いな訳ではないんですが、ちょうどいいところにいたんで(笑)
「クソ爆弾が顔に命中」って脆弱なマグルが喰らったら普通に怪我しそうですけど、魔法族は頑丈ということで。

フレッドの記念すべき第1回目の悪戯ですね。セリクスはこの段階ではまだ全然気にしてません。でもこのまま何回も続けばさすがに「うざ……」となります。
でもセリクスは直接やり返したりはしません。矜持が許さないからです。もし何かきっかけがあってやり返した場合、後で静かに反省する男です。
あ、もちろん相手に悪いことしたな、という意味の反省ではありませんけどねꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)
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