スリザリンの末裔 ~Silver-Haired Wizard’s Legacy~ 作:如月斎
指輪の呪い、アウレウスの裏切り
3人は姿現わしでグレート・ハングルトンに降り立った。セリクスたちの前には細い一本道。後ろを振り向くと鬱蒼とした森の入口があった。人通りはなかったが、気付くと既にノクティの姿が見えなくなっていた。目くらましの術だろう。
「さて、お前、道は分かるのか」
「……僕の本体は来たことがあるんだろうが、今の僕の記憶の中にはないな」
「じゃあどうするつもりだ。……ん?」
目に見えない何かにジャケットの裾を引っ張られた。まぁおそらくノクティだろうが。
「ノクティどうした? 案内してくれるのか?」
くいっくいっと軽い力に引っ張られるまま一本道を進んでいく。グレート・ハングルトンは牧歌的な村というよりは町に近かった。役場や、雑貨屋、パブなどが建ち並んでいる。郵便局──もちろんフクロウはいない──もあり、なかなか大きいようだ。
おそらくこの村の主要道路だろう道を歩いていると、数人の村人とすれ違った。カラーリングだけが全く違う、顔立ちのそっくりな美貌の双子に、すれ違う人々は皆、目を見開き凝視してきた。
「チッ。なんなんだ」
「双子が珍しいんだろう。構うな」
2人が不機嫌を押し殺し道を歩いていると、人の良さそうな顔立ちをした、ふくよかな年配の女性が声を掛けてきた。
「君たち、どこから来たの? この村には君たちが好きそうなものはないと思うわよ」
にこにこと微笑んでいて、特に害はなさそうだとセリクスは判断した。魔力も全くない、本当にただのマグルだ。
「……下賤なマグルが……」
「アウレウス。黙れ」
アウレウスが不満を押し殺したような声で呟いたのを、セリクスは即座に止めた。何の罪もない
「失礼、ご婦人。私たちは隣村のリトル・ハングルトンへ行く予定なのです。道はここをまっすぐで合っていますか?」
「あれまあ。リトル・ハングルトン? あんな何もないところへ? 物好きだねぇ。そうよ、ここをまーっすぐ、2時間はかかるかねぇ」
「……2時間。ありがとうございます」
ただの寄り道に2時間。帰ったら怒られるのは必至だ。内心げんなりしたセリクスだったが、丁寧に礼をし女性の横を通り過ぎた。女性は好奇心旺盛にじっと2人を見つめてきたが、アウレウスに何か不穏さでも感じ取ったのか最後までそれ以上は何も言わなかった。
しばらく歩いてグレート・ハングルトンの端っこまで来た。ここから2時間か。セリクスがマウリシオの顔を想像してやはり帰ろうかと考えていると、ノクティがいるだろう空間から囁き声が聞こえてきた。
「坊っちゃま。この道をまっすぐ2時間なら、なんとか姿くらましで移動出来ると思います。ただ歩くのもおつらいでしょう……」
「ノクティ。頼めるか? つらいというより、帰るのが遅くなるのは困る」
「かしこまりました。人目につかないところへご移動願えますか」
2人はノクティの誘導に従って村の端っこにある牧場の更に端に植えられていた大木の陰に隠れた。ノクティが2人の手をそっと握り姿くらましをする。バチンバチンと、何回か連続してどんどん移動していく。普段の移動と違い数キロをこまめに刻んでいるようで、久しぶりにセリクスたちは酔ってしまった。
リトル・ハングルトンまであと少しのところ、案内板があるところでノクティはやっと止まった。
「……うぅ……気持ち悪い……」
「確かに……連続姿くらましは三半規管がおかしくなるな……」
全く同じポーズで、2人は口を手で押さえて背中を丸めた。意地でも膝はつかなかったが。姿は見えないが、そばでノクティがオロオロしている気配は伝わってくる。セリクスは急いで魔法の鞄を開け、そこから細長いクリスタルの小瓶を取り出した。それを一気にあおる。
「……ふう。楽になった」
「それはなんだ? 回復薬? 僕にもよこせ」
「態度が気に食わないが……、まぁいいだろう。これはウィゲンウェルド薬だ。今ではほとんど喪われたレシピだが、効能は強力な万能回復薬だ」
「……っ。すっきりとした甘みが……。なかなか美味いじゃないか。魔法薬のくせに」
「私に言わせれば最近の魔法薬が不味すぎるんだ」
アウレウスも気分が治り、体力も回復したらしい。不思議そうに小瓶をまじまじと見つめている。
「ウィゲンウェルド薬? 聞いたことがある。1800年代に流通していた薬だな。何故それをお前が?」
「この鞄の中にある本棚に古い魔法薬のレシピ本が入っていた。材料はハナハッカの葉と、ホークランプの体液。ウィゲンウェルド薬にはホークランプの棘の先端から採れる特殊な体液が必要だ。1匹から数滴しか採れず、採取には高度な技術がいる。下準備も手間と時間がかかる。廃れて当然だな。ハナハッカ・エキスの方が何倍も入手が楽だ」
「その廃れていた魔法薬を復活させたお前にだけは、ウィゲンウェルド薬も言われたくないだろうな」
ニヤついたアウレウスの顔を見て、希少な薬を分けてやったのを後悔したセリクスである。次は分けてやるのをやめようかななどと考えていた。
「ハナハッカ・エキスは作るのは楽だが、あれは外用薬で体内には効かない。ウィゲンウェルド薬はほぼ全ての怪我や不調、体力回復に効く。が、次は分けてやらない。欲しければ自分で作れ。──行くぞ」
「……ふん。ケチな男はモテないぞ」
2人の仲がまた少し悪くなったところで、歩みを再開した。さっさと用事を終わらせて帰らなければ。マウリシオを怒らせると何があるか分からない。自然とセリクスの足は早くなっていった。
◆ ◆ ◆
2キロほど歩いたところで村の入口のようなところに到着して、2人は疲れたように深く息をついた。くすんだ赤茶色の屋根、石造りの家々、そして少し離れた場所にぽつんと建つ古い教会。その隣には墓場があるようだ。寂れてとても小さな村。人通りは一切ない。
「……ここがリトル・ハングルトンか」
アウレウスが低く呟いた。不可解そうに眉を寄せて周りを見渡す。
「妙なところだな。陰気で、淀んだ臭いがする」
「到底住みたいとは思えないな。ここにマールヴォロの家があったのか。……何も思い出せないか?」
「言っただろう、今の僕には16歳の6月までの記憶しかないんだ。……でも、分かる。呼ばれている。……こっちだ」
アウレウスが何かに導かれるようにふらふらと歩き出した。セリクスがそれを慌てて追う。
細い道を民家のある方とは反対へ歩いていく。遂には村を出た。村に用があったのでは? セリクスは
アウレウスは下り坂になっている小道を下り、背の高い生垣の間を進んでいく。道は穴だらけで酷い有様であった。誰も手入れなどしないのだろう。
生垣が終わる頃、小道も終わった。そこには重そうな木々に囲まれた小さな廃墟があった。明らかにもう誰も住んでいない。壁が見えないほど蔦が這い、窓ガラスも割れている。
アウレウスは無言のまま、その掘っ建て小屋の扉に手を伸ばした。しかし直前で動きを止め、
「……なるほど。随分と厳重だな」
アウレウスが先程購入したばかりの杖を取り出し、何事かを呟きながら複雑な軌跡を描く。すると、空気が僅かに震えた。どうやら幾重にも防御魔法が掛かっていたらしい。
「これでいい」
その狭い部屋に2人が入ると、もうそれだけで狭苦しく感じるほどだった。アウレウスはおそらくダイニングキッチンであろう部屋の真ん中あたりにしゃがみこみ、床板をバリバリと剥がしていく。アウレウスの突然の奇行にセリクスは目を瞠ったが、その後床下にキラリと光る物を見つけた。床下の隙間に隠されていたのは金の小箱であった。アウレウスが杖で突っつくとパカリと開いた。中には金と黒に輝く大ぶりの指輪が入っており、何故かセリクスはそれに釘付けになってしまった。
「……これがゴーントの家宝の指輪……?」
「これだ。間違いない」
アウレウスがそれに手を伸ばす前に、セリクスが指輪を拾い上げようとした。アウレウスはそんなセリクスを黙ったまま見ている。
──これを
説明のつかない衝動に駆られ指輪に触れようとした瞬間に、ノクティの叫び声が部屋中を響き渡った。
「なりません、坊っちゃま!!」
「……あ」
ピタリと手を止める。よく見ると、指輪は禍々しい黒い魔力に包まれていた。強力な闇の魔術だ。衝動のままに嵌めていたら、とてつもなくまずいことになっていたのだろう。
「なんだ、嵌めないのか?」
「……お前……」
「嵌めたら多分面白いことになってたのに」
「お前がやったんだな? これを」
「まだその記憶はないけどな。ただ、この魔法のことは知っている。嵌めた者をジワジワと呪い殺すための闇の魔術だ」
「……ご主人様を裏切ろうとするとはな。躾が足りなかったかな」
セリクスが冷たい非難の視線を向けると、アウレウスは激昂したように顔面を真っ赤にさせて叫んだ。
「誰がご主人様だ!! ……そもそも言わなかっただけで別に裏切った訳じゃないだろ?」
「詭弁だ。次にやったら許さない。分かったな?」
「ふん」
不満そうに鼻を鳴らしたアウレウスが、今度こそ指輪を拾い上げた。指輪に嵌め込まれた黒い石が鈍く光る。既知の宝石ではなさそうだ。石の表面に何かの紋章のような物が見える。
「きっとこれだ。僕を呼んでいたのは」
満足そうに指輪を握り締めたアウレウスはそのまま小屋を出ようと背中を向けた。しかしセリクスがそれに待ったをかける。
「待て。その指輪とそっくりな物を作って、元の通り戻しておこう」
「……? 何故?」
「どうせその様子だと、ここに隠したのはお前の本体なんだろう? これから先、お前の本体が取りに来るかもしれない。もしなかったら面倒臭いことになりそうだ」
「……あー」
納得したらしいアウレウスが杖を指輪に向ける。まず基本の双子呪文で2つに増やし、魔力を込めたりと細かく細工を施し始めた。途中セリクスが呆れた声を上げる。
「おい、その悪趣味な呪いまで残す必要があるのか?」
「? あるだろう?」
「……お前、本当にその性格治した方がいい」
「余計なお世話だ!」
最終的に本物と遜色ない
◆ ◆ ◆
「さあ、帰ろうか。そろそろお前の父上殿の堪忍袋の緒が切れる頃だろう」
アウレウスは上機嫌に言った。しかし背後から返ってきたセリクスの声は、妙に冷ややかだった。
「待て」
「まだ何かあるのか?」
「ある。そろそろその指輪の中に入っているものの説明をしてもらおうか」
「中にって……。だからさっき言った闇の──」
「違う」
セリクスがピシャリと遮ると、それまで不審顔をしていたアウレウスが、途端に冷たい無表情になった。そうするとほとんどセリクスにそっくりになる。それを見たセリクスは、あからさまに不快そうな顔をした。
「中に入っているのは、今のお前と同じものだろう。つまりは……魂だ」
「……ほう? 前に僕は日記に封じ込めた"記憶"だと話した憶えがあるんだが?」
「お前がただの"記憶"? そんな馬鹿なことがあるものか。ただの"記憶"がひとりでに話したり実体化する訳ないだろう。お前の正体はヴォルデモートの魂の欠片だ」
「……」
アウレウスが静かに杖を持ち上げてセリクスに向ける。セリクスも応えるように杖をアウレウスへと向けた。しかしアウレウスは、すぐに呪文を放とうとはしなかった。ノクティが姿を現しセリクスを護るように斜め前に立ったが、セリクスはそっとノクティの肩に手を置き後ろに下がらせた。
「坊っちゃま……」
「大丈夫だ、ノクティ。こいつは私に敵わない」
「……やってみなければ分からないだろう」
アウレウスが奥歯を噛み締めながら、
「落ち着け、アウレウス。悪いようにはしないと言っただろう?」
「そんなもの信じられるか! 僕に
「冷静になれ、アウレウス」
「うるさい! 《
「──っ! 《
アウレウスの杖から勢いよく炎のかたまりが噴き出してきた。セリクスは即座に反対呪文の氷結魔法を放つ。
深紅の魔力と蒼白の魔力がぶつかり合う。地面はひび割れ、周囲の木々から一斉に葉が舞い散る。2人の魔法は一見均衡しているように見えたが、すぐに氷が炎を飲み込んでいくのが分かった。アウレウスがカッと瞳を見開く。
「馬鹿なっ! この僕が押し負けるなんて!」
「……っ!」
セリクスはアウレウスが放つ業火のみを打ち消し、アウレウスが凍り付く直前で魔法を解除した。アウレウスの鼻先でセリクスの魔法の残滓が揺れている。
「アウレウス・マールヴォロ・ゴーントへ命じる。『動くな』」
その言葉を聞いた瞬間、アウレウスは目を瞠ったまま硬直した。セリクスが足早にアウレウスへ近寄りすぐに杖を取り上げてしまった。アウレウスの瞳が怒りからか更に紅く光る。
「人の話は最後まで聞け。お前が"記憶"ではなく魂だとは最初から分かっていた。それでも私はポッターにお前を殺させなかった。お前にとっても悪くない話のはずだ。お前に一時的な実体ではなく本当の肉体を取り戻させてやると言っているんだ」
「……なに?」
「お前だって現状を快くは思っていないはずだ。お前の本体はたかが赤ん坊に負けて、霞のようになっている老いさばらえた爺だ。そんなのが希代の闇の帝王でいいのか?」
「……僕に本体と入れ替われと?」
「まさか」
セリクスはふっと優しげな笑みを浮かべた。珍しいセリクスのはっきりとした笑顔。とても麗しいはずなのに、アウレウスは、背中にびっしりと鳥肌が立つほどの恐怖を憶えた。
(僕は何と対峙しているんだ?)
目の前にいるのは、救済者でも親戚でもない。より高度に洗練され完成された『怪物』だ。動けない体のままアウレウスは絶望のようなものを感じていた。
「ヴォルデモートはやり方を間違えている。お前には私が本物の統治というものを教えてやろう。私の元へつけ、アウレウス」
「…………」
アウレウスは蒼褪めた顔のまま、黙って目だけで頷いた。口と目以外、他はピクリとも動けなかったからだ。やがてセリクスが命令を解除すると、アウレウスはそのまま膝から崩れ落ちた。震える体で、セリクスを見上げる。
アウレウスからは逆光でセリクスの表情は見えなかったが、エメラルドグリーンの瞳だけは化け物のように光っているのが見えたのだった。
【あとがき】
●ウィゲンウェルド薬
この薬ですが、原作小説には出てきません。ゲーム『ホグワーツ・レガシー』に登場する通常の回復薬です。採取方法も作り方も、ゲームらしくめちゃくちゃ簡単です。スリ末の独自設定として、面倒臭い薬にしてみました。だから原作や映画の時代には、廃れてしまってもうないんだねーってことで。あと、毒や呪いには効果がありません(まぁ途中で変えるかもしれないけど(¬¸¬)ボソッ)。
●姿くらまし・姿現わし
行ったことがない場所に姿現わしをすることは、実は可能です。しかし明確な場所のイメージをしたり、ちゃんと位置を把握していないと失敗する確率が高く、ノクティは大事な坊っちゃまをそんな危険な目に遭わせる訳にはいかないので小刻みにすることにしました。乗り物酔いみたいになるセリクス、結構ダサくて好きですꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)
●セリクスVSアウレウス
セリクスの圧勝でしたね。まぁこれに関しては異論のある方もいるかもしれません。セリクスの勝因には、アウレウスが分霊箱から生まれた不完全な存在だったことも関係しています。アウレウス自身は16歳の人間だった頃、学生相手に負けたことなどなかったでしょうから驚いています。
●分霊箱の魂の容量と作成時期
きっちり7等分ではないんじゃないかなぁと思っています。日記は1番最初に作成された分霊箱で、その分、封じ込められた魂の量も多いんじゃないかな?って。あと作成時期はマートルを殺した直後の6月中と、スラグホーンと話した後の9月〜12月の2つの説があるらしいです。スリ末では、6月を採用しています。本当は7月とかにしたかったんですけど、そしたらマグルの孤児院で行うことになり、魔法省に捕まるやんけ!と気付き断念しました( ´ . ¸ . )