スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~ 作:如月斎
初めての飛行訓練
早朝のスリザリン談話室、掲示板の前。
ガヤガヤとした
「……えぇ? 飛行訓練、グリフィンドールと合同だって?」
隣で肩越しに覗き込んだエイドリアン・ピュシーがあからさまに顔をしかめる。
「よりにもよってあいつらと? なんかの罰ゲーム?」
「普通レイブンクローとかと組まないか? 絶対トラブるぞこれ」
「僕、箒は結構得意だから何かされそうになったら逃げるよ」
「弱虫だな。そこはスリザリン生として堂々とやり返せよ」
「……スリザリン生として?」
ピュシーは呆れたようにモンタギューを見た。スリザリンとグリフィンドールの
壁際では、セリクスが一歩引いた位置で古い呪文書を開いていた。石壁に軽くもたれ、ページをめくる指先は無駄のない所作で動いている。
「……ゴーントは、もう授業の予習か? 何あの本、見たことないんだけど」
「さぁな。あいつ、ほんとに何考えてるか分かんねぇよな」
モンタギューがひそひそ声で言うと、コーウェンが静かに歩み寄ってきて、セリクスに声を掛けた。
「セリクス、次の授業……、飛行訓練だって。グリフィンドールと合同らしいよ」
セリクスはほんの一瞬だけ視線を上げたが、表情は変わらない。すぐにまた本に目を落とす。
「そうか」
それだけだった。本を閉じる気配はない。
「……え? それだけ? グリフィンドールだよ?」
「それが?」
「この前悪口言われてたでしょ。ちょっとは気にならない?」
「……悪口?」
本当に心当たりがなさそうなセリクスにコーウェンは驚いたように目を見開いた。フレッドの
◆ ◆ ◆
空は抜けるように青く、風は少し強い。
芝生の広場に整然と並べられた箒の列を前に、生徒たちが集まってくる。飛行訓練の教官、マダム・フーチが鋭い口調で説明を終えると、列のあちこちで「上がれ!」の声が飛び交った。
「上がれ! ……上がれってば!」
「跳ねるな、跳ねるなって!」
騒ぎの中、セリクスは無言で箒の横に立ち、まるで呟くような小さな声で言った。
「上がれ」
その一言で、箒は弾かれたように彼の手に吸い寄せられた。無駄のない動きで
揺れも、ぎこちなさもない。空気を切る音すらなく、彼の姿は風に溶け込むように空中に浮かびあがる。
「……なにあれ」
浮き上がるのに必死なコーウェンが、ぽつりと呟いた。
「え、あれって人間? 妖精族の血でも混ざってる?」
グリフィンドール側にもざわめきが走る。特にウィーズリーの双子が、面白くなさそうにセリクスの飛び方を見ていた。
◆ ◆ ◆
「よぉ〜ゴーント! その気取った飛び方、俺たちにも伝授してくれよ〜?」
上空から茶化すような声が響く。
フレッド・ウィーズリーが、何か小さな包みを手にして箒に乗っていた。
「さぁ、王子様にプレゼントだ! 受け取れっ、クソ爆弾!」
「やめろフレッド!!!」
ジョージの叫びが微かに届く──が、時既に遅し。
黒い小包が弧を描いて、セリクスの背後へ。
だが───
ふわりと一回転。
セリクスの箒が軽やかに回転し、何の力みもなく、まるで舞踏のような動きで爆弾を回避した。
その先で──何も知らずに浮かんでいたリー・ジョーダンに、見事に命中してしまった。ジョーダンは何の反応も出来ずポカンと口を開けている。
───ドカンッ!!!
爆煙。悲鳴。黒煙の中から、ゴホゴホと咳き込みながら墜落していく人影。
「ぎゃああああぁ!? 顔が! 顔があああ!!」
「なんでリーが!? お前の爆弾、威力おかしいんだよフレッド!」
「ていうか人に投げんなってば!!」
騒然とするグリフィンドール生たちを一喝するように、マダム・フーチの怒声が響き渡る。
「ウィーズリー! ジョーダン! 即刻着地! グリフィンドール、20点減点!!」
「げぇ! そんな!」
「臭いぃぃぃ! 助けてー!」
地上のざわつきの中、セリクスは静かに空から降りた。無表情のまま箒を丁寧に戻す。
その隣で、コーウェンがぽつりと漏らす。
「……全然気にしてなかったな……。視界にも入れてませんって感じ……」
空を滑るように飛び、騒ぎに巻き込まれることなく、完璧に役目を果たした少年。
その背中には、周囲の喧噪など一切届いていなかった。
◆ ◆ ◆
「見なよ。あれこそがスリザリン、だろ?」
地面に転がって悶絶しているジョーダンや、周りで大騒ぎをしているグリフィンドール生たちを遠目に眺めながらピュシーが言った。マダム・フーチが、慌てた様子で杖を振っているのが見える。授業終了の鐘は鳴っているが、それどころではなさそうだ。
「なるほど。最小限の労力で最大限の報復をってことだな。しかもこれなら大人はグリフィンドールの味方にはなれない」
モンタギューが腕を組んで納得したように深く頷いた。
他のスリザリン生たちもほとんど全員がグリフィンドール生の様子を
先頭を颯爽と歩いていくセリクスの細い背中を見て、スリザリン生たちは尊敬の眼差しを向けたのだった。
【あとがき】
原作でも飛行訓練はトラブルがありましたけど、『スリ末』では静かに終息しましたね。
リーだけちょっと可哀想なことになりました。リーのことを嫌いな訳ではないんですが、ちょうどいいところにいたんで(笑)
「クソ爆弾が顔に命中」って脆弱なマグルが喰らったら普通に怪我しそうですけど、魔法族は頑丈ということで。
フレッドの記念すべき第1回目の悪戯ですね。セリクスはこの段階ではまだ全然気にしてません。でもこのまま何回も続けばさすがに「うざ……」となります。
でもセリクスは直接やり返したりはしません。矜持が許さないからです。もし何かきっかけがあってやり返した場合、後で静かに反省する男です。
あ、もちろん相手に悪いことしたな、という意味の反省ではありませんけどねꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)